2019年、香港の街を少年たちは駆け抜けた。映画『少年たちの時代革命』
自国のために自死を選び、命を落として行く若者たちの後が絶たなかった2019年の香港。
ドキュメンタリー映画『時代革命』内でも触れられていた若者たちの自決は、当時の香港では社会問題にもなった。
その反面、この行動こそが自国の未来の行く末を案じた革命行為だった。
自身の国家や言論の自由、国民の権利を守るため、自殺を選ぶ若い香港人が息付く暇もなく、次から次へと命を賭けていた。
皆さんは、(※1)「黄色いレインコートの男」の存在を知っているだろうか?
彼は、2019年に始まった香港民主化運動の最中、政府への抗議として自殺を選んだ最初の人物だ。
このセンセーショナルでショッキングなニュースは当時、香港中に知れ渡る。
香港人は皆、彼の死を悲しみ、悼んだ。
この彼の死は、遺書もあった事もあり、警察によって「自殺」と処理された。
果たして、この一件を自死として片付けて良いのだろうか?
この名も無き若き香港人の死は、香港中の人々に多大な影響を与え、革命のための後追い自殺が頻繁に起きた発端とも言える。
映画『少年たちの時代革命』は、この事件をバックグラウンドに、ある一人の少女による自殺を阻止すべく、立ち上がった若者たちの奔走を臨場感を交えながら描くフィクションだ。
驚いたことに、本作はゲリラ撮影で行われており、2019年当時の香港の現状を知ることができる。
壁にはデモに関する宣言がスプレーで書かれた文字や街中に集まるデモ隊など、実際にその場で起きている景色を背景にし、物語が展開される。
このような演出は、観ている側に非常に強い印象だけでなく、センセーショナルな感情を植え付ける。
本作の監督は、レックス・レンとラム・サムという二人のディレクターが、手を組んでいる。
両名は、若手の映画監督ではあるものの、香港人の若者の視点から描かれた本作は、今を生きる香港市民の嘆き、苦しみ、慟哭、そして希望を上手く表現できている。
映像には、彼等が当時、目の当たりにした「香港」がそこにはあり、観る者の瞼にしっかりと、その光景を焼き付かせる事に成功している。
ここで毎レビュー恒例の海外サイトのインタビュー記事を抜粋しようと、英語と広東語で検索を掛けてみたところ、両方の言語での両監督における取材記事が一つもヒットしない事実に衝撃を受ける。
今、香港が中国側から相当な圧力を掛けられているのは周知の事実ではあるが、ここまで言論の自由が脅かされている現状には、図らずとも大なり小なり危機感を感じざるを得ない。
本作は、香港国内ではまだ、上映が許されていない事に対しても、中国政府から強い弾圧が掛けられている事が本当によく分かる。
現在、ロシアでも国民を統率するために、一つ一つの情報が政府によって操作されている昨今、全く同じ現象が香港でも起きていると、推量できてしまう。
今回は、昨年末から国内で公開が始まり、日本の映画専門サイトが何とか、彼らに取材を行っている。
日本側から監督たちの「声」を抜粋し、引用してみようと思う。
ラム・サム監督は、撮影中に起きた香港理工大学における、デモ運動の過激さとその影響について、話した。
(※2)ラム・サム監督:「ただ実は、半年くらい撮影がストップしたことがあったんです。それは、別のドキュメンタリー映画『理大城囲』の内容そのものですが、香港理工大学が警察に封鎖されるという事件が起き、本作のチーム全員が心ここにあらずの状態になってしまって。みんな運動に集中していたのもあって、やむを得ず一旦撮影を停止しました。最も運動が激しかったその時期、実際にチーム内で逮捕された人も出ましたし、このプロジェクトから離れる人も出てきました。図らずも中止したことで、本作の脚本を完成させ、修正する時間が出来て、最終的にこのバージョンが出来上がりました。」と、監督のコメントから映像製作だけでなく、今の香港での生活や居住が如何に危険で、死と隣り合わせである事が、理解できる。中国側から弾圧が続く今、この彼ら制作陣の香港民主化運動における「声」が、日本国内から世界に届くことを願って止まない。
最後に、本作『少年たちの時代革命』の本質は、10代少女の自殺、または彼女が助かるのか、助からないのかの結果論の話ではない。
この作品の本源は、10代から30代のこれからの香港を担う若者たちが、国のために自死を選ばなければいけなかった事実だ。
まるで、日本の戦時中における特攻隊と同じだ。
未来ある若者たちがなぜ、自国のために尊き命を投げ捨てなければいけなかったのか?
それほどまでに、香港人にとって、「香港」という国が、価値ある存在だ。
制作陣らは、作品を通して、こう発している。
「たとえ結果が出なくても、私たちは諦めない。」と。
確かに、現在の香港の戦況は、正直なところ、芳しくないだろう。
ドキュメンタリー映画『時代革命』のキウィ・チョウ監督も10年後の香港が、どうなっているかと聞かれ、彼は「これからの香港を想像したいなら、美しい香港を想像してください。香港は、自分に希望を与えます。未来はまだ、起こっていない多くの可能性があり、多くの良いことが待っていると、心から信じ、期待しています。」と、10年後への期待を願う発言をしている。
どの香港人も自国に対する願いは皆、同じだ。
私たち日本人は、彼らの動向を目の当たりにしながら、何もできない歯痒さを感じるかもしれない。
ただ、彼らが「私たちは諦めない。」と声明を出しているのなら、私たちは心の中で彼らに「加油!」と、激励を送ってもいいのではないだろうか?
映画『少年たちの時代革命』は、ドキュメンタリー映画『理大囲城』と同時上映。関西の大阪府では、1月2日(土)よりシネ・ヌーヴォにて、上映中。また、1月13日(金)より京都府の出町座、1月21日(土)より兵庫県の元町映画館にて上映予定。全国の劇場にて随時、上映予定。
(※1)香港デモが組み込んだいくつもの「死」の物語 – 香港2019(11)https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00071/100800011/(2022年1月2日)
(※2)香港民主化デモの街を疾走する青春映画『少年たちの時代革命』監督インタビュー。台湾アカデミー賞を席巻!製作秘話がまたスゴイ!!https://lee.hpplus.jp/column/2491477/area02/(2022年1月4日)