映画『ボーンズ アンド オール』食べたい派?食べられたい派?

映画『ボーンズ アンド オール』食べたい派?食べられたい派?

2023年2月20日

誰も見たことのない純愛ホラー映画『ボーンズ アンド オール』

©2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

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あなたは、人肉を食べたい派?それとも、人から食べられたい派?

私は、食べたい派だ。しかも、対象年齢は限られてくる。

人肉として最も美味しいのは、低年齢となる子どもたちだ。

中学生に進級する前の年齢が12歳までの子どもたちの人肉が、珍味と言われている。

食に関して、こだわりのある人、自称美食家、自称珍味家の方は、どうだろうか?

死ぬ前に一度は、子どもの人肉を食べてみては、如何だろうか?

人間の体の部位の中で、最も美味しいと言われている箇所は、どこだか知っているか?

それは、何を隠そう、体の部位で最も美味しいのは、臀部の部分だ。

臀部とは、身体の尻の部分を指し、子どものあのプリプリっとしたヒップが、この世で最も美味しい部分だと言われている。

死ぬ前に一度、食してみてはどうだろうか?

美味すぎて、一口食べれば、失神昇天すること間違いないだろう。

街中を歩いてみれば、そこら中で遊んでいる少年たちはショーケースに入れられた美味なる宝石たちだ。

臀部だげでなく、他の部位も残さず食すことができる。

ただ、その前に下拵えは必須案件だ。

血液量は、人によって違うが、体重の約1/13と言われており、それは大人も子供も変わりはない。

鶏を捌くように、首を切るのがポピュラーな方法だ。

生き物を相手にする時は、まず首を切って、血抜きという作業が用いられる。

子どもの肉は、誠に麗しき存在だ。その上、調理法も様々で、各国を代表する料理ともウマが合う。

焼いてもいいし、煮てもいい。

ソテーにしても、ステーキにしてもいい。

メキシコ料理のカルド・デ・レス、韓国料理のチャジャンミョン、スペインの洋菓子クレマ・デ・サント・ジョゼプ、チリ料理のエンパナーダ、セネガル料理のチェブヤップなど、子供の人肉は何にでも合う。

そして、ディナーのお供となる飲み物は、ワイングラスに並々と注がれた血抜きで抜き取られた鮮血を添えて、最高の晩餐会を楽しむことができる。

と、露骨に生々し過ぎるブラック・ジョークはこの辺にしておいて、そろそろ本題に入りたいと思う。

©2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

本作『ボーンズ アンド オール』は、世界中で今も尚、行われている「カニバリズム」を題材にした異色な恋愛ホラーだ。

「食人」と言う自身を指定したくなるほど、歪な特性を持ってしまった若者たちの行く宛のない人生の逃避行を瑞々しいタッチで描く。

往年の名作『俺たちに明日はない』や『地獄の逃避行』と言った男女の逸脱した、それでいて儚い姿が本作でも印象的に活写される。

カニバリズムの歴史は古くからあり、文化人類学において、「食人俗」は社会的・制度的に認められた慣習や風習だ。

ただ、一時的な飢餓によって、引き起こされる緊急避難的食人や精神異常による人肉嗜食はカニバリズムに含まれない。

それは(※1)アントロポファジーに分類され、生物学では種内捕食(共食い)を一般的にを指している。

また、民俗学的観点から見ても、食人そのものが古来より、ある種の習慣として用いられてもいる。

皆さんは、(※2)クールー病をご存知だろうか?

クールー病(Kuru)とは、パプアニューギニアの風土病を指す言葉だ。

治療不能とされる神経の変性を誘発する伝達性海綿状脳症の一種とされ、ヒトの(※3)プリオンが原因である。

感染源については、広域に知られている知識として、フォレ族が取り仕切る葬儀に際し、遺体を食す習慣があることが指摘されているのだ。

また、もう一つ、民俗学の観点から挙げるなら、100年以上もの間、人喰い伝説が部族の中で囁かれ、結果的に互いの存在に対して恐怖し、今まで顔を合わせて来なかったタイ・ラオスの山岳地帯で暮らしている(※4)ムラブリ族は、人喰い族として世界的に有名な部族だ。

昨年には、彼らの姿を追ったドキュメンタリー映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』が、公開された。

監督には、金子遊。ムラブリ族やムラブリ語を研究する日本の言語学者である伊藤雄馬が、100年越しのムラブリ族の邂逅を手助けすると言う一大プロジェクトを成し遂げ、その成果を日本に持ち帰り、劇場上映まで漕ぎ着けた民俗学関連の映画の中でも稀有な作品だ。

さて、本作『ボーンズ アンド オール』の監督には、イタリア出身のルカ・グァダニーノ(『胸騒ぎのシチリア(2016)』『サスペリア(2019)』他)。

主演には、今若者たちの間で人気が沸騰中の甘いマスクを持つ若手実力派俳優のティモシー・シャラメが、人食い人種の青年を怪演。

彼らは、前作『君の名前で僕を呼んで(2018)』以来、5年ぶりの再タッグを果たした。

過去作では、同性愛者同士の叶わぬ恋路を描き、今作では人肉嗜食の男女の破壊的な愛の行方を強烈な食人シーンを通して描いた異色作だ。

「カニバリズム」とだけあり、世界的にも賛否両論の嵐だが、不穏なイメージを持つ食人俗をどこまでも鮮やかに、爽やかに青春映画仕立てとして描いた点は、非常に好感が持てる。

本作の主演であるティモシー・シャラメは、あるインタビューで作品の事を聞かれて

(※5)Timothée“A big part of this story [is about] tribe-lessness, being cut off from the social contact that helps us understand where we are in the world. Not that we’re attention-hungry narcissistic beings, but nonetheless you need that contact to understand where you are and I felt a similar disillusionment that I think Lee was feeling in the script at that point.”

「この話の大部分は、食人族の話ではありません。社会から切り離された、ある一人の青年の物語です。私は承認欲求や自己陶酔を持つ存在ではありませんが、それでも、自分がどこにいるのかを理解するためには、社会との接触が必要です。その時点で台本から、リーが感じていたと思われる社会に対する同様の幻滅を感じました。」と、話す。社会との接点や幻滅については、食人でなくても、誰もが感じる点ではないだろうか?

そして、彼ら映画に登場する若者たちは皆、孤独であった。

父親から、母親から、本来受け取る愛情や優しさを与えられなかった青年たちは、その孤独を埋めようと、互いを支え、理解し、尊重し、そして食人に走る。

常人とサイコパスは、表裏一体の紙一重だ。

©2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

最後に、本作『ボーンズ アンド オール』が取り上げる「カニバリズム」という題材は、映画の中だけに限った事ではなく、現実社会でも起こりうる事だ。

最近、めっきり聞かなくなったが、過去には食人を好んでいた(※6)殺人鬼(シリアル・キラー)も国内外問わず、存在した。

例を挙げるとするから、アンドリイ・ロマーノヴィチ・チカティーロ、ジェフリー・ライオネル・ダーマー、アルバート・ハミルトン・フィッシュ、エドワード・スィアドア・ゲイン(食人ではなく、墓荒らし)、イルシャ・クジコフら、年代問わず、世界各地に存在する。

もしかすれば、あなたの隣に住む人は、人知れず、夜な夜な人肉を喰らう人間かもしれない。

近年でも、ロシアで(※7)ある夫婦が、食人に手を染めていたニュースが、報道された。

そんな古い話では無い。

そして、ここ日本にも、食人を経験したいと言ってフランスに留学中に女子学生の肉を食らった人物(※8)佐川一政がいる。

これらの人物は皆孤独で、親からの愛情や、自身の生育環境に、何かしらの欠点があった。

幼少期に侘しさを感じた彼らは、社会を恨み、敵対するようになり、また自身の空虚な心の穴を埋めるために、殺人に走る。

でも、彼らは皆、ただ愛を欲していたのだ。

親からの愛情、人からの愛情を求めて、食人を繰り返す。

だからと言って、愛情を受け取れなかった人が皆、シリアルキラーになるかと言えば、そうはならない。

立派に生きている人もまた、確かに存在する。

それでも今もどこかに、孤独を感じる子どもたちは、日本の、世界のどこに必ず存在する。

このような殺人鬼を産まないために、社会は、人々は孤独を感じる子供とどう向き合うのか、少しづつでもいいから、一緒に考えていきたい。

映画に対して、一言「怖い」と片付けてしまうだけでなく、皆が皆、幸せに暮らせる社会を構築して行く未来を、映画を通して考えたい。

また、アントロポファジーという言葉があるように、いつ如何なる時も、私達が食人をする瞬間が訪れるかも知れない。

(※9)映画『生きてこそ』は、実際に起きた飛行機墜落事故が原因で、生き残るために乗客が乗客の死体を食べたという事件がある。

これはまさに、アントロポファジーにあたる。

状況が状況なだけに、仕方なく食人という選択をしなければならなかった。

こういう状況は、今後日本でも起こりうる事だろう。

世界では今、戦争が起き、地震が起きている。

自然災害、人災関係なく、何らかの影響で、極限状態下に晒される瞬間は、生きている間に、襲ってくるかも知れない。

その確率は、確実にゼロではない。

そんな時、あなたはアントロポファジーを受け入れることができるのか、できないのか、迫られる時が必ず訪れる事を肝に銘じて置きたい。

そして最終、あなたはひとつの選択をしなければならなくなる。

人肉を食べたい派?それとも、食べられたい派?

この瞬間、人生の行末が確実に決定する。

©2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

映画『ボーンズ アンド オール』は現在、2月17日より大阪府の大阪ステーションシティシネマなんばパークスシネマMOVIX堺MOVIX八尾。京都府のMOVIX京都。兵庫県のOSシネマズミント神戸MOVIXあまがさきにて、公開中。また、全国の劇場にて、絶賛上映中。

(※1)「カニバリズム」と「アントロポファジー」の違いとは?分かりやすく解釈https://meaning-difference.com/?p=3433(2023年2月18日)

(※2)食人習慣で蔓延したクールー病、生き残った患者で獲得されていたプリオン病耐性因子https://www.carenet.com/news/11075
https://medicalnote.jp/nj_articles/201117-001-BQ(2023年2月18日)

(※3)プリオン病(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)(指定難病23)https://www.nanbyou.or.jp/entry/80(2023年2月18日)

(※4)ムラブリ族についてhttps://www.mlabri-hammock.com/?mode=f1(2023年2月18日)

(※5)Timothée Chalamet on love, loss and isolation in Bones and All: the Dune star opens up about his grandmother’s death during the pandemic, and why he wants to play the disenfranchised on screenhttps://www.scmp.com/magazines/style/celebrity/article/3205087/timothee-chalamet-love-loss-and-isolation-bones-and-all-dune-star-opens-about-his-grandmothers-death(2023年2月18日)

(※6)【カニバリズム】世界の食人事件リンク集【衝撃事件】https://matome.eternalcollegest.com/post-2139034685143644801(2023年2月20日)

(※7)ロシアで繰り返される人肉食の惨劇 今度は30人殺害か、夫婦逮捕 背景にある旧ソ連からの「負の特性」とは…https://www.sankei.com/article/20171004-UD6GJNONJNI6BMUANTQBJMQSHE/?outputType=amp(2023年2月20日

(※8)当時25歳の留学生を殺害し食べた…「人食い日本人」と呼ばれた男の“一変”パリ人肉事件・佐川一政という男https://bunshun.jp/articles/-/59428(2023年2月20日)

(※9)映画『生きてこそ』https://yamahack.com/799(2023年2月20日)