第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023) 映画『風(Hawa)』、ドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』作品レビュー

第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023) 映画『風(Hawa)』、ドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』作品レビュー

2023年3月11日

3月10日(金)より、10日間開催される第18回大阪アジアン映画祭が、今年も華々しく幕開けした。

今年の映画祭のテーマは、「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。映画『四十四にして死屍死す』と映画『サイド バイ サイド隣にいる人』を本映画祭の目玉として、16の国と地域で製作されたアジア人に関する多種多様な映画、長編、中短編含め、全51作品を一挙に上映。

コロナ禍という危機的状況を乗り越え、今年のラインナップは、例年にも増して、多彩な作品が集結した。

会場場所には、2022年春にオープンした大阪中之島美術館が加わり、お馴染みのシネ・リーブル梅田、梅田ブルク7、シアター7、国立国際美術館にて、上映される。

連日、各回にはゲスト登壇が予定されている。

近年のコロナ禍によって、叶わなかったゲストの来日並びに、来阪は3年振りに実施だ。

初日の3月10日(金)は、特別注視部門に組み込まれたバングラデシュ映画『風』と特別招待作品部門に招待されたドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』等、アジアに関する作品が数多く上映された。

今回は、この二作品、バングラデシュ映画『風』とドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』について取り上げたい。

映画『風(Hawa)』監督:メジバウル・ラフマン・シュモン。バングラデシュ映画。2022年公開。日本初上映。

©sun music and motion pictures limited

©sun music and motion pictures limited

寸評レビュー:バングラデシュ映画は、日本ではあまり聞き慣れない国の作品では、ないだろうか?

昨年には、国内では映画『メイド・イン・バングラデシュ』という作品が、公開された。

本作は、数年前の大阪アジアン映画祭でも上映され、大きな反響を呼んだ。

近年、世界的に見ても、アジア映画への注目が高まりつつあり、特にお隣のインド映画は、日本のみならず、世界の映画業界が非常に注目している。

ここまで来るのに、インド映画もまた、長く、紆余曲折した経緯を辿ってることだろう。

インド映画の映画製作は、半世紀以上にも上ると言うにも関わらず、今に来て、やっと認知され始めているのは、誠に遺憾である反面、やっと時代が追い付いたと認識しても良いのかもしれない。

バングラデシュ映画もまた、インド映画同様に、古くから映画製作が盛んに行われてきた地域であり、インドのボリウッド同様に、バングラデシュではダリウッド(タリウッド)と呼ばれる映画の都が存在していた。

それにも関わらず、世界はバングラデシュ映画に対して、黙認し続けているのは、なぜだろうか?

なぜ、バングラデシュ映画は今まで、注目されずに、今に至るのだろうか?

映画『風(Hawa)』を監督したメジバウル・ラフマン・シュモンは今、バングラデシュで注目を集めている新進気鋭の映画監督だ。

本作は、日本初上陸の作品であるが、その骨太な題材は(※1)アナタハンの女王事件をモチーフにした日本映画『東京島(2010年)』や映画『アナタハン(1953年)』を彷彿とさせる。

物語は、バングラデシュ南東部のコックスバザールから船出する漁船から始まる。

昨今、アジア映画への再評価、注目が集まる中、本作『風』は、数多くあるアジア映画の新しい「風」を吹かせて欲しい。

ドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』監督:瓜生敏彦、ビクター・タガロ。フィリピン映画。2022年公開。世界初上映。

©2022 TAKION.INC

©2022 TAKION.INC

寸評レビュー:皆さんは、2000年代初期にテレビのドキュメンタリー番組で放送されていた番組「世界がもし100人の村だったら」を覚えているだろうか?

2003年から2009年の6年間ほど、某テレビ局で放送された作品だが、取り上げられていた内容は、本作『子どもの瞳をみつめて』に登場する世界の貧困地域の子どもたちだった。

国も地域も、年代も違う子どもたちの環境は、どれも一律に過酷で、悲惨で、耐え難い現実ばかり。

ピックアップされていた国は、スーダン、インド、ロシア、アルゼンチン、ネパール、フィリピン、ボリビア、ウクライナ、ガーナ、エチオピアの計10カ国。

ゴミ山で家族の生計を立てる少女、チョコレートの原料であるカカオが何の目的で栽培されているか知らずに働く少年、14歳で妊娠した少女、ストリートチルドレンとして道端に暮らす少年ら。

過酷な環境に身を置きながらも、彼らには子どもらしい夢がある。

そんな子供としての純粋な気持ちを潰したくはない。

本作『子どもの瞳をみつめて』は、フィリピンの最貧困エリアで重労働で汗を流す子どもたちの姿を、声高な演出はせず、静かなタッチで捉えたドキュメンタリーだ。

採石場で石を集める少年、石を重たいハンマーを用いて砕く少女、彼らは皆、幼い頃から家庭の家計を支えるため働きに出ている。

子どもらの中には、水頭症に悩む少年少女、重労働が原因で背骨が変形した少年など、子どもが働くだけでも問題だが、それにもまして、公害問題や労働問題など、社会的問題も孕む貧困地域に暮らす子どもたち。

生活環境の酷さは、海外だけでなく、先進国の日本国内でも先進国特有の問題も有する。

犯罪に走るのも、労働に駆り出されるのも、一重に子どもたちの生活における環境を整える必要がある。

近年でも、国内で起きた(※2)少年犯罪「福岡商業施設女性刺殺事件」では、犯人の少年の生い立ちや育成歴がクローズアップされた。

罪は、しっかり断罪されるべきではあるが、そこに至るまでの少年の人生も考慮せねばならない。

その反面、粗野で乱暴者であった少年の幼少期には、何の同情の余地はない。

ただ、この少年の大切な幼少時代に、少しでも社会からの支援や理解が保証されていれれば、彼の人生はほんの少しでも変わっていたのかも知れない。

産まれてくる環境も、親の存在も、選ぶことができない子どもたちの未来が、少しでも明るいものにするためには、今を生きる大人たちがしっかりと、日本の社会形成をしていく必要がある。

海外のことは、日本で暮らしていれば、介入することは難しいが、映画や報道を通して、少しでも「知る」ことが大切だ。

第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023)は、3月10日(金)から3月19日(日)まで、大阪府のシネ・リーブル梅田他にて、絶賛開催中だ。

(※1)終戦後、孤島に32人の男と1人の女が……「アナタハンの女王」事件に日本中が熱狂するまでhttps://bunshun.jp/articles/-/13408(2023年3月11日)

(※2)懲役10年以上の判決が…21歳女性を刺殺した少年の「壮絶家庭」https://friday.kodansha.co.jp/article/255606?page=1(2023年3月11日)