映画『マイマザーズアイズ』「視覚聴覚の違和感があるからこそ」小野あかねさん、設楽もねさんインタビュー

映画『マイマザーズアイズ』「視覚聴覚の違和感があるからこそ」小野あかねさん、設楽もねさんインタビュー

新時代の悪夢を描く映画『マイマザーズアイズ』小野あかねさん、設楽もねさんインタビュー

©2023 PYRAMID FILM INC.

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—–お2人が、本作に出演するに至った経緯をお聞かせ頂けますか?

小野さん:私は、2010年に串田監督とCMでご一緒させて頂きまして、2022年に別のCMオーディションで再びお会いしました。そして今回、映画『マイマザーズアイズ』のオーディションに呼んで頂けたのが、本作に出演するきっかけとなります。

—–串田監督とは、長いお付き合いなんですね。

小野さん:2010年から数えて久しぶりに、前回のオーディション時に再会できた感じです。

—–設楽さんは、どうでしょうか?

設楽さん:私は、2022年の7月に『マイマザーズアイズ』のオーディションを受けて、初めて串田監督とお会いしました。

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—–出演が決まった時、作品の役柄に対して、ご自身の演技で役を補い、人物描写や背景を豊かにしようとされましたか?

小野さん:とにかく、チェロを必死に練習しました。仁美という人物はチェリストを目指しており、チェロ講師を生業としています。また、自身の気持ちをチェロで表現する事に長けています。まず、チェロを弾ける事が、仁美という人間に近付ける感覚がありました。演じるにあたり、チェロのレッスンをしていましたが、その時にチェロの先生が演奏の基礎となる部分をたくさんの動画で送ってくれました。先生と話し合った結果、大きくダイナミックな演奏方法で、仁美が感情を露わにしようと思いました。とにかく、チェロを練習しました。仁美という人物は小さい頃からチェリストを目指しており、チェロ講師を生業としています。また、自身の気持ちを唯一チェロでは表現する事が出来ます。まず、チェロを弾くことで仁美という人物に近付いて行く様な感覚がありました。演じるにあたり、レッスンを受けていましたが、その時にチェロの先生が演奏の基礎となる部分をたくさんの動画で送ってくれました。また先生と話し合い、大きくダイナミックな演奏方法にする事で仁美のアーティスティックな部分や感情を表現したいと思い練習しました。またなるべくチェロと一緒に過ごしたりお茶をしたりしていました。

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—–この作品に関わっている方は皆さん、演技をする上でチェロと触れ合い時間も多く、慣れないチェロを弾く練習もまた、大変ではなかったでしょうか?

小野さん:大変と言えば、大変でしたが、チェロを弾いていくと、どんどん好きになっていくんです。チェロをずっと弾き続けたい感覚もありました。

設楽さん:私もチェロを弾くのが初めてで、何をしたらいいか分からなかったんです。まずは、先生の教えを忠実に守って、練習をしました。あと、エリは幼少期からずっとチェロに触れて来たので、チェロに対する愛着は、一ヶ月の短時間では身につかないだろう思いました。だから、私はチェロと一緒に寝ていたんです。チェロを抱いて寝る事によって、この子は私の一部だと思えました。チェロに対する思いは、一日中一緒に過ごす事で培って行きました。エリ自身に対するアプローチは、イメージトレーニングを主にしていました。目の前にエリを投影させて、エリが言っていそうな事を自分の脳内で作り出して、彼女と対話するんです。私のイメージの中のエリと対話をする事によって、どんどん彼女の人物像を浮かび上がらせていきました。

—–小野さんから見て母親の仁美という人物は、どう映りましたか?

小野さん: 娘に対して愛情と憎しみ入り混じった感情を持っている女性だと思います。女性として夢を追っている姿は、理解できるかもしれません。仁美の女性としての気持ちは分かるかもしれないと思う部分がありますが、娘に対して悪になる瞬間と愛情が入り混じっていて説明が難しいです。

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—–パンフレットのキャッチコピーには、「母娘の愛憎劇」と描きましたが、果たして、この物語が愛憎劇なのか、疑問視する私もいます。あの親子には、本当に愛憎があったのか?愛憎の憎の部分は一瞬、作中にも登場しますが、作品全体を通して、あの母親が娘を本当に愛していたのか?この点を突き詰める必要があると思います。彼女が持つ愛情は、もしかしたら、一方的で利己的な愛だったのでは?その点、小野さんはどうお考えでしょうか?

小野さん:おっしゃりたい事は、分かります。母親としての彼女の愛情は、自己愛に近く、愛ではないと私も感じるんです。ただ、仁美という人物だけで考えて行けば、私は彼女を真っ直ぐな人物として感じる部分もあります。仁美は、不器用な人ですが、母親なりに愛情を伝えようとしているんです。親子の関係が近ければ近いほど、ちょっとした発言や出来事で憎しみが湧いてしまいますよね。娘の立場で考えると、そんな母親の言動一つ一つによって心を壊されていくんです。母親としての彼女の愛情は、自己愛に近く、愛ではないと感じるという意見は理解出来ます。ただ、仁美という人物だけで考えていくと、私は彼女を真っ直ぐな人物として感じる部分もあります。仁美は、不器用な人ですが、彼女なりに愛情を伝えようとしているんです。そんなまっすぐな気持ちによって娘を苦しめてしまうのですが、根底にはまっすぐな気持ちと愛情を持って撮影に臨みました。

—–愛と憎しみの境界線の中で生きているような感じですね。 自己への愛か、娘への愛か。その間で揺れている女性とも受け取れます。話を突き詰めて行けば、彼女自身が母親として極限状態の中にいる。ある意味、特殊な環境の中に身を置く人物と受け取れますね。あのような母親を演じるのは難しく感じませんでしたか?

小野さん:撮影現場では、仁美の役柄を保てるように、真っ直ぐな気持ちでいるように心がけていました。仁美は、チェリストとしての力で、一人の子供を育てなきゃいけない負担を背負っています。私もまた、仁美と同じように、手段を問わず何でもするという気持ちでいました。撮影現場では、真っ直ぐな気持ちで常に仁美でいるように心がけていました。仁美は、チェリストとして自分の力で、一人の子供を育てなければいけない事や女性としての様々な役割を感じています。仁美は自分のすべてをエリに捧げるという気持ちでいました。

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—–設楽さんから見て、娘のエリという人物はどう映りましたか?

設楽さん:私にとってのエリは、不器用で愛情深く、ただただ優しい子だと思っています。愛情はありますが、それを表現するための人間関係をうまく構築できないんです。エリは、根底には愛されたい欲を強く持っているから、その愛を仁美に向けてしまうと思っています。

—–作中で一番肝になるのは、冒頭の車を運転している場面が親子の転機ですよね?娘のエリが、母親の仁美に投げた言葉を受けて、突発的な出来事が起きますよね。受け取り方はそれぞれですが、一点、違う側面で考えれば、あれはトラブルではなく、故意的に問題を起こしたと受け取れるのでは?もしかしたら、母親自身が故意で起こしたと考えたら、娘の立場からどう思いますか?

設楽さん:あの事故が仁美の故意だとは、エリの立場からすると考えたくないですね。でも、もしそうだとしたら、エリは意識的に仁美を傷付けて、仁美を自分の所有物にしょうとするような気がします。この映画は、抽象的な表現が多く、様々な解釈が生まれやすい映画だと思います。だからこそ、様々な考察が生まれて、色々想像しやすい映画だと思っています。その点、この作品の旨みだと思います。

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—–小野さんに質問ですが、チェロは親子関係の何を描いていると思いますか?

小野さん:親子関係の何かを描いているというより、私はチェロに対しては自分自身と感じていました。私もチェロと一緒に過ごして、お茶を楽しむ時間を持っていました。ずっと一緒に過ごして、本当にチェロこそが自分の一部と捉えて、気持ちを出すにもチェロ。人生もチェロ。仁美とエリの人生の道を作って行くものが、チェロという存在です。親子関係の何かを描いているというより、仁美にとって自分の心の拠り所のような大切なものであり、夢でもあると感じていました。仁美とエリの人生の道を作って行くものが、チェロという存在だと思います。

—–視覚もまた、作品における親子の関係を結ぶ重要な要素だと思いますが、この関係を結ぶ視覚の重要性とは何でしょうか?

設楽さん: エリは、ある意味、視覚を共有する事に対して、本当は望んでいたと思うんです。母親から愛されないのであれば、母を自分の所有物にしたい、という欲を持っていたのだと思います。

—–親との視覚を共有しようとする気持ちは理解しにくいですが、突き詰めて行けば、人間の怖さが勝りますね。

設楽さん:何が怖いかと言われれば、目に見えない存在より目に見える人間の心や欲が、一番怖いんです。これこそ、本当のホラーだと思うんです。

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—–パンフレットに書かれている「観客に感じて欲しい事」という質問に対して、設楽さんは「視覚と聴覚の違和感」とはっきりおっしゃっていますが、この違和感の先にある親子の愛憎やシンクロ性が、どう物語に帰着していると思いますか?

設楽さん:体が動かなくなったエリは、視覚も聴覚も敏感になると思うんです。『マイマザーズアイズ』は、視覚聴覚の違和感があるからこそ、エリの心情に説得力を持たせる事ができていると思います。この違和感は、この映画になくてはならない要素だと思い、パンフレットに書かせていただきました。

—–最後に、本作『マイマザーザイズ』の魅力を教えて頂けますか?

小野さん:『マイマザーザイズ』は、何度も観たいと思う作品です。本当に毎回、印象が違って見えるんです。人によって解釈の仕方が、全く違っている点が、本当に魅力だと感じます。

設楽さん:『マイマザーズアイズ』は、人によって様々な解釈が生まれて、語り合う事によってどんどん考察が生まれる映画なので、ぜひ、会話のきっかけにして欲しいです。この映画は私から見れば、全員がハッピーエンドの映画です。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『マイマザーズアイズ』は現在、2024年1月19日(金)より栃木県の宇都宮ヒカリ座。2月2日(金)より長野県の長野千石劇場にて上映予定。また、愛知県のシネマスコーレは、順次公開予定。