映画『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』世界観だけでなく、今にも通ずるテーマ性がとても高い作品だ

映画『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』世界観だけでなく、今にも通ずるテーマ性がとても高い作品だ

映画『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』

©Touchstone Pictures.

本作『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』は、季節的には10月31日のハロウィン前後から12月25日のクリスマスまでに鑑賞するのが、最も適した鑑賞法だ。

しかし、この作品は時期に関係なく、いつ観ても作品の世界感に浸れるこの世に一つしかない極上のアニメーションということを忘れてはならない。

原案・製作のティム・バートンが生み出した独創的な物語は、彼だけにしか作れないストーリーだ。

また、ストップモーション・アニメーションだからこその味わい深さもあり、これを通常のアニメやCGに置き換えるのは、以ての外だ。

過去にディズニーが、ティム・バートンに持ち掛けた話だと、続編をCGとして製作したいというものだったが、彼自身は作品をCGにしてしまうと世界感の旨味が、半減するからと、その申し入れをキッパリ断っている。

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ティム・バートンが、こだわったストップモーション・アニメーションにはストップモーション・アニメーションの良さがあり、これを違うアプローチで製作することを嫌がったのだろう。

そもそもストップモーション・アニメーションは、いつ生まれた映画技法だろうか?

元を辿れば、20世紀初頭に活躍したフランスの映画監督(元マジシャン)ジョルジュ・メリエスやJ・S・ブラックトンが、開発したことが一番最初の起源とされている。

この手法は、時と共に多くの人物に影響を与え、CGが本格的に誕生する90年代中頃まで実写の世界でも積極的に多用化されて来た。

海外では、アメリカの特撮映画の父と呼ばれたレイ・ハリーハウゼン、チェコのヤン・シュヴァンクマイエルやイジー・バルタ、日本では川本喜八郎、岡本忠成や持永只仁らが代表的なアニメーターだ。

メリエスが残した技術は、確実に後世の映画人たちに受け継がれ、ストップモーション・アニメが世界的に浸透して行った。

アニメ製作の技術が着実に伝承され、上記で挙げたように多くの監督たちを輩出したとても大事な手法だ。

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また製作者だけでなく、多くの関連会社が時代と共に設立されてきた。

例えば、ストップモーションで有名なのは、アメリカのスタジオ・ライカとイギリスのアードマン・アニメーションズではないだろうか?

スタジオ・ライカの代表作は『コララインとボタンの魔女 3D』『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』。

後者のアードマン・アニメーションズでは、『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』『映画 ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』やアニメシリーズの『ひつじのショーン』が、代表作だ。

両者共に、会社が設立してから、制作した本数は、スタジオ・ライカでは15年ほどで5本(長編のみ)。

また、アードマン・アニメーションズもまた設立20年ほどで8本(長編のみ)という両方とも極端な少なさだ。

その少なさには、ストップモーション・アニメーションの製作方法が、関わってくる。

コマ撮り撮影をするために、一体の人形を1秒につき1mmずつ動かしていくという、途方もない作業を何ヶ月も継続して撮影していく。

その上、撮影後もしくは撮影中から声優のアフレコ、アテレコの作業を行い、編集も行うとなると、普通の映像制作(撮影)よりも倍の時間がかかる。

メイキング映像を一緒に紹介すると、とても分かりやすい。

スタジオ・ライカ製作の映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の撮影風景だが、製作するにあたって、一週間で3.31秒を撮影するという脅威の映像製作だ。

この細さ、緻密さ、繊細さがストップモーション・アニメーションの芸術性を高めているのだ。

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この撮影技法には、制作会社が主体のものと、監督自身が単独するものがある。

単身で撮影して成功を収めた作品で言えば、ノルウェーの家具職人イヴォ・カプリノが5年の歳月をかけて作り上げたアニメーション『ピンチクリフ・グランプリ』が、最も有名だ。

50年近く経た今でも、とても高い人気を誇るアニメ映画だ。

また、近年で言えば、映画ファンからも人気が高いウェス・アンダーソンが、『ファンタスティックMr.Fox』や『犬が島』が、興行的にも知名度的にも成功を収めている。

国内でもまた、昨年口コミでヒットした映画『JUNK HEAD』もまた、ストップモーション・アニメーションだ。

こうして、脈々と今の時代にも受け継がれているこの撮影技法は、まさに作り手たちにとっても、一度は経験したい、撮影してみたい映像製作のひとつだ。

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これらの監督たちの代表格が、まさに本作で製作・原案として関わったティム・バートンだろう。

この作品以外にも『ヴィンセント』『フランケンウィニー』『ジャイアント・ピーチ』『ティム・バートンのコープスブライド』など、アニメーターらしく監督・製作として数多くの作品を産み落としている稀有な監督だ。

また「バートン流」という言葉が生まれたように、彼の世界観はオリジナリティやイマジネーションに溢れ、彼だけにしか作れない唯一無二の映像世界を体験できるのも本作の魅力だ。

クリスマス(併せてハロウィン)、雪、ダーク・ファンタジーという観点から思い起こされるのは、映画『シザーハンズ(1990年)』にも似ている部分もある。

独創的な作風は、他の監督たちが製作した作品との追随を許さず、イマジナティブな物語は彼だけのものだ。

ハロウィンとクリスマスの世界を掛け合わせた「Halloween meets Christmas」の世界観を作り出せる才能は極めてユニーク。

今後、本作のような作品が、世に出てくることはもう二度とないだろう。

誰も真似できない(模倣も、オマージュもできない)独自の感性を持っているのは、ティム・バートンしかいない。

本作では他の仕事で忙しく、作品を監督したのはヘンリー・セリックという人物だ。2008年の時、行った彼へのインタビューの中で、とても興味深い内容を見つけた。

それは、「ストップモーションテクノロジーの次のステップは何ですか?」という質問で、セリック監督は

(1)“Shooting stereoscopically just gives you more of what is there, just a little more sense of the reality of this medium. It does not live in the computer nor is it a series of drawings.”

「立体視で撮影すること。そこにあるものが、より多くメディアに現実感を少しだけ与えます。コンピューターには存在せず、一連の図面でもありません。」

ストップモーション・アニメーションを「3D」で表現しようと計画していたようです。

その考えは、1年後の2009年の映画『コララインとボタンの魔女 3D』で見事に実現している。

「3D」の次は、一体どのような映像体験できるのかが、とても楽しみでもある。

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最後に、本作を再鑑賞(3度目)して感じたのが、この映画のテーマが今の時代にも通じているのだ。

どの点が今とピッタリ合うのかと言うと、ハロウィンの王様ジャック(カボチャのジャック・ランタン)とクリスマスの象徴サンタクロースが、終盤に発するセリフだ。

それぞれが自身のイベントで言い合う挨拶を巧みなシナリオで表現している点だ。

ハロウィンのジャックが、クリスマスの挨拶を。

クリスマスの象徴サンタクロースが、ハロウィンの挨拶をする行為そのものが、「多様性」を認めようとする現在の社会とマッチするところがある。

他者を認め、自分の足りない部分を認め合うことこそが、両者の次の発展に繋がる大切な行為だ。

当時はまったく意識したテーマではなかったのかも知れないが、世の中の考え方が変革していく今、このシナリオで表現しているメッセージには、今にも通ずる部分があるということだ。

映画『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』は、Disney+にて、配信中。

(1)Hery Selick Interviewhttps://www.dvdizzy.com/henryselick-interview2.html(2022年1月9日)