映画『M3GAN ミーガン』孤独と感じる子どもを生み出さない

映画『M3GAN ミーガン』孤独と感じる子どもを生み出さない

2023年5月28日

恐ろしく一途な狂気人形映画『M3GAN ミーガン』

©2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

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人形が、あなたを殺りに襲って来る。

除雪車による不慮の事故(※1)が原因で、一度に両親を亡くした孤独な少女が体験する戦慄の人形劇。

そんな彼女を不憫に思った母親の妹、女の子にとっては叔母にあたる女性が、身寄りのない彼女のためにたった一人の“友達”を設計する。

初めこそ、ユーザーと人形という良好な関係性を築いていたにも関わらず、知識を得た人工知能は人間の人智を超えて、恐ろしいまでに暴走し始める。

親を亡くした女の子に対して、専門家であるソーシャルワーカーは、突然の孤独になってしまった少女に与える影響力が元で愛着障害(アタッチメント障害)(※2)を引き起こすと心配を抱く。

愛着障害とは、「養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態」を指す言葉であるが、この点を危惧した玩具会社に勤める叔母が、姪のために愛情を注げ、同時に子守りもできるAI人形を開発するのが、本作の大まかな流れだ。

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「人形」をモチーフにしたホラー映画は、1988年(日本公開は1989年)の一連の映画『チャイルド・プレイ』シリーズが、ある種、商業ベースでは元祖的な作品だ。

過去には、日本国内劇場未公開のブリティッシュ古典ホラー『Devil Doll(1964年)』という腹話術人形を題材にした作品もある。

また、名優アンソニー・ホプキンスが若かりし頃に主演したスリラー映画『マジック』もまた、このジャンルに入れても遜色ないだろう。

前述した『チャイルド・プレイ』シリーズ以降、多くの人形ホラーが誕生した。

一例として、『ドールズ(1987)』『パペット・マスター(1989)』『キラー・ホビー/オモチャが殺しにやって来る(1991)』『デモーニック・トイズ(1992)』シリーズ『アナベル 死霊館の人形(2014)』『アナベル 死霊人形の誕生(2017)』『アナベル 死霊博物館(2019)』『ザ・ボーイ -残虐人形遊戯-(2020)』『ザ・ボーイ~人形少年の館~(2016)』『生き人形マリア(2017)』『ロバート 最も呪われた人形(2015)』『人形霊(2004)』など、人形をモデルにした映画を挙げればキリがないが、単なる人形が襲って来るホラーではなく、今に至る人工知能を埋め込んだ人形を題材にした草分け的作品は、2019年に公開されたリメイク版『チャイルド・プレイ』からだろう。

AIが、主導的に物事を覚え、知能を高めて行き、最終的には人間たちの人智を超えて襲って来る姿は、近年のホラー映画の中では最も悍ましい。

人工知能を埋め込んだ人形達が、活躍する作品と言えば、子供向けミリタリー・アクション映画『スモール・ソルジャーズ』を想起させる。

こちらの作品では、AIではなく軍事用チップを子どもが遊ぶ人形に埋め込んで、ひと騒動起こす作品だ。

今後、ドール系ホラー映画の形態は、ますます変化して行く。

従来の映画『チャイルド・プレイ』のチャッキー人形は、既に古典ホラーの部類だ。

人形の中に宿った犯罪者の魂が襲ってくるのではなく、人間の数百倍の知能を持った人型ロボット。

そんなAIが生身の人間のように人々を襲う作品が、今後ますます製作されて行く未来が、見えて来る。

そして、最後にリメイク版『チャイルド・プレイ』と本作『M3GAN ミーガン』の違いは、何だろうか?

前者は、人工知能を埋め込まれた単なる人形の暴走であったが、後者は少女と等身大のAI人形が暴走する物語だ。

この「等身大」が、意味するものとは?

現代アメリカにおける社会背景と共に、今後の米国の若者社会、若者文化、または日本における若者社会、若者文化の変貌がますます躍進して行くことだろう。

このドール達による恐怖連鎖は、もう誰にも止められない。

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本作『M3GAN ミーガン』をより恐怖の作品に仕上げたのは、主人公の2人の少女を演じた女優だ。

1人目は、ケイディ役を演じたバイオレット・マッグロウ(※3)だ。

彼女は、若干12歳にして、既に6年の経歴を持つ役者だ。

デビューは、映画ではなく、2017年に発売されたビデオゲーム『Hello Neighbor』という作品で声優としてキャリアをスタートさせている。

映画では、スティーブン・スピルバーグの作品『レディ・プレイヤー1』にて、ノンクレジットながらショッピングカートキッドという役名で出演している。

映画デビューは、既に華々しいキャリアだ。

テレビTVでは、2016年から2017年にアメリカで放送されたテレビシリーズ『Reckless Juliets』の中の1話分にて、デビューを飾っている。

他には、映画では『ドクター・スリープ(2019)』『ブラック・ウィドウ(2021)』ドラマでは『The Haunting of Hill House』にて10エピソード。2019年放送の『LAW & ORDER:性犯罪特捜班 シーズン21』内の1エピソードでゲスト出演を果たしている。

順調にキャリアを重ねた彼女は、今作『M3GAN ミーガン』にて初主演を演じ、印象深い少女を演じた。

また、2025年公開予定の続編『M3GAN2.0(仮)』でも既に主演ケイディ役の続投が決まっている。

そして、もう一人、注目するとするなら、エイミー・ドナルド(※4)という子役だ。

映画を観ていたら、もう一人子役がいるのか少し分からないかもしれないが、本作のタイトルキャラクター「AI人形ミーガン」を演じた少女だ。

彼女は、前述したバイオレット・マッグロウよりキャリアは浅い。

だが、彼女のデビュー作は、2021年からNetflixにて順次配信されているTVドラマ『スイート・トゥース: 鹿の角を持つ少年』の第2シーズンの8エピソードに出演し、主要人物のヤマ役を演じる。

他に、今年2023年の『The South Jersey Horror Podcast(ポッドキャスト・シリーズ)』やこちらも2023年現在の映画『The Tank』では、主人公の少女のスタントダブルを演じる。

表舞台と裏方、そして役者とスタントという二重の役割をこなすエイミー・ドナルドの今後の活躍に期待がかかる。

一般大衆からの注目が集まる中、本作のタイトルキャラクターは、彼女のキャリアの中では当たり役だ。

また、以下の動画でも少し紹介するが、彼女がミーガンとして踊る「ミーガンダンス」は、既に本国アメリカではSNSを介して大バズりしている。「自分でスタントを演じ、TikTokで話題になった映画のキラーダンスシーンは自身で振り付けをした」という。

また彼女は、腕を使わずに地面から「コブラ立ち上がり」をしたり、四つん這いで森の中を駆け抜けたりする動きはすべて、自分で行う方法を見つけて監督たちを驚かせた。

以下の動画のインタビューにて、アミー・ドナルドは自身が演じたミーガンというキャラクターが好きだと前向きに答えている。

また、あるダンス大会では優勝した経緯も話す。

やはり、自身が演じるキャラクターを好きになること、またダンス大会での優勝が彼女に与える影響力、それはすべてミーガン役、またはAI人形へ愛が注がれた結果が、本編での彼女の動きに集約されている。

本作の見所は、ホラー映画というジャンル作品だけではなく、陰日向になりやすいマスクの被った人形役を演じる新人子役の役柄への熱意と本作出演への熱情にも注目が集まって欲しいと願う。

本作は、この主人公の2人の少女がいてこそ、成立する作品であることを忘れてはならない。

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最後に、本作が取り上げる題材は、如何にして少女の孤独を人形という存在を通して和らげる事ができるのかを描いた作品だ。

また、主人公の叔母に当たる女性の大人になりきれない小児的思想や人智を超えた人工知能の暴走を作品として表現しつつ、その根底にあるのは本作品内の要素としてある「愛着障害」を、社会で生きる私たちがどう受け入れ、克服するのかを作品の片隅で描く。

本作のシナリオの中にも「Do you know anything about attachment theory?(あなたは、愛着障害(心理)について何かご存知ですか?)」と専門医が、主人公の女性に何気なく話し掛ける場面があるが、女性も少女も本人らが気付かない内に、心のどこかで愛着障害を抱えて生きている。

それは、今を生きる私たちに宛てたアンサーでもある。

私達もまた、心のどこかで人への愛着を抱きながら、日々暮らしている。

愛着障害という言葉は近年、10年間で専門の世界から一般社会で認知され始めたものだが、その根源的な発生を辿っていけば、恐らく、1997年に起きた神戸児童連続殺傷事件(※5)の少年Aへと行き着く。

今になってこそ、彼が幼少期に愛着障害を発症し、彼の中にある精神が崩壊し、暴走した結果、世界を震撼させた一大事件を巻き起こしたという見方もできる。

彼がした事は一生涯に渡り贖罪を持ち続け、世間から糾弾されるべきではある。

愛着障害という概念の起源は、1990年代後半にまで遡及することができる。

この時代は、昭和時代の思想を引き継いだ平成初期に比べて、比較的近代的な思想を持った時代の幕開けでもあったが、一方では核家族化を一気に増大させる進行が始まり、親同士の共働きが目立つようになった最初期の時代だ。

この時代を愛着障害への新機軸として考えた時、頭に薄らと思い浮かべる事ができるのは、先にも書いたように、神戸児童連続殺傷事件が過去に起きた事実だろう。

今年2023年で、事件が起きてから26年が経過し、この日本社会では少しずつではあるものの、あの事件が風化し、私達の記憶の中でも過去の悲劇として忘却の彼方へと葬り去られようとしている。

世間では過去に起きた出来事だけに囚われる人々が量産され、あの事件を起こした当事者への憎悪に満ちた言葉たち並ぶ。ウェブ上では絶え間ない罵詈雑言のもと、ネット私刑(リンチ)が盛んに行われる昨今。

果たして、日本社会はそれでいいのだろうか?

未来に課せられた私達の課題は、お互いをいがみ罵り合うのではなく、第2の事件、第2の犠牲者、第2の少年Aを次の世代に産み出さないために、今何をすべきか考える必要がある。

本作で綴られている少女が孤独であったように、現実社会でも孤独と感じる子どもを生み出してはいけない。

そのためにも、私達大人は未来を生きる子どもたちのために何をすれば良いのか、今こそじっくり考える時なのでは無いだろうか?

本作『M3GAN ミーガン』は、そう発しているようだ。

映画『M3GAN ミーガン』は6月9日(金)より全国の劇場にて上映開始。

(※1)「ホークアイ」ジェレミー・レナー、除雪車事故で「目が飛び出た」 重傷を負った事故の中で、ジェレミーが“幸運だ”と思ったことって・・? [動画あり]https://www.tvgroove.com/?p=113526(2023年5月25日)

(※2)愛着障害(アタッチメント障害)http://www.madreclinic.jp/pm-top/pm-symptom/pm-symptom-21/(2023年5月25日)

(※3)Violet McGrawhttps://m.imdb.com/name/nm8627157/(2023年5月25日)

(※4)Amie Donaldhttps://m.imdb.com/name/nm13143634/(2023年5月25日)

(※5)事件がわかる神戸連続児童殺傷事件https://mainichi.jp/articles/20230119/osg/00m/040/001000d(2023年5月25日)