映画『フィリピンパブ嬢の社会学』「一人の人として見る」原作者中島弘象さんインタビュー

映画『フィリピンパブ嬢の社会学』「一人の人として見る」原作者中島弘象さんインタビュー

2024年3月14日

日本で働く外国人女性労働者の実態をリアルに描いたコメディ映画『フィリピンパブ嬢の社会学』原作者中島弘象さんインタビュー

—–まず、中島さんがお書きになった卒業論文の原作「フィリピンパブ嬢の社会学」のルポタージュが、映画化される事をお聞きになった時、どう思われましたか?

中島さん:修士論文のテーマとして取り扱いましたが、結局のところ、修士論文としては最後まで書き切れなかったんです。ルポタージュ「フィリピンパブ嬢の社会学」として纏めて、出版したんです。ただ、映画化をするとお聞きになった時、正直、映画化されるのか疑問でした。そう思ったのは、映画化が実現するのか未知数だったんです。過去には、ドラマ化の話や舞台化の話のオファーが来ていましたが、結局、どれも実現していませんでした。映画化をするとお聞きした時、本当に公開まで持って行けるのか、半信半疑だったんです。今回の制作プロジェクトの話をお受けして、最初に抱いたのは、公開までの不安でした。

—–中島さんは、映画をご覧になれて、どのような印象を受けましたか?

中島さん:実際に、私が経験した事を基に描かれていますので、懐かしい気持ちが込み上げてきます。あんな事あったなぁって、映画を観ながら、思い出していました。

—–少し込み入ったお話をしてしまいますが、フィリピンパブで連絡先を交換して、恋愛に発展して行きます。偏見でお話するつもりはありませんが、国際結婚の課題には結婚詐欺など、ネガティブな事も付随して来ると思います。中島さんは、このような危険性に対して、心構えはしていましたか?

中島さん:私自身、何度もフィリピンパブには足を運んでいましたので、相手の動向は感覚で分かる所もありました。騙されるにしても、オーラとかで察知する時もあるんです。

—–お相手のミカさんも純粋な方だったんですね。

中島さん:それでも、彼女はフィリピンパブ嬢だったので、恋愛に関して、どこまで本気なのかという疑いは常に持っていました。本気で付き合っているのか分からない事も実際にはありました。本来、恋愛は好きだから付き合うという作用が働いていると思いますが、実際、私はもう少し彼女から情報を得らるかもしれないと考えていて、私の方が邪な考えでお付き合いしていたんです。でも、そんな考えを持ちながらも、彼女と仲良くしていくうちに、彼女の方が純粋に私に対して好意的な感情を持っていると気づき始めて、改めて、ちゃんと付き合おうと向き合えました。

—–今のお話をお聞きして、正直、私が思ったのが日本でも有り得る話ですよね?歌舞伎町を出入りしても、恋愛感情があるのか、騙そうと思って近付いて来たのか。外国人だからと、結婚詐欺するのではとか、国際結婚して日本国籍取得しようとしていると偏見の目で見るのではなく、日本人だって、同じような事をしているのでは?と、思っています。

中島さん:フィリピンパブに限らず、たとえば、マッチングアプリや婚活パーティーで出会った方が、怪しく感じる場合もありますよね?果たして、自分の事が好きなのか、もしくは、自分の年収に興味を持って近寄っているのではと、疑ってしまいますよね。本当に、私の事が好きなの?と、私は思ってしまいますね。

—–もっと純粋に、私達は相手の事を見たり、知ったりできればいいですよね。

中島さん:それが、私の本や映画のメッセージかもしれないですね。色々、偏見を持ってしまいガチですが、純粋に人と向き合えば、お互い惹かれ合う事もありますよね。

—–知らない世界で、知らない事を研究するやルポを行うのは、ハードルが高いと思いますが、中島さんを行動させようとした原動力は何でしょうか?

中島さん:この件に関しては、映画では一切、描かれていませんが、私自身の人生観が変わったのは初めて、単独でフィリピンに渡った時の事です。その時はフィリピンの事をまったく分からないまま赴き、周りからも英語が喋れないのに、フィリピンに行っても何ができるの?と言われました。それでも、実行に移して、フィリピンに行ってみたら、別に英語が話せなくてもコミュニケーションが取れたり、私自身が知らない世界が飛行機を乗って4時間先に広がっている事を知って、驚きもありました。自分から行動してみたら、知らない世界とたくさん出会う事ができるという想いが根底にはあります。

—–映画も興味深いんですが、ただ作品がどうのこうのよりも、私は中島さん自身の体験もまた、非常に気になりました。国際結婚をしている方は、世の中にたくさんおられますが、中島さんのように本を出版したり、講演会で発信している方は少ないと思っています。だからこそ、中島さんが今、取り組んでおられる事、また中島さん自身の存在価値そのものに興味を惹かれました。

中島さん:そのように言って頂けて、嬉しく思います。私の人生観から見て、書籍があっての私ではなく、私があっての書籍だと捉えている所もあります。人間は皆さん、肩書きに囚われる生き方をついしてしまいガチですが、そうではなく、自分という人間を周りに対して、見てもらえたり、お互いにいい影響を及ぼす存在としてありたいと思っているからこそ、そのお言葉がすごく刺さります。

—–間違えて続編の書籍『フィリピンパブ嬢の経済学』を購入してしまいましたが、冒頭を読ませて頂きまして、奥さんが派遣工場で働こうとする所から始まりますね。私はその内容に親近感を持つ事ができました。私自身も派遣に登録しようと考えていた時期と重なって、一時日雇い経験もあるからこそ、奥さんが抱えている緊張感や不安も伝わり、また現場での大変さを知っています。外国人や日本人、関係なく、感じるものや感情は同じなんだと気付かされました。

中島さん:だから、本当にその通りだと思います。皆さん「外国人」という括りや枠に羽目がちですが、「外国人」ではなく、みんな「人」なんです。それが、日本語が不自由とか、ビザの問題もあると思いますが、それでも皆さん、それぞれ悩みもあるんです。逆に言えば、この映画を通して、フィリピン人への偏見がなくなりましたと言えば、そんな事はないと思います。誰もが皆と100%仲良くなれるかと問われれば、それは有り得ないですよね。皆さん、人それぞれです。あなたが日本人だから、日本人と仲良くできるかと言えば、それは合う人は合うし、合わない人とは合わないですよね。会社や組織の中にも合う人、合わない人がいるように、社会でも同じ事が起きますよね。

—–ただ、だからと言って、人は差別的思想や行動、発言をしなくてもいいと思います。

中島さん:だからこそ、差別的に相手を見る前に、その方と向き合って、合う合わないを判断してもいいんだと思います。

—–今は表面上、治安が悪くなるからとか、文化や価値観が違うから排除しようとする動きがありますよね。それは、日本人として短絡的で、非常に上から目線で発言しているようにも受け取れます。もっと、歩み寄る必要があると思います。正直、心の乏しい世の中に日本はなってしまったと感じます。

中島さん:そんな中、本作のような作品が世に出てきたのは意義がある事だと思います。

—–インタビューする価値もあると思います。

中島さん:皆が普通に当たり前に受け入れている世界で、なぜ今更、そんな事を言うんだよと至ってしまいますが、それでも本作のような題材を扱っている作品を出す事が、現代において意味があることだと思います。

—–今お話している話題が、自然と無くなる事がいい事だと思いますが、皆さんが普通にフラットに考えられる世の中にして行く事が、今後の日本社会の課題だと思います。
—–では、フィリピンパブでの実体験をルポタージュとして本にまとめていますが、中島さんはパブでの体験を通して、自身の気付きや考え方への変化はございましたか?

中島さん:初めは、フィリピンパブで働いている若い女性達は、どのような経緯で日本に来ているのかについて調べたくて、その実態を知る事ができました。更に、違うフィリピンパブの仕組みやシステムを分かって行きましたが、最終的に分かった事は人間の生き方や人間にとって大事なものはそんなに多くはないと気付かされ、大事なものは大切にしないといけないと気付きました。

—–ご自身の体験を書籍にする行為は、物事を客観的に見る行為にも繋がると思いますが、ご自身の体験を文章や書籍にした事によって、見えて来た事は何かございますか?

中島さん:見えて来た事より、人に伝える力を養う事ができたと思います。講演会も含め、客観的に自身の行動を見る事ができます。また、本を書く事によって気付かされた事は、私自身もまた、社会の中で生かされているんだなと。書く時に、私がどこにいるのか立ち位置を把握しなければいけないので、色々考えを巡らせて、改めて、私は人や社会に支えられていると実感させられます。独り善がりではなく、自分だけの力だけですべてを乗り越えて行っている訳ではありませんので、どんな時も誰かに支えられていると気付かされますね。

—–私の視点ではありますが、作品や書籍を通して、私自身が見えた事は、移民問題や外国人差別といった今の日本社会が抱えるものも見え隠れします。私自身はそう捉えても、別の方は違う見方や捉え方をされると思いますが、この問題に寄せるとしたら、中島さん自身はどうお考えでしょうか?

中島さん:移民や差別問題に対しての疑問でお話するなら、人間誰しもが必ず偏見は持っています。ここで差別的感情を抱く事は、ある種、致し方ない事は良くあると思います。誰もが、私達の知らないものを受け入れられるとは思わないです。ただ、日本は期限付きでの受け入れを前提にしており、永住を取るのは難しいです。これに関して言えば、国の政策に対して、如何なものかと感じています。国自身が人手が足りないから外国人を日本に呼んでいるにも関わらず、ケアをまったくしないのは、良くないと思っています。ケアをしない事によって、日本語が分からない外国人がたくさんいても、一緒に住む日本人からすれば、日本に住んでいるにも関わらず、日本語を勉強しない外国人というレッテルを貼ってしまいますよね。だから、国としては政策の上で、もう少し日本人と同じように住める義務があると思います。

—–たとえば、技能実習生の問題にしても、日本人側が差別をするのも良くありませんが、外国人側にも問題があると思いますが、その根本を作っているのは日本全体だと思います。

中島さん:その上で、外国人差別問題の側面で言えば、差別や偏見を持っている事が良くないと言える社会が今後、訪れると思います。これだけのたくさんの外国人が日本に来て一緒に働き、地域で共に暮らす中、それが今までは日本の事が知らない外国人が来たと思って、日本の事を教えてあげていた風潮がありましたが、そんな事を言っている人に対して、今更何を言っているのか理解されない時代が来ると思うんです。ベトナム人の人ではなく、ベトナム人の誰々さんという様に、誰々さんはベトナム人、誰々さんは中国人と言う風に、枕詞にベトナム人や中国人が先に来ない社会の価値観が増えて来ていると思います。皆さん、当たり前に一緒に仕事をしてくれるかけがえのない外国人の方々です。だから、日本人の中で差別的な発言をしている方は、近い将来、社会から孤立し、取り残されて行く時代が来ると感じています。

—–外国人という目で見るのではなく、一人の人として接して行く事が大切ですね。

中島さん:一人の人として見て行く事は大切ですが、まずはその考えを持って外国人と付き合っていかないと、あなたは日本社会でどうやって仕事を得て行くのか考えなければなりません。今、パワハラやセクハラという行為をする方は、会社の中で生き残れない時代ですが、それと同じような事態が外国人差別の中にも起きようとしています。

—–数年先の日本の未来のような感じがします。

中島さん:数年先には、この価値観に日本が染まっていると思います。

—–最後に、本作『フィリピンパブ嬢の社会学』を通して、在日フィリピン人の現状や今の日本の問題に対して、どのように広がりを持って欲しいか、お考えはございますか?

中島さん:フィリピン人に限らず、人間は人同士で付き合えば、もっと温かいものがたくさんあると思います。向き合う事の大切さだけでなく、偏見や差別意識を持っている事、また避けているものに対して、自ら一歩先に踏み込む行動をする事が、人と人の温かさを見えて来ると思います。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

映画『フィリピンパブ嬢の社会学』は現在、関西では大阪府のシアターセブンにて上映中。また、3月29日(金)より兵庫県のkino cinéma神戸国際。4月5日(金)より京都府のMOVIX京都にて上映予定。全国の劇場にて順次、公開予定。