映画『釜石ラーメン物語』「釜石市だからこそ」今関あきよし監督インタビュー

映画『釜石ラーメン物語』「釜石市だからこそ」今関あきよし監督インタビュー

2023年8月24日

最高の一杯をあなたに。映画『釜石ラーメン物語』今関あきよし監督インタビュー

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–映画『釜石ラーメン物語』の制作経緯を教えて頂きますか?

今関監督:僕が最初に、釜石に足を運んだのは2014年です。町の大半が、東日本大震災の津波の被害で崩壊し、傷跡が残っていた時期でした。その時から8年以上、少なくとも年に2、3回は通い、トータル20回以上、釜石に行った記憶があります。ラーメンを題材に人情ものにして、これなら映画にできると思ったのが、本作の企画の始まりです。制作の依頼は、釜石の方からでした。地元を元気にできるような映画を撮って欲しいと、現地の方からお願いされました。この地域は、復興のために2014年からSL銀河(※1)を走らせていました。これは、東日本大震災で傷付いた地域を元気付けようと始まった事業です。そのSL銀河を素材にして欲しいとアイディアを頂きました。僕自身も現地に足を運び、乗ってみましたが、正直僕の中でこれを映画の題材にするのは難しいなとお返事をしました。結局、その時から8年が経過して、震災をメインにした映画も考えましたが、町の方々にお会いすると、皆さん明るい方が多くいて、町全体が活気を失なっていない雰囲気もありました。撮れるのであれば、この明るさを撮ろうと考え、本作『釜石ラーメン物語』が誕生しました。

—–ラーメンの物語になるまで、紆余曲折はされたのですね?

今関監督:素材が決まらくて、最初のSL銀河を題材にするのは難易度が高く、僕の大先輩の大林宣彦監督の映画『転校生』や『時をかける少女』のリメイクも考えました。ただ折角、映画を制作するのであれば、オリジナルがいいと思ったんです。僕は釜石市に足を運ぶ度に、無意識にラーメンを食べていました。狭い町にも関わらず、ラーメンを提供する飲食店が、30件ほど軒を連ねています。どこでも釜石ラーメンが、食べられる環境でした。釜石市に足を運んでから7、8年目の頃、ラーメンを題材にした人情喜劇を作ろうと決意したんです。ラーメン屋さんで人情喜劇がパッと浮かんで、本作の企画が誕生しました。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–お調べしたところ、釜石市にはラーメン以外にもグルメや特産物、名産品がたくさんあると思いますが、今回なぜラーメンにスポットを当て、作品を構築されましたか?

今関監督:釜石ラーメンは、市民のソウルフードです。映画の中にも登場する海宝漬け(※2)は、釜石市の特産物です。釜石の方は、普段から釜石ラーメンを好んで食べています。東京なら、家系ラーメンや二郎系ラーメン(※3)など、どんなラーメン屋が良いのか知識として持っています。一方で、釜石の方が普段食べているラーメンは、非常に庶民的です。この釜石市に古くから根付く釜石ラーメンにこそ、僕は魅力を感じました。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–本作のロケ地は釜石市ですが、井桁弘恵さんが扮する主人公の正実が最初に降り立つJR小佐野駅(※4)は、地域に密着した市民のための駅ですが、監督から見て小佐野駅から臨むこの地域は、どのように見えましたか?

今関監督:あの場所は、有りし日の昭和感が残る町です。今は使われていない銭湯跡があり、鉄鋼の町としての当時の名残があり、当時、この町のお父さん方は24時間三交代制で、ずっと働いていました。サッと食べられて、飽きのこない味のスープ。鉄鋼産業の日々の生活の中で生まれたのが、釜石ラーメンです。今でも銭湯や理容室がたくさんあり、未だに昭和が溢れる良い町です。

—–本作では、釜石弁(※5)が非常に特徴的でした。こちらの地域では、様々な言葉が入り交じった地域と見受ける事ができましたが、この方言に対して監督は何か想いはございますか?

今関監督:その土地柄が出て来ますので、方言は風景の一つです。現地で方言指導を付けたり、事前に釜石市の劇団の方にセリフをテープに吹き込み、役者の方には耳コピして頂くよう演出しています。小川町で使われている方言をベースに方言指導を入れています。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–次回作の映画『青すぎる、青』(※6)では、鹿児島県が作品の舞台。本作『釜石ラーメン物語』では、岩手県釜石市という地方が舞台として制作をされています。監督が、地方で映画を制作する意義を教えて頂きますか?

今関監督:僕は、最初から地方映画を作ろうと構えていた訳ではありません。本作『釜石ラーメン物語』も現地の方から依頼があり、制作しました。鹿児島が舞台の作品『青すぎる、青』もオファーを頂き、制作が始まりました。地方をピックアップする事によって、日本の良さを再確認できます。また、監督的に言えば、地方映画は楽しいです。まず、皆で旅館やホテルに泊まれば、いつでもキャストとスタッフが近くにいてくれます。何かアイディアを思い付いても、柔軟に変更でき、創意工夫をこなせます。様々な場面で、融通を効かせる事ができるのが、地方撮影での強みです。地方ロケになると、ずっと映画の中にいる気分になるので、これで撮影が進めば、監督的には非常に楽しい一面です。これもまた、監督としての地方映画の面白味だと思っています。地方の良さの発見、または地元の方が案外、その土地について知らない事もあったりします。そんな発見ができる事が、地方映画の面白さでもあります。

—–一瞬ではあるものの、冒頭の電車が走り去る場面は、非常に素晴らしかったです。

今関監督:あの場面を撮るのは、大変でした。電車は、1時間に1本しか走りませんので、何ヶ所かのアングルで撮影するとなると、あの場面を納めるだけで4日間は必要になるんです。また、同じ2両編成の列車を映像で繋げる必要もありましたが、その電車は1日に3本しか走らないんです。天気にも左右されますので、条件が全て揃った時でないと、あの映像は撮れません。本編の撮影が終わってからも、電車を撮るためだけに、2回釜石市に足を運んでいます。東京から7時間半かけ、あの場面を撮りに行っています。電車が走るカットを撮るだけに、2、3回は釜石市に通っています。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–この物語の大筋は、ラーメンを通した再生物語や成長物語です。その背景には、東日本大震災を伺わせる物語でした。あの震災を通して、監督は何を受け止めたのか、どんなお気持ちを抱えていますか?

今関監督:今、僕が思うのは、津波被害の遭った地域の方々の中には、自責の念が強い方が多くいます。たまたま、買い物に出掛けたばっかりに、子どもを残して、その子を亡くしたご両親、もしくはその反対のパターンもあります。何か悪意があって買い物に行った訳ではないにも関わらず、自分を責めて生きている方がたくさんいます。釜石市で多くの方とお話しても、明るく会話はしますが、とても後悔している人がたくさんいるのも事実です。その方々に向けて、自分を責める必要性はないと、この映画を通して伝えたかったんです。また、この作品の根底的なテーマでもあります。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–あるインタビューにおいて主演の井桁さんが、「映画を観た後に、家族に連絡したくなる作品。」と本作を紹介していますが、監督にとっての家族の在り方について、お話頂けますか?

今関監督:釜石市は、あの震災の時、大きな被害を受けました。今では明るく前向きに過ごしている方がたくさんいます。その明るさと前向きさに、僕は非常に感動しました。その部分を映画に反映させたく、作中では全面的に明るさを出しています。だから、震災を通して、また災害が起きなくても、愛する人を亡くしてしまった人は全世界にいます。それでも、自身を許して次に進んで前を見るきっかけになってもらえたらと願います。今回は、震災が背景にありますが、この物語は誰にでも当てはめる事ができます。必ず愛する人が亡くなる事は、多かれ少なかれ、誰にでもあります。その時に、この映画が絡まった紐を解いてあげられるような作品になってくれれば、と願っているんです。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

—–監督は、最新作では地方である鹿児島の魅力を伝えたいとおっしゃっていますが、鹿児島、釜石以外にも、国内のほとんどは地方です。監督が考える地方の魅力とは、なんでしょうか?

今関監督:まず言えることが、手を付けられていないのが地方です。東京は、隙間があれば、どこにでも手を付ける習慣があります。開発という名の元に、何でもどこでも、手を付けたがるんです。都市の景観の隙間を埋めていってしまっています。その反面、地方には多くの隙間があります。映画を作る僕達からすれば、地方は非常に魅力的な場所です。地方にとっては、問題になっているシャッター通り(※7)の商店街など、多くの社会問題が蓄積しています。その部分にスポットを当てながら、新しい試みや努力をする必要があります。経済優先や金儲け優先ではなく、ドラマを作り上げる必要があります。今回は釜石市だからこそ、作品を作ることができたんです。そんないい所を発見しながら、地方で映画を作りたいと考えています。

—–最後に、本作『釜石ラーメン物語』に対して、何か展望はございますか?

今関監督:この映画は、地方から公開が始まり、東京、横浜、名古屋、大阪、再度九州へと全国公開が展開されます。また、アメリカのロサンゼルスの映画祭でも字幕付きで上映される事が、決定しました。ラーメンは既に、世界の食べ物へと成長しています。どんな風に、海外の方がこの作品を観てくれるのか、楽しみです。また、震災の話も入っていますので、今でもその悲しみを背負っている方がおられる事実を認知して頂きたいです。日本と海外の方、両者がに地方の魅力を感じて頂ける作品なので、どの方にも伝わって頂けたら嬉しいです。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

©️『釜石ラーメン物語』製作委員会

映画『釜石ラーメン物語』は現在、関西では8月19日(土)より大阪府のシアターセブンにて、公開中。

(※1)「SL銀河」最後の定期運行 鉄道ファンが別れ惜しむ 岩手https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230605/k10014089681000.html#:~:text=%E3%80%8CSL%E9%8A%80%E6%B2%B3%E3%80%8D%E3%81%AF%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD,%E3%81%8C%E6%B1%BA%E3%81%BE%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82(2023年8月18日)

(※2)海宝漬中村屋https://www.iwate-nakamuraya.co.jp/(2023年8月18日)

(※3)「~系」ラーメン4選!特徴や発祥とはhttps://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=3676(2023年8月18日)

(※4)【木造駅舎カタログ】釜石線01/79 小佐野駅https://tetsudo-ch.com/11717592.html#:~:text=%E5%B0%8F%E4%BD%90%E9%87%8E%E9%A7%85%E3%81%AF%E3%80%811945%E5%B9%B4,%E5%B9%B4%EF%BC%89%E6%A5%AD%E5%8B%99%E5%A7%94%E8%A8%97%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2023年8月18日)

(※5)おらほ弁って何?https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2015022700027/(2023年8月18日)

(※6)映画『青すぎる、青』http://is-field.com/ao/index.html(2023年8月18日)

(※7)地方のシャッター街を再生させたい〜今の現状と取り組み事例について~_LHhttps://crowdsien.com/lab/?p=29482(2023年8月18日)