映画『トーク・トゥ・ミー』心の孤独を埋めるヒント

映画『トーク・トゥ・ミー』心の孤独を埋めるヒント

2023年12月30日

禁断の超快感ホラー映画『トーク・トゥ・ミー』

©2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

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Adelaide Film Festival, Screen Australia

時代の価値観は、ここ数年の間に、大きく変動した。人々の孤独が産まれ、疎外が生じ、分断が私達の繋がりを斬り捨てた。その背景には、日本では2020年1月15日、中国の武漢市では2019年12月初旬に、第1例目の感染者が報告された新型コロナウイルスによる世界的パンデミックが、私達の生活における個人間の関係性について見直された契機となった。2023年の今、この3年間に起きたとされるコロナウイルスによる世界的感染爆発は下火となりつつあり、人々の記憶から少しずつ薄らぎ、通常の日常が取り戻されるつつある今。世界では、密かに変異株となる新しいウイルス「BA.2.86(ピロラ)」(※1)や「エリス」(※2)が猛威を振るっている。また、世界的な感染爆発の歴史と経緯(※3)は、紀元前の天然痘をはじめ、ペスト、新型インフルエンザ、新興感染症(エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV)、プリオン病、高病原性鳥インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群))、再興感染症(結核、マラリア)と多くの病原菌が、時代を席巻した。パンデミックは、100年に一度来るか来ないかのレベルで推移しているが(※4)、その都度、世界はその時の環境に順応しようと、変革を迫られている。今回の新型コロナウイルスとまた同様で、私達は時代の変化と共に日常生活をも変えざるならなかった。テレワーク、リモートワーク、巣ごもり生活、ステイホーム、ソーシャルディスタンス、ロックダウンと言ったコロナ禍で産まれた言葉達(※5)が社会で踊ったが、これらの言葉達を総称するのは私達の生活環境を襲った「孤独」だ。これにいち早く打撃を受け、影響されたのが今を生きる10代~30代の若者世代だろう。「孤独」は、私達の生活を破壊し、私達他者との関係性を遮断した。映画『トーク・トゥ・ミー』は、若者たちが抱える「孤独」をモチーフに描かれるホラー作品だ。新型コロナウイルス以降、突如として私達を襲った肉体的精神的な心の孤立を扱った本作は、まさにタイムリーだ。孤立心を感じたコロナ禍の3年間が、恐怖(ホラー)の時代であったと言わざるを得ない。本作は、その時の恐怖心をヴィジュアルで表現した画一的なホラー新ジャンルだ。本作を「ホラー映画」という側面で捉えるだけでなく、前述した要素の側面で触れた時、改めて、私達の生活を蝕んだ「孤独」とは何者だったのか、再発見できるのではないだろうか?孤独は、誰の心をも棲家とし、未来の希望を打ち砕く恐怖そのものだ。

©2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd,
Adelaide Film Festival, Screen Australia

本作『トーク・トゥ・ミー』がモチーフにしている「手」だ。人の手の型を模した模型を握りながら、若者たちが90秒憑依チャレンジを行う姿が描かれる。まるで、日本やアジア全域で盛んな「コックリさん」や海外で都市伝説化している「キャンディマン」のようでもあるが、そられと一線を画すのが「手」の存在だろう。私達は、産まれてから自身の持つ「手」に関して、何か考える事があるだろうか?特段、「手」について、私達は常日頃から考える事もないだろう。産まれた時から両手の先の手首の先にある「手」。左右それぞれに指が5本あり、日常生活において必要不可欠な存在だ。ただ、人類がいつから「手」の事を、「手」と認識し、そう呼ぶようになったのかは誰も分からない。それでも、あらゆる場面において、私達の両腕にある「手」は、時と場合によって、大きく活用されている。まず、「手」には人体を象徴する手が、特徴的だ。体の部位として分類される事が、しばしばだろう。社会的側面を持った手の活用法や経済的側面を持った活用法。また、技術として使用する手の活用法もある。実際、信仰と深い関係があり、祈りの手や神話に登場する手、奇跡や治癒における手。また、各々の未来を推測する手相占いでは、肝心要な存在だ。他にも、音楽や楽器を使用する手や悪を罰するための拘束や罰として象徴される手などが、使用目的としては代表的だろう。この中でも、映画『トーク・トゥ・ミー』が象徴している手は、社会的文化的側面を持ち合わせた「手」が、作品の主題として鎮座している。社会的文化的側面のある「手」とは何かと問われれば、たとえば、「手話」「握手」「親子の手」「男女の手」とあり、これらを一つとして纏めるのであれば、他者との繋がりを象徴する社会的存在の「手」だ。人は、誰か他者との結び付きを渇望している。それが、「手」として象徴されるものだが、コロナウイルスによる世界的パンデミックが、その繋がりを遮断しようとした。他者との距離感が掴みにくくなった昨今、孤独がどのような存在なのか想像できなくなった人々が、手を通して他者との繋がりや温もりを切望する。本作『トーク・トゥ・ミー』は、孤立した若者達が他人との繋がりを欲した結果の惨事を、人々が心の中に抱える恐怖心として表現している。「手」の存在が、恐怖を支配するのか、他者との喜びを支配するのかによって、その存在は大きく一変する。

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Adelaide Film Festival, Screen Australia

映画『トーク・トゥ・ミー』の要素の一つ「90秒憑依チャレンジ」は、映画の中の出来事ではなく、現実世界で実際に起きている社会問題の一つだ。日本でもSNSを通じて開催されるSNSチャレンジやTiktokチャレンジが頻繁に行われているようだが、世間一般にブームとなるほど、熱がある訳では無い。その反面、海外では今、この○○チャレンジが子どもたちの間でも頻繁に行われ、危険な遊びとして危機感を持たれている。日本というより、世界的ブームとなっているチャレンジ動画やチャレンジ企画に対する懸念の声が挙げられている。特に、事例が多いのが北米ではあるが、「ベナドリル・チャレンジ」(※6)が原因で13歳少年の死亡事故が起きている。他にも、危険度の低い誰でも気軽に参戦できるボトルキャップチャレンジ、その場にいる全員がマネキンのように動くのを止めて固まるだけのマネキンチャレンジ、アジアを中心にブームが広がった変身チャレンジ、パントマイムに挑戦するチャレンジ動画のインビジブルボックスチャレンジなど、誰にも迷惑をかけず、人体に害のないSNSチャレンジ動画がある一方で、時として、他人に迷惑をかけ、自身の身体に甚大な危害を加える、最悪の結果でさえも招く危険なチャレンジも動画も存在する。たとえば、ジェルボール(カプセル型の洗濯用洗剤)を食べるタイドポッドチャレンジ(洗剤チャレンジ)、全身に可燃性のオイルをふりかけ、ライターで火を付けるだけのファイアーチャレンジ、インマイフィーリングチャレンジ(キキチャレンジ)は、当初の目的とは外れて行き、目立ちたい若者によって危険な場所で踊ったり、迷惑な場所で踊る動画が増加し、次第にその危険さ、無謀さ、迷惑さを競うチャレンジへと変貌した動画もある。また、タイドポッドチャレンジの延長線のようなデオドラントスプレーを至近距離で噴射し、その裂かれるような冷たさにどれだけ長時間耐えられるかを競って若者達が次々に動画を投稿したデオドラントチャレンジなどがある。また、アイスバケツチャレンジ(※7)と呼ばれる動画は、全米の著名人や有名人をはじめとして、日本の識者にまで広がったチャレンジ動画が一時、流行したと言われるが、果たして、挑戦してまで必要とされる事がこの中の行為に含まれるのであるかどうか、甚だ疑問でしかない。日本では、SNSを通じて行われる○○チャレンジに対して、言うほど熱を帯びる事はなかったが、海外でのチャレンジ動画は10代、20代の若者世代だけでなく、より低年齢となる小学生や中学生の間でも気軽な遊びとして認知されている反面、死と直結した危険な遊びである事を危惧したい。死者を出してまで人気が広がる○○チャレンジ動画は今、世界中で危険視されており、社会問題化している。その点に着目した本作『トーク・トゥ・ミー』は非常に近代的でもあり、興味深い内容となっている。今、SNSというツールは人々の承認欲求を満たすための大切な道具として活用されているが、他者から認められたい、認知されたい、リア充を自慢したい、褒められたい、妬まれたい、そして自分という存在を社会に虚烈な何かとして注目を浴びたい。そんな感情が渦巻いているのが、SNSやネット社会だ。そこには、人々が気付きもしない自身の中にある「孤独」が横たわっている事を知る必要がある。本作を監督したYouTuber上がりのダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟監督は、本作の制作経緯について、自身の過去で見聞きした出来事から本作の制作を着想したと話す。

PHILIPPOU:“There were these neighbors that lived next to us, these three boys that we were growing up with. One of them was experimenting with drugs for the first time, and he was on the floor convulsing, having a really negative reaction to what he’d taken, and the kids that he was with were just filming him and laughing at him. And that footage was going around Snapchat, and it really bothered me because I watched that kid grow up, and everyone’s laughing at him in this really vulnerable moment. So that really stuck with me.”

©2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd,
Adelaide Film Festival, Screen Australia

フィリップ監督:「私たちの隣に住んでいた隣人、私たちが一緒に育った 3 人の少年がいました。そのうちの一人は初めて薬物の実験をしていましたが、彼は摂取した薬に対して非常に否定的な反応を示し、床でけいれんをしていました。そして、彼と一緒にいた子供たちは彼を撮影して笑っていました。その映像がスナップチャット上で流れていて、その子の成長を見てきたので本当に気になりました。この本当に傷つきやすい瞬間にみんなが彼を笑っているのです。それは、本当に心に残りました。」(※8)と現代における若者達が持つ価値観が、非常に危険なものであるかと、この話がその一面を物語っているようでもある。この問題は、ここ日本でも近年、問題視されている事案だ。他人の不幸に対して、嬉々としてカメラを向けて、写真撮影や動画撮影を楽しむ若者が社会で増えつつある昨今(※9)、他者との繋がりが希薄だからこそ、人の痛みを理解できない人間が増えたのだろうか?

最後に、本作『トーク・トゥ・ミー』は、90秒間憑依チャレンジに挑み、楽しむ若者達の身に想像を絶する恐怖が襲いかかる新感覚シチュエーション・ホラーだが、その奥の根底にあるのは私達人間が常に抱える心の「孤独」が主題となっている。昨今、新型コロナウイルスの感染爆発が原因で、ますます孤立を余儀なくされる社会で生きなければならなくなった人々にとって、この「孤独」はより身近な存在となったであろう。だからこそ産まれた本作は、私達が日々抱える「孤独」をどう埋めて行けば良いのか、問いかけている。他者と他者との繋がりが薄れつつある今、他人との密接な関係性が、より豊かな未来を生み出す事に期待したい。ネットでは補い切れない孤独への充実感は、現実世界に生きる私達のコネクティングこそが、これからの未来を充足させる手掛かりだ。若い世代をはじめとする、私達日本人の孤独を解消させる事が、今後の日本社会の課題でもある。その中には、きっとこちらの記事「「異なる他者」は社会を強くする。TV局アナウンサーから難民支援の道へ。#豊かな未来を創る人」(※10)にも、本作が主題とする人々が持つ心の孤独を埋めるヒントが隠されているはずだ。

©2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

映画『トーク・トゥ・ミー』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)新型コロナウイルスの変異株「BA.2.86(ピロラ)」は新たな脅威になるかhttps://wired.jp/article/pirola-covid-variant/(2023年12月28日)

(※2)【解説】 新たな変異株「エリス」、何が分かっているのか 新型コロナウイルスhttps://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66530312(2023年12月28日)

(※3)人類を脅かす感染症のパンデミック(世界的大流行)https://www.seirogan.co.jp/fun/infection-control/infection/pandemic.html(2023年12月30日)

(※4)第6回 100年前のパンデミック 「スペイン風邪」の史料(1)https://www.city.kamagaya.chiba.jp/smph/sisetsu/kyoudo_2/nanisuru/kyodo_oshigoto6.html(2023年12月30日)

(※5)「コロナ禍で生まれた言葉を考える」(視点・論点)https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/458503.html(2023年12月30日)

(※6)「TikTokチャレンジ」参加の13歳少年死亡 抗ヒスタミン剤大量服用https://www.cnn.co.jp/tech/35202805.html(2023年12月30日)

(※7)SNSで瞬く間に拡散。アイスバケツチャレンジにみるバイラルへの対応とそのリスクhttps://www.sbbit.jp/article/cont1/28595(2023年12月30日)

(※8)INTERVIEW: ‘TALK TO ME’ DIRECTORS DANNY & MICHAEL PHILIPPOUhttps://bostonhassle.com/interview-talk-to-me-directors-danny-michael-philippou/(2023年12月30日)

(※9)「カメラを向けるな!」過激な動画をスマホで撮影してアップ!被害者の心を踏みにじる撮影者たちhttps://gendai.media/articles/-/119659?page=3(2023年12月30日)

(※10)「異なる他者」は社会を強くする。TV局アナウンサーから難民支援の道へ。#豊かな未来を創る人https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/162.html(2023年12月30日)