映画『ワタシタチハニンゲンダ!』一人一人の人間が、「人間」であるということ

映画『ワタシタチハニンゲンダ!』一人一人の人間が、「人間」であるということ

2022年6月3日

映画『ワタシタチハニンゲンダ!』

©ライフ映像ワーク

©ライフ映像ワーク

2021年3月6日。皆さんは、この日を何を思い出すだろうか?

日本にとっては、何ら変哲のない「普通の日」だろう。

祝日でもなく、イベントがある訳でもない。

ただ、この日だけは心に留めておきたい。この2021年3月6日は、スリランカ国籍の女性、ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさんが、名古屋の入館管理局で非業の死を遂げた日だ。

4年前に留学生として来日したウィシュマさんは、スリランカで語学学校の先生になるため、日本語学校で学んでいた。

しかし、同居していたスリランカ人の男性から暴力をふるわれるようになり、学校は休みがちに。

学費も滞り、除籍処分となったことで「在留資格」を失った。

そして去年8月、暴力に耐えかねて交番に駆け込んだが、 在留資格のない彼女が送られたのは、名古屋入管だった。

ただ、この時彼女は「不法滞在」をしていた外国人でもあった。

その上、彼女は入国管理局に収容されてから、仮放免を求めてハンガーストライキを繰り返していたが、入管に在中する医師の見立てでは、彼女は「(※1)詐病」の扱いとされており、疑惑の目を向けられている。

それだけでなく、ウィシマさんが主張する「DV被害」も、彼女自身がでっち上げた「ウソ」ではないかという見方もあるから、一体何が本当で、嘘なのか、当の本人がいなくなった以上、真相は掴めない。

死人に口なしとは、まさにこういうことだろう。

「不法滞在」という犯罪を犯している以上、日本では彼女は犯罪者としてのレッテルを貼られており、ウィシマさんの自身の「死」は「自業自得」と言う論調が、後を絶たない。

ただ、彼女が日本に入国してからの動きを考えると(もう少しリサーチする必要もあるが)、彼女自身が望んで「不法滞在」をした訳ではないような見方もできる。

暴力を振るわれ、語学学校に通学できなくなり、除籍処分を受けた結果、「在留資格」を失ったのが、彼女の人生の歯車が狂い始めた最初の出来事だろう。

それでは、なぜ彼女は祖国に帰れなかったのだろうか?その背景には、元同居人の男性からの執拗な「脅迫」があったからだと言われている。

「帰国したら、罰を与え殺す。」と脅されていたという、彼女の証言も残っている。

その一方で、名古屋の入管内での彼女への扱いは、惨憺たるものだったと言われている。

ただ、収容直後のウィシマさんは、「帰国したい」旨を何度も口にしていたという事実もある反面、帰国すれば元パートナーに「殺される」という恐怖も口にしていた。

そんなウィシマさんに対して、彼ら外国人を支援する支援者が、仮放免の申請許可を下りやすくするためにハンガーストライキを促している。

ハンストが進む中、体力の衰えから、ウィシマさんは徐々に身体の自由が効かなくなっている。

そんな中、入管内では彼女に対して非人道的な扱いが繰り返し、行われている。

日本社会は、これを「虐待」ではないと、入管側は真っ当な仕事をしていると言い張る一部の人間もいることも事実だ。

でも、ウィシマさんが亡くなる直前の衰退しきった彼女に対し、職員はこう言い放っている。

「(※2)鼻から牛乳や」弱った彼女が、カフェオレを上手く飲み込めず、鼻から出した際の発言だ。

また翌日の朝には、抗精神薬の服用で意識が朦朧とする彼女に対し「ねぇ、薬キマってるか?」と、冗談とも取れない軽率な言葉を吐き捨てるように言っている。

職員側は、「仲良くしたく、フレンドリーに接した。」という旨の発言をしているが、果たして瀕死の状態の相手にそんな言葉を放つことができるだろうか?

差別的な意識の元の発言だったのでは、ないだろうか?と、色々勘ぐってしまう。

入管中の医療検査では「詐病」と診断されていた彼女の容態は、日に日に悪くなっていのだろう。

ある医者は、彼女の診察結果の医療カルテに目を通し、「(※3)ウィシマさんは、入管に見殺しにされた。」と、発言している。

この入管問題は、ドキュメンタリー映画『牛久』でも取り上げられており、社会問題化している。

これら入管問題に関して、日本国内では日本人同士、議論を推進する必要性がある。

相手がどんな人間であろうと、どんな背景があろうと、「死んでいい命」なんてない。

尊い命の灯火が、望まぬ形で消失したことを真摯に受け止め、次の時代に繰り返さぬよう、今後どう対処していけばいいのか、どう改善すればいいのか、協議を尽くす必要があるだろう。

©ライフ映像ワーク

さて本題に入るとして、映画『ワタシタチハニンゲンダ!』は、在日朝鮮人の歴史をはじめ、在日コリアン、技能実習生など、多種多様な視点から日本の外国人問題に迫った作品だ。

監督は、朝鮮学校の高校無償化制度の対応を巡る裁判闘争の全記録を写し出したドキュメンタリー映画『アイたちの学校(2019)』を製作した高賛侑(コウ・チャニュウ)監督。

本作『ワタシタチハニンゲンダ!』は、在日コリアン人の歴史を遡りながら、在日外国人に対する日本の今の在り方を問う構成となっている。

自分たち日本人は、過去の歴史を踏まえ、今日本で何が起きているのか、知る必要があるのかも知れない。日本人として知らないだけでは済まされない。

今、真実に近接する時代が訪れたのかも知れない。映画では、在日コリアン人の歴史を詳細に紹介している。

その最初のきっかけは、1910年に起きた韓国併合だ。また、土地調査事業と言う名の略奪が繰り返され、土地や食料を根こそぎ奪取し、朝鮮人たちに対する統治は勢いを増した。

その上日本は、朝鮮半島を植民地にしただけでなく、皇国臣民化政策を打ち立てた。

「皇国臣民化政策」とは、朝鮮人の意識を日本人化させる政策だ。

それに合わせて、名前を日本人名に変える「創氏改名」を強制的に行い、朝鮮語の使用を禁止した。

1945年8月、終戦を迎えた日本。朝鮮人にとっては、およそ36年振りの「自由」を手に入れた。

在日コリアン人たちは何の支援を受けることもなく、差別と貧困に苦しんだ。

いつの日か帰郷する日を憧れ、次世代に生きる子どもたちへの民族教育に取り組んだ。

終戦直後の1945年10月、当時の在日コリアン人たちは、在日本朝鮮人聯盟(朝聯)を結成した。

朝聯は全国に国語を学習する場を設け、その場所がやがて朝鮮学校へと発展し、約6万人の学生が学び舎で学問を習得した。

だがしかし、GHQと日本は在日コリアン人たちの民族教育に対し、厳しい圧政を敷いた。

1948年1月、日本の文部省はGHQが命ずるままに、朝鮮人学校閉鎖令を伝令した。

当時の在日コリアン人たちは、朝鮮学校を死守するために必死に闘ったと言われている。

本作を監督した高賛侑(コウ・チャニュウ)監督は、100年前から続く外国人差別が現在、悪化しているその実態について、インタビューでこう述べている。

(※4)在日韓国・朝鮮人に対する差別は就職差別や社会保障からの排除といったものが中心でした。それが近年、難民問題が大きくなってからは、命に関わる差別となっています。難民申請して仮放免された人たちを取材したとき、強烈なショックを受けました。「39日間ハンストした」、「餓死した人もいる」、「国に強制送還するという脅しが何度もかけられた」。中には、「国に帰ったら、死刑にされる」、「テロ集団に拷問を受ける」、「自分だけではなく家族も殺される」といった事態に直面している人たちもいました。また入管の中では、国家公務員である職員から暴行、暴言を受ける、病気が悪化しても病院に連れて行かないという事態が頻発しています。昨年3月に名古屋入管で死亡したウィシュマさんの場合は、未必の故意、そのまま放置すれば死ぬ可能性が高いのが明らかなのに、点滴もしなかった。このような生死にかかわる「恐るべき差別」が起こっているのです。

今、日本国内で起きている事象は、在日コリアン人に向けてのものだけでなく、難民外国人に対する嘲弄が、爆発的に増えている。

先に述べたウィシマさんの事件は、ほんの氷山の一角に過ぎない。

また昨今、技能実習生に対する待遇も、問題視されていることを加味しておきたい。

©ライフ映像ワーク

なぜ、「差別」は起こるのか?

歴史は古く、世界的に見るとヨーロッパでは古代ローマ時代から、アメリカでは欧州人が大陸を発見した1700年頃には、インディアンに対する民族浄化が盛んに行われてきた。

それだけでなく、メキシコ系やアフリカ系に人種差別が未だに、横行している。

日本国内にある人種差別は主に3つに分けることができると言われている。

それは「アイヌ民族の人権問題」「同和問題」「外国人の人権問題」だ。

近年でも、(※5)ある芸人が発した言葉によって、再度「アイヌ民族の人権問題」が浮上したのも、記憶に新しい。

日本のこの問題もまだまだ根深く、解決の糸口さえ見つかっていないのかもしれない。

また、本作が取り上げている外国人に対する人権問題も、益々悪化の一途を辿っているのは明瞭だ。

今年に入ってからは、(※6)ベトナム人技能実習生への暴行問題がニュースで報じられたばかりだ。

また、(※7)北海道では「花畑牧場」での雇い止め騒動が、今年に入って問題視された。

その反面、技能実習生たちの犯罪も後を絶たないのが現状。

日本国内において、技能実習生の問題は、あらゆる方面で課題を抱えているのも事実だ。

本作は、これら外国人の視点からの差別の様相を描いているものの、少し視野を広げてみれば、ありとあらゆる場面で人間の命や人権が、蹂躙されていることを忘れてはならない。

米国では、黒人差別と並び、(※8)アジア人への差別、ヘイト問題も非常に危険を孕んでいる。

日本国内において、日本人同士の間での差別や偏見、いじめが続発していることに対しても拳拳服膺だ。

「人権」を無視した事案が、後を絶たない昨今、此の程、(※9)牛丼チェーン店「すき家」での“早朝ワンオペ勤務”の突然死事件や(※10)寿司屋チェーン店「無添くら寿司」で起きた“障がい者いじめ”問題などが、連日ひっそりと報道されている。

このように悪事千里する事件から全豹一斑する必要があることもまた、念頭に入れておきたい。

今、日本のみならず、世界規模で、人間が人間として扱われていない事案が、頻発している。

「人」が「人」として、「私たちは人間だ。」と声を上げれる、そういう時代が来て欲しい上、そのような社会になって欲しいと願うばかりだ。

近頃、国内ではハラスメント事案に対して、世間の目が厳しく向けられていることも、ひとつの出来事として視野に入れておきたい。

コンプライアンスへの意識が高まり、パワハラ、セクハラのみならず、(※11)SOGIハラという言葉まで生み出された近年。

先日、このSOGIハラ事案で、(※12)大阪府のトランスジェンダーの看護師が、病院側を相手に訴訟を起こしていた問題で両者の間で和解が成立した。

在日コリアン、難民外国人、技能実習生、労働者、障がい者、トランスジェンダーというあらゆる名称でカテゴライズされているが、フラットな視点で考えた時、彼らは皆、人間だ。

何かのグループに分類された自分たちは、これらの名称で呼ばれる前に、一人の人間であることが、重要だ。

多くの命や人権が蔑ろにされている現代、それぞれが声高に「私たちは人間だ!」と、主張できる社会に革めて行くには、今を生きる「自分たちの意識と行いが大切」ということを銘肌鏤骨する必要がある。

©ライフ映像ワーク.

映画『ワタシタチハニンゲンダ!』は現在、大阪府にある第七藝術劇場にて、公開中。また、本日6月3日より京都府の京都シネマにて、上映開始。

5月28日(土)より大阪府のシアターセブンにて絶賛公開中。また、6月3日(金)より京都府の京都みなみ会館、6月4日(土)より兵庫県の元町映画館にて公開予定。元町映画館では、6月4日(土)に金子遊監督、伊藤雄馬さん、6月5日(日)に伊藤雄馬さん、6月3日(金)に京都みなみ会館にて金子遊監督、6月4日(土)に金子遊監督と伊藤雄馬さん、6月5日(日)に伊藤雄馬さんの舞台挨拶が予定されている。

(※1)ウィシュマさん死亡、入管は「詐病」扱いで追い詰めた――支援団体が批判https://www.bengo4.com/c_16/n_13356/(22年6月3日)

(※2)「鼻から牛乳や」「ねえ、薬きまってる?」衰弱していたウィシュマさんに入管職員 「命預かる施設」とかけ離れhttps://www.tokyo-np.co.jp/article/123396(22年6月3日)

(※3)「ウィシュマさんは入管に見殺しにされた」カルテを読んだ現役医師がそう断言する”3つの異常値”の深刻さhttps://president.jp/articles/-/55728(22年6月3日)

(※4)【人権を守るべきはだれだ!?③】 100年前から続く外国人差別 ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」高賛侑監督インタビューhttps://kazemakase.jp/2022/05/jinken3-watasitatiningen/#(22年6月3日)

(※5)脳みそ夫「勉強不足を痛感しました」 アイヌ民族“不適切表現”で謝罪https://www.oricon.co.jp/news/2187233/full/(22年6月3日)

(※6)ベトナム人実習生への暴行 監理団体の許可取り消し 相談に対応せずhttps://www.asahi.com/articles/ASQ5000NCQ5ZUTIL03Q.html(22年6月3日)

(※7)北海道民が嫌う「花畑牧場」、ベトナム人従業員の雇い止め&スト主導者に200万円賠償請求でさらに評判低下。香川県民が嫌悪する丸亀製麺と同じ構図かhttps://www.mag2.com/p/money/1162170/amp#amp_tf=%251%24s%20%E3%82%88%E3%82%8A&aoh=16542225637284&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com(22年6月3日)

(※8)米国で深刻化するアジア人差別 ヘイト事件は約4000件もhttps://the-owner.jp/archives/5334(22年6月3日)

(※9)「妻は厨房で倒れ、 3時間放置されて死んだ」 牛丼チェーン 「すき家」 パート女性が早朝ワンオペ務中”に突然死していた! 《再び起きた”ワンオペ”の悲劇》https://bunshun.jp/articles/-/54595(22年6月3日)

(※10)くら寿司で“障がい者いじめ” 被害者が退職に追い込まれていたhttps://news.nifty.com/article/economy/business/12113-1665996/(22年6月3日)

(※11)“SOGIハラ”って何?https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/33/(22年6月3日)

(※12)性別変更「アウティング」で和解 病院側、元看護助手に謝罪―大阪地裁https://www.jiji.com/jc/article?k=2022052400901&g=soc(22年6月3日)