イスラーム映画祭8 世界は、一つに繋がっている

イスラーム映画祭8 世界は、一つに繋がっている

2023年4月29日

イスラム諸国で暮らす人々の多様な日常を描く作品を多数集めたイスラーム映画祭は今年で8回目を迎え、4月29日から5月5日まで、神戸市の「元町映画館」で開かれる。

主に、中東や北アフリカに広く分布されるイスラーム文化圏(※1)を舞台にした映画祭。

私達は、「イスラーム」と耳にすれば、何を思い浮かべるだろうか?

イスラーム教?中近東?コーラン(クルアーン)?スンナ派とシーア派?と、トピックを挙げれば、キリがないほど、イスラームに関しては、謎や疑問が深まるばかりだ。

近年、2001年9月11日に起きた世界同時多発テロを契機に、それ以前、それ以降というタームで語られることが多くなったと言われるイスラーム教。

日本ではそれほど馴染みはないが、アメリカをはじめとする外国諸国では、イスラーム教徒=テロリストとして認知され、猛威を振るう非常に危険な存在として扱われている事実は否定できない。

ただ、私達は一体、彼らの何を知っているのだろうか?

彼らが危険であると距離を置き、遠巻きにしている存在ではないだろうか?

私達は、彼らの一切を何一つ知らない。

その事実は変わることはないが、ただ8回目を迎える「イスラーム映画8」を通して、再度イスラームとは何か、少しでも考える端緒になれれば、願うばかりだ。

今回は、劇場初公開1本、日本初公開3本、イスラーム映画祭的名画座セレクト6本、映画祭アンコール4本、計14作品が映画祭のラインナップとしてプログラムされた。

ここでは、ほんの2作品だが、紹介したい。

映画『キャラメル』のワンシーンから

レバノン、フランス合作映画『キャラメル(Caramel)』監督・脚本:ナディーン・ラバキー。2007年公開。

一言レビュー:レバノンの首都ベイルートにある美容室を舞台に繰り広げられるのは、レバノン女性たちの人生喜劇だ。

恋や人生に悩み苦しみ、それでも明るく前を向いて生きようとする彼女達の逞しく、生き生きとした姿を描く。

ムスリム(イスラーム教徒)(※2)とキリスト教徒が混在するベイルート。

多種多様な人種が行き交う街の一角にあるエステサロンには、自身のセクシャリティや反道徳的な恋愛に悩む女性たちが集う。

アラブ人女性のイメージを180℃一変させたと言われる本作『キャラメル』を監督したのは、同国出身の映画監督ナディーン・ラバキー。

彼女は、本作が監督としてデビューしているが、この作品以降、世界中で目まぐるしい活躍を見せている。

今最もホットなレバノン女性監督の一人だろう。

近年の作品では、2019年に公開された映画『存在のない子供たち』では、レバノンだけに飽き足らず、中東における紛争問題、貧困問題、移民問題を一人の少年の鋭い視点から描写。

レバノンに留まらず、世界中から注目を集め、国内でも大きな話題の渦の中、大ヒットとなった作品だ。

また、ハニ・アブ=アサド監督による『歌声にのった少年(2016)』では、役者としても出演している。

コロナ禍が始まった2020年初頭には、各国の映像クリエイター達が集結した短編オムニバス『HOMEMADE ホームメード』でも、監督として参加している。

ここ直近は、女優としての活動に軸足を置いているようだが、「世界で最もパワフルなアラブ人100人」に選出されたように、彼女の今後の活躍に期待が掛かる。

最後に、本作『キャラメル』は、2020年以降、頻繁に囁かられるようにもなった「シスターフッド映画」(※3)の様相を持ち揃えた作品としてカウントしても良いだろう。

映画『わたしはバンドゥビ』のワンシーンから

韓国映画『わたしはバンドゥビ(Bandhobi)』監督・脚本:シン・ドンイル。2009年公開。

一言レビュー:タイトルの「バンドゥビ」とは、ベンガル語で「真の友だち」という意味がある。

21世紀の社会は、多種多様な人種が存在し、その人間関係もまた千姿万態だ。

本作の監督シン・ドンイルは、韓国映画界のインディペンデントの雄として世界にその名を轟かせる。

彼は、人と人との関係性をテーマに据え置き、多彩な人間群像を絶え間なく描いてきた。

2006年にはデビュー作『訪問者』2008年には映画『私の友だち、彼の妻』を発表している。

続く、3作目となる本作『わたしはバンドゥビ』は、自称他称問わず、長年描いて来た<関係3部作>の完結編となる。

“韓国のウディ・アレン”と評されるほど、世界中から注目を集めている同監督。

本作では韓国の女子高生とバングラデシュ人移民との出会いを通して、国籍や年齢、性別を超えた国際的関係性を力強く描く。

国や人種、性別に国籍、そして宗教と幾重にも重なる目には見えない「壁」に翻弄される事なく、どんな相手にも一人の人として絆を育む関係性を築く事が大切だ。

未来永劫、人との関係性において大人も子供も関係なく、誰もが「バンドゥビ」であり続けるのが最重要であると、本作『わたしはバンドゥビ』は、さり気なく私達に教示してくれているようだ。

最後に、イスラーム映画とは、今ある映画ジャンルには分類されない名称ではあるが、確かに世界の至る所にイスラームが点在している。

特にムスリムが居住する地域は現在、ほぼ世界中に広がっている。

そのうち西アジア・北アフリカ・中央アジア・南アジア・東南アジアが最もムスリムの多い地域とされる。

今回は、その内の中東に位置するレバノンの映画と東アジアの地域に位置する韓国の映画を取り上げた。

他にイスラームは、中東の主な諸国では、アラブ首長国連邦、イラク、イラン・イスラム共和国、エジプト、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリアなどが挙げられる。

ただ、エジプト出身の東海大学教授のアルモーメン・アブドーラ氏は、日本人における「アラブ」「中東」「イスラーム」(※4)に対する認知度に対する違いについて、興味深い話をしている。

そんな違いなんて、正直なところ、分からないのが日本人のところだ。

なぜなら、アラブもイスラームも「遠い国」の「遠い人種」だからだ。

日本には、ほとんど影響もなければ、関係もない。

ほぼ接点がない限り、「アラブ」「中東」「イスラーム」における違いなんて、知る必要性に駆られる事はない。

それでも、今回取り上げたイスラーム文化に属する人種は皆、市井の人々だ。

武力やテロリスト、危険思想、反政府組織というイメージのヴェールを取り払った時、その先に見えるのは、私達日本人と同じ人間だ。

少し凝り固まった、そして偏った知識を頭の片隅へと撥ね除けた時、私達はきっと気付くはずだ。

世界は、一つに繋がっている、と。

イスラーム映画祭8』は現在、関西では4月29日より元町映画館にて開催中。

(※1)ささっとわかる! イスラーム -文化から経済・お金まで-https://www.thats.pr.kyoto-u.ac.jp/2019/05/30/6851/(2023年4月28日)

(※2)ムスリムとは?日本人でも知っておきたいイスラム教徒の生活や基本ルールhttps://turkish.jp/turkey/%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%A0/(2023年4月28日)

(※3)色あせない青春。さまざまな友情を描いた“シスターフッド映画”6作品。https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/great-films-about-sisterhood(2023年4月28日)

(※4)日本人には分かりにくい「アラブ」「中東」「イスラム」の違いって?https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97532_1.php(2023年4月29日)