第19回大阪アジアン映画祭 映画『ブルーイマジン』 映画『ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー』 映画『行方不明』 映画『テネメント』 映画『においが眠るまで』 映画『愛の茶番』 レビュー

第19回大阪アジアン映画祭 映画『ブルーイマジン』 映画『ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー』 映画『行方不明』 映画『テネメント』 映画『においが眠るまで』 映画『愛の茶番』 レビュー

2024年3月4日

今年もまた、第19回大阪アジアン映画祭が、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。上映作品本数は63作品、上映作品の製作国 ・地域は24の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。3月1日(金)から3月10日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。

映画『ブルーイマジン』早急に作り上げる

一言レビュー:性加害問題は、今や日本社会における社会問題の総本山とでも言うべき由々しき事態である。近頃も過去に性加害で告発されていた映画監督(※1)がやっと逮捕され、性加害に加担したのかどうか白黒判別しないまま、作品上映をしようとした結果、一転、作品上映中止運動(※2)が勃発した問題もタイムリーに浮上している。事の発端は、ハリウッドから始まった「#Me Too」運動からであるが、この性加害問題は映画業界だけのものではない。社会全体が、立場の弱い女性達(女性だけとは限らない)を食い物にしている。ジャニーズの性加害問題(※3)、活動休止中の吉本興業所属お笑い芸人の松本人志(※4)の疑惑など、同時多発的に波紋は各方面に広がっている。一般社会(※5)でも同じような事が起きていて、映画業界や芸能界の遠い世界の出来事ではなく、性加害に苦しむ人はあなた達の身近にいる事を認識する必要がある。本作『ブルーイマジン』は、女優を夢見て活動していた少女が、加害に遭ってから告発するまでの過程を描く作品だが、問題は告発して終わりではない。作品の中の彼女たちの闘いは今、始まったばかりに過ぎず、現実社会の問題もまた、ここから数年先、数十年先が正念場を見せる。近い将来、今起きている事態を振り返って、本当に解決したと思える瞬間が訪れる時、本当の意味での闘いは終わる。今はまだ、告発しただけで安堵してはいけない。今立っている場所から未来に向けて、始まりのゴングが鳴り響いただけだ。幼少期に同性から性加害を受けた私として、個人として強く願うのは、人の心を傷付けない人間が一人でも多く作る社会を共に早急に作り上げる事を心から願う。

映画『ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー』少しでも理解出来る世の中に

©ALVA FILM & TAKES FILM

一言レビュー:映画祭のプログラミングを振り返って、1作目の映画『ブルーイマジン』では性加害を訴える作品であったが、続く2作目の『ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー』では、40代後半の男女の大人の恋愛が展開されるが、堂々と濡れ場の場面が幾度となく挿入されており、映画祭側の性や性加害に対する「No」という見識をこれらのプログラミングでしっかりと人々に打ち付けたようにも感じ取れる。昨年の出来事も踏まえて(※6)、ここではっきり白黒付けて来た姿勢を窺い知れる。そして、本作『ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー』では、露骨なまでの性的シーンが、観る者を戸惑わせる一方で(中年同士の性行為には複雑な心境を抱えてしまう)、セックスシーンを芸術的思想にまで高めた本作の気力は素晴らしい。ただ、性的場面ばかりが作品の中枢を占めている訳では無く、40代後半に差し掛かった女性達の苦悩や葛藤を描きつつ、逞しく生きる姿から明日への活力をもらえる事だろう。子宮頸がん(※7)に悩む主人公の中年女性の姿からは、どのようにして生きて行けば良いのか教えてくれているようだ。世界では、年間約60万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約34万人が死亡している現状だ。女性が抱える苦しむを少しでも理解出来る世の中を共に整備する事が必要だ。

©ALVA FILM & TAKES FILM

映画『行方不明』幼い子ども達もまた

©Project 8 Projects

一言レビュー:幼少期のある出来事が原因で、自身の言葉を失った青年が、その言葉を取り戻すまでを描いたフィリピン発のアニメーション。アニメのアプローチは、現代パートにおいては、映画『スキャナー・ダークリー』のように撮影後にデジタル加工を施した特殊撮影を彷彿とさせる近未来感満載の作風だ。その一方で、主人公青年のエリックの幼少期は、子供が書いたような手書きで稚拙のタッチが見受けられるが、この幼少期の過去のパートが後に作品内での重要性を占めて来る。青年エリックの中で繰り広げらる宇宙人との攻防戦は、彼の中の単なる妄想に過ぎないが、彼自身の大事な身体の部分が奪われる背景には、彼が幼少期に受けた深い悲しみが関わって来る。私自身、エリック青年と同じような体験を12歳で体験してしまった以上、彼が経験した恐怖や悲しみに対して、他人事とは思えない印象を受けてしまった。タイトルの『行方不明』には、言葉や心を喪失してしまったエリック自身を指していると想像できるが、私自身もまた、人に語る事を放棄してしまった分、今は文章こそが、言葉を無くした私自身を表現できる場所になっているのかもしれない。性加害の犠牲者は、女性だけではなく、年端のいかない幼い子ども達(※8)も被害に遭い、傷付いている事を知って頂きたい。

©Project 8 Projects

映画『テネメント』貴方の隣の誰かもまた

一言レビュー:自身の出生のルーツを探るべく、カンボジアのプノンペンに赴いたカンボジア人女性の彼女の恋人が遭遇する恐怖の1週間を描いたカンボジアン・スリラー。まるで、ホラー映画の金字塔『ローズマリーの赤ちゃん』や日本のホラー映画『N号棟』を彷彿とさせる近隣住民達の集団心理に恐怖する。実際、カンボジアでは黒魔術や儀式(※9)が盛んに行われているようで、その背景を描いた作品としては、カンボジア旅行は気を付けたいと日本人の身を引き締める作品に仕上がっている。その一方で、集団心理から来る事件は日本でも同じように起こっている。福島悪魔払い殺人事件(※10)や尼崎事件(※11)、北九州監禁殺人事件(※12)など、集団から起きた恐ろしい事件が日本でも起きているが、たとえば、日本の宗教問題もまた集団心理の縮図のようでもある。オウム真理教における一連の事件や統一教会における一連の問題もまた、一つのコミュニティに大勢が集まった結果、何が起きるのか身を持って教えてくれる良い教材だ。集団心理の恐怖を描いた本作『テネメント』は、カンボジアにおける黒魔術と集団心理の恐怖を描いた作品ではあるが、ここ日本でもまったく同じ事が起きていると認識し、遠い国の出来事ではなく、身近に起きている出来事として捉え直す必要がありそうだ。貴方の隣の誰かもまた、集団心理に関した何かの事件に加担している可能性があるかもしれない。本作のカンボジア映画に触発されて、カンボジア(クメール語)のラジオを傾聴しているが、カンボジアPOPからカンボジアの文化に触れると、本作の恐怖心が和らぐ可能性もある。

映画『においが眠るまで』喪失感情の治癒を左右する

一言レビュー:本作『においが眠るまで』は、ミニシアターとコーヒー、亡くなったお父さんの匂いを作ること。近年無くなっていく映画館と、お父さんの匂いを探す、17歳の少女の旅の話。人の死と文化の衰退を平行に並べて、喪失とは何かと問う。喪の定義(※13)とは、「愛する人の死によって引き起こされた情緒的な苦しみ」「ある人の喪失に由来する、辛く悲しい期間」という哲学的側面で考えた時、この喪失の念を乗り越えるには、どう対処すれば良いのかと、頭を抱える事だろう。映画『においが眠るまで』では、父親の死という喪失を、コーヒーの芳香や映画館への愛惜を通して、一人の少女が乗り越えようとする姿を描いているが、人が喪の悲しみを乗り越えるには、故人が生前、愛した遺物へ愛をどれくらい注げるかで、喪失感情の治癒を左右すると考えられる。

映画『愛の茶番』滑稽という名の踏み台の上で人生の茶番を一所懸命、必死に生きている

一言レビュー:本作『愛の茶番』は、撮影現場を公開し、訪れた“観客”と作り上げた実験的作品。恋人・良介の不在に悩むルミと、歌手を目指しながら恋に憧れるアキ。彼らの数年にわたるもつれた恋愛関係の顛末を描く。男女の恋愛の縺れや煩わしさ、人間同士の憎しみ合うバカバカしさをモノクロ映像で収めた実験映画。男女という生き物の起源(※14)について考えてみると、私達人間の「性」とは何かという根本的哲学的思想へと辿り着く。では、なぜ男女は恋愛をするのかという疑問(※15)に対しては、プラトンの哲学書「饗宴」の中で、「アリストパネスという人物は、神話を持ち出して愛を説明しています。その昔、顔が2つ、手足が4本ずつあるアンドロギュノスという怪物がいました。アンドロギュノスは、万能の力を使って悪さばかりするので、神によって真っ二つに引き裂かれてしまいます。そうして分かれてしまった2つの体は、また元の1つに戻りたくて求め合うのですが、それはかないません。これが求め合う男女の始まりだというわけです。」私達は、引き裂かれた存在としてこの世に生きているが、プラトンは人は完全な生き物だから、理想を追い求めてしまうと言う。不完全だから愛おしく、愛くるしい人間という生き物は、自身の不完全な部分を補うために、完全を追い求めて人に恋をする。自信の無いのものを他者に求めて、縋り付く。それが、恋愛の根本的所以では無いだろうか?本作『愛の茶番』は、愛に揺れ動く男女の恋愛感情を実験的ドキュメンタリーとして描いているが、本作から読み取れるのは、「私達人間は、滑稽という名の踏み台の上で人生の茶番を一所懸命、必死に生きている。」という事だ。

第19回大阪アジアン映画祭は現在、3月1日(金)から3月10日(日)までの10日間、シネ・リーブル梅田T・ジョイ梅田ABCホール大阪中之島美術館の4か所にて開催中。

(※1)《榊英雄容疑者(53)逮捕》「手口は悪質」「すぐに出て来られないように」女性捜査員が被害女優に語っていた“決意”https://bunshun.jp/articles/-/69129?page=1(2024年3月4日)

(※2)坂口拓主演映画「1%er」上映決定後に中止したユーロスペース北條支配人「判断を誤りました」https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202403040000231.html(2024年3月4日)

(※3)誹謗中傷160件、妻の写真流出 性加害実名告白の元ジャニーズJr.が受けたデジタル暴力https://www.sankei.com/article/20240207-I27P5XZHEZLD3M25LBKUT4RQ3M/(2024年3月4日)

(※4)松本人志氏の性加害疑惑対応に見る「空気の変化」ジャニーズ問題も経て変わりゆく「日本企業の対応」https://toyokeizai.net/articles/-/727639?page=2(2024年3月4日)

(※5)「性加害」問題に対する「何年も前のことでしょ」という指摘が「根本的に間違っている」といえるワケhttps://gendai.media/articles/-/122877?page=1&imp=0(2024年3月4日)

(※6)映画のアフタートークの「有害な男性らしさ」対策https://note.com/damdamdan/n/na5217689d047(2024年3月4日)

(※7)子宮頸がんの疫学罹患率と死亡率https://www.msdconnect.jp/products/gardasil-silgard9/column/epidemiology/#:~:text=%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E5%B9%B4%E9%96%93%E7%B4%8460,(%E5%9B%B31)1)%E3%80%82(2024年3月4日)

(※8)子どもへの性加害、親が意外と知らない怖い実態「優しいお兄さん」と思っていたら裏切られる事もhttps://toyokeizai.net/articles/-/599807?page=3(2024年3月4日)

(※9)「カンボジアでは黒魔術に気をつけろ」と忠告される等、ベトナムとの相違点https://www.vietnam-life.com/blackmagic#google_vignette(2024年3月4日)

(※10)「それが死体の臭いだったんだろうね」女性祈祷師が信者6人を殺害、警察官が現場で目にした“凄惨な光景”とは…https://bunshun.jp/articles/-/53905?page=1(2024年3月4日)

(※11)角田美代子の自死で幕を閉じた「尼崎連続変死事件」 監禁現場から逃走した37歳男性が行方不明になるまでhttps://bunshun.jp/articles/-/54023(2024年3月4日)

(※12)7人が惨殺された“最凶事件“の主犯・松永死刑囚の中学時代「無理やり牛乳を飲ませたり、パシリにしたりして」〈卒業アルバムを入手〉https://bunshun.jp/articles/-/65131?page=1(2024年3月4日)

(※13)喪の悲しみhttps://nishiyama.fpark.tmu.ac.jp/Catastrophe/pg194.html(2024年3月4日)

(※14)生物が「オスとメスとに分かれた」究極の理由多様性を求めたからこそ人間は絶滅から逃れたhttps://toyokeizai.net/articles/-/374367?display=b(2024年3月4日)

(※15)愛について悩む人 哲学にはその答えがあるhttps://business.nikkei.com/atcl/plus/00016/070800011/(2024年3月4日)