映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』旅の先にあるのは、全人類の幸福(しあわせ)

映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』旅の先にあるのは、全人類の幸福(しあわせ)

2022年4月5日

映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』

© Aichholzer Film 2020
© Aichholzer Film 2020

オーストリアからオーストラリアだって!?

男子小学生が言い合ってそうなギャグセンスにうっかり、見落としてしまいそうになりそうなタイトルだ。

本作『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、原題もそのままの『Austria 2 Australia』と来たものだから、どこからつっこめばいいのか、探りを入れたくなるのは関西の血だろうか。

表面上のタイトルは、少しライトなイメージを持たれるかもしれないが、中身はしっかりとしたドキュメンタリー映画だ。

また、カメラアングルや画角を意識した劇映画っぽさも楽しめる。

ドローンを使用した映像には、息を飲む自然の壮大さを全面に押し出したインサート(挿入画面)が楽しめ、ドキュメンタリーでありながら、単なるドキュメンタリー映画ではないことさえも伺える。

本作は、題名の通りオーストリアからオーストラリアまで(11か月で、二人は19か国を横断)の陸路1万8000キロという前人未到とも言える途方もない長い長い道のりをロードバイクで旅をした二人のオーストリア人、アンドレアス・ブチウマンとドミニク・ボヒスにスポットを当てている。

出演も撮影もすべて、彼らだけで行われ、ドキュメンタリー映画という枠を越えて、空前絶後の冒険譚が味わえる。

『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ハムナプトラ』シリーズをも凌ぐ、彼らの旅の行く末には一体、何が待っているのだろうか。

道行く人々にお世話になりながら、ロシア、カザフスタン、パキスタン、ネパールなど、あらゆる国の外国人と交流を深めていく姿もまた、本作の魅力のひとつだ。

個人的に、気に入っている場面は、ある時パキスタンにて、その街に住むパキスタン人達にアンドレアスらが囲まれる場面がある。

何かの容疑で捕まるのかもしれない。もしかしたら屈強な男共に囲まれ、どこかに連れて行かれ、暴行を受けるのかもしれない。

しかも、アンドレアスとドミニクは、パキスタンの公用語であるウルドゥー語が話せない。

まったくコミュニケーションが取れないという四面楚歌の状態。

© Aichholzer Film 2020

ここで、作品の編集が面白くできており、場面が変わると、パキスタン人の住民とオーストリア人の旅人が、酒を酌み交わし、音楽を聞き、踊りを踊っている。

とても朗な場面だ。まるで、彼らを歓迎しているようだ。

パキスタン人たちに囲まれた理由は、「街が危ない」からという理由で、護衛をしたいと申し出ていたらしい。

よそ者の旅人に対して、心の広いパキスタン人。

まるで、アンドレアスとドミニクは、日本で言うならば90年代に流行したテレビ番組「進め!電波少年」のドロンズや猿岩石を思い起こさせる。

このバラエティでは、売れないお笑い芸人が海外の僻地に突然連れて行かれ、そこからヒッチハイクをして、日本に帰国するという過酷な番組だ。

とても懐かしい2000年前後のバラエティで、現在では放送倫理に問われそうな過激な企画ばかりが放送されていた。

視聴者も業界もテレビ番組の企画に厳しくなる前の時代の産物だろう。

時代が変わっても、日本でやってる事はほぼ変わらない。

関西ローカルの深夜番組でありながら、高視聴率を叩き出した若手芸人(特に、桜 稲垣早)が過酷な“旅ロケ”に挑戦するバラエティー『ロケみつ〜ロケ×ロケ×ロケ〜』もまた、同じような形態で毎週毎週、視聴者の目を釘付けにした。

「ブログ」を活用しての企画も、まさにこの番組が夜明けとでも言えるだろう。

関西を縦断する“関西縦断ブログ旅”が、人気を博したのも記憶に新しい。

© Aichholzer Film 2020

映画の話に戻して、観る側はまるでアンドレアスとドミニクと一緒に旅をしているような感覚にさせられる。

行く先々で結婚式に参列したり、祭りを楽しんだり、見ず知らずの通りすがりの道行く人と話す光景は、特別何かしているわけでもない「日常」という中の特異性に心奪われそうになる。

あるインタビューにおいて、この作品と言うよりも、この旅の着想を聞かれたアンドレアスは、少し長いが、こう答えている

(1)‘Vor 5 Jahren, während dem Studium, habe ich eines Abends zufällig ein Fahrrad-Weltreise-Video auf Youtube entdeckt und erst dadurch realisiert, dass man mit dem Fahrrad überhaupt so weit fahren kann. Die gezeigte Freiheit und die Abenteuer haben mich sofort gepackt, vor allem weil es so ein Kontrast zu meinem damaligen Alltag war: studium-bedingt saß ich jeden Tag stundenlang vor dem Computer. Noch am selben Abend habe ich mir vorgenommen, auch mit dem Fahrrad um die Welt zu fahren, einfach so. Gleichzeitig wusste ich aber, dass ich es nicht alleine machen wollte.Etwa zu jener Zeit hatte Dominik, unabhängig von mir, eine ähnliche Idee. Wir haben uns auf das Ziel Australien geeinigt, weil es gefühlt der am weitesten entfernte Ort ist, von Österreich aus gesehen. Also haben wir begonnen einen Plan zu machen, haben aber sehr schnell gemerkt, dass man eine Weltreise diesen Außmasses eigentlich überhaupt nicht planen kann! 18 000 Kilometer durch 19 Länder! Wo werden wir etwas zu essen finden? Wo schlafen wir? Was nehmen wir mit? Was machen wir wenn etwas kaputt geht? Aber genau diese Unsicherheit hatte einen großen Reiz. Nur eine Sache war gewiss: wir wollten jeden Meter auf dem Fahrrad zurücklegen, ohne Kompromisse.Dabei sind wir weder sportlich noch Fahrradfreaks, im Gegenteil: wir sind zwei ganz normale junge Burschen, die sehen wollten, wie weit sie in der großen weiten Welt kommen werden. Davon handelt auch der Film: zwei normale Jungs auf großer Abenteuerreise, bei der hinter jeder Ecke eine neue Herausforderung wartet, die überwunden werden muss.’

「5年前のある晩、勉強している時に、YouTubeで世界中の自転車旅行の動画を偶然見つけました。その時実際に自転車で長距離を乗れることに気づきました。示されている自由と冒険は、主に当時の日常生活とは対照的だったため、すぐに私を魅了しました。勉強のために、私は毎日何時間もパソコンの前に座っていました。その夜、私は世界中を自転車で旅することを決めました。同時に、一人でやりたくないと思ってもいました。その頃ちょうど、ドミニクも同じ考えを持っていました。オーストラリアはオーストリアからとても遠くに感じたので、目的地をオーストラリアに二人で決めました。私たちは計画を立て始めましたが、本当にこの規模の距離を走行することはできないとすぐ気がづきました!なぜなら、19カ国で18,000キロ!どこで何を食べるのか?どこで寝るか?何を持って行くのか?何かが壊れたらどうする?しかし、まさにこの不確実性には大きな魅力がありました。確かなことは1つだけ。妥協することなく、旅を完走すること。ところが、私たちはスポーティでもバイクフリークでもありません。私たちは、大きく広い世界でどこまで到達できるかを見たかった普通の若い青年でした。これはまた、映画の内容でもあります。素晴らしい冒険をしている普通の男子が、あらゆる事を克服するために新しい挑戦に挑もうとしている姿を描いています。」

本作がドイツで公開されたのは、2年前の2020年。

彼らがロードバイクで11ヶ月19ヶ国を旅したのは、2017年のこと。

アンドレアスが言う5年前は恐らく2015年のこと。

2年間、準備や計画、貯金に時間を費やし、満を持して約1年間の旅を成功させた彼らの行動力は、賛辞に値することだ。

長い長い年月を掛けて、彼らの冒険譚を共に味わえるのは、貴重な経験だろう。

一方、相棒のドミニクは、旅はいつ始まったのかを聞かれて、こう話している。

(2)‘Die Reise begann am 01.April 2017. Dieser Termin war aber nicht willkürlich ausgewählt. Wir haben uns den Tag deshalb ausgewählt, weil wir so viele Sommertage auf dieser Reise haben wollten wie es nur möglich war. Einfach nur weg von Regen und weg von Kälte. Ab und zu wurde es uns sogar zu heiß, aber ich möchte dem Film nicht zu viel vorwegnehmen.’

「僕らの旅は2017年4月1日に始まりました。しかし、この日はランダムで決めた訳ではありません。この旅行でできるだけ多くの夏の日を過ごしたかったのです。だか、私たちはその日を選びました。雨から離れて、寒さから離れて。時々暑くなることもありましたが、映画を台無しにしたくもありませんでした。」

またアンドレアスは、他にプロジェクトはあるのかと聞かれ、ある計画について話している。

(3)‘Bevor wir allzugroße Pläne für die Zukunft machen wollen wir erst einmal die aktuellen Projekte abschließen. Der Film war und ist ein solch großes Projekt, und wir sind sehr stolz, dass er nach zweieinhalb Jahren Arbeit tatsächlich in die Kinos kommt! Wir wünschen gute Unterhaltung, hoffentlich freuen und leiden die Zuschauer mit uns mit ;-)Ein weiteres großes Projekt, dass wir sehr bald abschließen wollen, ist das Buch! In einem eineinhalbstündigen Film schaffst du es nicht alle Facetten einer elfmonatigen Fahrradweltreise zu erzählen. In einem Buch hingegen hast du so viel Platz wie du willst. Wer also das ganze Ausmaß der Reise, der Herausforderungen, der Probleme kennen will – für euch haben wir das Buch geschrieben und auch 33 bisher unveröffentliche Farbfotos untergebracht.
Pünktlich zum offiziellen Kinostart unseres Films am 09. Oktober sollte unser Buch erscheinen; darauf sind wir auch sehr stolz.’

「まず将来の大きな計画を立てる前に、現在のプロジェクトを完了させたいと思っています(2020年の話)。この映画は非常に大きなプロジェクトで、2年半の作業を経て、実際に映画館で上映されることをとても誇りに思っています。私たちは観てもらう方々に楽しんでくれるのを願っています。うまくいけばお客さんは私たちと一緒に幸せや楽しみを感じてくれるでしょう。私たちがすぐに終わらせたいもう一つの大きなプロジェクトは、本の販売です!1時間半の映画で、世界中の11か月の自転車旅行のすべてを伝えることはできません。一方、本では、語るだけの多くのスペースがあります。旅の全貌、課題、問題を知りたいのであれば、私たちは本を書き、33枚の未発表のカラー写真もそこに掲載しました。私たちの本は、10月9日(2020年)に私たちの映画の劇場公開に合わせて出版、販売されます。私たちはそれを非常に誇りに思っています。」

この映画には、話の続きがあった。自転車の旅を計画した張本人アンドレアスは、映画以外に書籍の出版もしている。

本の題名は『Austria2australia: Eine unglaubliche Reise … … mit dem Fahrrad』というドイツ語の書籍で、日本では恐らく未翻訳、未出版のようだ。

Amazonでは1500円程で国内でも購入可能なので、興味がある人は購入を検討してもいいだろう。

ただ一読するには、ドイツ語となるので、色んな意味で冒険だ。

© Aichholzer Film 2020

最後に、本作『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、単なる冒険系ドキュメンタリーではないと感じる。

ほんの数ヶ月前に鑑賞していれば、二人の外国人が自転車に乗って、1万8000キロという旅を踏破した映画にしか見えなかっただろう。

でも今のこのご時世に観ると、観え方も少し違ってくる。ただ、この作品をプロパガンダ映画にはしたくない。

それでも、映像を通して感じるのは、そこに映る「人々の営み」や「子供たちの無垢なる笑顔」を失いたくない。

この作品が示唆する部分とは、少し違う視点ではあるのかもしれないが、世界では今、コロナ禍の中、ヨーロッパでは21世紀のこの時代に戦争が行われている。

この映画は、混沌とした今より数年前の平穏な時代の映像だ。

でも、今の時代にこの作品を鑑賞すると、画面の向こうから静かにシュプレヒコールが聞こえて来そうだ。

「人々が暮らす穏やかな日常」も、「大人の悪しき心を知らない子供たちの無邪気な笑顔」も、失いたくない。

画面の向こうから、「Stop the War……!!Stop the War……!!Stop the War……!!」と、世界中の人々のシュプレヒコールが密かに鼓膜の奥で木霊しそうだ……。

© Aichholzer Film 2020

映画『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、全国の劇場にて、絶賛公開中。また関西では、4月1日(金)よりシネ・リーブル梅田アップリンク京都にて上映開始。また、元町映画館では、5月7日(土)より公開予定。

(1)Rad-Dokumentarfilm am Rathausplatzhttps://www.meinbezirk.at/st-poelten/c-lokales/rad-dokumentarfilm-am-rathausplatz_a4189617(2022年4月3日)

(2)Rad-Dokumentarfilm am Rathausplatzhttps://www.meinbezirk.at/st-poelten/c-lokales/rad-dokumentarfilm-am-rathausplatz_a4189617(2022年4月3日)

(3)Rad-Dokumentarfilm am Rathausplatzhttps://www.meinbezirk.at/st-poelten/c-lokales/rad-dokumentarfilm-am-rathausplatz_a4189617(2022年4月3日)