これは、みんなの物語。映画『99%、いつも曇り』
人生はどんな時でも、儘ならないものだ。生きていたら必ず、失敗する日もあれば、連敗する時もある。時に、ちょっとした成功に安堵したり、やりたくない事を無理に頑張ってみたり。やりたい事がなかなかできず、焦ってしまったり。人生には、成功している人と、そうでない人がいるけど、皆一概に幸せかと問われれば、それはまったくそうでは無い。成功した人生を歩んでいる人も人生に何か物足りなさを感じていたり、またそうでない人が逆に、日々の幸せを噛み締めていたり。人生とは、その人自身の生き方次第でいい方向にも、悪い方向にもなり得るのだ。「苦労した分だけ、他人の痛みが分かる」という言葉があるが、様々な経験をしない限り、他者の気持ちなんて分かるわけが無い。今は、元プロ野球界の名監督である野村克也監督(※1)が放ったこの言葉「若いときに流さなかった汗は、年老いて涙に変わる」が、身に染みて心から理解できる。私自身、20代の頃にもっと苦労して、汗水垂らしておけば、今の生き方に対して苦労しなくても良かったのでは、と振り返って思う時もある。それでも、人生は続いている。毎秒、毎分、時間は否応なく進んでいる。いつか雲間からほんの少し晴れ間が見える日が来る事を願って、今日も日々、一生懸命に生きている。映画『99%、いつも曇り』は、子どものいない中年夫婦に対して、親親戚が横から子どもを作らないのかとお節介を焼き、夫婦本人も意識をするのだが、そこには一葉が昔から悩みを抱えていた「アスペルガー症候群」への葛藤があり、一歩を踏み出せないでいる女性の葛藤を描いた良作。正直、私自身は訳あって、結婚も就職もしていない。だからこそ、一葉たち夫婦の葛藤や焦燥感は理解できる。私は、同性愛者で発達障害を患ってもいるので、世間の言う男女間の結婚はできない。また発達障害が原因か分からないが、周囲に溶け込むのも苦手で、右向け右の精神が理解できないから、企業に入って集団の中で集団行動がしたくない。協調性がないと言われれば、それまでだが、他者と同じ人生を歩むのが嫌いなのだ。それに反発するように、他人が人生を強制・強要するのはウンザリする。結婚を強要させられたり、無理に就職を促されたり。一番大切なのは、個性であり、その人が自身の人生で何が大切であるかを見極める力だ。右向け右の精神が希薄になりつつある今、右向け左の考え方(※2)が社会でより明確なものになって欲しいと願う。それでも、せめてもの救いは親が口煩くない点だ。その点に関しては、親には非常に感謝している。
本作『99%、いつも曇り』は、子どもの存在に悩む中年夫婦の物語だ。ごく一般の夫婦にとって、結婚生活で最も大切な事項は、子どもを作る事だろう。もちろん、結婚すらしていない私が、夫婦関係における子どもの不在について議論として挙げる事に対して、不快に思われる方もおられるだろう。それでも、今では妊活問題、不妊問題(※3)は日本の大きな社会問題として受け止めてもいいほど、私達の生活に根付いた事柄と思っても良いだろう。一言申し上げるのであれば、夫婦生活において、子どもの存在が一番、大切かとは思えない。周囲の期待を他所に、夫婦二人だけで残りの人生を共に生きてもいいと思う。本当に子どもが欲しくても、それが望めなければ、養子縁組という選択肢もある。夫婦生活において最も大切な事は、ご夫婦お互いの心の気持ちだ。お互いが、何を持って幸せか。どんな夫婦生活を送れば、お互いを幸福にできるのか。それが、一番大切な事ではないだろうか?結婚もしていない、子どももいない私の立場が、外野から兎や角言うのは簡単だろうと思われるだろうが、まずは夫婦お二人が幸せな人生を送って欲しいと願うばかりだ。それでも、子どもが欲しいと願う夫婦が多いのも事実で、それぞれが妊活や懐妊について、どう話し合ったのかアンケート(※4)をした結果が数値や本人達の体験談として発表されているが、人によって様々な経験があり、100組いれば100組分の想いがある。また、結婚する年齢やそのタイミング、それぞれの生活環境などが、夫婦生活を大きく左右させている。その中でも、常に具体的な話し合いが必要だと私は思う反面、ナイーブな話題なだけになかなか話し合えないもどかしさも非常に理解できる。一つ一つ悩みながら、それぞれの夫婦がそれぞれの答えを模索し、結果を受け入れようとするその姿に胸が締め付けられる。専門家は、以前は「家族を作る」ことが家庭の目的であったが、今は夫婦生活のこれからの人生を語り合う事が大切だと話す。確かに、自身の家族を作る事に意識をする事も大切だが、最も大事な事は夫婦が共に歩む人生を、共にどう生きるかを話し合う事が大切だ。共に人生を作るを語り合い話し合い、作って行く事。その過程で子供を「作る」「作らない」を判断したり、円満な家族関係を築き上げる事が重要ではないだろうか?単なる理想論に過ぎないかもしれないが、共に「人生を作る事」がこれからの時代、より重要視される事を強く願いたい。
また、本作『99%、いつも曇り』の作品の土台にあるのは、アスペルガー症候群を含む発達障害を患う人物の姿を描く。ただ、発達障害と一言と言っても、その病名は多岐にわたり、本作の主人公の女性一葉が患っている発達障害はアスペルガー症候群だけではない。アスペルガーの他に、ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHD(注意欠損多動障害:昔は、注意欠陥多動障害と言われていた)、LD(学習障害)と3つに分けられるが、ここからより細分化させる事ができる。ASD(自閉症スペクトラム障害)には、アスペルガー症候群を含む、自閉症や広汎性発達障害などを統合している。そして、ADHDやLDに続く。私の幼少期は、このADHD傾向が強く、一番覚えている幼い頃の記憶では、よく保育園を飛び出していたり、小学生の頃は授業立ち歩き、多動の多い習慣があった。また、言葉の遅れ(言語発達遅滞)も見られ、朧気ながら、母親が私を連れ立って近隣の療育センターに行った記憶もある。現在は、ADHDからHが抜けて、多動が減った分、物忘れや時間のルーズさ、スケジュール管理の欠如が顕著に現れるADD傾向のあるASDであり、これまた大人のグレーゾーン(※5)と非常にややこしい状態だ。これは内面の話で、外側から見れば、何ら一般の成人の方と変わらないが、本当に些細な部分で他者との差異があり、健常と障害の線引きが非常に難しい立場でもある。本作の主人公の一葉は、一言で言えば、アスペルガー症候群だ。劇中でも、本人が自身の言葉で発言しているが、それでも一般の方から見た彼女は、どこにでもいる人とまったく同じで、その違いが分かりにくいと言われてしまう。確かに、グレーゾーンと呼ばれる方がいる限り、健常者の世界にも発達障害に近い方がいて、発達障害の世界にも健常者に近い方がいるのも事実なので、この違いを理解するのは到底、至難の業だ。ただ、ほんの少しでもいいから、彼等彼女等の心の痛みに寄り添ってあげて欲しい。無理に理解しろとは言えないが、ただ彼等の心に優しく寄り添ってあげて欲しい。発達障害の方もまた、健常者の方でも同じような悩みを持っている方がおられる事実にも目を向けて欲しい。お互いがお互いに、理解し合える環境を作る事が、今求められている事だ。劇中、幼少期の一葉がお友達の誕生日会を仲間はずれにされる描写があるが、私自身も似たような経験を持つ。その日の主役の子の家に呼ばれて、祝いに行って、会の途中で一人寂しく帰った記憶がある。今となっては、その原因や理由をハッキリ思い出せないが、主役の子のお兄さんに虐められて、除け者にされたような気がする。だからこそ、一葉の気持ちにも共感もできる上、実際に発達障害で悩んでいる方々の気持ちも、痛いほど分かる。ただ、私自身の小学生時代の同級生に関して言えば、誰一人として私を虐めて来る児童は一人もいなかった。発達障害の傾向にある子どもは、小・中学校ではイジメの標的(※6)になりやすいとなりやすいと言われている中、私自身への虐めはなかった。当時の同級生が皆、心が朗らかだったとも言える反面、私自身が扱いにくい子どもでもあったため、遠巻きに距離を置かれていたとも考えられる。クラスの中でもアウェイな存在であったと振り返ってみたら思い起こせるが、それでも、同級生は皆、平等に接してくれていたと今となっては感謝でしかない。ただ、現在の中年に差し掛かった一葉本人の生活環境での悩みや葛藤に関しては、胸を痛める事はできても、共感はできない。それは、私自身が彼女の年齢に到達していないからかもしれないし、結婚や妊娠、子育てという人生の一大イベントを経験していないからかもしれない。そうは言っても、年代によって、人それぞれ悩みは持っているのも事実。子どもには子どもなりの、学生には学生なりの、成人には成人なりの。また、10代、20代、30代、40代以上の年齢や置かれている立場、生活の状態によっても、抱えている物は違う。それは、子を持つ親もまた、各々に悩みを持っている。私自身、大人のグレーゾーンの発達障害を患っているが、近年、子どもの発達障害への支援や療育、施設は充実している反面、大人の発達障害への支援は正直なところ、皆無に近い状態だ。やっと最近になって、子どもの発達障害に対する医療の取り組みが本格化されてはいるが、大人への取り組みは環境整備上、まだまだ整っていないのが現状だ。だから、大人の発達障害の方は、今社会で野放しの状態で、社会や関係機関からの支援を受けること無く、たった一人で自身の発達障害の特性と孤軍奮闘している。恐らく、私自身もその一人で、支援が滞っている今、一般社会に対して溶け込むのが難しい現状、私は自身の特性や得意な事、好きな事を伸ばすために、今のシネマ・ライターの道を選んだ(映画と文章を書く事が好きなので)。どこまで、自身が辿り着けるのか分からないが、社会の何にも頼らずに、今のこの映画業界で自身の力を信じて、突き進みたいと心に誓っている。最終、ある時期が到来したら、大人の就職支援を行っているLITALICOワークス(※7)にお世話になろう。それまでは、自身の力で藪の中を無我夢中で突き進んでやりたいのだ。LITALICOワークスを最後の駆け込み寺、最後の砦にして、今は今を突き進みたい。なぜ、ここまで強くそう願うかと言えば、烏滸がましいかもしれないが、発達障害で悩むお子さん、親御さん、そして大人の方、就職で悩んでいる当事者の方、そんな方々に対して、ほんの小さな希望の光になりたいと、心から願っている。本当に、この先、自身がどうなるか分からないが、発達障害で悩むご家庭の方々に対して、私が少しでも希望の存在でいれるように、私は今日も文章を書いている。今は道無き道を歩いているが、いつかこの道が轍になる事を強く願うばかりである。
最後に、本作『99%、いつも曇り』には、毎日がどんより曇りのように暗く、晴れの日なんてほとんど来ない。人生の大半は、曇りの日のように暗鈍で、上手く行かない日の方が多い。それでも、人生の1%が晴れであってほしいという願いを込めて、このタイトルにしたと、瑚海みどり監督は話す。私自身、もしこの作品のレビューを書くなら、どこに焦点を当てるか考えていたら、やはり「99%、いつも曇り」のこのタイトルの裏側について考えていたら、監督と共通認識である事に気付かされて、改めて、この作品と付き合いたいと思えた。それでも、本当に人生は曇り続きで、不安と後悔と、焦りの連続でもある。現状の活動費を賄うため、夜勤で働いていたが、近頃、出勤時間を減らされ、もう一つの働き先を探して奔走している。派遣で働こうか、固定で働こうか。まだ、仕事先は見つかっていない。本作の冒頭の一葉のように。それに加えて、先日、職場で転倒して、2回意識を失う事故を起こして、現在利き手が負傷中で、仕事先を探すのも困難な状態に。むしろ、生活に支障が出るほど負傷してしまった。本当に、人生は儘ならない日々が続いている。いつ何時、自身が、人生がどうなるか分からない。それでも、残りの1%の人生の「晴れ」に賭けている。明日がきっと、その日であるように願いながら…。
映画『99%、いつも曇り』は現在、関西では2月3日(土)より元町映画館で1週間限定公開。2月3日(土)には瑚海みどり監督、2月4日(日)には瑚海みどり監督と出演者の亀田祥子さんが舞台挨拶に登壇予定。また、2月8日(木)よりシネマ・チュプキ・タバタにて上映予定。
(※1)「若いときに流さなかった汗は、年老いて涙に変わる」すべての”現役”に伝えたい野村克也監督の言葉https://president.jp/articles/-/54483?page=4(2024年2月1日)
(※2)今と違うことを急に始めると?右向け左の精神https://www.wantedly.com/companies/austar/post_articles/364832(2024年2月1日)
(※3)不妊治療を受ければ必ず妊娠できる?不妊治療を受ける人が年々増えていますhttps://ninkatsu.pref.nagano.lg.jp/sterile/sterility/knowledge/(2024年2月1日)
(※4)【先輩花嫁78人が回答】「子どもどうする?」の話、彼とどう話した?どこまで話した?https://zexy.net/article/app000101620/(2024年2月2日)
(※5)大人の発達障害 「グレーゾーン」や「傾向がある」の真意https://www.kaien-lab.com/faq/2-faq-diagnosis/gray/(2024年2月2日)
(※6)実は発達障害児にメリットも 国連が中止要請の「特別支援教育」https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00369/092600028/?P=5(2024年2月2日)
(※7)LITALICOワークスとはhttps://works.litalico.jp/about/(2024年2月2日)