映画『マイマザーズアイズ』「次はどんな仕掛けを持って来てくれるのか」鯉沼トキさん、大滝樹さんインタビュー

映画『マイマザーズアイズ』「次はどんな仕掛けを持って来てくれるのか」鯉沼トキさん、大滝樹さんインタビュー

新時代の悪夢を描く映画『マイマザーズアイズ』鯉沼トキさん、大滝樹さんインタビュー

©2023 PYRAMID FILM INC.

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—–本作『マイマザーズアイズ』の出演経緯をそれぞれ教えていただけますか?

大滝さん:ありがたいお話ですが、前作『写真の女』に引き続き、串田監督から直接、出演オファーを頂きました。

鯉沼さん:私も本作の出演については、オーディションを受けずに、出演させて頂きました。プロットを送って頂いて、私は看護師役として出演のお話を頂きました。

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—–お2人は串田監督作品において、私はある種の看板女優という認識を持っています。串田作品に再度出演する事に対して、プレッシャーにも似たような感覚もおありだったと思います。制作に参加するにあたり、強い意志を持って、挑まれましたか?

大滝さん:本当に純粋に、また呼んで頂けた事が非常に嬉しかったです。今まで母親役を経験した事なかったので、それも嬉しかったです。パンフレットにも書かせて頂いたように、串田監督の周りには、本当にプロフェッショナルなスタッフさんの方々がおられて、いい意味で、皆さんそれぞれにプライドをお持ちです。前作、前々作の現場でも同様に、互いへの信用と尊敬がある空間だからこそ、現場に挑む時、「よし、やるぞ!」と十二分に気合は入りました。首から血が出るシーンは、一発撮りで本当にいい緊張感の中、撮影できました。

—–前作に引き続き、鯉沼さんはどうでした?

鯉沼さん:プレッシャーや気概は、それほど感じなかったです。依頼が来て、次回作にも出演できる事への喜びが勝りました。前作『写真の女』の時に、串田監督が「最近の映画は尺が長すぎるとお話されて、僕は90分くらいの作品がいいと思っているんです。」と、発言しているインタビューを読んでいました。今回の企画書にも既に90分)と書いてあったんですが、最初に渡された脚本は90分以上ありそうでしたから、もし短くするならどこをカットするのか考えながら、最終的に監督からのオファーを快諾させて頂きました。重々しく感じること無く、肩の力を抜いて、参加できたのは良かったと思います。

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—–今回は看護師役ですが、私は親子に対して献身的ではない印象を受けました。仕事上は看病していますというスタンスですが、プライベート的な感情で言えば、看護師が親子に対して、距離を置いている印象を受けましたが、親子の事を気持ち悪そうにしていると感じましたが、鯉沼さんから見て彼女について、どう映っていますか?

鯉沼さん:多分、人の生死に関わる現場を職場としている人物だから、そんなにシリアスに抱え込まないと思うんです。彼女に限らず、現実世界でも看護師という職業 の方は、自分の中での切り替えや処理をできる日常を過ごしていると思います。もし気持ち悪いという感情が多少あったとしても、それを表立って行動や発言に出す事は職業柄ないだろうと思います。串田監督からは、前作と本作を通して、実務的な指示しか頂いた事がありません。『写真の女』のインタビューで、大滝さんが、毎日夢に串田監督が出て来て、精神的に追い詰められたみたいな話をされていたんですが、私の夢には、一度も出演してくれなかったです。監督からは、現場では殆ど何にも言われなくて、なので脚本に忠実に演じるよう心掛けました。

—–前作『写真の女』の役とは打って変わって、今回は音楽教師の母親という女性でしたが、ある種、大滝さんが得意とするダンスを封印している印象も受けましたが、佐敏の母親という存在は、大滝さんから見てどんな女性として映っていますか?

大滝さん:彼女は、佐敏に対して強い執着と歪んだ愛情を抱いていて、息子に自分を投影しています。同時に、彼女はそんな自分に苦しさを感じています。だから彼女は、子どもを溺愛することで、その苦痛を忘れようとしているんだと思います。

—–狂気じみた愛情をお持ちの女性ですね。

大滝さん:教育にうるさい訳ではなく、自身が叶えられなかった夢をすべて息子に託しているんです。だから彼女は、苦しみながら、狂気に満ちた愛を息子に与えているんです。

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—–前作『写真の女』同様に、本作のキャラクターも非常に抑揚がなく、生気を感じられない人物に映りましたが、鯉沼さんは看護師の女性像をどう思われていますか?

鯉沼さん:年齢的な面も含めて、最低限の仕事をちゃんとできる人として思っています。抑揚に関して言えば、先程お話したように、串田監督からの指示は全くありませんでした。ただ、衣装合わせの際にお医者さん役の間瀬さんとご一緒していて、監督からは、2人のシーンは息抜きみたいな場面だから、たっぷり演じて下さいと言われました。私が脚本を読んだ時の印象では、病院のシーンは詰めた方がいいと思っていたので、真逆ですから「たっぷり」を忘れないように演じていました。

—–作中、音楽教師の母親が佐敏少年のために作曲した楽曲が狂気的に流れていますが、この曲に込めた息子への愛憎を、どうお考えでしょうか?

大滝さん:詳しくは分かりませんが、まず、あの曲は非常に素晴らしい楽曲かと思います。

鯉沼さん:譜面を書いている手元のシーンは、大滝さん本人が書いていますよね?

大滝さん: よく気付いてくださいました!

—–たとえば、あの曲には母親のどんな思いがあると思いますか?

大滝さん:それはもう、愛でしかありません。

—–でも、果たして、あれは愛なのでしょうか?

大滝さん:愛です。愛でしかありません。でも、自分が抱えているトラウマやジレンマを息子に投影しているからこそ、愛情だけでなく複雑な感情も絶対に入り混ざっていると思います。

鯉沼さん:たとえば、ママは勝てる音楽として書いたのか?また、いい音楽として書いたのか?息子を救おうと思って書いたのか?自分が救われたくて書いたのか?それは、映画の中ではまったく、明言していませんから、観る人によって、憎悪にも愛にも捉えることができると思います。

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—–鯉沼さんは、パンフレットのコメントにて、「みなさまの視覚に、脳に、ココロに、刺激がおよび、なにかがうまれますように。」とおっしゃっています。映画は、人それぞれ感じ方が違うと思いますが、鯉沼さんは本作を通して、どんな刺激を与えられて、自身の中で何かが産まれたと思いますか?

鯉沼さん:本作は、父と息子、母と娘の親子関係がメインの物語に、カメラ内蔵コンタクトレンズという最新技術が盛り込まれています。その組み合わせが刺激になり、鑑賞後にご自身の心中で、いろいろと考える事ができる作品になっていると思います。また、シンプルに、この人が美しい、あの人がカッコイイ、と感じる刺激もあると思います。私としては、脚本を読んだ時の最初の感想と出来上がった作品を見た時の感想は少し違う一面も持っています。だから、作品への参加当時から今までを振り返って、刺激を受けた部分が違います。何年も掛けて、ゆっくり自分の中に染み込ませていくんだろうなと思います。

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—–パンフレットのコメントにて、「映画『声』『写真の女』を経て今回串田監督と言う人物への興味が更に増しました。今後どんな度肝を抜かれる作品を撮られるのかも楽しみですが、まずは、「マイマザーズアイズ」の世界にどっぷり浸ってください。」とあります。 それは、私自身も同感です。正直、本作が前作『写真の女』より何倍にもバージョンアップしているようにも感じます。串田監督の世界観を、どう捉えていますか?

大滝さん:まず着眼点が、常に先を見ていらっしゃるという感想を持っています。そこに、人間の欲望や心理がちゃんと描かれているのが、非常に魅力的です。さらに、観る人によって、自由に捉られる様に作られているのが、串田監督の世界観と思います。次はどんな仕掛けを持ってきて、どんな作品を作るのか、非常に興味深いです。

—–前作は、レタッチとSNS。今作では、VRと視覚。共通しているのは、ネットの世界。テクノロジーの世界。次回もまた、テクノロジーと考えたら、どんな未来を描くのか気になっています。
—–最後に、本作『マイマザーズアイズ』の魅力を教えて頂けますか?

鯉沼さん:『マイマザーズアイズ』は、ホラーとして観る方も居れば、親子愛の物語として観る方もいると思います。また、とにかく狂った世界が好きな方は、終始笑えると思うんです。それはもう、ご自由に観て頂きたいです。怖いもの好きな方たちが、ポスタービジュアルで集まってくださるのは嬉しいんですが、怖いものが嫌いな人が避けて通ってしまうのは、非常にもったいないと思っています。少しでも興味を持って頂けたら、できればスクリーンで観た方がいい作品だと思います。どんなに立派なホームシアターをご自宅に完備していても、映画館の臨場感には勝てません。あのチラシが少しでも気になるなら、是非映画館で観て頂き、作品の空気感に没入してほしいと思います。みなさんの街の映画館にぜひ足を運んで欲しいです。

—–大滝さんは、どうでしょうか?

大滝さん:今は、日常生活の中で映画を流し見をする習慣が増えていますが、『マイマザーサイズ 』や『写真の女』は、どっぷり浸かって欲しい作品です。映画館という空間でこそ、没入して、その空気感に浸れると思います。スマホで観るにはもったいないほど、サウンドも映像も素晴らしいので、劇場でこそ楽しめる作品だと信じています。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『マイマザーズアイズ』は現在、2024年1月19日(金)より栃木県の宇都宮ヒカリ座。2月2日(金)より長野県の長野千石劇場にて上映予定。また、愛知県のシネマスコーレは、順次公開予定。