どうして歴史に埋もれてしまったのか《NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇》レビュー
皆さんは、映画史の闇に葬り去られたチャーリー・バワーズという1920年代後半のサイレント期末期に活躍した無名の映画監督を、ご存知だろうか?
この時期には、チャールズ・チャップリンをはじめ、バスター・キートン、ハロルド・ロイド等、世界三大喜劇王が台頭し、マルクス三兄弟たちが躍進した映画黎明期の絶頂時期だ。
その他にも、海外ではセルゲイ・エイゼンシュテインほかが活躍し、国内では牧野省三や野村芳亭が活躍した時代だ。
また映画が、活動写真ではなく、ひとつの映像作品として成立し始めた最初期の貴重な資料と言ってもよい。
世界的に見ても錚々たる映画人が存在した時代のほんの片隅に、チャーリー・バワーズは映画監督として産声を上げたが、彼がこの時期に著名な人物として注目されることなく、長い間、人々は彼の存在を忘れていた。
チャーリー・バワーズが、再注目され始めたのは、1960年代にフランスでフィルムが発掘された頃からだ。
21世紀に入ってから、作品の修復が施され(近年の技術は格段と上がっている)、やっとこの度、バワーズ作品が日の目を見るのだ。
今回の上映では、彼が製作した多くの作品から6作品。
実写の『たまご割れすぎ問題』『全自動レストラ』『ほらふき倶楽部』『怪人現る』アニメーションの『とても短い昼食』『オトボケ脱走兵』がチョイスされた。
こうして、チャーリー・バワーズの作品が、公衆の面前に披露されるのは、映画の歴史上においても、とても意義のある活動だ。
まさに、私たちは映画史が転変する瞬間を、目の当たりにする目撃者になるのだ。
チャーリー・バワーズ作品を初めて劇場公開配給を行った神戸映画資料館の田中支配人は、今回の試みについて、こう話している。
また、チャーリー・バワーズの魅力について聞かれ、こう答えている。
(※1)田中支配人「おかしなことが次から次へと起こるのですが、観たことがないタイプの面白さ。へんてこな発明品の機械が出てきたり、ちょっとシュールな展開が起きますし。古い映画だけど面白いというより、今こそ面白さが発見されるのではないでしょうか。さんざん、とんでもないことが起きて、びっくりするぐらいあっけなく終わる展開も、ゴダールみたいですよね。」と、バワーズ作品への尽きない訴求力を熱心に語られている。
最後に、《NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇》は、ほんの「はじまり」にすぎない。
今回、初めて発掘されたチャーリー・バワーズ監督のように、まだまだ発掘されていない映画監督や関係者は、国内外問わず、恐らく山のようにいる。
近年では、女性監督アリス・ギイのドキュメンタリー映画『映画はアリスから始まった』が製作公開され、彼女の功績が100年振りに讃えられた。
女性監督は、アリス・ギイ=ブラシェの他にも、ドロシー・アーズナー、メイベル・ノーマンド、ロイス・ウェーバー達が、1920年代に大いに活躍した(※2)女流監督のパイオニアだ。
先に挙げた著名な監督達も、今挙げた女性監督達も、映画界においてはほんの一部の関係者にすぎない。
彼ら以外にも、当時から多くの映画関係者が、存在していたことだろう。
映画史の深い淵に追いやられた彼らの存在は、名前でさえも、知られていない。
だからこそ、これから先、100年後、22世紀に向けて、私たちはこの時代の監督や関係者達を再発見していく必要がある。
それが、映画好きになった私たちの、使命かもしれない。
《NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇》は、10月8日より大阪府のシネ・ヌーヴォにて、上映開始。順次、京都みなみ会館、元町映画館にて公開予定。また、今後、全国の劇場でも、上映が始まる。
(※1)この面白さを届けたい! 100年前のサイレントコメディ映画を発掘、配給へ『NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ –発明中毒篇–』神戸映画資料館田中範子支配人インタビューhttps://cinemagical.themedia.jp/posts/37783555(2022年10月7日)
(※2)「アメリカ映画史上の女性先駆者たち」特集https://www.nobodymag.com/special/vera/(2022年10月7日)