第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023) 映画『カフネ』香港映画『<strong>四十四にして死屍死す</strong>』作品レビュー

第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023) 映画『カフネ』香港映画『四十四にして死屍死す』作品レビュー

2023年3月16日

3月10日(金)より、10日間開催される第18回大阪アジアン映画祭が、今年も華々しく幕開けした。

本日は、5日目。今年の映画祭のテーマは、「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。

映画『四十四にして死屍死す』と映画『サイド バイ サイド隣にいる人』を本映画祭の目玉として、16の国と地域で製作されたアジア人に関する多種多様な映画、長編、中短編含め、全51作品を一挙に上映。

コロナ禍という危機的状況を乗り越え、今年のラインナップは、例年にも増して、多彩な作品が集結した。

会場場所には、2022年春にオープンした大阪中之島美術館が加わり、お馴染みのシネ・リーブル梅田、梅田ブルク7、シアター7、国立国際美術館で、上映される。

連日、各回にはゲスト登壇が予定されている。

近年のコロナ禍によって、叶わなかったゲストの来日並びに、来阪は4年振りに実施だ。

5日目の3月15日(水)は、この二作品、インディー・フォーラムに組み込まれた映画『カフネ』とスペシャル・オープニング・セレモニー作品として選出された香港映画『四十四にして死屍死す』について取り上げたい。

映画『カフネ』監督:杵村春希。日本。2023年公開。世界初上映。

寸評レビュー:三重県熊野市磯崎町にある漁港の町を舞台に綴られるのは、妊娠に対するハイティーンの少女の苦悩と葛藤、そして彼女の精神的な成長と自立を瑞々しく描いたのが、本作『カフネ』だ。

未成年の妊娠は最早、社会問題ではなく、古くからの普遍的なテーマでもある。

懐胎という困難に直面しながら、自身のアイデンティティを確立し、見つけ出そうとする少女の姿をより繊細な演出で表現している。

昨年、映画『ほどけそうな、息』と併せて併映された短編『まだ見ぬあなたに』の過激な激情の渦に放り込まれる少女と打って変わって、本作に登場する澪は戸惑いながらも、妊娠に対して清澄感を持っている。

10代の妊娠だけでなく、女性が一人で自身の懐孕に悩む方は、多くいる。

近年、(※1)孤立出産という言葉が、日本国内でも言われるようになって来た昨今。

誰にも言えず、誰にも相談できない多くの女性が、出産するのか、堕胎するのか、いつの時代も迫られている。

本作『カフネ』が描くのは、少女がたった一人で、子どもを産むか産まないかの瀬戸際で苦悩する姿だ。

このような女性が、一人でも居なくなるように、私たち国民一人一人が、日本の社会を作り、地域を作り、また家庭環境を整えていく必要があるだろう。

映画『四十四にして死屍死す』監督:ホー・チェクティン。香港。2023年公開。世界初上映。

(C) 2023 One Cool Film Production Limited,
852 Films Limited, Icon Group Limited,
the Government of the Hong Kong
Special Administrative Region All Rights Reserved.

寸評レビュー:香港発ブラック・コメディ『四十四にして死屍死す』は、このコロナ禍の苦行をいとも簡単に吹き飛ばすパワフルな笑いのエネルギーを持った快(怪)作だ。

一つの死体を巡って繰り広げられるミステリーホラー級のコメディ張りの珍行動の数々は、予測不能の展開を見せて行く。

見方を変えれば、イラン出身の映画監督アスガー・ファルハーディの作風に似ている。

サスペンスとコメディのジャンルは違えど、物語の展開や設定は非常に似ている。

ある一つの出来事から波及して、様々なストーリーが枝分かれしていく模様、また登場人物たちが抱える悩みや彼らのバックグラウンド、人となり、過去が、露呈されていく様子が痛快に、爽快に、そして、情感豊かに喜怒哀楽を描く。

ただ、ブラックなコメディと言ったユーモアだけに頼った作品ではなく、現代の社会情勢もしっかり作品に盛り込んでいるのも、本作の魅力だ。

孤独死だけではないが、もし不動産物件やその土地で人の遺体を見つけた場合、物件や土地の価値はどのくらい下がるのだろうか?

ここに(※2)興味深い記事があるので、一緒に紹介しておく。

本作の登場人物たちは、このマンションの物件や土地価格が下落するのを恐れて、とんでもない行動をする姿が印象的だが、ある種、現代社会が抱える病巣かもしれない。

また近頃、少しの期間、日本でもホラーブームとして注目が集まっていた(※3)事故物件を、笑いの要素に変えたシナリオも秀逸だ。

遊び心あるタイトルもまた、作品の奇妙さを浮き彫りにさせている。

最後に、香港は今、政治的側面で言えば、非常に混乱した時代を迎えている。

ドキュメンタリー映画『理大囲城』映画『少年たちの時代革命』で描かれたようなポリティカルな問題も抱えている。

コロナ禍という時代も相まって、混乱した香港で、本作が製作されたのは意義深い。

混濁した香港社会の中で、キャストや関係者のクルーたちが一致団結して、映画を通して笑いや感動を届けてくれたのは、何か映画への熱量を感じて止まない。

同じアジア人として、彼らにエールを送りたい。加油、と。

第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023)は、3月10日(金)から3月19日(日)まで、大阪府のシネ・リーブル梅田他にて、絶賛開催中。

(※1)相次ぐ孤立出産の危険https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/200/288166.html(2023年3月15日)

(※2)孤独死が起きると物件価値はどれくらい下がる?価値低下をなるべく防ぐ方法について
https://c-realestate.jp/top/7568/(2023年3月15日)

(※3)この特徴があったら要注意! 事故物件の見分け方と調べ方を解説!https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-5792/(2023年3月15日)