映画『はざまに生きる、春』「はざま」の中で居場所を探す

映画『はざまに生きる、春』「はざま」の中で居場所を探す

2023年5月31日

はざまを飛び越え春へと踏み出す姿を描く映画『はざまに生きる、春』

©2022「はざまに生きる、春」製作委員会

©2022「はざまに生きる、春」製作委員会

日本国内にいる発達障害と診断された人口は、およそ何人いるのだろうか?

この気になる数字を調べてみると、その数なんと48万1千人(※1)(厚労省がH28年に調査した結果としての数字なので、それから7年。この時と今の状況は、大きく変わっているはず)は、2016年当時の日本の総人口1億2693万3千人に対して発達障害と診断された人が48万1千人とすると、割合では0.3%。1000人中3人で、およそ333人中1人が、発達障害と診断された人がいるという計算になる。

一昔前に比べると、格段に診断数は増えている。およそ20年前の日本では、有り得なかった事だろう。

発達障害という言葉も社会的に認知されておらず、医学や教育現場が積極的に向き合って来なかった背景がある。

当時の人々の中には、「こんな人種がいる」という認識は頭の中にはあったはずだが、それを理解する時代ではなかったと図られる。

それが時代と共に徐々に、社会の中での理解が進む中、それでも出生前診断(※2)では発達障害の有無を検査することは、非常に難しいと言われている。

では、どのタイミングで診断が付く(※3)かと言えば、「年齢や発達段階によって診断が難しい」と言われる中、病気の症状や状態、また種類や特性によって差はあるが、およそ3歳から10歳と比較的、低年齢で発達障害としての診断が下りる。

でも、発達障害は子どもだけのものではなく、幼少期に診断されぬまま成人年齢を迎えた大人の発達障害(※4)に対してもまた、注目が集まっている。

学生時代には普通に出来た生活面でのアレコレが、社会に出て、社会人として日々を過ごす中、何一つ仕事がスムーズに出来ず、自身の不出来さに直面する方が数多くいる。

日本の現代社会において子どもの発達障害より大人の発達障害の方が、より深刻だ。

表面化されずに見過ごされている方もいれば、確信を持っていても受診しない方もいる。

他に大人の発達障害が見過ごされるケース(※5)は、子どもの障害と言われたり、統合失調症と誤診されたりと、そうやって見過ごされるケースも多々ある。

それでも、年々、成人者の発達障害の診断は増えつつあり、今後もっと診断数も数字として増幅していくのは明瞭だ。

また近年、ちゃんとした診断名は明確になってないが、発達障害の中には「グレーゾーン」(※6)と呼ばれる部類の人々も確かにいる。

このグレーゾーンは、発達傾向にあるが、診断に至るまでは難しく、ただその傾向があるだけで発達障害のカテゴリには入らない人々を指す言葉ではある。

グレーゾーンに入る人は、発達障害の人より日々の生活の中で生きづらさを感じて生きている。

岡田尊司氏の著書「発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法」(※7)は、このグレーゾーンに対してより分かりやすい解説をしてくれている書籍だ。

発達障害に関して知りたいのであれば、本書を一度熟読するのもまた、この障害を理解し、向き合う良い契機になることだろう。

この「グレーゾーン」を、専門の世界では「はざま」と呼んでいる。

©2022「はざまに生きる、春」製作委員会

本作『はざまに生きる、春』は、発達障害者として社会で生きる青年画家に焦点を当てた恋愛映画だ。

主人公の女性が、作品の冒頭で「グレーゾーンですか?」と質問する場面では、青年ははっきりと「僕は発達障害です」と答える場面がある。

青年には、あからさまに発達障害の典型的な症状があるにも関わらず、グレーゾーンとして勘違いするのは甚だ失礼な話でもある。

それでも案外、発達障害に対する違いは、分からないものだ。

この作品の主人公の屋内透はハッキリとグレーゾーンではないと言っているが、彼の特性は誰がどう見ても自閉症の伴ったアスペルガー症候群の一つだ。

そもそも発達障害(※8)とは何か?

その中には、様々な種類の病名によってカテゴライズされている。

発達障害とは、生まれつき脳機能の問題で起きる障害だ。

親の遺伝や育て方が原因で誘引される障害ではなく、脳内の伝達組織が何らかの不具体を起こしていると考えられる。

発達障害は、すべての病名の総称となっており、大まかに分けると「ADHD(注意欠陥多動性障害。別名:注意欠損多動障害)」「ASD(自閉スペクトラム障害)」「LD(学習障害)」の3つに分類されている。ここからより細かく分けるとするなら、ASDである広汎性発達障害(※9)には自閉スペクトラム障害、自閉症、アスペルガー症候群などに分類される。

ADHDは、幼少期に発症しやすく、大人になるにつれ多動性が弱まり、不注意が目立つ傾向にあり、H(Hyperactivity)の多動が減少しADDという病名に変わる。

ADHDとADDの違い(※10)は、少し分かりにくい部分もあるが、この違いを理解することは大切だ。

そして、LDの学習障害(※11)には読字障害(ディスレクシア)、書字障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)に分類する。

LDを発症する子どもたちは、読み書き計算が苦手であり、授業での遅れが目立つため、その子どもに沿った学習支援が必要となるのも事実だ。

本作の主人公、屋内透には広汎性発達障害(PDD)である自閉スペクトラム障害もしくは自閉症の特性が、見受けられる。

作中の彼は、不自然な喋り方をし、人の気持ちや感情を読み取るのが苦手な一面があり、コミュニケーション能力が乏しく、人が何を考えているのかなどを考えるのも苦手な性格で、雑談が苦手な上、目的の無い会話をしている姿を確認できる。

また、興味のあるものにはとことん没頭し、絵画をはじめとし、ペットポトル、映画、天体観測がこの作品ではいい例として表現されている。

屋内透が持つ広汎性発達障害には、物事に強いこだわりを持つ人が多くいる。

そのため、興味のあることにとことん没頭する傾向があり、時にその分野で大きな成果をあげると言われている。

広汎性発達障害(PDD)である自閉スペクトラム障害もしくは自閉症の特性を持つ屋内透を演じた宮沢氷魚さんは、あるインタビューの中で人々が生きていく上で必要な「居場所」について話されている。

宮沢さん:「居場所を見つけられることは本当に幸せなことで、多くの人は心を許せる居場所を見つけられずにいるのではないかと思います。そこにいることが楽しいと思える居場所こそ必要で、自分がそこにいていいと思える居場所を多くの人に見つけて欲しいと思います」(※12)と、彼は話す。居場所は、誰にとっても必要な場所だ。自身が今、どこに立って、どこに存在しているのかを見つけるのは至難な技ではあるが、それを一重に解決してくれるのは、皆が求める「居場所」ではないだろうか?

©2022「はざまに生きる、春」製作委員会

また、本作『はざまに生きる、春』は発達障害と共に生きる青年の成長する姿を恋愛映画として表現した作品だ。

この発達障害に関して言えば、自身には深い思い入れがある。

ここで自分語りはしたくない上、自身の内面を世間に晒したくないと思っている。

取り扱う作品や文章に色やフィルターをかけたくなく、真っさらな状態で提供したいと思っているので、それ以外の余計な情報は今までも今後も、削除したいと考えている。

ただ、作品に応じて、対応を変える必要もあり、今回はテーマがテーマなだけに、少しだけ自身のお話を。

自分は、2級の手帳を持つ発達障害を持っています。

ただ、自身の考えとしては、発達障害を障害とは捉えておらず、特性なので自身の性格ぐらいにしか思っていません。

正確な診断が下りたのは、つい数年前です。

幼児期の頃から自身の発達障害の主な症状は、出ていました。

4才の頃まで言葉が喋れず、子ども療育センター的な施設に検査に行ったのが、幼少期の最初の思い出。

6歳の頃には自身の思いを言語化できずに、よく友達の腕を噛んでいた記憶があります。

小学生の頃は、1年生から4年生の頃が人生で一番最悪な時期と言っても過言ありません。

自身でも説明が付かない程、毎日癇癪を起こして暴れ回っていました。

恐らく、学年一の手のかかる危険人物として教師陣からは目を付けられていたはずです。

気に入らない事があれば、机や椅子を2階の窓から放り投げたり、物を投げたり、窓ガラスを割ったり、手の付けられない子どもでした。

親も仕事の合間に、各方面に頭を下げて、大変苦労したと思います。

自身が10歳の頃、感情を抑えられず暴れる自分が嫌いになり、自殺願望を抱いた年齢でもあります。

よく掃除用具箱に縄跳びを引っ掛けて、自分の首を絞めて遊んでいました。

ちょうどその頃、世間では(諸説あると思いますが)、発達障害という病気をテレビのワイドショーなどで紹介され始めた時代(※13)でした。

この時期、「キレる17歳」(※14)と同時に取り上げられていたと記憶しています。

テレビでは、番組のコメンテーターや専門家達が紹介する内容の中に「ADHD」という病名を取り上げていましたが、その特性と自身の行動が似ていた事もあり、ここに引っかかり、自分でも調べてみました。

そこで漸く自身が発達障害であると確信し、親に相談して病院に診察してもらおうと行動に移しましたが、まだ1997年、時代が邪魔をして親の許諾を取れず、結果病院にも行けず時だけが流れました。

小学生の頃は、振り返ってみれば、非常に恵まれていた環境で、自分のような問題児に向き合ってくれる教師やいじめをするクラスメートはいませんでした。

多少遠巻きにされて、アウェイ感もあったとは思うが、その点は本人も気づいていませんでした。

5年生に進級すると共に自我も芽生え、自身の行動を客観視できるようになり、今までの行動が恥ずかしい事であると認識できるようなり、自ら多動性を押さえるように努めました。

それと同時に、素晴らしい恩師との出会いもあり、その教師のサポートの元、生徒会長もさせて頂き、小学校時代のピークを迎えました。

それから、自身が成長すると共に、発達障害で悩んでいた事も忘れて、中学、高校、大学を過ごし、この10年間も一般的な様々な悩みを持ちつつ(振り返れば、発達障害故の2次障害を併発していた可能性があります)、成人を通して12年間は一人暮らしをし、発達障害とは無縁の生活を過ごして来ました。

ある時、自身の爪を噛む癖が原因で職場で指摘を受けて、病院を受診しました。

はじめは、皮膚科に行きましたが、相手にされず、自身で爪を噛む行為に対して調べ物をしているうちに、ウン十年ぶりに「発達障害」に行き着きました。

早速、心療内科を受診し、自身がADHDではないかと診断を受けました。

そこから、なかなか自身と合った病院に巡り会うことはできず、4箇所ほど訪れ、今の病院に落ち着いています(2年に1回の手帳更新時にしか行きません)。

最初の病院は、数年前に火事のあった場所。

2箇所目の主治医は、先述した「発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法」の私の主治医でもあった著者、岡田さんが院長をされているメンタルクリニックでした。

これが自身の発達障害の遍歴ではあるが、私は物書きとして、人として自身がどこまで何ができるのか、今自分を試している段階です。

ここ数十年で発達障害の認知度は大幅に変わりつつありますが、それでも社会での理解度は一定水準より程遠い。

まだ理解も得られず、社会的支援や制度面での不備が多いと感じておられる方も多いのではないと思います。

まだまだ生きにくさの残る社会ではありますが、ここ日本で生きていくために自身は何が必要なのか日々、模索しています。

そして、烏滸がましい話しではありますが、世間で発達障害児を持つ親御さんやご本人の方への、ある種の安心材料になれればと願っています。

幼少期のお子さんを持つ親御さんは、育て方一つにしても、施設側からの頼りない言葉に対しても、苛立ちもあったり、疲労感もあったりすると思いますが、せめて自身の姿を見て、子どもたちの未来に悲嘆をしないで欲しい。

生まれ持った発達障害を持った私でも、社会の支援が乏しい中、今を一生懸命生きています。

それでも、自身は映画に救われた身として、映画に恩返しがしたい。

今はただ、それだけです。

©2022「はざまに生きる、春」製作委員会

最後に、ニュースでも全く報道されない若者たちの尊い命がある事にも目を向けて頂きたい。

昨年、あるTwitterのアカウント(※15)を通して知った事実ではありますが、自身の発達障害に対して落胆した一人の若者が、日本全国をバイクで旅をして、日本の美しさを目に焼き付けた後、その青年は暗いダムの中に身を投げしました。

彼の最期は、自死でした。

本人の苦しみを思えば、胸が締め付けられます。

親御さんの気持ちを察すれば、どこかいたたまれなくなります。

一人でも多く、若者たちが自殺を選ばない、そんな社会作りが今、必要だと心から感じます。

本作『はざまに生きる、春』は、健常者の視点から描かれた発達障害者の世界ではあるので、多少の違和感があったり、健常者の方に誤った認識を持って欲しくはないと思いますが、それでもこの作品で描かれているのは、発達障害を患う主人公の成長記録です。

「はざま」に生きる彼が、物語の最後に見せたのは自身の中の心の変化。

私自身含め、人は皆、その「はざま」の中で、健常者も障害者もなく、自身の居場所を探しながら、一生懸命生きているということです。

©2022「はざまに生きる、春」製作委員会

映画『はざまに生きる、春』は現在、関西では5月26日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田なんばパークスシネマMOVIX八尾MOVIX堺。京都府のアップリンク京都イオンシネマ京都桂川。兵庫県のMOVIXあまがさきにて上映中。6月2日(金)より大阪府のイオンシネマ四條畷。京都府のイオンシネマ久御山。兵庫県のシネ・リーブル神戸イオンシネマ加古川。和歌山県のイオンシネマ和歌山にて上映開始。全国の劇場にて公開中。

(※1)発達障害は推計48万1千人、厚労省H28年調査https://s.resemom.jp/article/2018/04/09/43970.html(2023年5月28日)

(※2)NIPTで発達障害は分かる? NIPTでは分からない障害についてhttps://dna-am.co.jp/media/4384/(2023年5月29日)

(※3)子どもの発達障害の診断|何歳から受けられる?流れと費用は?https://happy-terrace.com/column_data/diagnosis-developmental-disorder_2/(2023年5月29日)

(※4)「大人の発達障害かも?」と思ったらhttps://kenko.sawai.co.jp/prevention/20104.html(2023年5月29日)

(※5)見過ごされる大人の発達障害 難しい診断 「子どもの障害」先入観も 統合失調症などと誤認、進まぬ治療https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/457860/(2023年5月29日)

(※6)発達障害のグレーゾーンとは?特徴や仕事ができないと悩む方への対策を解説https://works.litalico.jp/column/developmental_disorder/011/(2023年5月29日)

(※7)発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法 (SB新書)https://bookmeter.com/books/19109399(2023年5月29日)

(※8)発達障害とは?種類・症状・進路・発達支援の重要性についてhttps://junior.litalico.jp/about/hattatsu/(2023年5月30日)

(※9)広汎性発達障害(PDD)とはhttps://junior.litalico.jp/about/hattatsu/pdd/(2023年5月30日)

(※10)「注意欠如」と「多動性」とはhttps://www.kaien-lab.com/faq/1-faq-developmental-disorders/addoradhd/(2023年5月30日)

(※11)学習障害(LD)とはhttps://junior.litalico.jp/about/hattatsu/ld/(2023年5月30日)

(※12)映画「はざまに生きる、春」主演される俳優の宮沢氷魚さんにお話しを聞かせていただきましたhttps://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=2770(2023年5月30日)

(※13)ADHD(注意欠如・多動性障害) | のび太・ジャイアン症候群https://dd-career.com/blog/ebina_20220909/(2023年5月30日)

(※14)『1982 名前のない世代』著者・佐藤喬さんインタビューhttps://wotopi.jp/archives/38122(2023年5月30日)

(※15)ある若者のTwitterアカウントhttps://twitter.com/20_ZXT02K/status/1576538105728729090?t=YuTKa-FfWhsGPsiW2DcIoQ&s=19(2023年5月31日)