「偶然性の中の必然性を感じていただきたい。」シアターセブンにて映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』の舞台挨拶レポート

「偶然性の中の必然性を感じていただきたい。」シアターセブンにて映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』の舞台挨拶レポート

2022年6月1日
©Tiroir du Kinema

5月29日(日)、大阪府にあるシアター・セブンにて、映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』の対談形式の舞台挨拶が、行われた。

この日は、監督の金子遊さん、言語学者の伊藤雄馬さんが、ご登壇された。

映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』のあらすじ。

インドシナ半島にあるゾミアと呼ばれている山岳地帯。

その森林を移動しながら、彼らは狩猟採集生活を数百年続けてきた未知のムラブリ族。

バナナの葉っぱと竹で寝処を拵え野宿し、現地の人間から姿を見られずに、ひっそりと暮らす彼らムラブリ族のことを、タイの人々は「黄色い葉の精霊」と太古の昔から、そう呼んでいる。

金子監督:まずは、この映画の製作の経緯を簡単にご説明します。映画『ブンミおじさんの森』で有名なタイのアピチャートポン・ウィーラセータクン監督がおられますね。精霊などを描いている監督なんですが、10年ほど前からアピチャートポン監督の映画が好きで、興味を持ちました。僕自身が、タイ北部の山岳部のアカ族やラフ族にいてフィールド・ワークしておりました。私は本を書いり、民俗学を研究したり、映画を作ったりしておりました。ムラブリ族の本が出版されております。ベルナツィクというオーストリアの民族学者が、1980年代に西洋人として初めて、彼らに接触を試み、ある一冊の本を出版しております。その書物は日本語訳もされており、「黄色い葉の精霊」と呼ばれる書籍を書いております。その本を拝読しておりましたので、2017年の2月にですね。ムラブリ族が一体、どんな風な生活をしていたのか考えた結果、タイ北部の探しに行きました。ガイドを雇って、何とか山奥の辿り着きました。すると、そこにですね、小屋を建てて、住んでいた日本人がいました。その方が、伊藤雄馬さんでした。話を聞いたら、10年以上、ムラブリ語の研究をしている方だったんです。「ムラブリ語を研究しているのは、世界で僕ぐらいです。」と仰っておられました。この映画の二つのテーマがありまして、長年テレビでも新聞でも、取り上げられて来なかったムラブリ族に会いに行くこと、そして啀み合うムラブリ族がお互い、「人食い伝説」が原因で100年以上、会っていないから、そのようなプロジェクトをしたいというお話をされていて、その話を聞いて、長編ドキュメンタリーを作る必要があるんじゃないかと、思ったのが製作のきっかけです。2年半かけて、ムラブリ族を取材して、編集して、完成したのが本作『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民 』です。

伊藤さん:そうですね。金子さんが村に来られて、ビックリしたお話を受けましたが、僕自身もビックリしました。日本人が率先して、行く場所ではありません。ただ、もうひとつビックリしたことがありまして、それは金子監督は映画を作られる方、ドキュメンタリー映画を作る方ですが、ちょうどその時ムラブリ語の「方言の違い」を研究しておりました。この部族は、400人~500人ほどの規模なんですが、少なくとも3つの方言があり、全然違うんです。ムラブリ語を話しても、通じないぐらい方言が違うんです。その違いを調べていた時期に、別の村に行くと伝えると、「大丈夫?危ないよ。」って言われるんですが、なぜかと言いますと、金子監督が仰られたように、「人食いだ。攻撃的だ。」という事が、未だに根付いている地域なんです。僕としては、そこに行っても問題ないので、「大丈夫だよ」と伝えているんですが、結果的にムラブリ族の方も安心するんです。僕も無事に帰っても来ます。皆さん興味を持って頂き、どんな人が暮らしているのか、興味を持たれるそうです。そういうムラブリの方たちを見ていると、会って頂いてもいいのかなと、思うんですよね。そういう事ができるのは、僕しかいないと、感じました。ただ、彼らを連れて会いに行ったら、100年振りぐらいの対面になるんです。それを僕だけで、完結させてしまうのはもったいなく、申し訳ない気持ちになってしまいました。映像を撮りたいと思った矢先に、カメラと金子さんが、偶然現れてくれたんです。そして、この話をしたら、とても喜んでくれ、その時から2年半かけて撮影を敢行しました。「めぐり合わせ」と言いますか、「邂逅」という言葉が良く似合うと思います。

ここでお二人は、ムラブリ族の村から持参した、彼らが使っている日用品を披露した。

©Tiroir du Kinema

バッグは、ムラブリで「ニョック」という。肩下げ鞄で、男性も女性も編めるそうだ。特に、女性しか編んでいないと言う。

そして、丸く見えるのは、編み具と糸巻き。糸は、葛をグルグル巻きにして、編み具兼糸巻き機に取り付ける。表からは見えないが、内側はエイチ(H)型をしており、他の部族では使わない珍しい形をしている。糸の色もすべて天然で、手で擦り付けて、ムラブリ族は着色すると言う。

細長いものが笛で、伊藤さんが森に行く時に頂いたものだと言う。森で迷った時に、吹く用に手渡されたものだと言う。長さの違うモノを並べると、音階ができ、音色を奏でることができ、楽器にもなる。

最後に、少し変わった形をしているものが、「パイプ」らしい。側面に鉄の棒を押し付けて、装飾を施す。この柄は、「ヘビ」だと言う。ラオス側のムラブリたちが、タバコを吸う時に使用すると言う。

伊藤さん:今、映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』と言う作品が、2022年に出現したのは、偶然ですが、今このタイミングに必要な映画なのかと思わされます。僕自身もそう感じますし、観て頂く皆様にとっても、必然性を感じると思います。偶然性の中の必然性を、すごく感じます。

金子監督:ムラブリ族は狩猟採集民族なので、芋を掘ったり、ウドを取ってきたり、タケノコ掘ってきたり、小動物捕まえて、魚釣って、という事をしています。実質の一日の労働時間は、1時間から2時間ほどです。虫が寄ってくるので、焚き火だけは絶やさないのです。木は取りに行きますが、獲物を捕まえて、料理をする時だけは働いておりますが、あとはとても脱力系で、一日のほとんどをダラダラ過ごしているんです。とても驚きました。あともう一つは、ムラブリ族は自分のモノを、人にシェアする習慣があります。たくさんあっても、みんな均等に分けるんです。明日のために、蓄積することはありません。その日に全部、食べてしまうんです。その事によって、権力者やお金持ちといった人が、現れません。ムラブリ族の社会で格差が、生まれることがないんです。平等の社会が、築かれております。電気、ガス、水道のない生活ですが、お金の持たない種族なので、お金のためにアクセクする必要もありません。

金子監督:伊藤さんは、6言語喋れる、すごい方なのです。折角なので、ここで「ムラブリ語」をお話してみませんか?タイ語やムラブリ語を簡単に話せてしまうんですよね。

伊藤さん:“ニ オ ジャック ドモイ ニ ジュウソウ(十三) ニメェ ジュウソウ ニ オ レェ マトゥ マトゥ プッ ポン ムラッ ニメェ ニ ポン ムラッ ヒックシェ ポン ムラッ カタン ジャック ニネ ジャック ニネ ジャック ニネ オォ カタン トゥウール ヨ トゥウール ドッ ニ オ ジャバラ ジャック ニー ボン チーン ニ ウッ ユーク アドディー ニ メェ トゥウール ダライ ジャック ウォック ジュンラッ アドディー”。これを翻訳すると、「僕は一人で十三に来たんですが、十三には一度二度しか来たことがなくて、人がたくさんですね、いっぱいいる。こっち行ったりあっち行ったり、人がたくさんいる。僕は暑くてね、皆さんも暑いですよね。なので、この後僕はお肉食べたり、ご飯食べたり、したらいいですよね。あなたも暑いんだから、お酒でも飲みに行ったらいいんじゃないでしょうか。」と言う事を話しました。

こちらをクリックして頂くと、直接ムラブリ語をお聞きすることができます。少し聞き取りにくいかもしれませんが、ご了承願います。

他にも、金子監督が、過酷だった撮影中の話をされたり、日本人に似ているダメ亭主の話をされた。また、伊藤さんは現場での苦労話などをされた。そして最後に、伊藤さんは常用している「赤い褌」をチラッと披露された。

映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』は5月28日(土)より大阪府のシアターセブンにて絶賛公開中。また、6月3日(金)より京都府の京都みなみ会館、6月4日(土)より兵庫県の元町映画館にて公開予定。元町映画館では、6月4日(土)に金子遊監督、伊藤雄馬さん、6月5日(日)に伊藤雄馬さん、6月3日(金)に京都みなみ会館にて金子遊監督、6月4日(土)に金子遊監督と伊藤雄馬さん、6月5日(日)に伊藤雄馬さんの舞台挨拶が予定されている。