復習の炎がファミリーを襲う映画『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』
2001年6月22日(日本公開は2001年10月20日)から始まった映画「ワイルド・スピード」シリーズは、スピンオフ作品含め、通算11作目を記録。
1作目が公開された当初、まさか、こんなにも続く長寿シリーズへと成長するとは、誰も想像できなかっただろう。
まさに、映画「ワイルド・スピード」伝説だ。
初公開の2001年を境に、アクション映画並びにカーアクション映画への扱いは大きく変わった。
それも、このシリーズの存在や功績があっての事。
それでも、この作品の話譚は今、終わりを告げようと、幕を下ろそうとしている。
本作『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』は、次に産まれてくる作品のうちの1作目。
3部構成(※1)となる本シリーズは、クライマックスに向けて、最後の有終の美に向けて、加速し始めたばかりだ。
1作目の公開から早22年が経ち、ますます油が乗った本シリーズがラスト、どこに帰着するのか見届けたいところだ。
作品を重ねる毎に、過激に熾烈に展開されるカーアクション、カースタントの場面は観る者に滑稽な印象を与えながらも、驚愕させるパワーを持つ。
また、作中で「ファミリー」と呼ばれる登場人物を演じるキャスト陣は、本作の最大の魅力だろう。
ビン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジョーダナ・ブリュースター、タイリース・ギブソン、ジェイソン・ステイサム、サン・カンらはシリーズの顔だ。
また、主要キャストに加えて、新たに参加したブリー・ラーソン、ジェイソン・モモア含め、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン、リタ・モレノら、豪華な顔触れが揃った点も作品への関心をより高めている。
個人的には、主要キャストの中ではジョーダナ・ブリュースターが、懐かしく思う。
彼女を知ったのは、1作目の『ワイルド・スピード』に出演する前に、ロバート・ロドリゲス監督の学園ホラー『パラサイ(99年)』に主要キャストの学生として出演していたのが、今でも記憶に残っている。
この作品には、他にもイライジャ・ウッド、ジョシュ・ハートネット、クレア・デュヴァル、ローラ・ハリス、ショーン・ハトシーら、当時の若手俳優が集結し、ある種、登竜門的作品として評価を受けた。
ジョーダナ・ブリュースターは、この作品以外にも映画『姉のいた夏、いない夏。』にも出演しているが、これ以降はほぼ『ワイルド・スピード』シリーズにしか出演しておらず、一種の彼女のライフワークと言っても過言ではないほど。
彼女自身も、「本シリーズで役者としてのスタイルが形成された」と、自身が公言している程、この作品群との親密性は高いと言える。
一番気掛かりなのは、このシリーズが終焉を迎えた後の彼女の女優として立ち振る舞いだ。
どう言った経緯を辿るのか、これからが彼女にとっての本番だろう。
女優としての真価が問われるのは、本シリーズが終わった後だ。
また、作品に新たに参加したジェイソン・モモアの悪役ぶりは、既にどの方面からも好印象を与えている。
彼にとってのハマリ役、アタリ役なのは間違いないだろう。
今後、ジェイソン・モモアにとっては、本作が彼自身の代表作の一つとして挙げられるのは、一目瞭然だ。
他に、リメイク版の映画『ウエスト・サイド・ストーリー(2021)』で一躍脚光を浴びたリタ・モレノを配置配役する辺りの関係者、スタッフのセンスも光る。
『ワイルド・スピード』シリーズで欠かせないのが、なんと言っても乗り物だ。
過去には、車だけでなく、様々な乗り物を登場させ、作品に色を添えている。
キャスト陣が主人公なのは疑う余地もないが、それ以上に、本シリーズでは「乗り物」が作品全体の重要なキーポイントとして位置している。
その上で、乗り物のパーツは、部品毎にそれぞれ重要な役目を果たしている。
エンジンも、ハンドルも、アクセルも、ブレーキも、ワイパーも、ウィンカーも、ヘッドライト・テールライトも、それそれが重要な役割が担っているが、今回はこれらの中でも最も不可欠なパーツとして存在する「タイヤ」「ホイール」、特に「ホイール」について言及したい。
自身、もしカーアクション映画関連のレビューを書くとしたら、一体どんなネタを用意すれば良いのかと、2年程程前から考えていた結果、行き着いたのがこの「ホイール」だ。
ただ映画本編のホイールは、ほとんど見れない。
タイヤが回ってる上、編集も秒間隔、スピード感のあるアクション場面が作品の9割を占めているため、作中に登場する車のホイールの機種、デザイン性、機能性、利便性をスクリーンを通して推し量るのは非常に困難だ。
言ってしまえば、無理ゲーレベル。
それでも、車を扱った作品では、車種や車体の形だけでなく、一つ一つのパーツにもそれぞれの役割が存在する事を信じて疑わない。
ホイールもまた、取り付けるデザイン性、機能性、利便性、走破性、要求特性のどれを取っても、どれが欠けてても、カーアクションの撮影では必ず左右される事だろう。
アクション監督やスタントマンが、カーアクション場面にフィットした、また特化したホイールを選んでいるのは、明白だ。
さらに、ホイールについて考えたい。
ホイール=車輪の歴史(※2)は、いつから始まったのだろうか?
車輪は、最古の最重要な発明とされている。
その起源は遡ること、紀元前3500年(一説)頃とされており、古代メソポタミアのシュメール人にあるという。
私達人類にとって、車輪は非常に重要な役割を果たしているにも関わらず、カーアクション映画では一切、注目されていないのは情け無い限りだ。
車のホイールには、大きく分けて3種類(4種類あると言われている)(※3)「スポーク」「ディッシュ」「メッシュ」のデザインがあると言われている。
スポークホイールはホイールの中心から外側にスポークが向かうデザイン(このスポークホイールから派生して産まれたのが4種類目のフィンホイール)、ディッシュホイールは盤状型のスポークがお皿のデザイン、メッシュホイールはその名の通り、網目状のスポークのデザイン、とそれぞれに意味があり、これらをカスタマイズしたり、改造したりと、車の所有者自身の趣味嗜好がこの3つのデザインによって試される訳だ。
ホイールの素材(※4)もまた、非常に重要な一つだ。
ここまでは特にホイールのデザイン性の話に言及したが、次はホイールの要求特性(※5)について詰めて行きたい。
ホイールには3つの要求特性があり、この3つをクリアしていないと、重さ1tはある車体を支えるのは難しい。
その3つには、「強度」「軽量」「正確なリム形状・精度」が挙げられる。
これが揃っていないと、ホイールとして役目は皆目、機能しない。
その次に、操縦安定性、駆動・制動性能、乗り心地、車とのマッチング。
そして、車と一体となって、足廻り性能を向上させる。
これら全てが所有者や車、車体に完全にフィットした時、車の性能を100%発揮させる事ができるのだ。
ホイール(車輪)とは、人間の身体の部位で言えば、「足」の部分。
この足が機能していないと、人間も歩くことができない。
従って、車に車輪がないと、胴体の部分ボディ(車体)、もしくはエンジンだけではこの大きな物体を動かす事は不可能となる。
だからこそ、ホイール=車輪は車(乗り物)においては、必要不可欠な存在だ。
アクション映画、特に乗り物が多く登場するカーアクション映画の部類では、このホイールの存在にも注力して観ると、また違った視点で作品を楽しむ事ができるかもしれない。
ただし、撮影や編集上、スピード感を出す演出をしているため、スクリーンを通して、しっかりホイールを観察するのは不可能に近いのは、言うまでもない(今回、実践済み)。
また、アクション映画で欠かせないのが、スタントマンやそれに付随した関係各所の部署のスタッフ達だ。
彼らの存在なしでは、アクション映画やその場面を成立させるのは非常に困難だ。
本作『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』では、総勢164人のスタントマンや関係社が作品に携わっている。
その中で今回取り上げたいのは、Stunt Rigging Cordinatorという役職だ。
今作では調べたところ、164名の関係者の中でこの担当者として作品に参加しているのは、およそ4名のみという少なさ。
日本には、Stunt Rigging CordinatorやStunt Riggingという部署はないに等しく(恐らく、日本のスタントコーディネーターにあたる担当者)、この仕事の全貌は未知数であり、関係者達が表に出ることもほとんどないため、一体どんな立場の人間なのか検討もつかないが、ここで軽く紹介できればと願う。
まず、Stunt Riggingには専門の会社が、アメリカに存在する。
Googleで「Stunt Rigging」で検索を掛ければ、Stunttrigging.org(※6)という会社が引っ掛かる。
本作でも、このStunt Riggingとして携わっているKeir Beck(キーア・ベック)も過去に参加している事が、伺える記述が、この会社のホームページで窺い知る事ができる。
彼は、過去に映画『マッドマックス 怒りのデスロード』『007 カジノ・ロワイヤル』『シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム』『ハクソー・リッジ』の撮影現場に参加した人物。
Stunt Riggingには、4つのスタイルがあると言われている。
①画像用のリギング、②結合されたリギング ③イリュージョン用のリギング ④カメラ リギングとアクションの組み合わせ。
この4つの工程を経て、アクションシーンの撮影のリハーサルや本番に挑む。
画像用のリンギングでは、撮影用の絵コンテを用いたりと、緻密な計算の元、アクション場面が出来上がる。
Stunt Rigging Cordinatorとは、アクション映画におけるスタントマンの命と作品の完成を担う重要な役職だが、その全貌はほぼ明かされておらず、海外でも関係者に関するインタビューもまだ行われていない。
いつか、表舞台でもスタントマンやその関係者が活躍ができ、彼らにスポットライトが当たることを祈らざるを得ない。
将来、アクションやスタントマン関係者にも取材ができればと願うばかりだ。
最後に、本作『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』のアクションシーンやカーアクションは、夢のような場面だ。
大型の車がゴロゴロ転がり、横転し、街や物を薙ぎ倒す。
でも、あの過激なカーレースに巻き込まれた怪我人や事故は、一つも起きていない。
それはやはり映画ということで、ご愛嬌の一つ。
怪我人が一人も出ないまま、物語が展開されるのは、あまりにも不自然すぎる。
あれだけの激しい攻防劇が繰り広げられているにも関わらず、血の一滴も流れる様子はない。
でも、現実世界では、どうだろうか?
ここ日本社会においても、毎日どこかで車同士の事故が起きている。
それは車が悪いのではなく、車の所有者の運転の荒さにも問題があるのでは無いだろうか?
ただ、一概にドライバーを悪者に仕立て上げるのも問題であり、その時その時のケース・バイ・ケースの見方もできるが、それでも事故(※6)が起きたその瞬間、そして「その後」について、加害者、被害者双方の視点から考えて欲しい。
近い将来、車の事故が原因で、悲しい想いをする人が、一人でも減ることを願う。
本作『ワイルド・スピード』の世界観が作品の中だけのものとして、映画が娯楽として楽しめる時代がいつまでも続いて欲しい。
それでもクライマックスに剥けて、作品は始動し始めたばかりだ。
余談だが、映画『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』の代表曲と言えるYoungboy Never Broke Again, Dermot Kennedy & Bailey Zimmermanらが歌う挿入曲「Won´t Back Down」は、 ワイルド・スピード/ファイヤーブーストアンセム・ナンバーとして既に作品の代表曲として評されている。
8年前の映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』の主題歌Wiz Khalifa featuring Charlie Puthが歌う『See You Again』に匹敵するワイスピ・ナンバーとして、これから益々注目される実力派若手シンガーが歌う「Won´t Back Down」は、後年に残り続けるだろう。
映画『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』は全国の劇場にて絶賛公開中。
(※1)ヴィン・ディーゼル、『ワイスピ』ファイナルは3部作になる可能性を示唆https://m.crank-in.net/news/127423/1(2023年5月23日)
(※2)ホイールの誕生、そして進化と発展の歩みhttps://drive.google.com/file/d/1m1oIF5AKy3A741jFB2_DfPdOUpOrxkj5/view?usp=drivesdk(2023年5月23日)
(※3)ホイールデザインは大きく3種類!それぞれの特徴とおすすめ車カスタムhttps://tireworldkan.com/storeblog/?p=4078(2023年5月23日)
(※4)クルマのパーツの中でも存在感のある「ホイール」その役割とは?https://autoc-one.jp/lexus/is/special-5009722/(2023年5月23日)
(※5)ホイールの要求特性(理想のホイール)についてhttps://www.taiyakan.co.jp/service/tire/knowledge/characteristic/(2023年5月23日)
(※6)Stunttrigging.orghttps://stuntrigging.org/(2023年5月23日)
(※7)あまり報道されない重傷事故の「その後」 被害者の母親と、足切断の男性が語った苦難https://approach.yahoo.co.jp/r/QUyHCH?src=https://news.yahoo.co.jp/articles/12f03923c4d9289c4e07ad74fd02cb4066851d3f&preview=auto(2023年5月23日)