映画『フィリピンパブ嬢の社会学』「お互いにリスペクトした関係に」一宮レイゼルさんインタビュー

映画『フィリピンパブ嬢の社会学』「お互いにリスペクトした関係に」一宮レイゼルさんインタビュー

2024年3月15日

日本で働く外国人女性労働者の実態をリアルに描いたコメディ映画『フィリピンパブ嬢の社会学』一宮レイゼルさんインタビュー

©Tiroir du Kinéma

—–まず、一宮さんの本作『フィリピンパブ嬢の社会学』への出演経緯を教えて頂きますか?

一宮さん:作品のオーディションに参加した所から本作の出演経緯は始まりますが、私は元々、 石川県に住んでいて、会社員として働きながら、モデルの仕事をしていました。事務所から本 作のオーディションの話をいただきました。25 歳ぐらいのフィリピン人を探しているとの事でした。私は元々お芝居をするつもりはありませんでしたが、この機会を逃すと、後で絶対後悔 すると思いエントリーしてみると、書類審査に受かり、オーディションに呼んでいただきまし た。そして、無事に出演する事が決まりました。

—–オーディションを受けた事も大切ですが、一宮さん自身が勇気を出して一歩踏み出した事 が非常に大切だと思っています。私自身、今の活動をする前は全く別の業界にいましたが、一歩踏み出す勇気は必要だったのではと思います。

一宮さん:当時は、芸能活動に関して、何一つ知識がありませんでした。私は、モデルになるの が夢でした。25 歳になって、将来を考えた時改めてモデルになりたいとか、芸能活動をしてみ たいと感じました。そしてそれを実現するために、リサーチをし、挑戦して行きました。目の 前の事に集中し、チャンスが来ればチャレンジして、失敗しても前向きに次のチャンスを掴ん で行きました。

—–トライ・アンド・エラーの繰り返しですね。成功を考えて行動はせず、まずは続ける事が大 切だと思います。

一宮さん:本当にその通りだと思います。たとえば、私はオーディションを何度も受けています が、すべてに受かる訳ではありません。今は落ちる確率の方が高いですが、それでも諦めず、何度も何度も、繰り返し挑戦しています。時には一瞬落ち込む事もありますが、気持ちを切り 替え、何がだめだったのかを分析して、次のチャンスに活かしています。その試行錯誤が楽しい所でもあります。1回ダメだったからと言って、辞めたら次には進めないので、ずっと落ち 込む必要は無いと思っています。そこで、もうひと踏ん張りするのが大事だと思います。

—–諦めない事が、夢を掴む第一歩ですね。一宮さんから見て、本作のミカという人物は、ど のように映っていますか?

一宮さん:彼女は、本当に家族思いで、すごく前向きで強くて、周りに左右される事なく、自分 の意思を持って、強く生きている女性と感じており、私自身も憧れる存在です。

—–一宮さんが生きて来た人生と彼女の生きて来た人生は、真逆だと思いますが、真逆だから こそ、理解できる感情と理解できない感情もあったと思いますが、お芝居にどう反映させましたか?

一宮さん:確かに私自身はフィリピンパブに働いた事もなく、正直、日本に来たのは家族のため でなく、母親が私と兄弟たちを日本に連れて来てくれました。でも家族を思い、フィリピンに いる親戚に仕送りもしているのは、私も同じです。家族を思う気持ちは、彼女と似ていると思 います。ただ今回は、彼女の前向きな性格を私の中に取り込んで、私自身のダメな部分を変え るチャンスでもありました。彼女を演じたことで、少しだけ強気になれたと思います。 —–一宮さんのお母様もフィリピンパブ嬢だったとお聞きしましたが、本作の登場人物ミカを 演じる上で、お母様のお話やアドバイスを参考にされましたか? 一宮さん:私はフィリピンパブで働いた事がありません。なので当時から現在に至るまでの経験 を母から聞き、参考にしました。母は昔タレントビザ(※1)を取得して日本のフィリピンパブで 働いており、今は、石川県にあるスナックバーで働いています。他にも私は、実際に接客する 母の姿を見学させてもらいました。 —–実際に、お母様からお聞きしたお話をお芝居で活かせたと思えた事は、ございますか? 一宮さん:ほとんどは、イメージトレーニングでしたが、お客さんとの接し方やお店の盛り上げ 方などは、実際に母が働いている風景を思い出しながら演じました。

—–また、日本に真面目に溶け込んで、日本人と一緒に暮らして行こうと意識しているフィリ ピン人の方がおられるのは、私としては日本人とフィリピンの方がお互い理解し合えたらと、 願っています。それでも、日本人は外国人に対して厳しい目を向けますが、お話をお聞きし て、本作を通して、日本とフィリピンが歩み寄れる環境が生まれる事を願うばかりです。

一宮さん:私もこの映画を通して、日本とフィリピンが、他国同士が仲良くなれたらと思いま す。日本は、とてもいい国ですが、少し真面目すぎると感じる事もあります。もちろん真面目 な事は素晴らしい事ですが、フィリピンが持つ心の余裕を時には取り入れて、バランスが取れ ると、もっと分かり合えると思います。そしてそれは、フィリピンにおいても然りです。

—–本作『フィリピンパブ嬢の社会学』ではフィリピンパブや在日フィリピン人の実態や内情 をポップに描いていますが、そこに内包するのは日本においての移民問題や外国人問題があると思います。日本人は、否定的な意見を持っている方も多くおられると思いますが、日本への移住を一宮さん自身が経験されていますが、この移民問題に対して思う事はございますか?

一宮さん:非常に難しい問題だと思います。私はフィリピンで生まれましたが、人生の半分は日 本で過ごしています。なので移住者としての視点と日本人としての視点を両方持っています。例えば日本の電車は並んで乗車しますし、車内は静かに過ごす事が常識だとされていますが、海外ではそうでない所もあると聞きます。そういった国から来られた方が電車に雪崩れ込もう としたり、車内で電話をしていたりすると、日本人からすると、怖いと感じたり、うるさくて 迷惑だと感じる事もあるでしょう。そうならないために、海外ではその国のルールを知ろうとする事が大切ですし、逆にその国に住む人は、そういった行為が悪意による物でなく、文化の違いに起因する物だと理解しようとする事が大切だと感じます。そうする事で、より素敵な国だと感じる事が出来ますし、移住者 は母国を代表して、移住先の国の人に見られる訳ですから、母国が素敵な国だと感じさせる事ができ、お互いにリスペクトした関係になれると感じています。

—–これから益々、日本においてフィリピンと日本の架け橋が必要になると思っていますが、 両国の橋をどうやって作っていけば良いと思っていますか?

一宮さん:言葉が一番の壁にはなると思います。映画を通して、お互いの国の文化やそれぞれの 国に暮らす人々の価値観や考え方をお互いに共有し合う事につながれば嬉しいです。また、私 も架け橋の一つになる事ができると信じています。

—–最後に、本作『フィリピンパブ嬢の社会学』が、どう広がって欲しいと考えていますか?

一宮さん:日本も含め、いずれフィリピンや海外にも広がって欲しいと願っています。フィリピ ン人は、出稼ぎに行っている家族の苦労や気持ちを知りません。なので、この映画を通して、 日本に出稼ぎに行っている人の視点から多くの事を考えて欲しいと思います。フィリピンにいる家族は、出稼ぎに出ている家族から、色々と助けてもらう事があると思いますが、実はそれ が、日本で汗水垂らして、血の滲むような努力の末に得たお金である事、それでもフィリピン に残る家族が、いい暮らしができるようにと頑張っていることを、フィリピンで暮らす方にも 知って欲しいです。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

映画『フィリピンパブ嬢の社会学』は現在、関西では大阪府のシアターセブンにて上映中。また、3月29日(金)より兵庫県のkino cinéma神戸国際。4月5日(金)より京都府のMOVIX京都にて上映予定。全国の劇場にて順次、公開予定。3月20日(水)には、シアターセブンにて白羽弥仁監督と安田真奈監督のトークショーが予定されている。

(※1)興行ビザは一体どんなビザ?https://workingvisa-kanagawa.com/kougyovisa/(2024年3月12日)