ドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』雨の中で灯り続ける小さき炎

ドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』雨の中で灯り続ける小さき炎

笑顔で性と美を体現した女神の肖像。ドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

みんなのセックス・シンボル「マリリン・モンロー」は、永久不滅のトップアイドルであり、トップ女優だ。一番の有名な彼女の映画のワンシーンと言えば、映画『七年目の浮気』で地下鉄の排気口から流れる風に任せて、フワッとした白いワンピースをヒラヒラとなびかせる場面。当時の世の男達が、彼女の妖艶な姿に心を撃ち抜かれたのは周知の事実だ。全身にエロスを身にまとい、子どもから大人まで世界中の男達を腑抜けにさせ、トレードマークの口元のホクロが優しく微笑む。世界三大美女と呼ばれるクレオパトラ、楊貴妃、小野小町(※1)に匹敵する、いや彼女らも凌駕するハリウッドが誇る美貌だ。彼女が歩けば、男も女も振り返り、泣き叫ぶ赤ん坊は泣き止み、認知の入っている老人は正気を取り戻し、美もエロスもまだ理解していない幼年の男の子達でさえも彼女の美しさに虜になった。その一方で、マリリン・モンローには数々のスキャンダルが世を騒がせ、若くして亡くなった死因は未だに不明で、謎が謎を呼ぶ彼女の死(※2)は今でも語り継がれる。世界の七不思議や学校の七不思議のように、もしアメリカ映画産業におけるハリウッドスターの七不思議があるとすれば、マリリン・モンローの死もまた、この七不思議の中の何番目か、もしくは8番目以降の不思議な出来事としてカウントされるかもしれない。でも、皆さんは知っているだろうか?マリリン・モンローとは、彼女が作り上げた虚像の人物である事を。マリリン・モンローの彼女の実名は、ノーマ・ジーンだ。英国のかの有名なシンガーのエルトン・ジョンは、自身の楽曲「Candle in the Widow(風の中の火のように(孤独な歌手、ノーマ・ジーン)」(※3)にて、マリリン・モンローではなく、ノーマ・ジーンである彼女そのものの死を歌に乗せて悼んでいる。如何に、ノーマ・ジーンが孤独であったか、また有名の代償に失った数々の彼女自身の中にあったもの。それでも、死ぬ最期まで「マリリン・モンロー」として気高く生きた。雨の中でも灯り続ける風前の灯火だった彼女の命は、今も映画や音楽に乗って生き続けている。ドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』は、時代を超えて愛され続ける女優マリリン・モンローの人生をとらえたドキュメンタリー。あなたは、マリリン・モンロー、引いてはノーマ・ジーンの何を知っていると言うのだろうか?

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

活動期の世を魅了したマリリン・モンローは、今振り返ってみても絶世の美女と表現しても遜色ないほど、魅惑な艶麗を持ったブロンド美女であった。その一方で、同時期のハリウッドで活躍した黒髪美女で時の映画ファンの注目の的となったオードリー・ヘップバーンは、その時代の二大巨頭の美人女優だった。ちなみに、私はマリリン・モンローよりオードリー・ヘップバーン派であり、彼女の作品はほとんど観ており、ヘップバーン作品は質の高い作品が数多く存在する。かたや、マリリン・モンローの出演作品は、より通俗的な娯楽と笑い、ペーソスを織り交ぜた大衆娯楽の代表格だ。現代に置き換えて簡単に言えば、娯楽的なシネコン向きはマリリン・モンロー、より文化的なミニシアター向きがオードリー・ヘップバーンという一つの見方もできるだろう。それでも、マリリン・モンローにはマリリン・モンローとしての魅力がたくさんあり、彼女の美しさを超えるハリウッドスターは未だ見た事がない。たとえば、マリリン・モンローが誕生する前のハリウッドでも、多くの看板女優が存在した。ハリウッド黎明期には、クララ・ボウに、ジーン・ハーロウ、リリアン・ギッシュ。メアリー・ピックフォード、セダ・バラ、グロリア・スワンソン、アジア系女優のアンナ・メイ・ウォン。マレーネ・ディートリヒ、ベティ・デイヴィス、ニタ・ナルディとグレタ・ガルボ。サイレント期に花開いた第一次ハリウッド黄金期に活躍した女優は、100年以上が経った今でも名前が残っている程、大女優ばかりだ。続く、戦後のハリウッドで活躍した女優と言えば、リタ・ヘイワース、ジュディ・ガーランド、グレース・ケリー、ヴィヴィアン・リー、ラナ・ターナー、エリザベス・テイラー、ナタリー・ウッド、ジェーン・フォンダ、ジャネット・リー、ソフィア・ローレン、カトリーヌ・ドヌーヴ、ブリジット・バルドー、ミア・ファロー、フェイ・ダナウェイ、ジュリー・アンドリュース、シャロン・テート(※5)ら、錚々たる顔触れが戦後の第二次ハリウッド黄金時代を支えた。90年代には、ジュリア・ロバーツ、メグ・ライアン、デミ・ムーア、ウィノナ・ライダー、サンドラ・ブロック、グウィネス・パルトロウ、キャメロン・ディアス、ニコール・キッドマン、アンジェリーナ・ジョリー、ケイト・ウィンスレット(※6)達が、2000年前後のハリウッドを彩った。そして近年では、たとえば2010年以降の当時、2010年代のネクストブレイクしそうな女優達としてアナ・ケンドリック、キャリー・マリガン、アマンダ・セイフリード、ミラ・キュニス、ゾーイ・カザン、アシュレイ・グリーン、アンバー・ハード達(※7)が、2010年代当時の日本国内では注目されていた。2025年の現在、次世代を担う超若手女優達(俳優・子役含む)には、シンシア・エリヴォ、レイチェル・ゼグラー、マイア・キアロハ、デヴィッド・コレンスウェット、ドミニク・ソーン、ジャファー・ジャクソン(※8)と言った、今これから注目される若手有望株の若年層の俳優女優の活躍が期待されている。映画黎明期からハリウッドの看板女優(もしくは俳優)となった人物を一人ずつ列挙したが、私としてはこれらのネームバリューを持つトップアクトレス(アクター)達の一番上の頂点で輝いているのが、マリリン・モンローだと勝手に考えている。どの時代の中でも、一世風靡した超人気者の女優より、マリリン・モンローという名前がすべてを凌駕している。

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

次に、取り上げるのは「セルフ・プロデュース」の重要性だ。セルフ・プロデュースとは、書いて字のごとく、自身をプロモーションし、キャンペーンを行う事だ。いわゆる、自身が広告塔になって、自らを広告するという手法だ。それには、事務作業から関係者各位への関わり、そして自分自身の見た目や立ち振る舞いに仕草、所作に言葉遣い、あらゆる面で自らの力で人々に自身がどんな人間か発信しなければならない。セルフ・プロデュースの極意は、自己分析を徹底的に行い、自分の強みや魅力を理解し、戦略的にアピールして行く事。単に、自分を良く見せるのがプロデュースではなく、客観的に自己分析を行いながら、自身の中に眠る個性や価値をより理解し、最大限に活かす事が重要となる(※9)。①自己分析②目標設定③戦略的行動④自己表現⑤継続のこの5項目を日夜、繰り返し繰り返し行い、自身がどの方向に向かって、走り続けて行くのか常に軌道修正しながら、最終目的地である着地点を目指して、本当の自分とは別の人格の虚像の姿を作り上げている。また、セルフ・プロデュースを成功させるためのヒントには主に、客観視、ポジティブ思考、一貫、柔軟性(※10)が必要となって来る。これらの項目を昼も夜も実行し、弛まぬ努力をし続ける事で数年後か数十年怖、ある日突然、花開くのだろう。この泥臭くもある努力を繰り返し何度も実行した結果、「マリリン・モンロー像」という自らが生み出した人物を本物のように見せて行くのだろう。日本にもセルフ・プロデュースやセルフ・ブランディングをして、アイドルとして人気を得た方がいる。それは、1970年代に女性アイドルとして一世風靡した人気歌手の麻丘めぐみは、デビュー当時、ヘアメイクやスタイリストが居なかったので、アイドルとしてのセルフ・プロデュースを自ら行い、日本古来の伝説「竹取物語」に登場するお姫様のような髪型のお姫様カット(※11)が誕生したのは、当時の昭和アイドル界の伝説だ。また近年では、俳優のムロツヨシ(※12)もまた、何年もかけてセルフ・プロデュースを行い、現在の地位を得ている。セルフ・ブランディングは、身の回りにいる同業他社より抜きん出るように自身をアピールし、少しでも他者から群を抜くには、並大抵の努力ががないと、容易にできない事である。このドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』をレビューしているある記事では、一部抜粋だが、本作についてこう述べている。

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

「映画によれば、モンローは知性よりも本能に従って行動していたという結論に至る。これは斬新な分析ではないかもしれないが、当時の性政治を考慮に入れている。圧倒的な男性からの求愛に直面しながらも、彼女が完全に自立できた時など一度もなかった。彼女を名声と破滅の両方へと導いた、巨漢たちのパレードは、彼女の世界がどのように機能していたかをより完全に示している。」(※13)と書いているように、マリリン・モンローことノーマ・ジーンが、作り上げたモンロー像はもしかすると、当時の男社会蔓延るハリウッドの業界の中で必然的に誕生した彼女の中の理想像だったのかもしれない。多くの男達に囲まれて、「セックス・シンボル」となるべく、模索しながら、誕生させた妖艶なホクロとキラキラ輝くブロンドヘアー、そして何より、白いワンピースから覗く生足が、彼女をスターとしてのスターダムに駆け上がらせた。当時のハリウッドの艷めく男たちの女性を舐め回すように見る視線に耐え兼ねたノーマ・ジーンが、マリリン・モンローという人物に扮して、エロスと妖艶な女性を男達の前で演じた結果、ハリウッドを代表するトップ女優が生まれたと言っても過言ではないだろう。

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

最後に、ドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』は、時代を超えて愛され続ける女優マリリン・モンローの人生をとらえたドキュメンタリー。長い期間の撮影を経て、マリリン・モンローが関係した関係者から話を聞いた本作は、彼女の生きた証を当時の関係者の口から聞けるのは貴重だ。彼女を知っている世代からすれば、既視性のある話が羅列しているかもしれないが、マリリン・モンローを知らない若い世代や彼女自身は知っているけど実際の当時の裏話を知らない若者にこの作品に触れて欲しい。邦題の副題にされている「私の愛しかた」には、マリリン・モンロー自身が過去に体験した血の繋がりのない親子関係や幼児虐待、恵まれなかった不遇の幼少期に対して、過去の嫌な出来事を払拭し、もっと自分を愛そうとした彼女からのメッセージのようなものである。近年、若い世代を中心に自死を選ぶニュース(※14)をよく耳にする。「ありのままの自分」を客観視するのは非常に難しいが、ただ客観的に自分を見た時、きっと今いる自分を好きになるだろう。マリリン・モンローは、幼少期に酷い境遇に遭う中、それでも、自分を愛する事は止めなかった。愛する事を止めなかったその先には、セルフ・プロデュースがあったのだろう。理想と現実の間で、苦悩しながら、誰からも愛される、また自身が自信を持って、自分を愛せるキャラクターを生み出し、育んだのだろう。もし今がつらくて、家族や親と上手く行ってなくても、学校で辛いことがあっても、必ず君の未来は開ける。マリリンが、幼少期の辛い境遇から抜け出して、ハリウッドで大成功を収め、世界のポップ・アイコンになれたその裏側には、自分を愛した事にあるだろう。雨の中で灯り続ける小さき炎は、いずれ必ず君達の生きる指針となり、命輝く未来を灯し続けるだろう。世界が愛するノーマ・ジーンに捧ぐ。

©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

ドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)世界三大美女とは?世界や日本の歴史に残る美人や偉大な女性たちを紹介!https://aminaflyers.amina-co.jp/list/detail/1534(2025年6月14日)

(※2)マリリン・モンロー、アメリカスターの死の謎から62年https://kosovapress.com/ja/marilyn-monroe-62-vjet-nga-misteri-i-vdekjes-se-yllit-amerikan#google_vignette(2025年6月14日)

(※3)マリリンとダイアナhttps://www.tfm.co.jp/atb/smartphone/index.php?catid=3899&itemid=180484(2025年6月14日)

(※4)道を開いた映画スター、アンナ・メイ・ウォンがアジア系米国人として初めて米国通貨にhttps://www.cnn.co.jp/style/design/35195416.html#:~:text=Design-,%E9%81%93%E3%82%92%E9%96%8B%E3%81%84%E3%81%9F%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%80%81%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%B3,%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E9%80%9A%E8%B2%A8%E3%81%AB&text=%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AE%E3%83%8F%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%83%E3%83%89,%E4%B8%96%E7%B4%80%E5%BE%8C%E3%81%AE%E5%BF%AB%E6%8C%99%E3%81%A0%E3%80%82(2025年6月14日)

(※5)ハリウッド黄金時代を彩る往年の映画スターたちの舞台裏スナップ44連発https://www.elle.com/jp/culture/celebphotos/g35376429/vintage-celebrities-on-movie-sets-210213/(2025年6月14日)

(※6)ジュリア・ロバーツ、デミ・ムーアetc.90年代を牽引した女性ハリウッドスターのNOW&THENhttps://www.25ans.jp/celebrity/celebrity-life/g45748325/starbefore-actresses-231227/(2025年6月14日)

(※7)2010年ブレイクしそうな女優たち!https://www.vogue.co.jp/celebrity/stylewatch/2010-01-20(2025年6月15日)

(※8)2025年注目はこの7人!ブレイク期待の新世代俳優たちhttps://www.cinematoday.jp/news/N0146692(2025年6月15日)

(※9)セルフプロデュースとは?なりたい自分になるための近道https://www.adecco.co.jp/useful/work_36#:~:text=%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E3%80%8C%E8%87%AA%E5%B7%B1,%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%8F%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(2025年6月16日)

(※10)成功へ導くセルフブランディング!自分の価値を高める方法https://jp.indeed.com/career-advice/career-development/self-branding-leads-to-success-how-to-increase-value(2025年6月16日)

(※11)麻丘めぐみ、お姫さまカットは「自分で考えてやっていた」 段差の位置「たまたま」https://www.daily.co.jp/gossip/2020/01/21/0013051030.shtml?pg=2(2025年6月16日)

(※12)「セルフプロデュース」で築き上げた、人気俳優・ムロツヨシの格https://www.lmaga.jp/news/2022/04/436213/(2025年6月16日)

(※13)Review: Dream Girl: The Making of Marilyn Monroe
https://philipbrasor.com/2025/05/31/review-dream-girl-the-making-of-marilyn-monroe/(2025年6月16日)

(※14)去年の自殺者数 児童・生徒は過去最多に 子ども支援の模索もhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20250129/k10014706581000.html
(2025年6月16日)