映画『きまぐれ』「積み重ねてきた歴史」永岡俊幸監督、瀬戸かほプロデューサーダブルインタビュー

映画『きまぐれ』「積み重ねてきた歴史」永岡俊幸監督、瀬戸かほプロデューサーダブルインタビュー

2024年4月5日

ある一家の「家庭の事情」を描く珠玉の25分。映画『きまぐれ』永岡俊幸監督、瀬戸かほプロデューサーダブルインタビュー

©八王子日本閣

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—–最初に、本作『きまぐれ』の制作の 成り立ちを教えて頂けますか?

永岡監督:前回、劇場公開した映画『クレマチスの窓辺』の上映を通して、日本全国を周らせて頂きました。今回、本作のプロフェーサー をして頂きました瀬戸かほさんの主演作でしたので、2人で色々な劇場にお邪魔する機会がたくさんあり、その中で、瀬戸さんがその時期からご自身で台本を書かれていました。その中で、永岡さんが監督しませんか?と、声をかけて頂き、引き受ける事になりました。その時から瀬戸さんがプロデューサーを担当する事になっていましたが、まだ出演する話はまだ決まっていませんでした。ただ、僕が監督というお話で企画がスタートしました。それが一年半ぐらい前の2022年の秋頃でした。

—–改めて、本作は、瀬戸さん発信だったんですね。

永岡監督:こちらの話に関しては、改めて瀬戸さんからお話をお聞きするのもまた、いいと思います。

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—–瀬戸さんは、なぜこの物語を思い付いたのでしょうか?

瀬戸プロデューサー:今まで自分には物語は書けないと思っていたのですが、2022年の秋にドラマ『渡る世間は鬼ばかり』にドはまりした時に、そのドラマを通して家族への憧れを感じて、家族の話を書きたくなり、突発的に台本を書き始めました。当時は永岡さんに監督をお願いすることも、映像化すること自体も具体的には考えていなかったのですが、永岡さんにアドバイスをいただいて書き直したりしていました。その後、映画『クレマチスの窓辺』の上映の際に永岡さんと一緒に舞台挨拶で劇場を周っている時にこちらから改めて監督をお願いしたんです。そこから永岡さんが主に脚本を担当することとなり、現在に至ります。

—–作品を観る限りでは、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の要素は全く見受けられませんが、熟年離婚という観点を考慮すれば、その点は影響を受けておられるのかなと思いましたが、その点はどうでしょうか?

瀬戸プロデューサー:『渡る世間は鬼ばかり』の世界というよりも、自分なりの家族というものを描きたかったのだと思います。最初は家族が離婚して解散するという話を書いたのですが、紆余曲折を経て新しい別のかたちになりました。

—–離婚の話でもなく、単純に家族の話でもなく。感想で書かれている通り、日常を描いているだけですが、 そこに家族の形が現れているのが、好印象でした。

永岡監督:家族の物語だけではなく、それぞれの人生を描ければいいと思っています。

—–それは、賛同できます。ただの家族の話ではなく、家族4人という家族史やそれぞれの人生が、作品として描かれている点が、非常に好感が持てます。

永岡監督:その点は、常に意識して、作っています。

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—–瀬戸さんにご質問ですが、今回、初プロデューサーと初めての脚本も書かれたご経験もされており、初めて尽くしだと思います。制作に携わる中、作品に対するご自身の価値観や考え方に対して変化はございましたか?

瀬戸プロデューサー:今までは出演という形でのみ作品と関わっていたので、今回は新しい発見がたくさんありました。一番の発見は、2022年の秋から今に至るまで、ずっと本作『きまぐれ』について考えていること。おかげで作品に対する思い入れがものすごくあります。出演している側でも思い入れは持っていますが、一つ作品にずっと関わり続けて完成させることが、こんなにも力を使うと知りませんでしたし、体も心も使い果たしてしまうかもしれないと思いました。なので、上映できた事へも一入と言いますか、喜びも大きいです。

—–私自身、瀬戸さんのお考えを受け取る事ができました。私自身の体験話で申し訳ありませんが、今までライターしかやった事がありませんでした。作品との関わり方が、レビューやインタビューに完結していました。昨年の年末から年明けにかけて、一つの作品のポスターとチラシを持って、アルバイトで飛び込み営業をする仕事をしました。苦手意識を克服して、飛び込み営業をしましたが、改めて営業は大変で、配る相手にも伝わらない上、どう作品を伝えていけばいいのかと考えていると、一つの作品をたった一人の人に届ける事が、こんなにも大変で尊い事だと実感しました。本当に価値観が一変して、今まで以上にもっとちゃんと作品と向き合って行きたい、と自身の経験からお話をお聞きしましたが、ちゃんと受け取る事ができました。ありがとうございます。

瀬戸プロデューサー:素敵なお話をありがとうございます。作るまでも大変ですが、作品を広めることも大変ですよね。宣伝をご協力してくださるみなさまにも、観にきてくださる方々へも、感謝の気持ちでいっぱいです

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—–今までなら、そこまで作品への思い入れは薄かったと思いますが、改めて、作品との向き合い方が本当にこれだけ変わることによって、一人の方が映画館に来て頂ける事が、こんなにもありがたい事だと思わされます。ライターは、作品が次から次に押し寄せて来て、いろんな作品の宣伝依頼が入って来ますが、でもそれをどこまで私がちゃんと向き合って、人に伝えて行くかが、私の中での課題でもあるのかなと思わせてもらえています。それが今、瀬戸さんが作品に携わって、これだけの思いがたくさんあるんだという想いに対して、私もどれだけお答えできるかが今の私の立場なのかなと思わされています。では、永岡監督にご質問ですが、今作では、カメラマンや脚本家が一新され、特に撮影において、ワンシーン、ワンカットを作品に取り入れられておられますが、新しいカメラマンとの作品制作への意図を、どう意思確認されましたか?素晴らしいシーンが、たくさんありました。

永岡監督:前回、ずっとやって来たカメラマンの田中銀蔵さん。前作では、取材もして頂きましたね。今回は、萩原脩さんというカメラマンの方と今回ご一緒したんですが、過去に僕がスタッフとして入った事がある現場で、カメラマンをされていたんです。いつか、一緒に映画を撮りたいですねと話をしていたんです。それが、3、4年前の事でした。今までは、物語や予算的な部分も含めて、僕発信が多くありました。だから今回は、まったく違うアプローチで行ってみました。瀬戸さんが元々、書いたお話に対して、 キャスティングも瀬戸さんにお任せしていました。僕も今まで組んだ事のない方々をスタッフとしてお呼びするやり方もまた、面白いんじゃないかと思って、今回萩原脩さんに声をお掛けしました。今回は特に、僕からイメージを伝えていませんでしたが、基本お任せするスタイルで進めて来ましたが、萩原さんが僕の作風に合わせて、撮影して頂けたのが強いと思っています。撮影監督とは探りつつ、すり合わせしつつ、撮影を進めて行きました。元々、カメラマンとして技術のある方なので、いい感じに仕上げて頂けたと思っています。

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—–作品のシーンにおいて、個人的なお気に入りは、外ロケのロングショットで、長回しワンカットで携帯電話で女性が話しているシーンにて、ドリー(※1)をしながら、パン(※2)をしている場面。電話の内容自体は、すごく日常会話の内容かもしれませんが、すごくあのシーンが印象的でした。たまたま、同じ離婚の話を扱っている映画『クレイマー、クレイマー』を久々に観ていたら、似たようなシーンがありました。すごく似ている場面があり、印象深かったんですが、あのシーンはどういう感じで、撮影されましたか

永岡監督:あの撮り方は、僕自身は大好きです。横位置で併走するのが、好きだったんです。前作『クレマチスの窓辺』の時も取り入れたかったんですが、 それを撮影できるシーンがなかったんです。基本、歩きながら話している人を移動で撮りたいという考えはありました。今回は、真横からいい感じに入れるところがあったので、あのスタイルで撮りました。

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—–瀬戸さんへのご質問ですが、あのタイトル自体は元々、「きまぐれ」だったのでしょうか?それとも、また別にタイトルがあったのでしょうか?物語の中に「きまぐれ」が、どこにあるのか、ずっと考えていました。タイトルと物語の関係性は何でしょうか?その点、何かお考えはございますか?

瀬戸プロデューサー:私が書いた原案のタイトルは「解散物語」だったのですが、途中から永岡さんに脚本をお願いするにあたり、新しいタイトルを考えようという話になって。ひらがな四文字がいいという私のリクエストに対して、永岡さんが上げてくれた候補の中に「きまぐれ」がありました。キャッチーでかわいくて、作品の雰囲気にも合っていると思い、決定に至りました。詳しくは永岡さんの口からタイトルの意味をお聞きしたいと思います。

—–監督は、どうお考えでしょうか?

永岡監督:ひらがな四文字がいいというお題を頂き、僕がいくつか提案したんです。成瀬巳喜男監督の作品のタイトルが好きなんです。たとえば、「浮雲」や「あらくれ」ですね。今回は、この「あらくれ」から着想を得て、「きまぐれ」を思い付きました。タイトルを付けた時はまだ、プロットの段階だったんですが、タイトルに寄せて行くような形で、お母さんと娘2人を動かすという感じで考えました。

——言われてみれば、成瀬巳喜男っぽい物語ですね。

永岡監督:映画『乱れる』や『乱れ雲』も好きです。

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—–淡々としている物語や女性に寄せている物語ですね。成瀬巳喜男もまた女性映画なので、言われてみれば、成瀬巳喜男作品を彷彿とさせますね。逆に、大きく言えば、小津安二郎作品と受け取れますね。

永岡監督:家族を撮っているのと、お父さんが結構可哀そうな感じなのがあるからか分からないんですが、 結構小津っぽいと言って頂けるんです。今回、東京での上映の時、2週間トークゲストの方をお呼びしているんですけど、監督の方もお呼びして、 お話している時に小津っぽいと言われる事がありました。意識していますか?と聞かれましたが、特に、撮り方等々に関しては、そんなに意識はしていませんでした。今回、この八王子にある八王子日本閣(※3)という結婚式場が制作費を出してくれています。元々、八王子ショートフィルム映画祭がありまして、コンペになっていますが、企画を通して、助成金が出るシステムです。八王子日本閣さんが、出資する点から結婚の要素も作品に入れる必要もありました。結婚を控えた娘とお父さんが出てくるから、小津っぽくも感じると思います。小津映画は、娘の結婚相手が出てこなかったり、結婚式のシーンが省略されていたり、一番盛り上がりそうな場面を出さない所もあり、娘は結婚するけど、結婚相手は出さない。今回そっくりさんという形で登場させましたが、 敢えて相手を出さず、結婚式も映さないという手法を台本上でしていましたので、その点で言えば、少し小津からの影響を受けていると思います。

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—–お二人に同じ質問をしますが、熟年離婚という考え方が近年、社会問題というよりも、トレンド化されつつあるのかなって私は思いますが、 本作の作品要素として、物語に入れられている熟年離婚に関してですが、作品の完成の前後して、この件に対して、考え方への変化はそれぞれございましたか?

永岡監督:熟年離婚に関しては、僕自身、そこまで意識していませんでした。それぞれの人の立場でちょっと考えて行けば、お父さんの目線の考え方、お母さん目線の考え方、そして娘たちの考え方について考えて行くと、話としては形式的ですが、それぞれ一人一人の人生の話として考えていました。ご質問を受けて、確かにそうだよな、熟年離婚の話だという考えに至っています。

—–お父さんとお母さんが別れて、最後の家族旅行ですが、お父さんとお母さんの選択肢の話で言えば、熟年離婚という見方もできると思います。母や娘にはそれぞれに人生があると監督のお話をお聞きして、成瀬巳喜男監督の映画『娘、妻、母』を思い出しましたね。娘の物語であって、母親の物語でもある。それぞれの人生が、交差して行く姿が、成瀬巳喜男監督の『娘、妻、母』を思い出しました。瀬戸さんは、どうでしょうか?

瀬戸プロデューサー:正直、自分の中で本作について、熟年離婚に焦点を置いて考えていなかったので、確かに…!と感じています。熟年離婚への自分の考えに変化はないのですが、人同士が離れる時、それまでの積み重ねた時間はなかったことになるのか、今までのつながりがなくなってしまうのか考えていた時期に原案を書きました。今は、積み重ねた時間は決して無駄にならずに自分の中に蓄積されていき、自分を形作っていくのではないかと思っています。永岡さんはいかがですか?

永岡監督:僕自身は、改めて、本作のような物語でも映画を作れると思えました。今まで家族の話を書いた事も撮った事もなかったので、この物語の主人公は家族ですが、角度を変えると、お父さんとお母さんが主人公になると思います。年配の年齢層を主体にした作品を作って来なかったので、僕の中でも視野が広がったと思っています。

—–作品として視野が広がるのは、すごくいい事ですね。観る人によって、あの物語がどの視点になるのか、変わってくると思うんですよ。娘の視点か、親子の視点か、夫婦の視点か。それによって、捉え方や考え方もまた、大きく変わってくると思います。一つの見方をすると、あの夫婦の関係性が30分で描かれているのかな。難しいですが、熟年離婚を通して、見えて来る夫婦それぞれの関係も見えて来ると思います。

瀬戸プロデューサー:離婚は、家族や当事者にとって大きな事件だと思うんです。共に過ごした時間の長さに関わらず。でも、今後の自分の人生について考えた時に、離婚という選択肢を選ぶこともあり得るのかなって思います。

—–近年は、昔のように離婚がダメみたいな風潮ではなくなって来ていると思います。逆に、バツ1、バツ2が話のネタになっていると感じています。一時は、熟年離婚が良くないという考え方もあったかもしれませんが、 今は一種のトレンドになっているのかなと思います。今は、非常にライトな価値観として社会に受け入れられていると思います。ただ、家族の中では、親が離婚するという事は大問題で大事件なのかもしれないですが、少し言い方悪いですが、離婚されている方は多くいると思います。先程のお話をすれば、映画『クレイマー、クレイマー』は、まさにそれです。一人の奥さん、一人の妻、一人の娘、一人の母親と型にはめられていたある女性が、自立する話です。でも、私は私なんです。私の人生を生きたくて、離婚を選んだ価値観ですが、そんな価値観は今後も必要になって来ると思います。

瀬戸プロデューサー:家族や母親という存在や役割が記号的なものでなく、その中で一人、自立した人間として『きまぐれ』の中では描かれていますね。

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—–ある意味、自立がまた作品の中で必要になってくるかもしれないですね。また同じ質問を投げますが、本作の物語は、最後の家族旅行が主な要素だと思います。この4人が今の形で旅行する事が最後だとしても、家族としての関係性はこの後も続いて行くのかなと私は感じましたが、お二人はこの家族の今後をどう捉えていますか?

永岡監督:この25分の短編の中で描かれている部分は、人生の中でも本当に瞬間であり、一瞬の出来事の部分を切り取っています。映画を観てもらう時に、物語が始まる前と後には、人生はそれぞれ続いて行きます。少しでも想像できるような形で映画を撮りたいと、僕自身が思っています。基本的には、この家族がどうなって行くのかは、皆さんに想像してもらえればいいと思っています。また家族旅行をするかも知れないですし旅行しないかもしれません。家族として一緒にはいないかもしれないけど、繋がり自体はずっと続いて行くと思っています。

—–結婚、離婚は、一枚の婚姻届や離婚届、また結婚式の誓いで結ばれますが、結局、それは契約上の問題で、形式的なものが無くても、男女は一緒になる事も、別れる事もできると思います。この先もずっと一緒に、関係性を紡いで行けるものだと信じています。瀬戸さんは、どうでしょうか?

瀬戸プロデューサー:また旅行に行くのかもしれないと、私は思っています。全員が揃っていないかもしれない。メンバーが変わっているかもしれない。でも、何らかのかたちで家族旅行をする気がしました。岩田家の今後に答えはないので、個人的な祈りでもあります。

—–それでも、家族としての関係はずっと続いていきますよね?

瀬戸プロデューサー:そうですね。紙で作られた関係ではなくて、積み重ねてきた歴史があるので、無関係にはならないと思います。

—–最後に、お二人にご質問ですが、本作『きまぐれ』が今後、どのような広がりを見せて欲しいとか、何かございますか?

瀬戸プロデューサー:私としては、すでにこうして東京・大阪・愛知・島根と上映が決定したこと、お客様に観ていただけることが本当にもうありがたくて。元はと言えば、家族へのラブレターのような、個人的な作品だったんです。だからこそ、それが本当に色々な人に観てもらえて、感想頂けることがすごく嬉しくて、作品を作ることができてよかったと心から思う日々です。観て下さる一人一人に感謝しています。

—–永岡監督は、どうでしょうか?

永岡監督:そもそも、25分の短編映画を単独で上映して頂ける機会自体が非常にレアなケースだと思います。今、東京で上映しています。その上さらに、大阪でも上映して頂ける事自体が、本当にもうすごい事なんです。今でも十分で、本当にありがたい話です。色々な層の方、お父さんだったり、お母さんだったり、姉妹が登場する作品なので、若い方からご年配の方まで、広い層の方々に観て頂きたいと思います。そういう形で広がればいいと思っています。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『きまぐれ』は、4月6日(土)、4月7日(日)の二日間、大阪府のシアターセブンにて、限定上映。両日、関係者による舞台挨拶が、行われる予定。

(※1)カメラワークとは?映像制作に重要なカメラワークと構図の基本を解説https://www.generalasahi.co.jp/cd/movie/topics/camera-work/#:~:text=DOLLY%EF%BC%88%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%EF%BC%89%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81,%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%89%E3%81%A8%E5%91%BC%E3%81%B3%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年4月2日)no

(※2)【動画ビギナー必見!】知っておきたい基本のカメラワークhttps://pixta.jp/guide/?p=15795(2024年4月2日)

(※3)八王子日本閣https://h-nihonkaku.com/(2024年4月2日)