映画『静謐と夕暮』主役・山本真莉さんにインタビューを敢行。山本さんは、主演の他、メイク・ロケーション管理・美術監督・衣装管理・小道具も担った。
—–主演を演じるに当たって、役作りであったり、演じられる面で、何か気をつけていたことは、ございますか?
山本さん:脚本に書かれていることからカゲという人物を作っていったというよりも自分の幼い時の記憶、特に父親との記憶を何度も何度も頭の中で考えていました。
カゲという 人物にとっても山本真莉にとっても父親との記憶は大切なものだと思ったからです。
一言も喋らないということにはじめはもちろん戸惑いましたが、その分心に沢山言葉 が巡っていてずっと喋っている感覚であの場所にいました。
あとは、その場所の空気 と一体化する意識を常に持っていました。
自然が豊かなロケーションが多かったので、 美味しい空気を沢山吸って、その自然から貰えるエネルギーを使って一緒にお芝居を していました。
——本作の制作に参加された、ご経緯をお聞かせいただけますか?
山本さん:本作は京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)の卒業制作として制作された作品です。
なので、必ず作品に参加しないと卒業ができない(単位が貰えない)ので、すごく悩みながら同級生が提出していた企画書を読んでいました。
その中でも異彩を放っていたと言いますか、すごく梅村監督のやりたいことが沢山書かれていて、その熱量に興味というか自分の中にある冒険心みたいなものが刺激されて、私の方から「この組みに参加させてほしい」と頼み込みました。
大学四年間のうちに出演した作品はありま したが、自分の代表作と言えるものがなく、卒業するなら絶対に自分が「一番しんどい」と思う組に行こうと思っていたので、そこも決め手でした。
—–河原で過ごす男性の身の回りに乱雑に置かれている小道具などが、目に留まりまし た。小道具や美術に拘ったところはございますか?
山本さん:こだわりは梅村監督の方が強いと思います(笑)
ですので、監督に提示する際にしっかり理由も話してあの世界観を作り上げて行きました。
小道具は脚本に細かく書かれていることが多かったので、どうすれば監督のイメージになるのか、あとそのイメージよりも面白くできるかをこだわっていました。
お気に入りのシーンは魚を焼くシーンです。あの空間に漂う二人の距離感と夕暮の温かさを感じられます。その上、沢山美術にフォーカスが当たります。
—–撮影中、メイクもご担当されているようですが、「この場面」でのメイクはこだわっ たなど、何か記憶に残っていることはございますか?
山本さん:主人公「カゲ」は、ほとんどノーメイクなので、あまりこだわりはありません。
ですが、カゲについては寝起きそのままの髪の毛で現場入りしていました。
繋がりの問題はあるのであまりに寝癖がひどいと直していましたが、あまり綺麗にしようとせず、家から現場までの切り替えみたいなものを極力無くしていました。
メイク部として一番印象に残っているのは中学生 A の傷メイクですね。全体的に引き画が多いので引きで見ても怪我が映るようにしました。
—–ロケーション・ハンティングで大変だったことや、苦労されたことはございますか? また、アパートであったり、小高い丘のロケ地はどういう経緯で見つけましたか?とても素晴らしいロケ地ばかりでした。
山本さん:ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ロケーションに関してはスタッフ三人でロケハンに行って何度も考えてとてもこだわりを持っているので、注目していただけたらと思います。
丘はスタッフが三人ということもあって、なかなか遠出ができないので、Google マップのストリートビューを使ってインターネット上で見つけました。
アパートは1ヶ月実際の部屋を借りて撮影したのですが、まず部屋の間取りや雰囲気を見て「いいな」と思ったら内見に行って周りの環境も気に入ったところに決めました。
日当たりやカゲがそこで生活していることを想像できるかを考えていました。
—–ここはじっくり観て欲しいという山本さんにとって、お気に入りの場面は、ございますか?
山本さん:沢山ありますが、丘の上でのカゲの家族のシーンですね。何度見ても感動します。
—–山本さんにとって、本作はどのような存在でしょうか?今後、どのようにこの作品と携わって行きたいとか、ございますか?
山本さん:映画『静謐と夕暮』は私にとってかけがえのない作品です。
私という一人の人間を映し出してくれて、映画を通じてたくさんの方に出会わせてくれた。私がお芝居の道を諦めようと思っていた時や悩みが多かった頃、本作を支えに生きていました。
色々な場所で上映できることを願っております。
—–梅村監督にも同じ質問をしておりますが、山本さんにもお聞き致します。山本さんにとって、本作の要素にもなっている「死生観」とはなんでしょうか?
山本さん:まだまだ「死生観」を語れるような年齢ではないのかもしれませんが、ちょうどこの作品を撮り終えた年と翌年、立て続けに二人の祖母が亡くなりました。
その時に思ったことがあります。祖母が死んだことよりも祖母との思い出や祖母が生きていたことをしっかりと覚えていたい。
祖母の笑った顔、祖母の作るおにぎりの味、祖母の最期の顔。
きっと映画『静謐と夕暮』という作品に関わっていなかったら、そんな風には思えなかったと思います。
その人が生きていたことを覚えていること。私の最期は、誰かが「私が生きていたこと」を覚えていてくれれば、それでいいような気がしています。
生きているうちにたくさんの好奇心を持って日々を過ごしていきたいです。祖母のように。
—–最後に、作品の魅力を教えて頂けないでしょうか?
山本さん:きっと観てくださった方それぞれに感じられることは違うと思いますし、それでいいと思っています。監督がトークショーなどで言っていた言葉で素敵だと思ったものがあります。
「本作を観た後の日常が、観る前よりもほんの少しでも素敵に見えればいいなと思います」帰り道にいつもは何も思わず通り過ぎる店や、帰ってきた時の部屋や、大切な人との会話が少し、ほんの少しでも素敵だと感じられれば嬉しいです。
忘れていた大切なものを136分の中で思い出せるかもしれません。この作品の魅力は見ていただいた方の中にきっとあるはずです。劇場でお聞きできるのを楽しみにしております。