特集映画『Visualism 手塚眞アート映画集』実験映画が求める映像美学

特集映画『Visualism 手塚眞アート映画集』実験映画が求める映像美学

2022年12月5日

美しさとは神秘的体験であり、 それ以外に映画の道はない 特集映画『Visualism 手塚眞アート映画集』

©有限会社ネオンテトラ

特集映画『Visualism 手塚眞アート映画集』は、手塚眞監督が自ら激選し、「black」「blue」「white」の3プログラムとして組んだ正真正銘のアート・実験映画の催しだ。実験映像がメインのこの特集映画のラインナップは、観るモノ全員を、不可思議な世界へと導いてくれる。今回、上映される作品群はすべて、実験映画としてだ。この度、本特集上映の件を書くにあたり、作品すべての紹介文は、非常にカクテル的な佇まいだ。前作を通して、描かれたレビューはすべて、実験映画に沿った実験や体験が、少数の近い勝敗を決めたのは間違いない。今回の文章は、今まで以上に、難解で、実験的だ。実験的文章から、何か読み取って頂ければ、幸甚だ。

『HINOHARA』より ©有限会社ネオンテトラ

program black 地霊のダンス

[上映スケジュール]

12月3日(土)17:00~ ゲスト:アリスセイラーさん(ミュージシャン、アーティスト)

12月5日(月)19:00~ 手塚眞監督トーク

12月7日(水)19:00~ 手塚眞監督トーク

『OKUAGA』2016/デジタル/20分 出演:松崎友紀 撮影:辻健司 音楽:田口雅之

一言レビュー:上映時間が、およそ20分間の幻想的な「旅」に連れ出してくれる2016年の短編映画『OKUAGA』。都会の喧騒を忘れて、私たちはOKUAGAの深淵な渓間へ誘われる。音楽を担当した田口雅之氏が奏でる神秘的な音色は、作品の面妖な面持ちに、より拍車をかけたミステリアスな要素だ。カラライズされたような白黒映像は、視覚的に穏やかで静かなタッチに感じるものだが、眼球の奥に侵入してくる刺激物はスパイスそのものだ。

『HINOHARA』

『TUNOHAZU』2021/デジタル/32分 ★最新作 出演:Cay 撮影:辻健司 音楽:PHONOGENIX

一言レビュー:なんとまことに、あやしうか。上映時間32分に収められた実験的映像の羅列は、私たちを万華鏡という不可思議な世界へと陥れてくれる。脳天の脳髄にまでピリピリと痛みを与える、この映像体験は他に類を見ない。あなたは今、この映画によって、あなた自身の芸術への感性の尺度を試される。いとおかし、いとおかし、いとおかしや、虚像の世界はより現実味を帯びてくる。

『NARAKUE』より ©有限会社ネオンテトラ

program blue 視覚のエクスタシー

[上映スケジュール]

12月3日(土)19:30~ ゲスト:原將人さん(映画監督)

12月4日(日)17:00~  ゲスト:林海象さん(映画監督)

12月8日(木)19:00~ 手塚眞監督トーク

『NUMANITE』1995/35mm→デジタル/23分 出演:田中久美子、宮本はるえ、神林茂典、甲田益也子(ナレーション)撮影:藤井春日音楽 :橋本一子

一言レビュー:“All you can do is be your best self. I’m representing more than just me. I think every person should think that way.”橋本一子氏の楽曲は、宇宙空間から飛び出して、一度、黄泉の世界を一周したような感覚的体験をさせてくれる。唾液が自然と喉を伝い、獣の生臭い匂いを漂わせる異臭の元は、誰もが瞼を覆いたくなる最終形態。早く開放されたい。解き放たれたい。と願う学生らが、自由な鳥になったかのように、本作は私たちを映像芸術のアスファルトに叩き落とす。

『ダニエルとミランダ』1996/16mm→デジタル/5分 ★デジタル版初公開 アニメーション:手塚眞 音楽:橋本一子

一言レビュー:人工的な自然光の光の影のその先に、一人雨のバス停で男の帰りを待ち続ける幸薄い女の幸せ。たった5分という短い時間に集約されたアートな映像は、幼子らの頬に優しく打ち付けるアーティファクトな雨のようだ。過ぎ行く時が刻む雨粒の夕暮れ時に見たあの時の社会構成は、後にも先にも、ふわふわと覆い漂う行きずりの難破船だ。うら麗しの美味な夢は、アニメの世界で囚われの身となる夢を見る。

『NARAKUE』1997/16mm→デジタル/44分 出演:倉田和穂、櫻田宗久、小野みゆき、草刈正雄、ほか 撮影:藤井春日 音楽:橋本一子

一言レビュー下へ。下へ。下へ。地底の更に、その下へ。不思議の国の少女が迷い込んだのは、想像絶する無味の世界。ネズミの肝。トラの逆上がり。トンボの逆襲。地底湖に眠る尊い命に、釘を刺す。更に更に、その深いその先には、その誰もが期待を寄せるその人生のこの終焉。ある時ふと、目を覚ますと、あなたは地上にいる事に身震いする。地底深く足を踏み入れた体験は、夢だったのか、幻だったのか。それは、あなたの記憶の消えゆく夢の、そのまた向こうの、山を越えた夢と夢の間の隙間にある。

『実験映画』

『MODEL』より ©有限会社ネオンテトラ

program white フィルムの神秘

[上映スケジュール]

12月4日(日)19:30~ 手塚眞監督トーク

12月6日(火)19:00~ 手塚眞監督トーク

12月9日(金)19:00~ 手塚眞監督トーク

『MODEL』1987/16mm→デジタル/10分★デジタル版初公開 出演:Evelyn 撮影・アニメーション:手塚眞 音楽:土屋昌巳

一言レビュー:学びて思わざれば、すなわちくらし、思いて学ばざれば、すなわちあやうし。まるで死人が、血の灰の底を這っているようだ。学びの中に、正しい道筋があるにも関わらず、誰も学ぼうとしない。一人孤独に独善的に学びを得ようとする者は、必ず人の耳の中で躓く。そのモデルとなるのが、今の社会構造の中で生きる人間だ。短時間で収斂した映像時間の中には、江戸、昭和、明治、平成、大正、令和の日本時代の重みがある。

『燐』(1993/16mm→デジタル/3分 ★デジタル版初公開)出演:えとうなおこ 撮影・アニメーション:手塚眞 音楽:大津真

一言レビュー:外乱麗しゅう候。バンバン、ドキドキ、ガリガリ、ザラザラ、ギコギコ。ノイズが鳴らす音色は、世界中の中で最も美しい。雑音が持つ魅力も、生ゴミが持つ壮大さも、誰も足を止めてまで、気付こうとしない。色彩が抜けたモノクロームは、視覚だけでなく、聴覚のその奥にある騒音を吹き飛ばす不思議な扇風機。夏の蜩が鳴く夕闇時、名残惜しそうに、出会いと別れを繰り返す、現実と幻想が私たちを襲う。怒涛の映像体験が、帰宅者らを頭の記憶で磁場るのは、ただ飲食店が消滅させたないための、明日の映画を夢見る田舎モンの期待。大海原と河川が交わり、藻屑へと消える。

『MIND THE GAP』2020/デジタル/24分 ★初劇場公開 出演:サヘル・ローズ、田中玲、ほか 撮影:辻健司 音楽:松岡政長

一言レビュー:突然起きる恐怖はない。予感させることで恐怖は成立する。恐怖は、いつも右隣にいる。では、左隣には?それは、「死」だ。生と死の海峡で生きる人間が、いつも恐怖し、臆するものは「死」そのものだ。右隣には、恐怖。左隣には、人々の恐るる怖気以上の存在が鎮座する。扉のその向こう、ドアとドアのその影、指先が示すその先には、誰もが恐るる死への恐怖と、生へのしがみつきが、その街の黒い部分を全体的に覆い隠そうとする。全体黒で塗り固められた虚構のその先には、幼子たちの目に溜め込んだ小さき光るもの。

『謎 AENIGMA』2021/デジタル/46分 ★初公開 出演:植田せりな、Nourah、蜂谷眞未、峰のりえ、ほか 撮影:辻健司 音楽:GHOST HARMONIC

一言レビュー:忠言耳に逆らう。若さ故の過ち。年の功だけの存在。人は人生という森の中でいつも、彷徨い続ける。往来の十字路の真ん中で、迷子の子のように、自身の存在について、叫び続ける。私は、誰だ?お前は、誰だ?酔眼朦朧の曖昧な世界の中、私たちは自らの人生と、命と、そして存在を探し彷徨う。顛沛流浪の旅すがら、ファクトリーされたIndustrial Revolutionの価値は、年々増していくばかり。当ての無いロード・ムービーのような毎日が、必ず40年先、50年先、輝きの満ちた非常に価値のある過去の記憶遺産となる。森の中の、その奥の、右に曲がった、そのまたその奥に、あなたが探しているキラキラ輝く、人生が待ち受けているはずだ。

『変容』

©有限会社ネオンテトラ

特集上映『Visualism 手塚眞アート映画集』は現在、12月3日より京都府の京都みなみ会館で絶賛上映中。