ドキュメンタリー映画『マリウポリの20日間』考える必要があるマストの問題

ドキュメンタリー映画『マリウポリの20日間』考える必要があるマストの問題

2024年4月30日

この惨劇を世界に伝えてくれ!ドキュメンタリー映画『マリウポリの20日間』

©2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

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2022年2月24日、木曜日、午前3時40分。それは、突然始まった。行き交う戦車、激しい銃撃戦、大きな音を立てて降り注ぐ砲弾、そして逃げ惑うウクライナの人々。ある者は嘆き、ある者は怒り、ある者は泣き、医療者は状況が掴めぬまま必死に市民の命を繋ごうとする。ウクライナのマリウポリでは、私達日本人が想像する以上の絶望的な戦場が繰り広げられていた。日本の報道が伝える現状は、外側からのほんの断片的に過ぎず、私達は実際に起きたウクライナ戦争の実情を知らずに、ここまで来てしまった。あの日、あの時、あの瞬間、ウクライナのマリウポリでは一体何が起きていたのか?あの時の現状を知る手掛かりとして、本作『マリウポリの20日間』は非常に重要な役割の中にいる。もしかしたら、この作品が世に出ていなかったら、私達は戦場の事実を知らないまま、これからの日々を過ごしていたに違いない。悪夢は、ある日突然、何の前触れも無く突如として人々の日々の営みを無情にも襲う。作品に対して一言言えるとしたら、それはもう「見ていられない」の言葉に尽きる。できるのであれば、この場から逃げ去りたい。今いる空間から自身を解放させたい。どうにかして目を背け、見なかった事にし、昨日から連続的に続く過去と地続きの今日の日常を何事も無かったかのように、ただ平静と過ごしたい。それでも、私達は目を背けてはいけない現実が、そこにはある。映画の向こう側では、家族を亡くした人々が涙に明け暮れ、病院関係者が駆けずり回りながら、命を救おうとする。次から次へと担ぎ込まれて来る負傷者の数は、増えるばかり。電気も通じなくなり、外界への通信手段はシャットアウトされ、攻め入ってくるロシア軍の存在に怯えながらも、医師達は目の前の患者を救おうと右往左往しながら、治療を続ける。一方では、幼い子どもを二人失った若い母親が、悲しみに悲嘆する。救えた命、救えなかった命の境目の線引きは、一体何であろうか?この度、国内で緊急公開が決まった本作は、今の世界の現状を伝えるには、非常にタイムリーで、必然的でもある。今年はウクライナ戦争開戦後、2年と少しが過ぎたが、この戦局は一向に良い方向には向いていない。いつ、この戦争が終戦(もしくは、休戦、停戦)するのか、誰も予想できない。日本人にとって、ウクライナは遠い国の遠い時間の出来事に思えてならないかもしれないが、これは今、私達が過ごす同じ時間、同じ空の下、21世紀の時代に起きている隠しようがない恥ずべき事実だ。本作を通して、私達日本人がウクライナ戦争の真の姿を認知するきっかけにもなって欲しいと願うばかりだ。

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2022年初頭に始まったロシア=ウクライナ侵攻は、今もまだ現地で行われている。そんな中、時間が経つと共に、ニュースでは報道される機会が減り、大衆の目に触れられなくなって来ている。開戦直後は、衝撃映像と共に幾度も報じら来たウクライナ戦争は、今では私達日本人の中の日常の中の日常として捉えられている現実があり、今も1分1秒が争われるているにも関わらず、私達はこの戦争のほとんど忘れ、気に止めなくもなっている。それは、仕方が無い事かもしれないが、今の現状は動かせぬ事実として自身の心に留めて欲しい。なかなかウクライナ戦争の現状が伝えられない中、本作が今の世に何かを訴えるような形で登場したのは、明確な理由があるからだろう。ロシアとウクライナの関係は、古くから緊張の中にあったと言われており、今急に戦争が起きた訳ではなく、過去何十年にも及ぶ両国の緊張情勢と関係性が今の結果を引き起こしている。近頃は、めっきりウクライナ戦争に関する報道が減りつつある日本ではあるが、ここで一先ず、2022年2月24日(木)に開戦した直後から時系列に、何が起きているのか日本とウクライナの報道の両方から精査して行きたいと。2022年2月24日(木)は、ロシア=ウクライナ戦争が開戦を迎えた日だ(※1)。翌3月14日には、3日以内に国を掌握するというクレムリンの計画は失敗している(※2)。開戦から19日間の間には、空爆で9人が死亡し、9人が負傷した。リウネ地方では朝、ロシア軍がテレビ塔に向けて発砲。砲弾が9階建ての建物に命中し、別の家では火災に見舞われた。ロシア軍がキエフの「アントノフ」工場を砲撃。ウクライナ代表団はロシア連邦と第4回交渉を行った。激動の半月であった。半年後の8月頃、ウクライナのザポリージャ原発(※3)が、ロシア軍によって占拠された。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって、丸一年となる2023年2月24日。戦争が始まって一年となり、混乱を極めた開始当時と比べて、生活の落ち着きを取り戻したウクライナ人の証言を各方面から受け取るようになった。避難を余儀なくされた数名の証言(※4)は、命からがら逃げて生き延びた人の貴重な言葉は、ハリコフ、ザポリージェ、マリウポリの住民達の生き証人とも言うべき言葉が並ぶ。そして、今年戦争2年目を迎えた2024年2月。ロシアに詳しい識者は言う。「この先、ロシアは戦争を辞めない。プーチンは満足しない。」(※5)と話す。2022年2月に侵攻が始まってから、今年2024年の丸2年間のロシア=ウクライナ戦争の動きを時系列に表現してみたが、ここまで大きく展開しているにも関わらず、まだ戦争を終わらせられないプーチン政権は、本当に愚かである。私はこの2年間の動向を追ってみたが、本作『マリウポリの20日間』は、ロシア国境に最も近い街マリウポリに攻撃が始まる数時間前に街に入った映像クルーが、丸20日間を掛けて、その時の現状を捉えたドキュメンタリーだ。この戦争は、いつ終わりを迎えるのだろうか?この戦争に、いつか吉報が訪れるのだろうか?日本人は、過去の出来事と思わず、今もこれからもずっと問題として今後も注視する必要があるだろう。

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これからのロシア=ウクライナ戦争について、識者の言葉を引用したが、果たして、いつこの惨劇が終わるのだろうか?海外の有識者3人バーバラ・ツァンケッタ氏、マイケル・クラーク氏、ベン・ホッジス氏はそれぞれの見解を述べている。英キングス・コレッジ・ロンドン戦争研究学部のバーバラ・ツァンケッタ氏は「戦争は長引くが、延々と続けるのは無理」と言う。英王立防衛安全保障研究所・元所長のマイケル・クラークは「まとめの1年に」なると。元アメリカ欧州軍司令官のベン・ホッジス氏は、「ウクライナはクリミア周辺でロシアに圧力をかける」と話す。それぞれ、違うようで似ている話をしている。そろそろ終局を迎えるのではないだろうか?ウクライナに圧政が、傾くのではないだろうか?今年一年が、今回の戦争のまとめの一年となる。どんなまとめの一年なんだろうか?また、欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表(※7)は先月の14日、このロシア=ウクライナ戦争について、このように見解を述べた。「今後数カ月が決定的になる。アナリストの多くが今夏にロシアの大規模な攻撃を予想しており、ウクライナは11月の米大統領選の結果まで待つことはできない」と。また、ウクライナ支援に対して「スピードを上げ、支援を拡大しなければならない。だから防衛産業の能力を高めている」と話す。現ウクライナにとって、この戦争は極めて、追い詰められていると見て取れる発見をしている。各々、様々な角度や立場によって、考え方は大きく違ってくるが、一つ一貫して言える事は、今年は何かしらロシアにとっても、ウクライナにとっても、大きな変化を齎す一年になると言う事だ。アメリカの支援が先細っていると言われる昨今、バイデン大統領の非協力的な姿勢(※8)が見られる中、今年はアメリカでの大統領選挙が行われる予定だ。現在、アメリカでは大きな選挙キャンペーンが繰り広げられている。誰が、大統領になるのかは不確かな部分もあるが、トランプ前大統領の支持率が、圧政と言われている(※9)。もし、アメリカ前大統領のトランプ氏が、今年のアメリカ大統領選で当選したら、アメリカとウクライナ、そしてウクライナ戦争の今後は大きく変化が起こるのだろうか?先月3月の報道では、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、もしトランプ氏再選なら「ウクライナに一銭も出さない」(※10)と話す。その一方で、今月4月の報道では、トランプ本人が今までの考え方を一転させ、「我々にとってウクライナの存続は重要だ」(※11)と軌道修正を図るような発言を繰り出して来た。果たして、今回のアメリカ大統領での結果によって、ロシア=ウクライナ戦争の結末が筋書き通りになるのか、今からでもよく注視しなければならないだろう。本作を制作したミスティスラフ・チェルノフ監督は、「ウクライナと本作についてどんな話をしたのか」と言う質問に対して、こう答えている。

Chernov:“Всі, з ким я спілкувався, режисери, актори, вони висловлювали підтримку Україні, вони висловлювали занепокоєння тим, що зараз відбувається, і тим, що ця підтримка України провалюється. Це те, що в голові у людей.”

©2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

チェルノフ監督:「私が話をした人全員、監督、俳優、彼らはウクライナへの支持を表明し、今何が起こっているのか、そしてこのウクライナへの支援が失敗しているという事実について懸念を表明しました。それは人々の心にあるものです。」と話す。支持を表明する国、識者、一般人は多くいるが、そのほとんどが間違った方法で支援を行っている。今後、どう支援して行くのかが、私達に課せられた大きな課題だ。映画関係者の中にも声高に、ウクライナ問題、ガザ問題に対して声を張り上げている人がいるが、私達映画関係者がする事は路頭で演説活動をする事ではなく、映画や表現を通して、反対表明をする必要がある。私は引き続き、ペンや文章を通して、反対の表明を表現しつつ、世界のありとあらゆる問題と対峙したい。それが、シネマ・ジャーナリストと名乗る私の使命だ。この世にある問題は、ウクライナやガザの問題だけでなく、香港民主化やミャンマー民主化、報道されない数多くの戦争が今も行われている。それは、日本国内にも様々な社会問題が内包され、それらをどう支援し、解決して行くのか私達は共に向き合い、立ち向かって行く必要がある。

最後に、映画『マリウポリの20日間』は、ロシア=ウクライナ戦争の開戦直後のマリウポリの半月を追った壮絶なドキュメンタリーだ。戦争が始まって、早数年が経とうとしているが、この話題や問題は決して明るいものではなくても、私達は日々、前向きに行きなければならない。たった20日間と言う短い時間の中の戦争の実情を捉えた本作は、世界に発信足りうる力を持った映像が並ぶが、私達がこの作品を通して、何をどう支援し、どう向き合うべきか、再度、絶対に考える必要があるマストの問題だ。

©2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

ドキュメンタリー映画『マリウポリの20日間』は現在、4月26日(金)より関東では東京のTOHOシネマズ日比谷、関西では大阪府のTOHOシネマズ梅田ほか全国緊急公開中。

(※1)ロシア、ウクライナに侵攻 軍施設にミサイル攻撃https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB243010U2A220C2000000/(2024年4月29日)

(※2)Вторгнення Росії в Україну. День 19. Онлайнhttps://suspilne.media/217227-vtorgnenna-rosii-v-ukrain-den-19-onlajn/(2024年4月29日)

(※3)ロシア軍占拠のウクライナ原発で何が?元職員が語る実態とは?https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2022/09/08/2
5220.html(2024年4月29日)

(※4)”Росія 24 лютого повністю зламала наше життя”. Історії українок, які врятувалися на початку війниhttps://www.bbc.com/ukrainian/articles/c724xqg7d0vo(2024年4月29日)

(※5)プーチン氏は戦争をやめない!再びキーウ侵攻?侵攻2年を分析https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2024/03/01/38045.html(2024年4月29日)

(※6)ウクライナでの戦争、2024年にどうなる 軍事専門家3人の見通しhttps://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67848814(2024年4月29日)

(※7)ウクライナ戦争の結末、今春から夏にかけて決まる=EU外相https://jp.reuters.com/world/ukraine/QA6JBPZZMBO63NE3VAFF46GYLU-2024-03-14/(2024年4月29日)

(※8)膠着状態のウクライナ戦争・2024年はどうなるかアメリカの国益と衝突するウクライナ
https://toyokeizai.net/articles/-/721057?page=4(2024年4月29日)

(※9)2024年米大統領選、バイデン大統領とトランプ前大統領が候補者指名獲得の見込みhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2024/03/753212fe74c0ed5e.html#:~:text=%EF%BC%88%E6%B3%A82%EF%BC%89%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%80%81,48%EF%BC%85%E3%82%92%E4%B8%8A%E5%9B%9E%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82(2024年4月29日)

(※10分)トランプ氏再選なら「ウクライナに一銭も出さない」とハンガリー首相 米支援停止で戦争終結とhttps://www.bbc.com/japanese/articles/cp4lzjx4w48o(2024年4月29日)

(※11)トランプ氏「我々にとってウクライナの存続は重要だ」、大統領選を見据え軌道修正かhttps://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident/20240419-OYT1T50123/#google_vignette(2024年4月29日)

(※12)«Я відчуваю, що мене почули». Інтерв’ю з режисером фільму «20 днів у Маріуполі» Черновимhttps://www.radiosvoboda.org/a/intervyu-rezhyser-filmu-20-dniv-u-mariupoli-chernov/32862782.html(2024年4月29日)