映画『Be Here Now』「今日が、出発点」西本達哉監督インタビュー

映画『Be Here Now』「今日が、出発点」西本達哉監督インタビュー

大人になれない男の映画『Be Here Now』西本達哉監督インタビュー

©️Film X

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—–本作『Be Here Now』の制作経緯を教えていただけますか?

西本監督:本作を撮る事になったのが、まず2019年の頃です。沖縄国際映画祭にて、前作が受賞をし、映画祭から助成金が出る事になったんです。1年後の映画祭で上映できるのであれば、作品を作りたいとなりまして、企画が指導しました。

—–そのお話から始まって、どのような経緯で制作が進みましたか?

西本監督:制作期間が、1年間しかない中、ゼロからのスタートでした。非常に急ピッチで作り始めめしたが、映画祭が終わった4月頃から始動し始め、その年の年内には撮り終えなければ、編集が間に合わなかったんです。

—–本当に、急ピッチですね。年末と言っても、恐らく、半年ぐらいでほとんど撮り終えていないと、間に合わないですよね。

西本監督:その年の年末に間に合わなくなると、年明けからの練習も間に合わなくなってしまうんです。振り返ってみて、非常に過密なスケジュールだったと記憶しています。脚本も本当、ゼロからの状態でのスタートでしたので、シナリオを早く書き上げないと、何も進まない状況でした。とても大変でしたが、幸いにも、通っていた映画学校の同期と話し合いながら、一人で作ったというよりも、仲間たちと一緒に作った感覚があります。

—–過密なスケジュールの中、悩みながらもどんな風に物語を構築されましたか?

西本監督:期限までに仕上げないといけなったので、第1項を書いて、その後、皆であれこれ面白くないとか言い合いながら、 クランクイン直前まで、撮影中含め、毎日毎朝書き換えて作り上げました。

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—–長編で作品を作るにあたり、監督自身、映画に対する考え方の変化や捉え方に変化はございましたか?

西本監督:今まで長編を撮ったこともないまま、スタートを切ったので、ぶっつけ本番でした。撮影しながら、皆で強くなった感じです。案の定、初めてトライしてみて、大変だと分かりました。長距離走を走るような感覚でした。

—–長編作りには、長く続かせる力、持久力が必要ですよね。短編と長編とでは、アプローチは違いますよね。

西本監督:他の方がどうなのか分かりませんが、短編だったら勢いで押し切れるんです。でも、長い時間になると、お客さんが求める読後感や持ち帰りたいものを考えていく必要がありますので、多分、長編になればなるほど、要求は上がっていくと思うんです。それが、ハードルが高いと思っていますが、この点に関しては、今回はなんとも言えない感じです。

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—–大村という人物は女性にだらしなく、うだつが上がらない生活を送る青年という設定ですが、この人物が放っている独特な雰囲気が、その作品全体にどう影響し合っているのか、作用しているのか、何かございますか?

西本監督:作品全体として、なんでもない人たちであり、上手く行ってない人たちの話です。見ている方は、誰も好きにならないと思うかもしれませんが、とんでもない人たちの話になって欲しかったんです。

—–なんでもない人たち。基本的に映画は、なんでもある人を描きますよね。過去に何か背負っている、逆に強烈なパワーを持っているなど。ただ、その「なんでもない」とは、一般的に共通するところがあると、私は感じます。世間に向けた共感性という観点としても、 ハリウッドのMCUを観ていても、誰もが憧れを持つものだと思うんです。でも、共感するかと言えば、しないものだと思うんです。逆に、何でも無いからこそ、この作品には共感性が高まるのではと。

西本監督:何かある人ばかりが、基本的に映画に出ますよね。特に、若手の作品やマイノリティーを描く作品、弱者であり、背負っている過去があり、その人物が変化していく物語が多い気がしています。そんな作品によって、救われる方がいるのも事実で、とてもいい事ですが、本当にただ生まれてかららずっと普通に過ごしている人たちが、世界中にはたくさんいます。僕もそんな感じですが、その方々が頑張る話を作れたらと思って、この話になったんだと思います。この点が、非常に大切な部分です。

—–たとえば、何か持っている人でも、現実社会では全体の1、2割だと思うんです。でも、なんでもない人の方こそ、 今の社会を支えています。なんでもない人生だからこそ、何か輝いて来るんです。大村の人生と人々の人生が、リンクして行く感じはあります。

西本監督:そのように受け取って頂けたら、非常に嬉しいです。このキャラクターは、いっぱい愛され、応援されるキラキラした人物ではないんですが、自身の生き方と重ねて観てくれたら、嬉しく思います。

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—–その点が、大村としての人間の魅力と感じます。この作品における大村の魅力とは、何でしょうか?

西本監督:大村が友達を亡くして、彼が行動を起こす物語でもありますが、その可愛らしさがありますよね。

—–自身も色々悩んでいた時に、ある女方から人生を変えるには行動力が必要だ、と教えられました。行動することによって、自身の生き方が変わって行くんだよと。行動力が、如何に大切か。

西本監督:そう思って頂くと、非常に嬉しいです。あとは、 登場人物たちを観て頂けたら、何でも無い人たちが、自分の考えを持って行動していて、それが少し滑稽でもあり、愛おしくもあります。 何が正しいのか分かりませんが、ひとまず、彼が行動を起こした事が魅力であり、愛おしいんです。

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—–何も行動を起こさない人生は、本当に何も変わらないと思います。大村が、何かしようと思って行動したからこそ、彼の物語が動き始めたと思うんです。だからこそ、行動する事が、未来の自分になって行くんです。今、自身が何をしたいのか、どう行動を取るのかで決まります。それが失敗したとしても、失敗から学ぶ事もあります。そうではなくて、まず行動してみることが如何に大切で、尊いか。 それを、この映画は、教えてくれていると思います。大村のような人物は、意外と今の現実社会にも普段、身近にいる存在だと思います。もし、監督自身と重ねる部分があるとすれば、 それは何でしょうか?

西本監督:正直、自己肯定感が低い性格は、自分にも似ている部分かと感じます。本作のセリフでも、大村が自分の事を好きじゃない事も言っていますが、僕もあんまり自分に自信がなくて…。人生は、勝手に進んで行くんですが、そういう点が似ています。そしてまた、登場人物の姿がリンクして来ると思うんです。

—–この作品は、ある出来事や経験を通して、大村のように、誰の人生にも過去を振り返る瞬間やタイミングが必ずあると思うんです。その監督自身、監督にとって、振り返ってみて、そのタイミングがあったと言えますか?

西本監督:僕はそれほど、転機らしい転機はなかったんですが、数年前だと、何をしていたんだろうと毎日のように振り返ってしまうんです。

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—–タイトルの『Be Here Now』には、様々な意味があると思います。「こっちに来い!」、「今すぐ来い!」と。私自身は「Be Here Now」が、「今ここ」(※1)、「今ここに存在する」という意味として解釈をしましたが、では監督にとって、ご自身の「今ここ」とは、何でしょうか?

西本監督:前向きじゃない答えになるかもしれませんが、ダラダラした人生の連続が今です。少しネガティブな答えになってしまうかもしれませんが、そんな感じです。今は、あの時のダラダラ感を立て直して行く事が、今後の目標です。今、過去の僕を直すか、直さないかによって、今後の未来は変わってきます。

—–もしかしたら、「今ここ」とは、未来の事を指すのかもしれないです。行動力一つで、未来は違って来ます。

西本監督:本当、まさに未来はまだ来ていないんです。まだまだ可能性は、たくさんあります。

—–だからこそ、「今ここ」です。今、私達がここに存在する意義は簡単な事だと思うのです。 未来を作っていくために、私達は今というこの時間に存在しています。今から、自身の手で未来を作って行くんです。今日という日が、私達の未来になって行く。

西本監督:今日が、出発点の可能性でもありますね。

—–最後に、映画『Be Here Now』が、今後どういう道を歩んで欲しいとか、また作品への展望はございますか?

西本監督:普段、映画館に足を運ばない人や、 少し人生に疲れている人、また楽しみを感じないない人、キラキラした人生ではない人、たとえば土日に出かけない方など、そんな方達に観て楽しんで頂けたら嬉しいです。モヤモヤしているような人たちにも、観て頂けたら、非常に嬉しく思います。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『Be Here Now』は、大阪府のシアターセブンにて、9月16日(土)、9月17日(日)、9月18日(月・祝)の3日間、上映された(現在は、上映終了)。

(※1)過去も未来もない。「今ここを生きる」のが幸せの条件「働く私たちの幸福学」岸見一郎講演録【後編】https://diamond.jp/articles/-/186658(2023年9月18日)