映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』「おわり」の「はじまり」ヒーロー映画は、新しいフェーズを迎える

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』「おわり」の「はじまり」ヒーロー映画は、新しいフェーズを迎える

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

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アメコミ映画の起源は、一体どの作品からだろうか?その始まりは、諸説あるだろう。過去を順々に紐解いていくと、1910年代まで遡ることができる。

その上、映画の配給収入の面で考えれば、1978年公開の『スーパーマン』の成功が、「ヒーロー映画」としての市民権を得たと言われている。

近年では、1990年公開のサム・ライミ監督による『ダークマン』や1997年公開の『ブレイド』また、1998年の映画『アンブレイカブル』などが、「ヒーロー映画」「アメコミ映画」の起源として挙げられることが多いだろう。

また、MCUで絞ってみるなら、2008年製作の映画『アイアンマン』が、その原点として挙げられる。

ただ、今回はもう少し的を絞って、これらの作品とは別のルートで考えてみたら、やはり忘れてはならないのが、2002年公開のヒーロー映画『スパイダーマン』だ。

この度公開された作品『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の根源は、ここに帰依することができるだろう。

本作含め、近年のアメコミ映画のブーム、ムーブメントの源流を作り出したのは、サム・ライミ版『スパイダーマン』にあると言える。

そんなシリーズも今回公開された最新作を含めると、8作にも昇る超人気シリーズだ。

2000年代以降は、映像製作の技術が格段に変化した時代でもある。

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映像化不可能と言われ続けてきた漫画『スパイダーマン』を映画化に成功したのは、映像革命の本流を促す大きな転機となった。

初期のシリーズが誕生してから、今年で20年目の年だ。

様々な強敵と戦い抜いた過去。新生となる『アメイジング・スパイダーマン』が誕生したこと。

その時代の趨勢として、トム・ホランド主演でまったく新しい「スパイダーマン」三部作も産まれたこと。

新作を含め、この20年間は、映画史を語る上で最も重要な時代となった。

このシリーズも、とても大切な位置に存在していると言える。

一時代を作り上げた、このシリーズは、一旦本作を持って有終之美を飾ることとなる。

今後は、新しいバースに向けて、今までとは異なるまったく新しいヒーロー映画が産まれることを期待したい。

20年続いたシリーズは一旦幕を降ろし、更なるパワーを増強させて次なる(1)フェーズ-すなわち新章『スパイダーマン』-を作り出す準備が、着々と進められている。

これらの物語は「おわり」を告げたのではなく、「はじまり」の合図に過ぎないことを肝に銘じておきたい。

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有終の美を飾った本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で注目したいのはやはり、全3部作を通して、主演を張り続けたトム・ホランドだ。

初めて彼を知ったのは、2012年公開の災害映画『インポッシブル』だ。

ほとんどの日本人がおそらく、本作に触れていることだろう。

実際に起きたスマトラ沖地震における津波に巻き込まれたある一家の壮絶な救出劇を描いた本作は、公開当初は日本でも人気を獲得した。

この作品で一家の長男役を演じたのが、トム・ホランドだ。出演時はローティーンで、まだまだ子どもだった彼。

そんなトム・ホランドが、まさか役者として頭角を現すまでに成長するとは、この時は誰にも予測できなかったのはではないだろうか?

映画『インポッシブル』で鮮烈なデビューを飾ったトム・ホランドは、この作品以降、飛ぶ鳥を落とす勢いで次々に大作映画に出演し続けるのは、周知の事実であり、彼の活躍は目覚しいほどだ。

2015年に19歳で「スパイダーマン」役に抜擢され、この6年間での彼の変化は著しいものだ。

シリーズを重ねる毎に、役者としてのスキルも上げてきたのだろう。

Netflix作品『悪魔はいつもそこに』でも、俳優としての一定の評価を得ている。

この若さで手に入れた「スパイダーマン」という役柄は、彼の若年期の代表作になったことだろう。

トム・ホランドは、あるインタビューで映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』について訊ねられ「An Impossible Movie」と答えている。

まさに、その通りで、本作の製作はほとんど不可能に近かったに違いない。

困難を極めた映画製作に出演した彼は、前2作と比べ、一皮も、ふた皮も成長した「スパイディ」を見せてくれる。

この駆け抜けた6年間は相当多忙を極めたのだろう。

彼は、最近のインタビューでは、一度休憩を挟みたいと答えている。

(2)“I’ve spent the last six years being so focused on my career. I want to take a break and focus on starting a family and figuring out what I want to do outside of this world. I love kids. I can’t wait to be a dad — I can wait and I will, but I can’t wait! If I’m at a wedding or a party, I’m always at the kids’ table hanging out. My dad’s been such a great role model for me. I think I’ve got that from him. So I think I’d be a primary school teacher or something like that.”

「僕は過去6年間、自分のキャリアに集中して過ごしてきました。僕は休憩を取り、家族を始めて、この世界の外で何をしたいのかを理解することに集中したいと思います。私は子供が大好きです。お父さんになるのが待ちきれません—待つことはできますが、待ちきれません!私が結婚式やパーティーにいる場合、私はいつも子供用のテーブルにぶらぶらしています。私の父は私にとってとても素晴らしいロールモデルでした。私は彼からそれを得たと思います。だから私は小学校の先生かそのようなものになっていたと思います。」

また、製作会社からはキャンセルされたものの、彼は(3)新たな「夢」を語ってくれている。

それは、映画『007』シリーズ史上、若いジェームズ・ボンドを演じることだ。

今後、公開作品が控えているものの、彼の代表作が区切りを見つけた今、次にどのようなアクションを起こすのだろうか?

一度休息を取るのも良し、まったく違う作品に出演するのも良し。

これからの彼の一挙手一投足から目が離せいのは、事実だ。

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そして最後に、本シリーズやアメコミ映画の開祖は、一体誰であろうか考えたいところだ。

原作者のスタン・リーと言われてもおり、各々の作品の監督もまた創設者として名を連ねている。

もしくは、映画『アイアンマン』を産んだジョン・ファブローも創始者だろう。でも、ここで取り上げたいのは、今挙げた人物たちではない。

この20年続いているヒーロー映画の創立者は、長年に渡りこれらの作品を影で支え続けてきたプロデューサーのアヴィ・アラドだ。

本作のエンド・クレジットにも、「“THE FILMMAKERS WOULD LIKE TO GRATEFULLY ACKNOWLEDGE THE ORIGINAL TRUE BELIEVER, AVI ARAD, WHOSE VISION LED THE WAY TO BRINGING THESE ICONIC CHARACTERS TO THE SCREEN.”」と製作陣からの敬愛の念が込められた彼への謝辞が表明されている。

具体的に、彼は何をしたのかと言えば、映画『ブレイド』から連なる一連のヒーローもの(MCU作品を除く)をプロデュースし続けた人物だ。

すべての作品にプロデューサーとして携わり、今までB級映画として扱われてきた「アメコミ映画」をメジャーにまで押し上げた人物と言ってもいいだろう。

彼がいなければ、多くのアメコミ映画は誕生し得なかったと推測できる。

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彼は映画プロデューサーとして活躍する前は、おもちゃ関係の開発者でもあった。

90年代には、消費者のニーズに応えた玩具を開発にも成功している。

イスラエル系アメリカ人でもあるアヴィ・アラドは、幼少期をホロコーストの生存者の子どもとして過ごし、鬱屈した人生を送っていたのだろう。

その時に出会ったのが、ヘブライ語で翻訳された漫画『スパイダーマン』だった。

彼もまた、いち「スパイダーマン」ファンとして混沌とした子供時代を過ごし、スーパーヒーローそのものが彼の心の拠り所となったのだろう。

最も辛かった時期に、アメコミで救われた彼は、最もファンが何を求めているのかを察知できる嗅覚を有する持ち主だったのだ。

鋭い嗅覚を頼りに、映画ファンが一体何を求めているのか、この20年間で察知し続け、その才能を遺憾無く発揮してきた長い年月。

それでも、映画の舞台裏では、多くのトラブルを抱えていた。

2006年にこの業界から身を引いたにも関わらず、製作陣からの謝辞が送られるのは、初期から長い年月をかけて「ヒーロー映画」に如何に貢献してきたか察しがつく。

ある時、彼はこんな発言をしている。

(4)“It was me almost getting to the top and [then it would] roll right back down because the industry did not consider comic books to be source material. You know, it was a rough ride and you had to believe in it to try and convince people. Studios actually were the hardest to convince. You and I understand the power of this stuff because we loved it first as readers. It was hard to get studios to ever look at a comic book and even when they did they couldn’t see it.The good news was that it was a time where the kids who just went to art school, or went to writing school, or went to filmmaking school, and so on, they were the ones who actually loved the comic book culture, and many of them were just beginning,” Arad said. “That kept me going.”

スタン・リー原作のコミックを映像化しようとした初期段階は、ハリウッドは彼の考えを無下にしていたと。

製作会社は、アヴィの発言に耳を傾けなかった上、漫画原作を蔑ろにする風潮があったという。

そこで彼は、若手のクリエイター(美術のコースや漫画のコース、映像製作のコースに通っていた若者)の中で理解してくれる人物を探し当てた。

それが、監督のサム・ライミであったり、ニュー・ライン・シネマのプロダクション・プレジデントのマイケル・デルカだった。

ハリウッドでは最初、ヒーロー映画の地位は、低かったのだろう。

B級映画であり、ヒットしないジャンルとして、当時のアメリカの映画人は、考えていたのだ。

その考えを真っ向から否定し、プラスの方向へ運んだのが、プロデューサーのアヴィ・アラドだ。

初期のヒーロー作品を製作するに当たって、相当な努力をし、困難な長い道のりを通過したのだろう。

大きなスクリーンでアメコミ作品を観れる喜びを与えてくれたのは、幼少期にアメリカのヒーローに憧れたイスラエル系の子どもだったアヴィ・アラドの功績だ。

だからこそ、作品の制作陣は声を大にして、彼が作品に対して行った貢献に謝辞を述べているのだ。


ヒーロー映画は、「おわり」を告げたわげではなく、まだ始まったわけでもない。

「おわり」の「はじまり」という言葉があるように、アメコミ映画は今、新しいフェーズに向けて始動し始めたばかりだと、本作が物語っている。

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、1月7日(金)より全国の劇場で絶賛、公開中。

(1)Everything We Know About “Spider-Man 4”https://www.seventeen.com/celebrity/movies-tv/a38569392/spider-man-4/(2022年1月8日)

(2)Tom Holland Talks His Future as Spider-Man, Reveals He Wants to ‘Focus on Starting a Family’ Nexthttps://people.com/movies/tom-holland-talks-plans-after-spider-man-family/(2022年1月8日)

(3)Tom Holland’s Role In Uncharted Came From A Failed Pitch To Join This Classic Franchisehttps://www.looper.com/726287/tom-hollands-role-in-uncharted-came-from-a-failed-pitch-to-join-this-classic-franchise/?utm_campaign=clip(2022年1月8日)

(4)Avi Arad: From ‘Blade’ To ‘Morbius,’ Three Decades Of Mining Marvelhttps://deadline.com/2019/03/avi-arad-marvel-blade-spider-man-morbius-toys-1202576569/(2022年1月8日)