映画『グリーン・ナイト』「人生」の正しさを説く

映画『グリーン・ナイト』「人生」の正しさを説く

2022年12月2日

怪物と戦う者は、自らも怪物とならぬよう心せよ。映画『グリーン・ナイト』レビュー

© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

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さまよえる者が、すべて道に迷ってしまっているというわけではない。

(『The Lord of the Rings(指輪物語)』より

Not all wanderers are lost.(From “The Lord of the Rings”

この言葉は、かの有名なファンタジー小説の第一人者、J・R・R・トールキンが、彼の代表作『指輪物語』の中で、登場人物に語らせた名言だ。

本作『グリーン・ナイト』は、1300年代にイングランドで書かれたとされる作者不明の叙事詩『ガウェイン卿と緑の騎士』を(のちに、作者を架空の人物パール詩人と名付ける)トールキンが、現代英語として翻訳した原作を映画化している。

『ガウェイン卿と緑の騎士』は、日本では馴染みのないタイトルでもあるが、西ヨーロッパに伝わる最も有名な伝承「アーサー王物語」から触発されて書かれたとされ、主人公をアーサー王の甥である騎士ガウェイン卿に割り当てている。

そもそも、『アーサー王伝説』とは、一体どんな物語なのか?

いつの時代の話なのか、あまり日本では聞き慣れない西洋文化の故事ではないだろうか?

「アーサー王」をテーマや要素に取り入れた映画は、多くの作品で(映画『Adventures of Sir Galahad(1949)』から本作含め、総タイトル数は33本にものぼり、欧米欧州では欠かせない存在として)取り上げられているが、その全貌はまだ知らていないだろう。

もし知っていても、表面だけの話ではないだろうか?

自分たちは、欧州文化をあまりにも知らなさすぎる。

アーサー王とは、一言で言うなれば、ある種の伝承であるが、彼が一体、どんな人物なのか、そのキャラクター像や背景をほぼ知らない。

海外の人達に多大な影響を与え続けている「アーサー王伝説」の誕生を記したサイト(※1)「【特集】今さら聞けない“アーサー王と円卓の騎士”―『FGO』『FF』などに影響を与えた物語」が、より詳しく、そして分かりやすく紹介してくれている。

また、本作が取り上げている叙事詩「ガウェイン卿と緑の騎士」もまた、(※2)「中英語アーサー王ロマンス『ガウェイン卿と緑の騎士』」というアーサー王に関するオフィシャルな学会が、サイトに記した紹介文が、非常に興味深い。

その中でモンスター論を説いた一人の女性心理士の言葉が、極めて心に響いたので、一部を抜粋し、紹介する。

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臨床心理士の(※3)榎本眞理子氏の著書「イギリス小説のモンスターたち 怪物・女・エイリアン(2001年出発)」の中で彼女は、(※2)「近年関心を集めるモンスターに関して、モンスターとは他者のことである。それは常に「私」のシャドウとして存在してきた。だが人々は古来自分の外に他者を見いだしてきたのである。そして一方では他者に憧れ、また一方では他者を呪詛し、スケープゴートとしても殺害もしてきた。現代では、その他者が実は「私」の内部にも潜んでいることを我々は知っている。モンスターは本来「他者」だったのに、その「他者」を自らの中に発見してしまったのが現代感覚なのでしょうか。いずれにしろ、どうやらモンスターは我々にとって至極近い存在になってきていることは明らかです。」と話す。

モンスターとは一体、何を指すのか?

他者の中に存在するのか、自身の中に存在するのか。

心理学の観点から、自分たちが日夜、想像するモンスター像に迫ったコメントは、20年が経った今はどうだろうか?

自分たちが創造(想像)する怪物は、近い存在になったに違いない。

今後、ますます、榎本氏が問う「モンスター」は、今以上に近い存在に成りうるだろう。

一例として、先々月の今頃、アメリカから海を渡って日本国内でも報道された(※4)「ハロウィンマスクの保育士、子どもを脅す動画が拡散。アメリカの託児所で4人解雇」の報道や、近頃日本でも加熱に報じられている(※5)「泣かせて撮影、カッターで脅す 裾野の私立保育園、体罰・暴言15事例確認」というニュースが、具現化された一例として顕著に現れている。

自身の中にいるモンスターは既に、表面へと表出している事を心に留めておきたい。

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少し映画から話が脱線してしまったが、本作『グリーン・ナイト』は、フィクションではあるものの、分類で言えば、史劇映画の括りとして確認できる。

このジャンルにおいて、最も重要な部署は「衣装部」だと、個人的には思う。

何世紀も前に、人々が着ていた(※6)西洋の甲冑やヘルム、バシネット、カイト・シールド、プレート・アーマー、胸甲を、現代に置き換えて、尚且つファッショナブルに仕上げる技術は、撮影現場での衣装デザイナーのなせる技だろう。

本作に参加したのは、マウゴシャ・トゥルジャンスカという衣装担当者だ。

彼女は、2017年のCDG Awardにて、日本でも人気のNetflix制作のTVドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス (2016)』でノミネートを受けている。

そして、本作『グリーン・ナイト』では、Chicago Film Critics Association Awards(2021)、Chicago Indie Critics Awards(2022)、Costume Designers Guild Awards(2022)、International Online Cinema Awards (INOCA)(2022)にてノミネートを受け、Seattle Film Critics Society(2022)で見事、Best Costume Design賞を受賞している。

今、ハリウッドで注目を集めつつある女性デザイナーだ。

彼女は、先に挙げた作品の他に、『マジック・マネー(2012)』『セインツ 約束の果て(2014)』『べネファクター 封印(2015)』『バレー・オブ・バイオレンス(2016)』『最後の追跡(2016)』『ビューティフル・デイ(2018)』『チャイルド・オブ・ゴッド(2018)』『X エックス(2022)』他、多くのハリウッド作品に参加している。

今後、注目しておくべき衣装デザイナーだ。

この方の経歴を調べていたら、彼女自身のInstagramのアカウントを発見した。

その中で衣装作品を紹介しているサイト(※7)「MALGOSIA TURZANSKA Costume Design」のURLを貼り付けている。

こちらは非常に必見なので、共有する。

とても興味深い。

また、アメリカのファッション・ライフスタイルを専門とする雑誌「Vogue」が行ったインタビューで彼女は、コスチュームのデザインの重要性について、こう話す。

(※8)“I feel like it makes the film feel more of itself, rather than borrowed from somewhere else. Even when I do contemporary movies, I always draw first, and then sometimes you find the perfect thing that already exists. But I feel like that way I get to know who the character is a little bit more, and I can communicate that better with the rest of the creative team.”

「衣装は、どこから借りて来た事実より、映画そのものを感じさせる事が大切です。現代の映画を撮る時も、いつも最初に絵を描きます。その中から、完璧な既存の存在を見つける事もあります。絵コンテを描くことで、キャラクターが誰であるかをもう少し知ることができます。また、クリエイティブ・チームのメンバーとより円滑なコミュニケーションをとることができると信じています。」と、衣装をデザインする上での重大性を語っている。

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最後に、世界トップレベルのファンタジー作家トールキンが、導き出した世界観は他に類を見ないほど、あらゆる分野において影響を与えている。

そんな彼に影響を与えた人物が、トールキンの生涯を描いた映画『トールキン 旅のはじまり』でしっかりと描かれている。

物語の冒頭に登場し、急死してしまう母親が話す冒険譚から、作家としての想像力を培ったのだろう。

若くして亡くなった母親は、トールキンの生涯において大いなる影響を及ぼしている。

近頃、日本では「人生は冒険だ!」なんて、豪語する親子も現れたが、子への影響は親の存在が大きく左右することを、彼らを通して皆、学ばされたに違いない。

確かに、人生は冒険そのものだが、その冒険をするにも責任が必ず伴う。

あるアメコミ映画のセリフにおいて、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉があるが、これは「自由」にも置き換えることができ、何事にも何をするにも責任が伴う事を覚えておきたい。

トールキンの小説が物語るのは、親の存在のその大きさそのものだ。

人生が冒険だとするなら、その冒険を繰り広げるには必ず半生を生き抜き、切り開きていく「武器」が重要だと、トールキンは作品を通して説いている。

現実社会を生きるために、必要なその武器は、勉強だ。

知識が必ず、人生の武器となることを胸に刻みたい。

人生も、冒険も、自由も、正しく運用して行くのは、子供を取り巻く環境の中にいる大人の存在だ。

先に挙げた大人たちの行動が、如何に子どもらにどのような影響を与えているのか、想像に絶する。

ただ、今回のように道に彷徨う者達もまた、実際は正しい道筋を欲しているのかもしれない。

映画『グリーン・ナイト』は、自分たちの「人生」の正しさを説いてくれていようだ。

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映画『グリーンナイト』は現在、関西では11月25日より大阪府では、大阪ステーションシティシネマTOHOシネマズなんばMOVIX堺イオンシネマ茨木MOVIX八尾。京都府では、京都シネマ。兵庫県では、シネ・リーブル神戸TOHOシネマズ西宮OS。奈良県では、TOHOシネマズ橿原。和歌山県では、ジストシネマ和歌山にて絶賛公開中。また、全国の劇場にて上映中。

(※1)【特集】今さら聞けない“アーサー王と円卓の騎士”―『FGO』『FF』などに影響を与えた物語https://s.inside-games.jp/article/2017/10/16/110297.html(2022年12月2日)

(※2)中英語アーサー王ロマンス『ガウェイン卿と緑の騎士』http://arthuriana.jp/legend/sggk.php(2022年12月2日)

(※3)ようこそ、東京認知行動療法センターへ!/臨床心理士紹介/榎本眞理子https://tokyo-cbt-center.com/cps/mariko-enomoto(2022年12月2日)

(※4)ハロウィンマスクの保育士、子どもを脅す動画が拡散。アメリカの託児所で4人解雇https://www.huffingtonpost.jp/entry/ay-care-worker-halloween-mask_jp_6343d062e4b0281645367f7b(2022年12月2日)

(※5)泣かせて撮影、カッターで脅す 裾野の私立保育園、体罰・暴言15事例確認https://www.at-s.com/sp/news/article/shizuoka/1158078.html(2022年12月2日

(※6)西洋甲冑(鎧兜)の歴史https://www.touken-world.jp/tips/7831/(2022年12月2日)

(※7)MALGOSIA TURZANSKA Costume Designhttp://www.turzanska.com/?fbclid=PAAabEopYdFHP1U_uGHxdqlZsK1D0C2obS7h0nYj2P4Hh93KxHyhAKWhhOZNg#(2022年12月2日)

(※8)The Green Knight’s Malgosia Turzanska on Her Radical Vision for Its Medieval Costumeshttps://www.vogue.com/article/the-green-knight-malgosia-turzanska-interview(2022年12月2日)