映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』阪元裕吾監督インタビュー
—–まず、本作『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』の製作経緯を教えて頂きますか?
阪元監督:1作目のヒットが、ジワジワ伸びて行った感じでした。
なかなか、大きな手応えがあったと言うのか、興行的にはもどかしい一面もありました。
「やったぁ!」っていう達成感はなく、ジワジワ人気が登っている感覚しか持てなかったんです。
そんな中でも、2作目を製作したいと、前作の撮影時からずっと公表していました。
それをしつこく言い続けた結果、続編の製作が実ったと言ってもいいぐらいです。
1作目の頃から2作目のプロットは、ずっと考えていました。
自主映画であっても、続編を製作したいと願っていたのが、叶ったかなと思うんです。
—–主演のお二人とは、過去作『ある公務員』から続けて組んでおられますが、阪元監督の製作チームとして現場での雰囲気はどうでしたか?
阪元監督:関係者のみんなは、1作目を越えようと誓い合っていました。
スタッフワークとして、あの作品を納得している方はいませんでした。
限られた予算の中、時間制限がある中、もっとできたことがあったんじゃないかなと、みんな思っていました。
個人的には、前作『ベイビーわるきゅーれ』を久々に観直したら、鑑賞中しんどい気持ちに襲われました。
例えば、家でダラダラしている場面に対してお褒めの言葉を頂きますが、どこまで、あの場面を面白がれるのか、若干、疑問点でもあるんです。
ただ、観客の方は彼女らのそんな姿を観たい。
家の中でグウタラしているシーンを観たいと言う意見がすごくありました。
皆さんのお声に対して、僕自身、面白くないからと、作風を変える必要はないと感じました。
僕は、脚本を新たに書いて、美術兼装飾担当の岩崎未来さんが気合いを入れてくれて、より進化した2人のあの部屋を美術や小道具で表現できたと思うんです。
–—-前作に比べ、美術面が作品をより面白くしたという事ですね。
阪元監督:コンセプトとしては、ソファから降りなくていい生活をしている2人を想像しました。
そういうイメージで、作品を構築しました。
—–今回も前作同様に、シナリオ面でオフビートが効いており、笑いもあり、キレキレなアクションもあり、今作でもそれが非常に目立っていました。例えば、着ぐるみでの乱闘シーンは圧巻でした。また、冒頭の叙々苑に関するセリフは、非常にリアルさを感じました。若者たちの生活の中で起きるこのリアリズムは、どのようなエピソードから生まれましたか?
阪元監督:1作目の頃から忘れず行っていたのが、メモですね。
これが、とても大事かなと思っています。
すべてではないですが、ありとあらゆる人間の面白いと感じた会話をメモらせてもらうのが、台詞を考える上で一番大切かなと思うんです。
あとは、メモを見返したり、Twitterのつぶやきも目を引くコメントや面白いと思ったツイートがあれば、メモらさせて頂いています。
意外と、創作物から着想得たりはしておらず、本物の人間の言葉をお借りして、映画に落とし込む事を大事にしています。
—–だから、着ぐるみの乱闘シーン含め、登場人物の言動にリアルを感じるんですね。
阪元監督:最初は、現実にありそうな感じのリアルさを出していましたが、あの場面も一つのアクションシーンにしてしまおうとしました。
最初は、少ないカット数でちょっとした小競り合いの場面として撮影しましたが、最終的には本格的なアクションシーンになってしまいました。
—–ガチガチなアクションを作品に挿入することによって、ある種、現実味がなくなり、逆にエンタメ要素があって、面白くなるのかなと思いますね。
阪元監督:1作目に比べ、リアルに感じる場面を減らして、もう少し分かりやすいエンタメに寄せるようには気をつけました。
前回は、バサバサ人が撃たれて、頭から血を流して死ぬ事が多かったですが、その場面を極力減らしてみました。
実際に、映倫のPG12に引っかかるような演出をなくして、対象年齢に対応して、誰もが観れる、どの年代の方でも楽しめる作品を目指しました。
–—-前作は少しギリギリで、年齢によっては観れない対象の方もおられたのでは?
阪元監督:そうですね。前作では、最初に映倫からR15と指摘を受けまして、血の場面を抑える対応をさぜるを得なくなりました。
—–手間があったり、観て欲しい場面でも、編集でカットせざるを得なくなったのでは?
阪元監督:それも含めて、前作では困難な事も多々ありました。
今回は殺しをする場面が実は、少なくしています。冒頭とクライマックスの終盤にしか、用意していないんです。
殺しの場面は、少なくしましたが、逆にそれが際立つように作戦を練りました。
作中で、次々に人を殺しても、ラストシーンがお客様の心に響かないなと考え、今回の戦略にシフトチェンジしました。
—–冒頭のアパートで殺し合う場面は、非常に痺れました。
阪元監督:男6人程が殺し合うシーンは、韓国のノワール映画をイメージしました。
映画『新しき世界』のアクションシーンを参考にしてみたんです。
アクションとは、肉体舞踊と捉えることもできますが、それだけでなく、アパートのごちゃごちゃした乱闘場面では、アクション監督の園村さんが、その場の空気感をすごく考えています。
ちゃんとしたアクションとコミカルな場面を分けて作る事によって、アクションジャンルの中で珍しい部類の作品に仕上がったかなと、思います。
普段、アクション映画はトーンが均一になりがちですよね。
—–園村さんも、昔のアクションは組手や技を組み合わせて作る作品が多いと仰られていました。阪元監督が仰る通り、トーンが均一になってしまうんだと思います。でも、アクション監督としての園村さんはそうではなく、感情に訴えかけるアクションという新しい観方ができるようにしているようです。
阪元監督:そうかもしれないです。従来のアクション映画は、シチュエーションと物語が乖離している作品が多く、アクションターンと物語ターンが分されているように感じるんです。
自分自身、まだまだ難しく感じる一面もありますが、例えば、物語と物語が高まるラストバトルでは、アクションが弾ける仕組みにしています。
そういう演出が、一番大事かなと、考えているんです。
いきなり始まるアクションも面白いですが、感情があって、アクション場面に繋がるのがいいと思います。
—–自然の流れでアクションを魅せるのは、技術が非常に必要になる事かと思いますが、その点では難しく感じた事は、ございますか?
阪元監督:やはり着ぐるみバトルは、難しかったですね。2人の感情が見えない中、着ぐるみの切り返ししかなく、一瞬アイアンマン・カットも挿入してみたりと。
ギャグシーンなので、あまり深く考え過ぎなくてもいいんですが、あの場面が一番、苦労しました。
どういう意味があるのか、と考えしまう場面になっていると思うんです。
なんで、いきなり戦っているのか、説明がありません。
それでも、園村さんは、蹴って蹴られて、とちょっとした小競り合いから始まります。
いきなりアクション場面にはならず、お互いにフラストレーションを抱えたまま乱闘になります。
ある程度、2人の段階を踏んで、アクション場面へと繋がり構成を考えて頂けました。
—–やはり、映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズに欠かせないのが、先程も話題に上がった園村さんのアクション指導ですが、アプローチ含め、よりグレードアップしたと感じる一面は、ございますか?
阪元監督:とにかく、1作目のアクションはリアリティが重視で、どちらかと言えば、映画「ジェイソン・ボーン」を彷彿させてます。
例えば、一般人が実は強かったというアクション設定ですね。
前回では、メイド喫茶の場面がそれに当て嵌り、一般人かと思っていたら、実は最強に強い人物として描かれています。
その設定からシフトしたアクションが、銀行強盗の場面で使用されているのかと考えられます。
ジャッキー・チェン風であったり、ジェット・リー風であったり、とにかくジャッキーアクションのように、アクションが始まりましたというサービス精神旺盛なシーンが多く増えていて、伊澤さんのかっこいいカットもあります。
前作では、攻撃を受けながら戦うようなサスペンス要素が強かったんですが、今回はより爽快なアクションへとシフトしている点は、一番大きい所です。
それは、伊澤さんへの祝福と言いますか、再びスクリーンに戻ってきてくれた彼女へのお祝い的なアクションかなと、思います。
—–同業の殺し屋の命を狙う設定は、非常に私的な内容で、共感性があり、親近感が湧きますが、この設定が生まれたきっかけは、何かございますか?
阪元監督:悪役と言いますか、この世界における「悪」とは何かを、すごく考えました。
前作では、ヤクザを「悪」と置き換える設定にしました。
個人的に、あのヤクザは上手く行きましたが、今回では違う悪と外道が出てきて、殺人鬼が登場してという設定を置くのではなく、よりもっと主人公たちの裏映しみたいな、もう一つの「ベイビーわるきゅーれ」をここにもあったかも知れないと言う話をしたかったんだと思うんです。
今の時代は「悪」を描くのが難しくなって来ていると思います。
だからこそ、敢えて悪人ではなく、ライバルと言う設定に結びつきました。
どこにでもる話にしようとしたんです。
「悪」を描くと言うより、みんなが思っているような現実的な話を描こうとチャレンジしました。
—–前3部作『最強殺し屋伝説国岡』『ある用務員』そして1作目『ベイビーわるきゅーれ』を殺し屋3部作として捉えた時、本作での経験がネクスト・ステージへの兆し、予兆を感じますか?
阪元監督:例えば、そのご質問は「フェーズ」という局面として考えてのお話ですか?
—–そうですね。そのように捉えることもできます。阪本監督にとって、これから「フェーズ2」という局面に入っていくのかなと、私は感じます。
阪元監督:それは、多少なりとも、あるかも知れないですね。
続編ですので、キャラクターが自分の想像しないところに、走り出している事が、一番大きなポイントではあると思いつつ、作品の作り方も変わって来ました。
悪党を出さないのが、一番のキーポイントです。
悪を出さないと言うより、悪について考えようとしていると、自分に対して感じます。
今の日本における悪党とは、一体何者だろうかと、そこをちゃんと脚本に落とし込まないと、つまらないと思ったんです。
それを考えていたのは、1作目の頃だったと思うんですが、あのヤクザの親父みたいな存在を悪人にする事に対して、今作では悪党という存在を、存在しない作品にしました。
だから、次回作では、とんでもない悪党が出てくるかもしれないです。
そういう「悪」の在り方について、またそれに対する「正義」の在り方もまた、どんどん変化している世の中です。
これがいいと思う事が、良くないと言われる時代に、急激に変化しています。
迷惑動画も含めて、また世の中の全体の雰囲気がそうなっていると思います。
—–コロナ禍という社会背景もありますよね。
阪元監督:確かに、コロナ禍という環境下の変化は、大きくあると思います。
世の中の監視は強くなりましたね。
世間では、より強度に大きなモノに巻かれるようになったのかなと、薄ら感じてしまいます。
その感覚みたいなモノが、より強くなったと思うんです。
コロナが原因で、社会や人々が分断されて、国民同士が喧嘩するようになったと、多少思っています。
そんな時代の中、殺すべき悪人とは、何だろうか?と、考える事が増えました。
—–殺し屋とオフビートな笑いという斬新な組み合わせが、ヒットに繋がったかなと思いますが、本作はその要素を引き継ぎつつ、他に斬新さがあるとすれば、どのような点が挙げられますか?
阪元監督:まず、生活に根付いてる作品と言えます。
ただ、悔いが残る事と言えば、東京の生活史のようなものをちゃんと描こうとしましたが、それが表現できているのか、定かではありません。
ただ、映画『火花』という作品のような感じに仕上げました。
そういうのを描けたら良かったのですが、都内の撮影環境が本当に良くないんです。
新宿で撮影しようと思ったら、ゲリラ撮影になってしまうんです。
—–映画撮影に対する、日本の対応はどこの地域でも、同じなような気がします。
阪元監督:だから、恐らくですが、新宿でゲリラ撮影している作品も多くあると思うんです。
今はコロナ禍が原因で、ゲリラ撮影もできにくい状況です。
その辺を踏まえて、アニメ業界にどんどん侵食されて行ってます。
聖地巡礼含め、アニメでの注目度合いは凄い状態ですよね。
でも、実写がアニメに聖地巡礼で負けてしまうのは、如何なものかと思います。
—–近頃、実写での聖地巡礼は、減りつつあるのなかなと、思います。
阪元監督:そうなんですよね。前作では、よく聖地巡礼して頂けましたが、それが正直、歯がゆく感じてしまうんです。
アニメは正しいんです。ただ、それ以上に、実写が負けている現状は、どうにかしないといけないんです。
例えば、江ノ島旅行しているエピソードがあって、みんながそこに行くのであれば、製作サイドもロケ地を江ノ島に設定して、撮影するのがいいんだと思います。
そうなるべきが、現状はそう簡単に上手く行けてないんです。
今回の2作目では、千葉県の木更津で撮影しましたが、撮影場所を千葉と公表できないので、無理やりCGで文字を変えたりして、対応しているのが、非常に勿体なく感じます。
1作目では、鶯谷を利用しましたので、次は浅草辺りで撮りたいと計画していました。
アニメ『リコリス・リコイル』では、浅草旅行編があるのに、実写では限界があるんです。
その点が、非常に辛い一面でもあり、つい頭を抱えてしまいます。
何を言いたいかと言いますと、現代の大都会に生きる殺し屋という設定を、可能な限り映像で表現しようと心掛けました。
—–阪元監督にとって、殺し屋とは何でしょうか?正直、現代においてヒットマンを描く作品は、減っているのかなと感じます。
阪元監督:そうでしょうか?マンガでは、『ザ・ファブル』以降は、殺し屋作品も注目を受けていると思います。
邦画だと少ないかもしれないですが、殺し屋に関して言えばですが、リアリティさを一番生み出しやすいのが、利点だと思います。
この職業に対して、「こんな殺し屋居ないよね」とは、ならないはずです。
なぜなら、皆さん、普通の社会に生きていれば、殺し屋なんて見た事ないと思います。
だからこそ、ある種、自由に作れるのが殺し屋なんです。
その点が、一番面白い部分でもあります。
個人をフィクションにできる面白い一面が、殺し屋に詰まっていると思います。
—–最後に、本作『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』の魅力を教えて頂きますか?
阪元監督:「前作より緩く、前作より熱く」を目標に、またテーマに置いて、製作しました。
前作のダラダラ、ゆるゆるした日常とばちばちのアクション場面が、より強化されて、しっかりニヤニヤできる反面、声を上げて笑える場面もあります。
かと言えば、キャラクターに感情移入できちゃう場面もあります。
最後には、激アツのタイマンシーンも用意していますので、安心して観れると思います。
ただ、前作の方が好きと言われる方もおられると思いますが、1作目が好きという気持ちも正しい事だと思います。
前作が好きな方、2作目が好きな方、両方とも、これからも作品を作り続けたいので、次の続編に向けて、応援していて頂ければ、嬉しく思います。
ぜひ、劇場に遊びに来てください。
—–貴重なお話、ありがとうございました。
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』は現在、関西では3月24日より(金)大阪府のシネリーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX八尾、MOVIX堺。京都府のMOVIX京都。兵庫県のkino cinema神戸国際、MOVIXあまがさきにて、絶賛公開中。また、京都府の京都みなみ会館は、4月7日(金)より。和歌山県のイオンシネマ和歌山は、3月31日(金)より公開予定。全国の劇場にて、順次公開予定。