映画『ハンテッド 狩られる夜』社会に蔓延る暴力の根絶

映画『ハンテッド 狩られる夜』社会に蔓延る暴力の根絶

絶望の一夜が幕を開ける映画『ハンテッド 狩られる夜』

©2022 – GETAWAY FILMS – CINESTESIA

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あなたは今夜、あなたの命が狙われる。夜の帰り道や路地裏、夜の公園、夜の学校、夜のコンビニ、夜のマンション、夜の繁華街、そして真夜中のガソリンスタンド。日常に潜む危険度は、日中よりも夜間の方が増して行く。物陰から、車の陰から、暗闇から、どこからともなく危険人物が現れる。夜の帰宅路にある危険な場所は、山ほど存在する。人通りが少なく、明かりが少ない通り。路上で停まっている車の近く。電柱や自動販売機などの陰。営業時間が終わってひと気がない会社やお店、公共施設、ビルの脇の通路や非常用階段(※1)。数えれば切りがないほど、私達は危険と隣り合わせで日々を暮らしている。「私だけは大丈夫」(※2)という発想は、早い段階から捨てて、いつどこで命が狙われているか。女性なら、いつどこで強姦魔に遭遇するか。男性なら、いつどこで強盗犯に遭遇するか。想像しながら、夜道を歩かなければならない。夜道を歩く時、真夜中に出掛ける時、深夜の帰宅路はいつ、どこで何が起きるか予想もつかない。深夜の帰宅時、イヤホンを耳に付けながら、携帯電話を弄るのに必死になって、警戒心を解いている方は、真っ先にあなたの命が狙われる。昔から頻繁に事件が起きるのは、圧倒的に夜間の方が多い。犯罪者や殺人犯は人影に隠れ、夜の暗闇を利用し、女性や子ども、学生を狙っている。深夜の一人行動は、本当に危険度が高まる事を熟知しておきたい。特に、深夜に女性が一人で歩く場合、5つの危険要素が夜道に紛れている。1.ながら歩き2.近所のコンビニに寄る3.人通りの少ない道を通る4.ゆっくり歩く5.露出度が高い服装をしている(※3)。夜道を歩く時は、常にどこかに危険が潜んでいる事を念頭におきながら、帰宅の路を行くのを推奨したい。今夜もどこかで、見ず知らずの人間があなたの命を狙っている。本作『ハンテッド 狩られる夜』は、町外れの夜のガソリンスタンドに立ち寄った一人の女性が、謎のスナイパーに狙撃される姿を追ったサバイバル・アクション・スリラーだ。製薬会社のマーケティング部で働く女性が、何者かの襲撃によって窮地に立たされる。製薬会社に務める女性の命が狙われる構図はまるで、現在における医療現場や製薬会社の薬第一優先主義(※4)への警鐘を鳴らしているようにも思えてならない。医師が、患者に薬を処方する事で儲けが発生するシステムがあると言われる医療ビジネス(※5)が、逆に患者や市民を苦しめている一面もある。薬を摂取する事によって、病気が治る事もあるが、薬漬け(※6)によって患者の人格が破壊される恐怖がある事も事実だ。

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医療過誤は、誰にでも起こりうる事実だ。それは、処方する薬や手術によって、病気の治療が間違った方向へと転じ、結果的に人を死に追いやったり、精神を破壊する恐れがある。過去に、日本で起きた医療過誤(ミス)の事例としては、1979年に起きたロボトミー殺人事件(※7)をご存知だろうか?昭和の時代、今でこそ病名は違うが、当時は精神病と呼ばれていた統合失調症の症状を治療するための精神系の脳外科手術が発明された。それが、ロボトミー手術だ。この施術は、アメリカで始まり、世界中で行われたが、ここ日本でも同じ手術が行われていた。脳の一部である前頭葉を切除する恐ろしい手術だが、この施術を受けた患者は後遺症として自身の感情を失ってしまう症状を引き起こしていた。そして、日本におけるロボトミー殺人事件は、この手術を受けた患者が同じように自身の感情を失い、仕事もままならなく、その時の感情が手術を行った医師への恨み辛みへと変換され、殺人という最悪の結果となってしまう。行き過ぎた医療が、人の感情を奪い、人の人生まで破壊するメカニズムが、ここにはある。また、2022年の医療現場によるある調査報告書が発表された。その内容は、「ダウン症患者が下剤大量処方翌日に急死、調査報告書を公表」とあり、ダウン症を患う成人男性が、便秘治療のために誤って下剤を大量摂取し、様々な副作用が発症した結果、死に至ったケースだ。薬の大量摂取が引き起こす最悪のケースも医療過誤として認識されており、正しい薬の処方が病気を快方へと向かわせる。ただ、少しでも間違った方向に転じてしまうと、私達の誰もが上記の患者たちのように医療過誤の犠牲に遭う確率がある。一様に、医療現場や薬の大量処方、また医薬品第一主義の医療ビジネスが悪であるとは言い難いが、それでも、手術ミスや処方箋大量処方(摂取)が原因で、患者が亡くなっている事も事実だ。今回、挙げたのは全体の一部であり、このような事例は氷山の一角かもしれない。人間は神ではない。医療への過信が、時に最悪の結果を引き起こす事もある。本作『ハンテッド 狩られる夜』では、製薬会社に務める女性が命を狙われる話だが、医薬品第一主義や医療に対する人間の過信に対して、強く抗議する目的として、度が過ぎた注意喚起(報復)をしているようにも感じ取れる。

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また、本作では人気のない夜のガソリンスタンドが舞台となっており、シチュエーション的に有り得ない設定と思う事もあるのでは無いだろうか。基本、日中だろうが、深夜だろうが、店には店員が常駐し、客が一人二人は必ず来店しているのが深夜の時間帯だ。だから、本作の主人公のように、たった一人で狙撃手に立ち向かうシチュエーションは、非現実的と受け取る方もいるだろう。でも、それは大きな誤解だ。暗闇には、一体誰が潜んでいるか分からない。物陰から人の命を狙う誰かが、攻撃するためのタイミングを見計らっている時もある。夜の帰り道、夜のコンビニ、夜のマンションの非常階段、そして夜のガソリンスタンドでは何が起きるか分からない。過去の事件になるが、2008年5月2日に愛知県豊田市で「豊田市女子高生殺害事件(正式名:豊田市生駒町地内における女子高校生強盗殺人事件)」(※9)を覚えているだろうか?犯人はまだ逮捕されておらず、昨年の同月で事件から15年を迎え、懸賞金300万円が掛けられた女子高生殺人事件だ。事件の概要は、部活帰りに人通りの少ない高速道路の高架下で強盗として狙われた(強姦目的ではない)。高速道路の高架下と言う事もあり、街灯もなく、車の往来が激しく、騒音もけたたましく、叫んでも誰の耳にも届かない危険な場所という認識が、地元の方にあると言われている。その高架下の道を別名「変質者ロード」(※11)と呼ばれ、現在でも危険区域だと言う。また、この事件は未解決事件であるが、まだ捜査は打ち切られていない。今もどこかで犯人が、のうのうと暮らしている。それは、あなた方の隣にいるのかもしれない。また、2007年に同じ愛知県で起きた「名古屋闇サイト殺人事件」(※12)でも、被害者の女性が深夜の23時に家路を急ぎ、夜道を一人で歩いていた所を、突然車に押し込められ、見ず知らず男3人によって連れ去られ、誘拐され、挙句の果てには無抵抗のままに殺害された事件だ。その上、彼女は犯人の誰一人として接点がなく、人から恨まれるような人格でもなく、偶然そこに居合わせたから強盗目的で誘拐殺害されたという何とも許し難い事件だ。この事件は、当時の日本社会を震撼させた。

名古屋「闇サイト殺人事件」から15年“ネットの闇” さらに深く…

同上の類似事件「静岡看護師遺棄事件」が、2018年にも静岡で起きている。2007年の反省は、まったく活かされていなかった。この時も夜の商業施設の暗い駐車場で一人の女性が、数人の男に拉致監禁され、山中で遺体を遺棄されている痛ましい事件だ。ここで挙げた3つの事件の共通点は、すべて夜道に女性が一人でいる事が挙げられる。本作『ハンテッド 狩られる夜』もまた、夜のガソリンスタンドで一人で過ごす女性が、狙われている。構図は、まったく同じだ。真夜中という人通りが少ない時間帯に、立場の弱い女性が狙われるのは、本当に虫唾が走る。同じ男として、女性を狙う男の心情には1ミリも共感ができない。本作『ハンテッド 狩られる夜』を制作したフランク・カルフン監督は、スクリーン上における暴力を表現する事についての考え方や哲学を持っているかどうか聞かれ、こう答えている。

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Khalfoun:“I don’t want to be desensitized to violence. I want you to see the abhorrent effects of violence. And if you measure it and put it in the right place, in the right context with the right wording, with the right dialogue, then you’ll be really moved and disgusted by it. You don’t laugh at the violence in my movies. You laugh at the uncomfortableness of it, but it’s not this glorified violence. It serves a greater purpose of showing and hopefully, the greater purpose is not to do this, to be careful. It’s a warning really.”

カルフン監督:「暴力に対して鈍感になりたくない。暴力の忌まわしい影響を見てほしい。そして、それを測定し、適切な場所に、適切な文脈で、適切な言葉遣いで、適切な会話で配置すると、あなたは本当に感動し、嫌悪感を抱くでしょう。私の映画の中の暴力を笑わないでください。その不快さを笑うかもしれないが、これはこのような美化された暴力ではない。それは、示すというより大きな目的を果たしますが、願わくば、より大きな目的は、これを行わないこと、注意することです。それは本当に警告です。」と、暴力の哲学について話す。監督の言う通り、私達は社会で起きる暴力に対して、鈍感になってはいけない。どんなシチュエーションであっても、「ノー」を突き付けなければならない。それは、身体的暴力だけでなく、性的暴力や言葉の暴力など、他者を傷付ける暴力は、この世から排除しなければならない。本作は、非常に暴力的な作品ではあるが、それを逆手に取って、女性が最後まで暴力への抵抗を示した作品でもある。医療過誤や処方箋の大量摂取、夜道を歩く女性への暴力は、この社会から少しでも根絶する必要がある。

最後に、映画『ハンテッド 狩られる夜』は、ガソリンスタンドのコンビニに立ち寄った女性が、見ず知らずのスナイパーから命を狙わられる姿を描いたサスペンス・ホラーだ。作品の終始、暴力的な描写が目立つが、その根底にあるのは社会に蔓延る暴力の根絶だ。医療過誤や夜間の一人歩きを狙った犯罪に対して、私達は立ち向かわなければならない。この世にある暴力の減少を願い続けたい。深夜の一人歩きは、気をつけましょう。

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映画『ハンテッド 狩られる夜』は現在、全国の劇場にて上映中。

(※1)暗くなってからの帰り道、子どもが狙われるのはこんな場所https://www.secom.co.jp/kodomo/a/20171005.html(2024年3月14日)

(※2)「自分は大丈夫」はNG!女性が気を付けたい夜間の帰宅時https://www.alsok.co.jp/person/lifesupport/woman/08.html(2024年3月14日)

(※3)女性の深夜の一人歩きには注意!気をつけるべきポイントがあります!https://www.ksp-web.com/weblog/post-1220/#(2024年3月15日)

(※4)薬の大量処方で医者が儲かるという「大ウソ」薬が減らないのには2つの原因があったhttps://toyokeizai.net/articles/-/94048(2024年3月15日)

(※5)なぜ、医師はあなたの薬を減らさないのか? その1 病院の収入についてhttps://www.arigatouashiya.com/single-post/2019/12/20/%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%80%81%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E3%81%AF%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AE%E8%96%AC%E3%82%92%E6%B8%9B%E3%82%89%E3%81%95%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F-%E3%81%9D%E3%81%AE1(2024年3月15日)

(※6)精神疾患と診断された人が「薬漬け」の異常な現実向精神薬の強制投与は過度に鎮静化させる「拘束」https://toyokeizai.net/articles/-/537380(2024年3月15日)

(※7)「ロボトミー殺人事件」昭和の精神医療が生んだ救いのない復讐劇https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=2662(2024年3月15日)

(※8)ダウン症患者が下剤大量処方翌日に急死、調査報告書を公表https://sp.m3.com/news/open/iryoishin/1100337(2024年3月15日)

(※9)豊田市生駒町地内における女子高校生強盗殺人事件https://www.pref.aichi.jp/police/anzen/sousa/houshoukin/toyota/toyota-200805.html(2024年3月15日)

(※10)最大300万円の報奨金期限を1年延長…15年前に愛知の女子高校生が殺害された未解決事件 情報提供呼びかけhttps://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20231208_31650(2024年3月15日)

(※11)【ニュース】現場は「変質者ロード」 愛知女子高生殺害…カギ握るプロフ「怖い」https://af-book.jugem.jp/?eid=662#gsc.tab=0(2024年3月15日)

(※12)ガムテープで顔面ぐるぐる巻き、ハンマーで頭部40回殴打……“名古屋闇サイト殺人事件”被害女性が「どうしても守りたかったもの」https://bunshun.jp/articles/-/40264(2024年3月15日)

(※13)《静岡看護師遺棄事件》拉致実行犯の転落人生と『闇サイト』に食いつく輩たちhttps://www.jprime.jp/articles/-/12688?display=b&_gl=1*16bv4t8*_ga*MDlpQjA1ZFR0NHFnMmFLWUl6QU52RXRvN0pNMDVITHpMWGpONHBUTk1FMkxaWk9TdDI4MmExei1lemxualFSQw..#google_vignette(2024年3月15日)

(※14)“I don’t want to be desensitized to violence”: Franck Khalfoun On His New Gas Station Horrorhttps://www.dreadcentral.com/interviews/465957/i-dont-want-to-be-desensitized-to-violence-franck-khalfoun-on-his-new-gas-station-horror/(2024年3月15日)