映画『マリア 怒りの娘』未来の子どもたちの命を守る事

映画『マリア 怒りの娘』未来の子どもたちの命を守る事

2024年3月6日

貧しさはより女性や子どもの運命を過酷なものにする。映画『マリア 怒りの娘』

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. – Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL – Dag Hoel Filmprooduksjon as – Cardon Pictures LLC – Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL –
Dag Hoel Filmprooduksjon as – Cardon Pictures LLC
– Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

中南米ニカラグアで30年振りに配給された本作『マリア 怒りの娘』は、父親不在の片親家庭の慎ましくも逞しい一人の少女の姿を描いた作品。少女の瞳に映る大人の世界は、美しくもない。子どもの視点の先に映る大人達の行動は、自分本位で自己中的。振り回され突き放され、見捨てられても尚、子どもは母の愛を渇望する。母親という存在でしか、自身の価値観を見いだせない片親家庭で暮らす多くの子供らにとって、親という人間は絶対的支配立場にいる。親にも親の事情があり、自身の家庭を、家族を、子どもを守らければならない責任があるはずだ。家族とは、親子とは相反する生き物で、意思疎通ができる時とできない時の大差が大きく生じる。どうしようもなく仲良く過ごす時間もあれば、どうしようもなく些細な事で喧嘩して、仲違いしてしまう。それは、生活や心の貧しさが原因ではなく、互いを気遣い合い、駆け引き合っているから、時に喧嘩もすれば、時に距離が縮まる事もある。親子の関係性や縁は切りたくても切れない見えない糸で複雑に結ばれており、一生を共にする他者であり、パートナーである。それが、家族という情景の中に現れる慶福という文字が、私達親子の間に横たわる。本作『マリア 怒りの娘』は、親子という関係性を最大限にまで突出させた物語であるが、中南米ニカラグアの首都マナグアにあるゴミ置き場ラ・チュレカを舞台にしている。このラ・チュレカ(※1)とは、中南米最大規模のゴミ置き場で、面積は 7 平方キロメートル以上で、およそ1000人のニカラグア人が暮らし、生きている。東京ドームで換算すれば、およそ149個分の広さを有し、途方もなく恐ろしい広域なゴミ置き場となる。ゴミ山で暮らす少女と言えば、第3回として2005年5月14日にフジテレビ系列で放送していたテレビ番組「世界がもし100人の村だったら」で取り上げられていたフィリピンの首都マニラで12歳の少女マニカちゃんを思い出す人もいるのではないだろうか?彼女も30歳を越えた今、どう過ごしているのだろうか?ゴミ山が、生活拠点の場所で懸命に暮らす親子の姿を通して、私達は何を知る事ができるのであろうか?今日もどこかで、命懸けで日々を必死に生きている片親家庭の親子が日本やニカラグアの片隅にいる。本作に登場する親子は、世界中の何千組、何万組と存在する片親家庭のたった一組に過ぎず、彼等はその全体の氷山の一角だ。

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL –
Dag Hoel Filmprooduksjon
as – Cardon Pictures LLC
– Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

本作『マリア 怒りの娘』の舞台はニカラグアだが、そもそも日本にニカラグア映画が紹介されたのは、これがほぼ初めてかもしれない。ニカラグアで制作された作品は片手で数えられる程しか制作されていないのが、現状だ。その背景(※2)には、独裁政権が1936年から1979年の43年間、横行していたと言われている。アナスタシオ・ソモサ・ガルシア将軍が大統領に選出以降、ソモサ一族が独裁政治を続けて来た。時が1970年代末に入ると、この独裁政権に反発する流れとして中道・左派が幅広く誕生した。1979年7月、武力によってソモサ独裁政権を打倒し、サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)主導が中心となって、革命政権を樹立した。その結果、ソモサ政権による政治権力の失速が起きた。中南米には、ニカラグアの他に、ホンジュラス、コスタリカ、グアテマラ、エルサルバドルという5つの国家が存在するが、それぞれがそれぞれに、映画文化や映画産業は各々の独自の進化を遂げている。たとえば、ホンジュラス映画では、ドイツ出身のチリ在住だった映画監督ヨーゼフ・ボーアが、1937年にホンジュラスに入国して撮影したドキュメンタリー映画『Honduras』があるが、これ純度100%のホンジュラス映画ではない。生粋のホンジュラス映画が誕生したのは、この時から数えて25年後の1962年にサミ・カファティ監督が制作した映画『Mi Amigo Ángel』が、ホンジュラスにとって初めての商業作品となった。ここから2022年制作のホラー映画『La Condesa』2023年制作の短編映画『Riccy』など、50本近く制作されているが、他国と比べたら、製作本数は本当に少ないと言える。コスタリカ映画にもまた、映画産業は古くから存在し、最古の作品は、恐らく映画『La apuesta(1968年)』だろう。最新作は、今年2024年制作の映画『Memorias de Un Cuerpo Que Arde(2024年)』だ。コメディ部門では、映画『Te Presento A Mi Novio(2019年)』『Maikol Yordan de Viaje Perdido(2014年)』ドキュメンタリー部門では、映画『130 Hermanos(2022年)』や『First Lady of the Revolution(2016年)』『Odyssey 2050(2012年)』が制作されている。またドラマ部門では、映画『El Despertar de Las Hormigas(2019年)』『Caribe(2004年)』『Clara Sola(2021年)』『Días de Luz(2019年)』『Domingo y la Niebla(2022年)』『Tengo Sueños Eléctricos(2022年)』『Ceniza Negra(2019年)』『Medea(2017年)』『Milagro de Amor(1955年)『Del Amor y Otros Demonios(2009年)』『Inmate(2015年)』『Princesas Rojas(2013年)』『El Sonido de Las Cosas(2016年)』『Tropix(2002年)』『Viaje(2015年)』『Entonces Nosotros(2016年)』『El Cielo Rojo(2008年)』その他のジャンルでは、『Luz, La Flor Del Ma(2019年)』や『La Insurrección(1980年)』がある。他40作品が、制作されている。他にも、グアテマラ映画やエルサルバドル映画も制作されている。ここでは、サラッと紹介しておくと、グアテマラ映画は1950年代末にブラジルから持ち込まれたのを起源にし、1960年代以降、グアテマラ主体で映像制作が盛んに行われてきた模様。作品数は、およそ80本の映画が作られている。では、エルサルバドル映画はどうだろうか?エルサルバドル映画に関して調べてみると、ほとんど制作されていないのか、情報がまったく出てこない。ただ一つ挙げるとするなら、映画『ラ・カチャダ(2019年)』が、エルサルバドルで制作された作品だ。そして最後に、今回のニカラグア映画はどれぐらいの作品があるのだろうか?ニカラグアで知名度がある映画は、以下の26作品だ(厳密に言えば、長中短編、合作、他国出身の監督がニカラグアに入国して制作した作品含めて26作品。純ニカラグア制作の長編は本作が数十年ぶりとなる)。『Alsino y El Cóndo(1982年)』『El Center Fielder(1985年)』『El Chogui(2001年)』『Cinema Alcázar(1997年)』『Con Ánimo de Lucro(2006年)』『De Niña A Madre(2004年)』『Estos Sí Pasarán(1985年)』『Exiliada(2019年)』『El Espectro de La Guerra(1988年)』『Historia de Rosa(2005年)』『El Inmortal(2005年)』『Lady Marshall(1990年)』『La Llamada de La Muerte (1960年)』『Memorias Del Viento(1992年)』『Metal y Vidrio(2002年)』『Mojados(2013年)』『Mujeres en Armas(1981年)』『No Todos Los Sueños Han Sido Soñados(1995年)』『Nunca Nos Rendiremos(1984年)』『Okhota Na Drakona(1986年)』『Sandino(1990)』『Se Le movió El Piso: A Portrait of Managua(1996年)』『El Señor Presidente(1983年)』『Voces De Cenzontle(1999年)』『La Yuma(2009年)』。この中で最も古い作品は、1981年に制作された映画『Mujeres en Armas』だ。と、ここまで中南米やニカラグアに関する映像作品や映画史的側面を綴ってきたが(中には合作映画もある事だろう。ただ、ニカラグアでは、先述したように独裁政権や内戦も長い期間強いられていた背景もあり、映画産業が発展して来なかった現状もある)、中南米は特に、日本ではなかなか注目度が集まらない国と地域ではないだろうか?治安が悪い、貧困地域というマイナスイメージが付いて回るが、映画周りの環境がどうあれ、映像作品が世に出るのは非常に好意的にも捉えたい。本作『マリア 怒りの娘』が今後、ニカラグア映画が両国を結ぶ一つの取っ掛りになって欲しいと願うばかりだ。また、ニカラグアは中米の小国でありながら、ガザ地区の紛争をめぐり、イスラエルを軍事的に支援しているとしてドイツを相手取り国際司法裁判所に提訴した報道(※3)が流れたが、国際的に大国と対峙できる度量がこの国にはあると再認識させられる。

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL –
Dag Hoel Filmprooduksjon as – Cardon Pictures LLC
– Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

また、本作『マリア 怒りの娘』の主題は、母子家庭や片親家庭の生活の苦悩を描いている点だろう。一人娘を一人で育てる母親にとって、日々の生活は苦しい事ばかりだ。その上さらに、生活の拠点が中米最大級のゴミ置き場ラ・チュレカという衛生面的に見ても非常に危険な場所でもある。でも、行き場のない彼ら家族にとって、ゴミ山がある種の救いの場となっている。それでも、日々の生活は困窮を極め、ある時、母親は生活費の足しにと、娘が可愛がっていた犬を売りに出そうとしたり、日々の口減らしのために、我が子を他人に預けてしまう。そして、無責任にも彼女は娘を迎えには来ず、少女は施設を抜け出し、母親を求めて旅に出る。イギリス映画『怒りを込めて振り返れ』のように、マリアもまた、自身の怒りを拳に握り締めて、母親の愛情を求める放浪の旅に出る。日本では、片親家庭、いわゆるシンママ、シンパパ(シングル・マザー、シングルファザー)と呼ばれる家庭は、厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」によると、平成28(2016)年は、ひとり親家庭数141.9万世帯のうち、母子世帯数は123.2万世帯、父子世帯数は18.7万世帯となっており、ひとり親世帯の86.8%が母子世帯である(※4)というデータと数値が出た。これが、どれほどの規模が想像もつかないが、それでも数多くの片親世帯の親が存在している事は事実だ。コロナ禍を経て、シングル親のご家庭は火の車だ。コロナによる失職、値上がる物価、食べ盛りの子どもを抱えて、生活は日々、切り詰めるばかり。日本政府は、コロナ期に国民一人当たりに10万円の給付金を出したが、これでは正直、足りなかった。ひと月暮らせば、10万円なんて直ぐに生活費で使い果たしてしまう。ただでさえ、困窮に次ぐ困窮にも関わらず、ここにコロナ禍が襲い、非常に苦しい期間を過ごされた方は多くいるはずだ。アフターコロナと呼ばれる今、それでも、彼ら片親家庭の生活(※5)は苦しいに違いない。それでも、窮状を改善しようとNPO団体は、片親世帯の親達に手を差し伸べている。この問題を解決しようと率先して活動をしているが、これらの問題の解決を促すのはNPOの団体ではなく、国や政府、地方自治体が国民や市民のために率先して立ち上がり、行動力を示して行かなければならないのに、今の日本の国会は政治家達の裏金問題で大いに揺れている。地方自治体でもまた、岐阜県岐南町の町長の報道(※6)があったように、長となる人物が町の重要人物として機能していないのが現状だ。確かに、いい政治家、いい地方自治体が存在している事は認めたいし、期待したい。それでも、現在は悪目立ちするトップの言動や振る舞いがクローズアップされがちなのが、世の常だ。ただ果たして、今の現状で、片親家庭の窮状を誰が救えると言えるのだろうか?「【新型コロナ】 “食費1日200円” 「ひとり親」世帯の生活困窮」という動画があるが(似たような報道番組はこの時期、たくさん制作され、公開された)、これは2020年年末の時期だが、恐らく、この現状は2024年現在も変わってないと思える。多少、上向きになったかもしれないが、生活苦は直ぐに改善されるものではない。

【新型コロナ】 “食費1日200円” 「ひとり親」世帯の生活困窮 (2020年12月23日放送 「news every.」より)

アフターコロナと言われるようになった2023年以降から現在、片親家庭を取り巻く環境は、まったく変わってないと言える。物価高、光熱費値上がり、今苦しい現状を考えると、国民一人一人に救済の手を差し伸べる事が急務であるのに関わらず、岸田首相率いる今の日本政府は増税という文字をチラつかせて、国民感情を逆撫でしている。日々の生活に苦しんでいる方々がたくさんいるにも関わらず、国は今後ますます、国民負担を強いる姿勢を見せている事に憤りや苛立ちを隠せない。それでも、片親世帯の親達に手を差し伸べようとするNPO団体(※8)の存在は本当に尊いと言えるものだろう。また、「グッドごはん|ひとり親家庭に食品の贈り物を」という取り組みもされているので、興味がある方は、まずは「知る」ところから入って頂きたい。たった一人の尊い子どもの命を守るために、私達大人が今、できることはなんであろうか、共に考えて行きたい。また、ニカラグアにおける片親世帯の割合はどうなっているのだろうか?

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL –
Dag Hoel Filmprooduksjon as – Cardon Pictures LLC
– Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

データとしては少し古いが、2012年に詳細計画策定調査報告書 経済基盤開発部 独立行政法人国際協力機構が発表した「ニカラグア共和国 家族とコミュニティのための 社会リスク予防・ケア統合行政サービス 能力強化プロジェクト」の中の一文によれば、「ニカラグアでは片親家庭世帯のうち約90%が女性世帯主であり、中央アメリカで、唯一、その割合が増加している国であるとの報告もあり、さらには下記のとおり都市部における女性世帯主の割合が他ラテン諸国に比べ高いことが分かる。子どもの養育についても女性に大きな負担がかかっていることが推測される。」(※9)とあるように、ニカラグアにおける片親家庭の現状は、日本と同じように芳しくない。その上で、ニカラグアの片親世帯だけでなく、国全体の貧困状況はアメリカ大陸では2番目に次ぐ貧困さと言われている。一人当たりのGDPが、1,904.3米ドル(2019年現在:IMF)と言う数値が出ている。 近年では地震、ハリケーン、内戦などに見舞われ、2018年4月には政治社会的な緊張状態に陥り、失業率の増加など経済がさらに悪化している現状(※)と言われている。まさに、映画『マリア 怒りの娘』は、ニカラグアの現状を意識して制作されたタイムリーな作品と言えるかもしれない。本作を制作したローラ・バウマイスター監督は、あるインタビューにて、本作の制作経緯と作品を観た観客の反応について、こう話す。

Baumeister de Montis:a“Recordé que de adolescente conocí el basurero municipal de Managua. En mi escuela teníamos que hacer trabajo social, durante tres meses fui los fines de semana, a enseñarle a niños y niñas a leer y escribir. Me impactó el lugar, no entendía como esto existía, y cómo era que la gente vivía ahí. Además, existía frente al lago más grande de Centroamérica. Eran demasiadas preguntas que siempre estuvieron ahí, presentes. La hija de todas las rabias es la quinta película de ficción en la historia de Nicaragua. Aún no se ha podido presentar allá, hay un contexto que lo dificulta. Pero sí he podido mostrarla en dos lugares donde hay mucha comunidad nicaragüense migrante, Miami y Costa Rica. He tenido salas con mayoría nicaragüense. Las impresiones que he recibido son muy bellas. Las mujeres se me acercan, me abrazan y me dicen: “yo soy María, me tuve que venir a Estados Unidos o Costa Rica de muy niña o siendo madre soltera y me enfrenté a adversidades como la xenofobia, el lenguaje, comidas, idioma, y esta forma como ella se mantiene entera me representa. En Nicaragua se dice que las mujeres somos muy bravas, eso se vive como algo empoderador.”(※11)

バウマイスター監督:「10代の頃、マナグアの市のゴミ捨て場を訪れたことを思い出しました。私の学校では授業の一環で社会活動をしなければならず、3か月間週末に少年少女に読み書きを教えに行きました。私はその場所に衝撃を受け、どうしてここが存在し、人々がどのように暮らしているのか理解できませんでした。しかも、中米最大の湖の目の前に存在していた。常に、そこに存在する疑問がたくさんありました。また、『マリア 怒りの娘』は ニカラグアの歴史の中で5番目のフィクション映画です。しかし、私はニカラグア移民の大規模なコミュニティがあるマイアミとコスタリカの2か所で作品を見せることができました。受け取った感想はとても美しいです。女性たちは私のところに来て、抱きしめてこう言います。「私はマリアです。私は幼い頃、あるいはシングルマザーとしてアメリカかコスタリカに来なければならず、外国人恐怖症、言語、食べ物などの逆境に直面しました。 彼女は完全なまま、私を表しています。ニカラグアでは女性はとても勇敢であると言われており、それが力を与えるものとして認識されています。 」と、学生時代にゴミ山で体験した授業の社会活動が、自身の本作に大きな影響を与えていると話す。また、本作を鑑賞した観客は、マリアや彼女の母親が私自身であると感想を述べているが、まさにニカラグア社会が抱える問題が、この作品のすべてに描かれている。片親家庭の問題は、ニカラグアや日本に留まらず、全世界共通の社会問題として、私達は捉える必要があると言える。

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL –
Dag Hoel Filmprooduksjon as – Cardon Pictures LLC
– Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

本作『マリア 怒りの娘』は、ニカラグア社会における大きな問題にもなっているシングルマザーの家庭の実態を描写した作品となっている。怒れる症状は、マリアは自身を捨てた母親や自身を取り巻く環境、そしてニカラグア社会に対する憤りを持っているのだろう。自身の怒りを握り締めて、今も懸命に生きている。そして、私も彼女と同じように怒っている。それは、自身が暮らす役所や地方自治体に対してだ。彼らは、市民のために何もしない。昨年、枚方市長選に立候補した伏見市長は、今回で3選目を当選しているにも関わらず、市長選のすぐ後に、公職選挙法違反(※12)で報道されている。けれど、役所の誰もが彼を市長の座から降ろそうとはしない。また、この市長は今回の市長選のマニュフェストにて、2つの課題を掲げていた(この2つの課題が、私の目に留まった)。一つは、市駅のロータリーを一度壊して、そこに緑の広場を作り、片親家庭のシングルの方々の憩いの場やコミュニティを作ろうとする動き。そして、もう一つは、大阪万博に便乗して、ローカルにも関わらず、「ひらかた万博」(※13)となる催しを2025年に大阪万博と同時期に開催するという動きだが、果たして、これら2つの試みが、私達枚方市民にとって、有益なものになるのか甚だ疑問だ。大それた催しや工事をするぐらいであるなら、今生活に苦しんでいる片親世帯の若い母親を救済すべきではないだろうか?市民に高い税金を納税させるのであれば、その税金を有意義な使い道として使って欲しい。現状、毎月支払っている税金が、市のどの部分に使用されているのか不透明だ。ここに来て、「ひらかた万博」となる不可思議な市の催しが、今の若い片親家庭の母親(父親)に直接、有益な事業だとは到底思えない。行政や地方自治体が今、取り組むことは一つでもいいから、片親家庭の救済が最優先ではないだろうか?また、ひらかた万博の取り組みを、市は「枚方市では、2025年の大阪・関西万博の開催を契機に、市民、市民団体、企業、大学等、多様な主体とのパートナーシップでまちの魅力向上につながるイベント・事業等の実施や、公民、民民共創による新たなビジネス創出等で地域経済の活性化をめざす市独自の取り組み「ひらかた万博」を令和4年度からスタートしています。」と、説明している。枚方の伏見市長はYouTube動画にて、ひらかた万博を盛り上げたいと語っているが、中身がまったく伴わない。万博を開催して、市民にどう還元するのか、片親世帯をどう救済するのか、一つも説明がない。

ひらかた万博(HIRAKATA EXPO)キャッチコピー決定!

これは直接、市役所に問い合わせしないといけないと、ジャーナリスト魂が揺れ動き、担当者に電話をした。一番尋ねたいことは、「ひらかた万博」を催して、開催後に枚方市民に、どのくらいの還元があるのか、データや数字、数値を算出しているのか。「開催をしました。では、来年以降、一人当たり、このぐらいの還元できます。」と言えることが、経済やビジネスを語る上で大切な事ではないだろうか?ましてや、学生主体のイベントではなく、行政主体のイベントであるなら、尚の事、市民への安心材料が必要となる。ここを端折って、見切り発車だけで開催するのであれば、本当にただの税金の無駄遣いだ。この所を市の担当者に連絡を入れ、じっくり30分議論を交わした。市側は、まだまだ不透明な所も多く、一つ一つ努力していると。それでも、私の疑念は拭えないが、一人の市民が救われるのであれば、小さな一歩を踏み出したいと、担当者は語る。何より、公務の激務の中、無作法にも押し掛け電話をしたにも関わらず、じっくり対話を重ねた担当者には感謝だ。それでも、まだ問題が解決したとは言えない。私が深夜で働く職場にも、朝勤から夕勤にかけてシングルマザーの若い母親が居る。彼女は、家庭を守るために必死に働いている。幼い子ども2人を自宅に残して、夕勤から夜勤にかけて働き、それでも深夜勤でも働きたいという。この母親の現状に、誰も胸が痛まないというのであれば、日本人は人情や他者を思いやる心を無くした民族になってしまった事、本当に残念に思う。一人一人が声を上げ、少しづつ市に訴えて行かないと、街全体の発展がダメになる。少しでも他者を救える世の中、社会になって欲しいと、心から強くそう願う。

最後に、本作『マリア 怒りの娘』で描かれている親子は、現実世界では何万組といる。この方々の命や生活、人生を守るにはどうすれば良いのか。今、日本社会は個人が個人として、まともな生活できない社会経済の中、他者を助けようとする人間は少ない世の中。それでも、片親世帯の子どもたち、未来の子どもたち(今回は、作品と同じ題材に絞っているが、困窮しているのは片親家庭だけではない)の命を守る事が、大人や市政、国の役割であり、急務である事を心に留めておきたい。

©Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. – Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL – Dag Hoel Filmprooduksjon as – Cardon Pictures LLC – Nephilim Producciones S.L. ‒ 2022

映画『マリア 怒りの娘』は現在、全国の劇場にて上映中。

(※1)La Chureca: Living In Garbagehttps://expertvagabond.com/la-chureca-managua-photos/(2024年3月1日)

(※2)ニカラグア共和国基礎データhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nicaragua/data.html(2024年3月1日)

(※3)中米ニカラグア ドイツを国際司法裁判所に提訴 ガザ地区めぐりhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20240302/k10014376971000.html(2024年3月1日)

(※4)第2節 高齢者,ひとり親の状況https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/html/honpen/b1_s05_02.html#:~:text=%EF%BC%88%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%82%8A%E8%A6%AA%E4%B8%96%E5%B8%AF%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81%EF%BC%89&text=%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%E3%80%8C%E5%85%A8%E5%9B%BD%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%82%8A%E8%A6%AA,%EF%BC%8D5%EF%BC%8D9%E5%9B%B3%EF%BC%89%E3%80%82(2024年3月5日)

(※5)コロナ禍はまだ終わらない、12,000世帯支援のその先へ #withコロナの親子を支えようhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000160.000028029.html(2024年3月5日)

(※6)リアル「ふてほど」岐南町長のセクハラ行為を暴いた職員たちの「自衛策」 トップの首に鈴を付ける難しさhttps://www.tokyo-np.co.jp/article/312293(2024年3月5日)

(※7)【お知らせ】こども家庭庁「ひとり親家庭等のこどもの食事等支援事業」採択団体発表https://musubie.org/news/8061/(2024年3月5日)

(※8)「シャワーは2日に1度…」新型コロナが直撃したひとり親家庭の生活の今https://www.gnjp.org/articles/child_poverty/domestic/002_a/(2024年3月5日)

(※9)ニカラグア共和国 家族とコミュニティのための 社会リスク予防・ケア統合行政サービス 能力強化プロジェクトhttps://drive.google.com/file/d/1K11icI34c0tJkJ4jauFP_kzdcFUUMK-X/view?usp=drivesdk(2024年3月5日)

(※10)ニカラグア海外での取り組みhttps://www.jica.go.jp/overseas/nicaragua/index.html#:~:text=%E3%83%8B%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%81%AF%E4%B8%80%E4%BA%BA%E5%BD%93%E3%81%9F%E3%82%8AGDP,%E3%81%95%E3%82%89%E3%81%AB%E6%82%AA%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年3月5日)

(※11)’LA HIJA DE TODAS LAS RABIAS’, DE LAURA BAUMEISTER: EL ABANDONO COMO ACTO DE AMORhttps://www.imcine.gob.mx/Pagina/Noticia/la-hija-de-todas-las-rabias–de-laura-baumeister–el-abandono-como-acto-de-amor(2024年3月5日)

(※12)公選法違反疑いの告発受理 昨年9月の枚方市長選https://www.sankei.com/article/20240105-KMRDS6TDSJMGHEPCX7OXEY2XU4/(2024年3月5日)

(※13)ひらかた万博について知りたいhttps://www.hirakata-call.jp/faq/detail.aspx?id=1839(2024年3月5日)