第19回大阪アジアン映画祭 『ジャカルタ13爆弾』 映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』 映画『シティ・オブ・ウインド』 映画『水に燃える火』レビュー

第19回大阪アジアン映画祭 『ジャカルタ13爆弾』 映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』 映画『シティ・オブ・ウインド』 映画『水に燃える火』レビュー

今年もまた、第19回大阪アジアン映画祭が、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。上映作品本数は63作品、上映作品の製作国 ・地域は24の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。3月1日(金)から3月10日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。

映画『ジャカルタ13爆弾』経済においてどう対処するのか

©PROPERTY OF VISINEMA PICTURES

一言レビュー:インドネシアの首都ジャカルタを舞台に展開され2023年公開のアクション大作!テロ組織が、13個の爆弾を仕掛けたと国に宣戦布告。捜査当局は、暗号通貨のパイオニアが組織と関係すると考え、彼らを拘束するが…。本作は、インドネシア発のアクション映画だが、単なるアクションではない。インドネシアにおけるコロナ禍や経済格差が引き起こした国民による経済不満を土台にして作られた社会派アクションだ。インドネシア中央統計庁(※1)によると、2022年2月のインドネシア人の平均年収は月収は307万ルピア、年収にすると3,990万ルピアでした。日本円にすると、月収29,000円、年収だと約38万3,000円。首都ジャカルタだと、平均年収は約70万円、他の地域よりも少し高い水準。この経済不満は、インドネシアにだけに起こっている事だとは思わない。ここ日本でも、2021年の調べでは、収入に対して不満と感じている国民が、全体で59.7%いる。これが現状ではあるが、併せて、近年日本国内で多くの反対意見(※3)が出ているのが、岸田首相が打ち立てた防衛増税における増税問題だ。首相を揶揄する言葉「増税メガネ」というあだ名が出るほど、今日本国内では増税問題が注目されているが、収入に不満を感じているだけでなく、併せて、税金が値上がる現状に対して、経済に対する国民負担、国民不安は拭えないだろう。インドネシアも日本も、この先、経済においてどう対処するのか、先の未来が不安で仕方ない。本作『ジャカルタ13爆弾』は、その不安をテロで大胆に抗議したアクションとなっている。

©PROPERTY OF VISINEMA PICTURES

映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』未来の我々を映して

©2024 映画「カミノフデ」製作委員会

一言レビュー:本作『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』は、怪獣造形界のレジェンド・村瀬継蔵が初総監督を務め、1970年代に香港・ショウブラザーズに依頼され、 書き留めたプロットを基に約50年越し作られたオリジナルファンタジー作品だ。いくつもの頭を持つ伝説の怪獣・ヤマタノオロチが登場し、この怪獣と若い男女の活躍によって、物語が展開される。スタッフには、50年の夢を叶えるため、日本を代表する特撮クリエイター達が集結。同時代を生き、惜しくも昨年亡くなられた高橋章がオリジナルコンセプトデザインで参加している。「カミノフデ」が物語のカギとなって、地球滅亡を阻止する。本作はサイエンス・フィクションという体を持つ物語ではあるが、本当に地球滅亡(※4)が起こるのだろうか?その原因には、12の誘因があると言われており、それぞれの原因を鑑みても、近い将来、このどれかのうち、一つ二つが合わさって、実際に地球滅亡が起きる未来も想像できる。12の原因とは、1.極端な気候変化、2.核戦争、3.世界規模のパンデミック、4.生態系の崩壊、5.国際的なシステムの崩壊、6.巨大隕石の衝突ら7.大規模な火山噴火、8.合成生物学、9.ナノテクノロジー、10.人工知能、11.その他の全く未知の可能性、12.政治の失敗による国際的影響が挙げられている。本作が描く世界は、特撮怪獣ものではあるが、地球滅亡に立ち向かう少年少女の姿には、未来の我々を映しているのかもしれない。

©2024 映画「カミノフデ」製作委員会

映画『シティ・オブ・ウインド』祖先の存在について

©Aurora Films, Guru Media, Uma Pedra No Sapato, Volya Films

一言レビュー:日本の東北地方の伝統行事なまはげと同じ東北地方の恐山で有名なイタコを掛け合わせたような精霊や先祖を呼び起こすモンゴルの伝統シャーマン(※5)の血筋を持った高校生の青春を映し出した本作『シティ・オブ・ウインド』は、その名の通り「風の街」に暮らす青年の葛藤や恋愛を描きつつ、先祖や家族の血や繋がりを丁寧に紡ぎながら、モンゴル人だけでなく、日本人の過去、現在、未来を優しく描写する。近年、祖先との繋がりを蔑ろにしがちな日本人ではあるものの、日本にもまた、私達と先祖の見えない糸を優しく紡ぐ日本のシャーマン(※6)は存在する。本作『シティ・オブ・ウインド』を通して、再度私達も祖先の存在について、深く考える時期が来ているのかもしれない。

©Aurora Films, Guru Media, Uma Pedra No Sapato, Volya Films

映画『水に燃える火』若い世代から順番

一言レビュー:映画『水に燃える火』は、マレーシアでは数少ない言語タミル語の映画監督を目指して業界に入った男の話。ただ、男が思っている以上に、現実は厳しく、私生活も荒れていく一方。ある時、バーで泥酔した女と出会い、仲睦まじくなるが、男の人生は思わぬ方向に転げ落ちる。幾度と無い挫折を味わいながら、何度も夢に立ち向かう男の姿を描いた業界映画。映画業界が、苦境に立たされていたり、夢を追う者にとって内情が非常に困難が極めたりするのは、万国共通だろう。現在、マレーシアの映画業界では、政府の検閲(※7)が益々、強化されているという報道が、ここ最近、起きている。そんな中、本作が日本に届いたのは非常に有意義ではないだろうか?また、日本の映画業界の今後の課題(※8)は、①国内市場の頭打ちと製作費の低迷により、②就業環境が悪化して現場が 疲弊し、その結果③コンテンツの質が低下するという「悪循環」に陥っている。 一方では近年、「動画配信の台頭」によって海外市場への進出ルートが拓かれた背景もある。マレーシアや日本の映画業界が今後、制作者や関係者にとって、活動しやすい場にならなければならない。その改善案の中には、若い世代から順番に、関係者が良い職場環境を作る事を念頭に置いて、活動しなければならないだろう。

第19回大阪アジアン映画祭は現在、3月1日(金)から3月10日(日)までの10日間、シネ・リーブル梅田T・ジョイ梅田ABCホール大阪中之島美術館の4か所にて開催中。

(※1)インドネシア人の平均年収はいくら?日本で働きたい5つの理由を解説https://skilled-worker.jp/kaigo/kaigo-column/p481/#:~:text=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A2%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%BA%81%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B,%E6%B0%B4%E6%BA%96%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年3月3日)

(※2)「収入に不満」59.7% 内閣府の世論調査https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA06CL70W2A100C2000000/(2024年3月3日)

(※3)防衛費増税に理解を 岸田首相 高市氏「真意理解できない」https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/93114.html(2024年3月3日)

(※4)人類滅亡、12のシナリオ-オックスフォード大学等の公表したレポートよりhttps://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42435?site=nli(2024年3月3日)

(※5)遊牧民とシャーマニズムhttps://nomadicsoulcrafts.com/blogs/nomadic-soul-blog/nomads-and-shamanism(2024年3月3日)

(※6)日本にシャーマンはいる?どんな人?各地のシャーマンを紹介しますhttps://mainomichi.com/mblog/japan-sherman/(2024年3月3日)

(※7)アングル:マレーシア映画界、海外受賞に水差す国内検閲強化https://jp.reuters.com/economy/JLY7SPKIZFKZBB4OX2S7QX42XA-2024-02-11/(2024年3月3日)

(※8)映画制作の未来のための検討会https://drive.google.com/file/d/1IOBiz_huZMeupWFaJnu4zWIVp8zO6Xpu/view?usp=drivesdk(2024年3月3日)