映画『ミスター・ランズベルギス』どういう未来を迎えるのか

映画『ミスター・ランズベルギス』どういう未来を迎えるのか

2022年12月29日

“非暴力”を掲げて。映画『ミスター・ランズベルギス』

リトアニアという国をご存知だろうか?

日本では、あまり聞き慣れない国名ではないだろうか?

(※1)リトアニアとは、バルト三国と呼ばれる3つの国の一つとして挙げられる。

正式名称は、リトアニア共和国。

この三国には、リトアニアの他に、ラトビア、エストニアがある。

これらの国は1991年、ソ連が崩壊したと同時に、独立した国家だ。

独立してから、まだ30年しか経っていない、まだまだ日の浅い国ではあるが、この三国が独立までに辿った道のりは、日本人には計り知れないほど、幾多の苦労があったのだろう。

本作『ミスター・ランズベルギス』は、バルト三国の一つ、リトアニアがソ連から独立するまでの、1988年から1991年までのおよそ3年間に焦点を当てたドキュメンタリーだ。

政治にはなんのゆかりも縁もない、国立音楽院の教授を務めていたピアニストでありながら、独立に際し、(※2)政治組織サユディスの指導者となったランズベルギスの証言を中心に、作品は構成されている。

ソ連からの独立と脱却への揺るぎない信念を持ち続けたランズベルギスの姿を通して、新しい国家リトアニアが産まれるまでの足跡を描写する。

本作を鑑賞するに当たっては、リトアニアの独立を指導した主導者ランズベルギスだけでなく、小国リトアニアの長く深い歴史を知る必要がある。

それは、ソビエト連邦に吸収される前の時代から一つ一つ紐解いていかないと、本作の伝えたい部分は、何一つ理解できないだろう。

それを知るには、本作だけに触れても仕方ない。

この作品が、リトアニアについて語っているのは、全体のほんの一部に過ぎない。

リトアニアは過去に2度、独立宣言が行っている。

それは、今回取り上げている1991年と、当時から数えておよそ70年前の1918年にも(※3)リトアニア独立革命が起きており、一度ソ連の侵略後に、地図上から姿を消した国家だ。

本作を監督したのは、現代ロシアを風刺的に描くドキュメンタリーを得意とするベラルーシ出身のセルゲイ・ロズニツァだ。

本作以外にも、『国葬(2020)年』『粛清裁判(2020)』『アウステルリッツ(2020)』『ドンバス(2022)』『バビ・ヤール(2022)』など、一貫して大国ロシアに対する批判的作品を多く製作している映画監督だ。

来年には、新作『新生ロシア1991』の公開も控えている。

今年2022年だけで、本作含めた『ドンバス(2022)』『バビ・ヤール(2022)』の三本が立て続けに公開されるなど、今国内でも注目が集まる映像作家だ。

そんなセルゲイ・ロズニツァは、本作の上映時間についてインタビューでこう話している。

(※4)ロズニツァ:”The rough cut was five and a half hours long! I chose the most important points in this history and edited them into episodes, and I connected them to what Landsbergis was telling me. Honestly, I would have liked to finish the film with Soviet troops leaving Lithuania, but we didn’t find enough footage.”

「ラフカットはなんと5時間半!この歴史の中で最も重要なポイントを選んでエピソードに編集し、ランツベルギスが私に語ったことに結び付けました。正直なところ、ソ連軍がリトアニアから撤退する場面で映画を終わらせたかったのですが、十分な映像が見つかりませんでした。」と、編集の大変さを語っている。

最後に、リトアニア共和国の歴史を映画で語るとするなら、現在の上映時間4時間8分では、まだ足りないだろう。

現に、ロズニツァ自身も「ラフカットが、5時間半あった。」と言うから、これくらいか、これ以上の上映時間を要する。

そうでないと、リトアニアの全貌を語ることはできない。

1988年から1991年というたった3年間の短い期間の話ではあるものの、それを4時間で語るのは至難の業だ。

リトアニアという国を知る上では、本作『ミスター・ランズベルギス』は入門編に過ぎない。

ただ、リトアニアが置かれている今の現状は、過去にソ連によって国土を奪われた時代へと逆行しているようだ。

前回の記事で取り上げた映画祭『中央アジア今昔映画祭』がピックアップしている「中央アジア」もまた現在、リトアニアをはじめとするバルト三国ラトビア、エストニア同様に、危機的状況であるのも事実だ。

ロシア・ウクライナ戦争が与える影響は、日本の物価高騰だけに留まらない。

全世界の関係している国々が今後、どういう未来を迎えるのか、まさに2022年は転換期となったに違いない。

2023年以降、国際社会や日本の社会が、どのような道を辿るのかは未知数ではあるが、その代わりに、今この時間に私たちが何をするかで、次に訪れる未来は違ったものになるだろう。

映画『ミスター・ランズベルギス』は現在、大阪府のシアターセブンにて上映中。

(※1)リトアニア共和国https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/lithuania/data.html(2022年12月27日)

(※2)サユディスhttps://www.wikiwand.com/ja/%E3%82%B5%E3%83%A6%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9(2022年12月27日)

(※3)1918年の リトアニア 独立宣言の原本、独外務省で発見かhttps://www.balticasia.lt/ja/naujienos/%E3%83%AA%E3%83%88%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%A2%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E5%AE%A3%E8%A8%80%E3%81%AE%E5%8E%9F%E6%9C%AC/(2022年12月27日)

(※4)Sergei Loznitsa on the history behind Mr. Landsbergishttps://www.idfa.nl/en/article/166959/mr-loznitsa-on-the-history-behind-mr-landsbergis(2022年12月27日)