オムニバス映画『人形たち Dear Dolls』誰もが感じる社会病理

オムニバス映画『人形たち Dear Dolls』誰もが感じる社会病理

2023年4月14日

わたしたちは、まだ、人間になってないオムニバス映画『人形たち Dear Dolls』

「JOMON わたしのヴィーナス」

生きづらさを感じるすべての人へ捧げる珠玉のオムニバス作品。

昨今、社会からそっと耳に語り掛けるようになったこの「生きづらさ」問題。

昔は、まったく耳にしなかったと記憶しているが、(※1)いつからこのように言われる社会となったのだろうか?

遡れば、1981年の日本精神神経学会総会にて、発表されたのが最初と言われている。

今から42年前のこと。

社会的に見れば、比較的新しい考え方だ。

また、この生きづらさを感じる(※2)原因は、様々あると言われており、例えば、性格、人間関係、差別、障害、アダルトチルドレン、HSP、発達障害、愛着障害などがその原因として挙げられているが、恐らくこれは、全体のごく一部だろう。

まだ、対象として挙げられていない生きづらさの原因も存在するに違いない。

今後、ますますこの「生きづらさ」に関して、生きにくさを感じる人々が増え、日本社会は敏感となり、精神医学界では研究が進められ、これから社会の中でどんどんどんどん注目され、重要な事案になっていく事だろう。

「Doll Woman」

映画『人形たち Dear Dolls』は、人形という存在を取っ掛りにして、この「生きづらさ」を社会で感じる女性たちの姿を描いた長編オムニバス映画だ。

日本のインディペンデント界隈で活躍を続ける4人の女性監督が集結し、それぞれ4監督が感じる女性の存在、そして生きづらさについて作品を紡ぎ上げた。

西川文恵監督が手掛けた1本目の映画『JOMON わたしのヴィーナス』は、将来に悩むある少女が、田んぼで拾った小さな人形をきっかけに生きる道を見出す姿を描く。

大原とき緒監督が手掛けた2本目の映画『Doll Woman』は、人形と暮らす風変わりな女性が、人形と暮らすホームレスの男と出会う前古未曾有のボーイミーツガールだ。

海上ミサコ監督が手掛けた3本目の映画『怒れる人形』は、上司からのパワハラ、セクハラに悩む姉を見て、彼女に代わって復讐を誓う勇ましい妹の姿を描く。

そして、最後となる4本目は、吉村元希監督が手掛けた映画『オンナのカタチ ヒトの形をして生まれながらも存在消されしモノの情景』は、「女らしさとは何か」「女性であることとはどういうことか」と問い、現実と虚構を行き来しながら女性という表象について考察していく作品だ。

長編オムニバス映画『人形たち Dear Dolls』はこれら4作品から構成された一種のシスターフッド映画だ。

この企画を立ち上げたプロデューサーでもある大原とき緒監督は、しっかりとした打ち合わせはしなかったにも関わらず、参加した4監督の4作品すべてが、目指していたテーマ性と合致し、それぞれが考える「女性像」が映像として焼き付いていると話す。

テーマだけに関わらず、実験映像という観点からでも、偶然にも全作品が実験映画という括りとして捉えることができるのは、非常に興味深い作品群だ。

本作をそれぞれ監督した4監督の総意には、強い決心を感じて止まない。

「私たちの映画を一人でも多くの方に、まずはその存在を知って頂きたいと思います。私たち、というのは決して若くない4人の女性です。私たちは映画監督です。男女平等とか、ジェンダーギャップとか、性暴力とか、おそらく聞き飽きていらっしゃることでしょう。もうそろそろ、そう言う話は終わりに出来ないか、と思っていらっしゃる方も多いと思います。私たちも、そう思っています、本当に。でも、私たち女性に生まれた人間は、どんなに飽きても、お終いににすることが出来ない問題をずっと抱えて生きていかなければなりません。自分の人生を”お終い”にしてしまった、”お終い”にされてしまった女性達を何人も見てきました。私たちはただ私たち自身として、生きて行きたいと思うのです。」

「怒れる人形」

この言葉には、非常に切実な願いが込められており、女性の権利に対して何かを考えるいい契機になれればと、願うばかりだ。

大原監督自身、これらの問題に対して、声高にはしたくないと話す。

それは、確かにそうだ。

声を大にしたところで、伝わるものも伝わらない。

まずは、少しずつ、一人ずつ、理解者を増やしていく事が重要だ。

このジェンダー問題は、近頃多くの作品が取り上げているテーマでもある。

映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』や映画『ミューズは溺れない』でも、近しいテーマを取り扱っている。

後者の作品を監督した淺雄望監督とは、「男性性」「女性性」について、また「男性らしさ」「女性らしさ」について、インタビューを通して、時間をかけ、幾度となくディスカッションを重ねた。

両者共に、これからの社会がどうあって欲しいか結論付けた結果、「男性」「女性」という性別に囚われず、一人の「人」としての存在理由への価値を高めて行きたいという話へと落ち着いた。

もう、「男性だから…」「女性だから…」という考え方から脱却して、もっと違う価値観をお互いに養いたい。

また、公開が始まった映画『未来は裏切りの彼方に』を監督したペテル・マガート監督も戦争映画において、女性が主体の、強い女性像を映像を通して表現したかったと話す。

今、世界的に見ても、女性としての権利復権を大事にする風潮になっているのは、周知の事実だ。

これから先、人が人として、互いを尊重し、尊敬し合える社会を築く必要があるのではないだろうか?

「オンナのカタチ 
ヒトの形をして生まれながらも
存在消されしモノの情景」

最後に、本作が一つのテーマとして掲げている「生きづらさ」は、女性に限った事ではない。

現在の日本社会に生きる弱者は皆、肩身の狭い思いをして、日々を過ごしている。

誰もが悲しみの涙を流さない、悔しい思いをしない、理想論ではあるが、そんな社会を作っていくのが、私たちの役目だ。

大阪の泉南市で起きた(※3)「泉南市男子中学生自殺事件」のいじめ自殺問題。

大阪の生野区で起きた(※4)「生野区聴覚障害女児死亡事故」のご両親のお辛い胸の内。

事件名は分からないが、大阪の平野区で起きた(※5)発達障害を患っていた男性の自殺問題

(※6)旧優生保護法の名の元に、障害者夫婦が同意もなしに避妊手術を受けさせられていた問題など、挙げれば暇がないほど、あらゆる人権蹂躙が蔓延っている。

このように光の届かない問題にも、少しずつスポットを当てて行く必要性を感じて止まない。

本作『人形たち Dear Dolls』は、生きづらさを感じる女性を主体にした作品ではあるが、それは誰もが感じる社会病理だ。

綺麗事を並べているだけかもしれないが、障害者だけでなく、健常者であっても、誰もが人として意見の言える、不公平さを感じない、平等に扱われる社会を共に作り上げて行くしか他ならない。

生きにくさを感じる人を減らす第一歩は、まずここからだ。

私たちは、人として何をして行く必要があるのか、本作を通してじっくり考えて行きたい。

「Doll Woman」

オムニバス映画『人形たち Dear Dolls』(映画『Bird woman』併映)は、4月15日(土)より大阪府のシアターセブンにて、1週間限定上映。

(※1)「生きづらさ」とはいったいなにか?https://brain-soul.com/corner47/corner71/index.html(2023年4月14日)

(※2)生きづらさの原因とはhttps://s-office-k.com/personal/column/symptoms-of-illness/psychology/difficult-to-live(2023年4月14日)

(※3)中1男子が自殺『届かなかったSOS』…放置した市教委 市が第三者委員会に『虚偽報告』か 遺族が録音した当時の説明と食い違う内容https://www.mbs.jp/news/feature/scoop/article/2023/02/093155.shtml(2023年4月14日)

(※4)聴覚障害の女児死亡事故 逸失利益は85%3700万円余判決https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20230227/2000071390.html(2023年4月14日)

(※5)「障害書かされ自殺」 自治会に賠償命令 因果関係は否定https://www.sankei.com/article/20220304-BQD2JGKOXJLPZJK5OCYSVZUXQM/(2023年4月14日)

(※6)旧優生保護法下において実施された優生手術等に関する全面的な被害回復の措置を求める決議https://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/2022/2022_3.html(2023年4月14日)