ドキュメンタリー映画『NO 選挙,NO LIFE』前田亜紀監督、畠山理仁さんインタビュー
—–なぜ全国行脚を行い、“無頼系独立候補”と呼ばれる、注目されない候補者達に耳を傾ける取材をしているのか、改めて、その熱意や情熱をお聞かせ頂けますか?
畠山さん:私は選挙取材をする上で、「候補者全員を取材するまでは記事にしない」というルールを決めています。選挙報道は「誰が勝つか」を予想するよりも「候補者が何を訴えているのか」を報じることが重要だと考えているからです。だから必ず一度は全員に接触します。私が候補者全員取材をする理由は、ネガティブな面とポジティブな面の両面があります。今の選挙報道では、名前と年齢、肩書きしか紹介されない候補者がたくさんいます。そのことを多くの方は「普通のこと」だと考えていますが、立候補した以上は当選する可能性がゼロではありません。私はポスターや選挙公報の印象だけで投票先を選んでしまうことは、非常に危険なことだと思っています。たとえば、注目されない候補者が社会にとって危険な主張をしていたとしますよね。その情報が世の中に流通していなければ、本質を見極めないまま投票する人が出てくる可能性があるからです。その一方で、注目されない無頼系独立系候補の方々が、社会に役立つ提案をしている場面も数多く見てきました。そうした提案を社会が共有しないのは、非常にもったいないと思うんです。選挙は有名な人が有利になるスポーツ(運動)ですが、私は「候補者の中身」を見てほしいと思って候補者全員取材を続けています。
—–作品はストレートに感動しました。政治家の見えている部分は、マイナスなイメージですが、私の目から見て、本作は今まで見て来なかった候補者たちの熱意に心を動かされました。今まで目を向けていなかった私自身、恥ずかしく感じる反面、作品を通して、新しい一面に気付かされた事、大変学びとなりました。
畠山さん:とても嬉しい感想をありがとうございます! 選挙は有権者と候補者がコミュニケーションを取れる一番いい機会です。日々の生活に忙しくて、ふだんはなかなか政治のことを考えられない人も多いのではないでしょうか。けれども選挙になれば、すべての候補者がとことん考え抜いてきた政策を一気に見せてくれます。いわば、選挙は「4年に一度開かれる政策の見本市」です。4年間、政治への監視をサボっていた人も、選挙の時に政策を見比べれば、一気に政治に詳しくなれます。その中から自分に合った政策を選べばいい。いいと思った政策を他の候補者に提案してもいい。選挙は「誰が当選するかを当てるゲーム」ではありません。最終的に誰に投票するかは、有権者がそれぞれの正解を探して決めればいいんです。
—–前田監督に質問です。作品を通して、社会を変えようとする候補者たちの言葉を耳にし、私自身、日本の未来に少しばかり希望を感じました。様々な世代の方が選挙に奮闘している中、近頃メディアが取り上げているのは悪目立ちする政治家ばかり。「増税メガネ」や地方議会で議員がどれぐらい寝ているのか取材する番組「しらべてみたら」というフジテレビの報道番組「ライブニュースイット」の中のコーナーのYouTube版など。ただ本作からは、別の側面を気付く事ができました。監督自身、密着取材を通して、選挙に対し何か気付きはございましたか?
前田監督:畠山さんが執筆された書籍『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』を読み、様々な候補者の存在を知りました。非常に興味深い豊かな世界だと感じ、取材したいと思って、現場に行きました。とはいえ、これまで、いち有権者として投票の際に無頼系独立候補の方々の訴えや政策を聞いて投票したことがあったかというとおそらく一度もありません。だからこそ、現場に行き、どこかレッテルを貼ってしまっていた自分自身に気づきました。候補者たちに直接お会いしたら、とても真剣で真面目な方々でした。だから、先ほど、独立系の方々の熱意を受け取って下さったと聞いて、嬉しく感じました。無頼系候補者達の熱意や真剣度は、今回の取材を通して、新しい発見であり、気付きでした。皆さん、本当に社会の事を考えていると、実感したんです。立候補すること自体を目立ちたいだけとか、売名行為だと言う人もいますが、候補者に話を聞いてみると、「何かのために活動している」という事が、とても伝わって来ます。直接お会いして、お話をお聞きして、発見に繋がりました。
—–一人一人の候補者に取材を行い、時間をかけて、言葉を拾って行かれたと思いますが、この経験を通して、日本社会に対して何か気付かされた事はございますか?
畠山さん:私が取材に行くと、皆さん非常に喜んでくれます。それは、「畠山しか取材に来ない」ということの裏返しなんですね。多くの候補者は「自分は社会から無視されているのでは」という不安が常にあります。だから私が取材に行くと、普段から考えている事をたくさん話してくれます。もちろん、理解できることもあれば、共感できないこともあります。ただ、堂々と立候補する権利が認められている選挙に、「世のため、人のため」という想いを抱えてリスクを背負いながら出馬してくれている方々がいることは本当に希望だと思います。もし、選挙に立候補してくれる人がいなくなれば、有権者は投票することすらできません。多くの有権者が、その未来をまったく意識していないんだなと、選挙取材をするたびに思います。このまま日本に生きている方々が候補者を馬鹿にしたり冷たい態度を取っていると、巡り巡って不利益を被ることになります。「選挙に出ると馬鹿にされる」「恥ずかしいことはできない」という社会の空気ができあがれば、本当に投票したいと思える人が立候補してくれなくなる未来が待っていると思うんです。それは絶対に、自分たちにとって良くない。全候補者を取材するたびに、日本社会は本当に立候補する方々に対して冷たい社会だと痛感しています。
—–監督にご質問ですが、少しローカルな話題になってしまうかも知れませんが、先日、私が居住している大阪府枚方市で、市長選が行われました。その時は、市長選3選を誇る現市長が再選を果たしましたが、その後、有権者へのあいさつを目的とした当選祝賀会を開き、その会合に参加したとされる「公職選挙法違反」に触れる由々しき事態が起きました。その方を選んだのは、私たち枚方市民です。私達は、市民として真っ当な政治家を選挙で選ぶには、市民の立場から、どのような行動をすれば、まともな政治家が生まれると思いますか?
前田監督:難しい質問ですが、まずは、より多くの方々に関心を持ってもらう事です。ある組織票だけで決まってしまうと、中身は伴わないですよね。まず関心を持って頂く事が一番、大きいと思います。私見ですが、自身に利益があるのかないのかで選んでしまうと、良い候補者は選ばれないと思うんです。誰かのために、と考えて選ぶことが良い社会につながるのではないかと思っています。コロナ禍の時期、当選した暁には、給付金で全員に数万円を配ります、というマニフェストを掲げる方が複数いたのが非常に印象的でした。有権者が損得勘定で政治家を選ぶようになったら、最も良くない事だと思うんです。社会で困っている誰かのために選ぶ選挙になってくれれば、と願うばかりです。
畠山さん:私は選挙に出ることがもっとカジュアルにならなければと思います。選挙に出る現職が強いのは、選挙のやり方を知っているからなんですよ。スポーツにたとえると、現職はルールや必勝法を知っている。一方、新人候補は志があっても、選挙のルールや基礎を知らない方がたくさんいます。だからせっかく立候補しても、何をすればいいかわからないうちに投票日が来て、結果的に負けてしまう。これは非常にもったいないと思います。一度選挙に出ると、選挙の戦い方やノウハウが蓄積されます。しかし、落選すると経済的にも精神的にも大きなダメージを受けます。だから一回で立候補をやめてしまう人が多い。つまり、せっかくのノウハウが継承されないループになっています。この状況をわかりやすくゲームにたとえると、何度も経験を積んでお金もかけてレベルアップしている現職に対して、毎回、無課金ユーザーの新人が戦いを挑んでいるような状態です。無課金ユーザーでも経験を積むと強くなりますが、一度の負けで挑戦をやめてしまう。そしてまた、別の新しい無課金ユーザーが勝負に挑んで負けていきます。私はいつも「選挙運動はスポーツだ」と言っています。選挙「運動」だからスポーツです(笑)。投票率の低さを見てもわかるように、今は選挙というスポーツが多くの人たちから遠い存在になっています。参入障壁が高いから新規参入者が現れない。だから競技人口の裾野がひろがらず、全体のレベルが落ちる悪循環に陥っています。競技人口が増えれば全体のレベルも上がります。私は今まで選挙に興味を持てなかったみなさんにも積極的に働き掛けたいと思っているんですよね。だから本物の投票箱を持ち歩いて見てもらったり、「本人」と書かれたタスキを貸し出して写真を撮ってもらったりしています。コスプレ的にでも候補者の気分になってもらえれば、政治への見方が変わるかもしれないと思っています。
—–たった一人で、中学生で日本中学生新聞を立ち上げた川中だいじさん。私は、彼自身を日本の未来の「希望」であると幾ばくか感じておりますが、お二人は川中だいじさんや日本中学生新聞について、どう捉えておられますか?
畠山さん:川中だいじ記者は、非常に情報感度の高い記者です。素朴な疑問からスタートし、「問題を解決するためには一人一人がどのようにあるべきか」を考え続けています。決して机上の空論では終わらせず、自らの目と足を使って読者を啓蒙していく手法は、多くの現役記者が学ぶべき姿勢だと思っています。もはや「中学生」であることを言い訳や武器にする必要はありません。独立した立派な記者です。これからも畏友の一人として、地に足の付いた活動を続けてほしいと願っています。
前田監督:ご自身の考えを言語化する能力に長け、他者に対する想像力を持ち合わせ、目を見張る行動力で素晴らしい活動をされていると感じています。…と、褒められることが多いであろう川中記者ですが、自身への批判を徹底的に引き出し自己研鑽しようとする姿は大人顔負け、頭が下がります。新聞や寄稿文、SNSなど、中学生という立場からの視点や意見にはいつも姿勢を正されます。と同時に、川中記者の「なぜ?」に言葉を窮してしまう社会の一員として、恥ずかしく、苦々しい気持ちにもなります。大人は何をしているのか?と正面から突き付けてくれる川中記者の存在は、「希望」というよりは、「救い」に近いものを感じています。好奇心の赴くままにのびのびと、これからも厳しいツッコミを期待しています。
—–最後に、本作『NO 選挙,NO LIFE』の魅力を教えて頂きますか?
大島プロデューサー:鈴木エイトさんから推薦コメントを頂いたのですが、その最後に「あなたにしかできないことは何? そう問いかけてくる映画だ」という言葉がありました。「あなたにしかできないこと」を長年に渡りやり続けたエイトさんの言葉の重みに感銘を受けると同時に、それこそが、まさに畠山さんの生き方だと思いました。とはいえ、やり続けることは尊くも、難しい。『NO選挙,NO LIFE』は、生き方に迷う人にエールを送る「中年青春ドキュメンタリー」です。
—–皆様、貴重なお話、ありがとうございました。
ドキュメンタリー映画『NO 選挙,NO LIFE』は現在、全国の劇場にて公開中。