映画『stay』「SNSは心の拠り所」藤田監督に単独インタビュー

映画『stay』「SNSは心の拠り所」藤田監督に単独インタビュー

2021年9月4日

映画『stay』 藤田監督インタビュー

©東京藝術大学院映像研究科

インタビュー・文・構成 スズキ トモヤ

本日から関西の劇場で公開される映画 『stay』の 藤田監督にズームにて、リモート取材をした。

藤田監督は、今年の文化庁委託事業のndjc2021の若手監督の一人として選出された今、最も注目すべき未来のホープの一人だ。

—–この作品のテーマをSNSにしようとしたきっかけは、なんでしょうか?

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藤田監督:そうですね。着想からは少し離れる話になるんですが、擬似家族的なテーマにした部分に近いからと思っています。

なぜ擬似家族にしたかと言うと、家族は一生家族なんですよね。

選べないと言いますか、ある意味離れられない関係性だと思っています。

ただ僕自身、一緒に住んでいた頃、家族と上手に関係性を築けていなかった経験もありました。

上京してから一人暮らしするようになり、親子の関係がすごく良好になり始めたんです。

そういう実体験が、この映画にも反映されているのかと思っています。

例えば、この映画に出てくる登場人物たちは、どんな過去があったのかなんて、まったく語られていません。

どこか現実から逃げて来たと言いますか、新しいコミュニティを求めて来ているように感じます。

そんな人達を自由に受け入れてくれるプラットフォームが、この世の中にあった方がいいなということを考えていました。

彼らの受け皿と言いますか、作品に登場する空き家を誰でも受け入れる家として、もしくは最後の受け皿として作りたかったのです。

—–空き家をSNSに例えたのは面白い発想です。どのタイミングで空き家とSNSという構図の物語が、生まれましたか?

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藤田監督:SNSは恐らく、家と出会ってからです。

そもそもこの作品を作ろうとしたのは、あの古民家と出会ってから、着想を得ました。

映画のテーマとしてメインで撮ろうと思った時に、家自身を撮ることを意識しました。

人にフォーカスをしない方がいいなと思い、家そのものを撮ろうとしました。

だから流動的に人が出入りしている設定にしていました。

流動的に誰でも入れる佇まいが、今で言うSNSっぽいなと感じました。

そのような着眼点に繋がり、このタイミングで着想として思いつきました。

—–敷居が低いと言うことですね。

藤田監督:入ってくることを拒否できないんですよね。

—–入る側も入られる側も、ある意味開放的ですね。

藤田監督:そうですね。

拒否できない上、各々の考えで動いていることが、そこの家でのルールとして、SNSに近いのではないかと思います。

—–インターホンが、意図的に鳴らない演出は、どのような意味を持っていますか?

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藤田監督:玄関は、建物の入口、家の始まりです。

その部分が曖昧になっているという描写としており、押しても押さなくても入ってこれる表現として使いました。

一方では、後半それが直るという現象は、矢島が最初に入って来た時とインターホンを押すことで違う人間として入って来るという表現もあります。

押して入ることが、まったく別の空間に入るという表現でもあります。

ベルが直ったことで、あの家に入るための新しいルールが増えたと言えます。

人が出ていった後に、ルールが再構築されたと言ってもいいと思います。

—–開放的と閉鎖的な意味合いも持っているのかなと思いました。

SNSの話になりますと、このツールは開放的でもある反面、閉鎖的な一面もあると思います。

役所の人間が訪問した時に鳴らないのは、住民が排除しようとしている一面にも捉えることができます。

次にベルが鳴った時は、ここは開放的な場所であると暗示しているようにも捉えることができました。

藤田監督:確かに、ルールの組み換えは意識していました。

この家のルールをフラットにしたのは矢島ですが、マキでもあると思います。

フラットにしたその結果、2階にも行けるようにもなったという描写も描いています。

そのような演出も意識して、作らせて頂きました。

—–役所の職員と住民の関係性の距離感が、すごく近く感じましたが、演出上で何か表現しようとされましたか?

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藤田監督:僕自身、役者さんに対して演出することに正直、自信がなかったんです。

初めて劇映画を作ったという経緯もありました。

設定も人物の背景も伝えることはすべて伝えた状態で、あの場に入ってやってみてくださいという演出の仕方をさせて頂きました。

細かい指示はあえて出さずに、その設定を背負った状態での演技が一番大事だということをお伝えして、演じてもらいました。

言われている関係性や距離感というのは、僕が意図してるというより、役者さん同士で自然とできあがった演技です。

役者の演技に対して、僕がチューニングかけたりしたことは、特にしなかったです。

—–そのようなお話を聞けると、また違った視点で作品を観れて、面白いですね。

藤田監督:そういう点で考えると、役者さん自身の性格に近い演出です。

—–比較的、普段の振る舞いや言葉遣いが出ておられるんですね。

藤田監督:今考えると、その点では上手く行っている部分もあると思います。

役者さんの中には、人を引っ張る力をお持ちの方もおられまして、その性格が作品の中でも上手に反映されているのではないかと思います。

シナリオを書き上げ、俳優の方とお会いした後、各々の役者さんの雰囲気に合わせて書き直した部分もあります。

—–食卓を囲っている場面で、職員の矢島が空き家のコミュニティ(SNS)に対して、肯定的な意見を述べていると思いますが、監督自身は近年のSNSについて、どう思われますか?

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藤田監督:僕自身もアカウントは持っていますが、積極的には発信したりはしていません。

なぜかと言いますと、個人的な話ですが、SNSを発信し過ぎてしまうと、その人の人物の性格や内面、人となりが分かってしまう部分もあると思います。

僕は自分自身、見えすぎない方が謎に包まれている感じがいいと思っています。

だから、積極的には発信しないようにしています。

他の人が発信していることに対しては、肯定的には考えています。

この作品をSNSと絡めて話しますと、ある意味古民家そのものが隠れ家的だと思います。

この物語に登場する人物たちは、社会から阻害された人達だと思います。

SNSっぽいところもありますが、どちらかと言えば2chに近いところもあります。

アングラな世界のプラットフォームだと思います。

受け皿として、このような場所があってもいいとも思っています。

—–メタファーとして、家がSNS、住民がユーザーという設定ですが、突然登場する職員は、そのメタファーの中で、どのような役割でしょうか?

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藤田監督:役所の人間が、なぜ来たのかという問いは比較的難しくて、役所として仕事をしに来ているんです。

ある意味観終わった後に、彼の仕事や存在が何だったのか、分からないと思います。

だから、迎えに来ないという設定にもなっています。

普通は迎えに来るとは思いますが、それが起こらない世界なんです。

そもそも役所の職員が、なぜ家に訪問してきて、どういう役割を持ってるのかが、重要になってきます。

—–確かに、どのような人物か、という背景がないと、仰ってましたよね?果たして、彼が役所の人物なのかどうか、曖昧ですね。

©東京藝術大学院映像研究科

藤田監督:そうなんですよね。

少し意識したのは、不条理劇的な要素もありまして、「ゴトーを待ちながら」ではないですが、ずっと待ってても人が来ないというSFっぽさも意識して作っています。

一応は外部の人間が、内部のことを変えていくきっかけになったというストーリーは、作っています。

今まで同じルールが続いていたのに、彼が来たことでそのルールが崩壊してしまいます。ただ、矢島(職員)という人物の話をすると、単純に役所の人間として来ているだけという設定しかありません。

逆に、他の住民の方たちは、何かを抱えているからここ(古民家)に逃げた来たんだろうなという想像は、できると思います。

矢島に関しては仕事で来ているという設定に違いをつけようとしました。

自分から古民家に来ている人は、何も起きない日常が続きます。

一方で、仕事で来た人間(逆にあの家に来なさそうな人間)が、訪ねてくることで環境がガラッと変わると思います。

だから、そのようなモチーフで矢島を登場させました。

本当の外部の人間が来ることで、あの家のルールが変わったと言えます。

—–とても重要なキャラクターですよね。彼がいるのと、いないとでは、物語の展開が大きく変わりますね。

藤田監督:あの家に近寄らなさそうな人物が、仕事として訪問させることで、あの家を変えて行くと思います。

—–ありがとうございます。本作で一番観て欲しい場面など、ございますでしょうか?

©東京藝術大学院映像研究科

藤田監督:映画館を意識して作ったのもあります。

例えばシネスコで作ったのもありますし、音にこだわって作ったのもあります。

僕自身もすごく感じるんですが、この映画を劇場で観るのと、家で観るのでは感じ方がとても違うと思います。

音の聞き方とか、ディテールの部分とか、作品の細部にまでこだわって作りました。

あとは、コロナ禍を経てですが、そもそもコロナになる前に撮影した作品です。

今の状況では物理的に人との距離感を見直す時代にもなっていると思います。

その反対に、リモートを活用して、全世界で話せるようにもなったという距離感もあると思います。

人と人との距離が、すごく変わってきたのではないかとも感じています。

急に変化したのもあると思います。

コロナを経てからの視点で、人との関係性や距離感を考えてもらえたらと思います。

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—–最後になりますが、この作品をご鑑賞かれるお客さんに感じて欲しいことなど、ございますか?

藤田監督:劇場を意識して作った短編映画とは言いつつも、実際映画館で観ることは、ほとんどの方が経験したことがないと思います。

興行的にも難しいのもあると思います。

ある意味チャレンジングなことだと思います。

皆さんと頑張って宣伝とかもしてきたので、とても珍しい映像体験ができると思います。

ぜひ観に来て欲しいです。

映画『stay』は、本日9月4日(土) から 大阪府のシネ・ヌーヴォにて上映開始です。また、京都府のアップリンク京都にて、9月17日(金)、9月19日(日)、9月21日(火)、9月23日(木)の4日間限定上映の予定。