映画『DOGMAN ドッグマン』子どもたち一人一人が安心して

映画『DOGMAN ドッグマン』子どもたち一人一人が安心して

2024年4月2日

愛は、獰猛で純粋。映画『DOGMAN ドッグマン』

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.

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本作『DOGMAN ドッグマン』は、映画監督リュック・ベッソンなりのアンサー映画だ。2019年に公開された映画『ジョーカー』と同様に、過去に何らかのトラウマを抱えた主人公が、転落人生を転げ落ち、闇落ちして行く姿を描いたヒューマン・サスペンスだ。映画『ジョーカー』のヒットを受けて、制作している背景を匂わせている。過去に、同監督は映画の教科書的な作品『レオン』を制作しているが、その作品の元ネタはニューヨーク派のジョン・カサヴェテス監督のギャング映画『グロリア』が土台にあると言われている(意外と、映画『グロリア』が元ネタであると知っている人は少ない)。このように過去の経緯があるから、今回の本作『DOGMAN ドッグマン』の物語の背景を考慮すれば、これは映画『ジョーカー』への監督なりのアンサー映画ではないかと考えられなくもない。後述もするが、本作は実際に起きた虐待事件(※1)から着想を得ていると公式でも紹介されているが、人が悲惨な境遇に直面すればするほど、人格形成において悪い影響を与えてしまう。それは、映画『ジョーカー』の時と同じように、本作『DOGMAN ドッグマン』の主人公の男もまた、幼少期の辛い経験が成長し大人になった今でも、心の傷として深く深く突き刺さり、残される。その悲しみの連鎖を少しでも取り去り、和ませる為には、私達は一体、何をすれば良いのか、社会の中で共に考えなければならない。子どもが、子どもらしく日々を過ごせるようにするには、大人たち一人一人が彼らに寄り添い、理解を示す。さもなくば、虐待事件は無くなる事も無く、本作の「ドッグマン」と同じような子どもや少年を生み出してしまうだろう。この虐待の連鎖や因縁を断ち切るには、今ここで一人でも多くの被虐待児を救わなければならない上、虐待を然として正しいと考える親達自身も救い、その思想が間違っていると滾々と伝えていかなければ、これらの問題の根絶は難しくなる一方だ。一つでも多く虐待事案を減らすには、また本作に登場する少年や大人になった彼自身を救うには、一体どうすれば殲滅できるのか、今ここから共に取り組んで行かなければならない。日本の社会全体が、子どもたち一人一人の無垢な笑顔を守る事が、虐待事案だけでなく、日本の未来、子どもたちの未来を守り、保証する事に繋がる。今、私達に何ができるのか、映画を観て完結するのではなく、映画を観た後こそが大切だ。作品をどう受け取り、それを社会にどう還元するのかを共に考えたいと強く願う。

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP –
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本作『DOGMAN ドッグマン』は、人間と犬の関係性をアクションと犯罪、バイオレンスに描いた作品だが、私達人間と動物の関係性について色々と考えてみたくなる。私達人間と犬の関係(※2)は、歴史を遡れば、約40万年前~15万年前の旧石器時代にまで遡ることができ、動物の中でも犬が最も古くから人間と共に長い時間を過ごして来たと言えるほど、非常に深い絆で結ばれている。現代社会において、人間にとって犬という存在は非常に大切な存在(※2)として生きている。旧石器時代から犬は家畜として、近代ではペットとして飼われて来たが、ここ最近の犬と人間の関係において、犬達の存在は、コンパニオン・アニマルや伴侶動物(※4)と呼ばれ、人間の日々の営みの中、私達と共に人生を寄り添う関係性として考えられている。もう犬達は、単なる動物でもなく、ペットでもない。家族という関係として捉えられて来たが、伴侶動物としてより深いヒトとイヌの繋がりの中で生きている。コンパニオン・アニマルや伴侶動物という考え方は、1985年頃から言われている考えだ。まだ40年程しか経っていない非常に新しい捉え方であり、まだ世間には浸透していない一面もあるが、犬達と一緒に人生の時間を共有する事が、如何に尊厳的かと考える事ができる一面もある。単なるペットという価値観から解放された犬達の現在の存在は、私達人間にとってかけがえのない存在だろう。では、本作の主人公である「ドッグマン」にとって、「犬」という存在がどう作用しているのであろうか?闇落ちした主人公にとって、犬の存在は、ペットでも、コンパニオン・アニマルでもない。より深遠な心の繋がりで繋がった関係性は、如何様の言葉でも表現する事はできないであろう。そこには、人間と動物という種の隔たりを超えた目には見えない強い繋がりが、幾重にも重なる。幼少期からあらゆる経験を共に分かち合って来たからこそ、人間と動物、ペット、伴侶動物という既存の価値観から未知なる次の価値観が、ここでは生み出されている。ある実験では、「犬は人間に共感する能力を持っている」(※5)。また、「飼い主の短時間の情動変化にも呼応する」という研究結果を出している。犬は、言葉を持たない代わりに、人の感情に寄り添える驚異的な能力を身に付けた。人間同士でも他者に対する感情の察知は非常に難しい中、犬は人間の感情をより理解しようと必死になって脳と心をフル稼働させる。人間への忠誠心を誓った小さな小さな存在は、人間にとっては非常に大きな存在でもある。

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP –
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また、本作『DOGMAN ドッグマン』の題材はとてもショッキングな事件から着想を得たという話は非常に有名ではあるが、ただ犬用ゲージに入れられて虐待を受ける子どもたちの事件は、世界共通であり、残念ながら、後を絶たない。調べれば調べるほど、これでもかと言わんばかりに、国内外問わず、報道されている。一体、どの事件に触発されたのだろうかと、唖然とするほど、子どもを虐待する大人は、平気で動物用ゲージに子どもたちを監禁している。憤りしか覚えないが、まるで自身の子どもに対して、犬以下(もしくは動物以下)という意識を植え付けさせようとしている行動が、腹立たしい。なぜ、我が子を平気でぞんざいな扱いができるのだろうか?フランスでは、2023年と2017年に起きた児童虐待が大きく取り上げられ、そのどちらもが犬用ゲージに幼い子どもを監禁するという耳を疑うような凄惨な事件が起きている。2023年の事件では、6歳の少年が監禁されている所を発見されている(※6)。また、2017年の事件(※7)では、生後6ヶ月の女の赤ん坊を檻に監禁するという想像絶する事件が起きている。その時は、幼い娘を犬の檻に入れて口にテープを巻かれた状態だったと言う。また、「3歳半の女の子が「パパが私の口にテープを貼って、ボールのように私を外に放り出した」と話したため当局に通報しました。そして彼女は「パパが怒ったから」犬ケージに入れられました。 4歳半のお姉ちゃんによって裏付けられた事実。」と、記事には書かれている。類似の事件は、フランスだけではなく、オーストリアでは12歳の少年がケージに閉じ込められる事件(※8)が、昨年の6月に報道されている。2022年から継続的に行われていた虐待は、少年の発見時、彼が低体温症にかかり、意識がない状態だったそうだ。アメリカでは、2020年に報道された児童虐待による事件(※9)では、1歳児の女の子が600匹超の動物と共に劣悪な環境で暮らしていたとされる。また、日本では2013年に起きた足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件(※10)は、日本社会に大きな衝撃を与えた。虐待を繰り返し行っていたと言われているが、この子どもの親は親なりに子を一生懸命愛していたと言われるが、その愛し方が世間とかけ離れたものであったのだろう。彼らもまた、幼少期における虐待サバイバーであったり、劣悪な生活環境で育った背景を持っているが、被虐待児だけでなく、親子揃って悲しみの連鎖のリングから解き放つ仕組みを、社会は作っていかなければならない。こんな事が起きていいのかと、文章を書く手が震える。怒りと悲しみで、胸が痛い。無力な私には、子ども一人も助ける事ができないのかと、自問を繰り返してしまう。今日もどこかで、虐待に苦しむ子どもがいると考えるだけで、何も行動に移せない恥ずべき大人だ。ただ、犬用ケージに監禁される子どもがいる一方で、ドッグセラピーの動物達が、被虐待児に対して心のケア(※11)をする取り組みが2022年頃に行われている。また、被害児童を支援し、彼等が言論の自由を得るために、犬達が次々とフランスの司法制度(※12)に介入していると言われており、犬達が子どもたちを積極的に助けるために司法に乗り出している。犬用ケージに監禁される悲しい事件は後を絶たないが、犬達が子どもたちの為に癒しを与える活動は、尊ぶべき事。犬という存在は、人間の感情に寄り添える存在だからこそ、もっと正しい方法で犬と人間が、社会全体を共に作るシステムを作って行く事が大切だ。本作『DOGMAN ドッグマン』を制作したリュック・ベッソン監督は、昨年行われたヴェネツィア国際映画祭2023にて、あるスピーチを行った。その時の内容を一部抜粋する。

Besson:“The only two things that can save you are love and art, definitely not money. When you have both you’re lucky,”(※12)

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP –
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ベッソン:「あなたを救ってくれるのは愛と芸術だけで、決してお金ではありません。両方を持っているなら、あなたは幸運です」リュック・ベッソン監督は、愛と芸術が、人々を救う事ができると話している。私も、監督のこの言葉には大いに賛同できる。確かに、お金はいくらあっても助かるが、愛と芸術はお金の以上の価値があり、人々の心を豊かにしてくれる存在だ。その芸術の中には、もちろん、映画文化もカウントされるだろう。映画には、エンタメ要素や社会要素だけでなく、情操教育(子どもの心を育てる教育)としての力も兼ね備えていると、私は信じている。巨大組織の社会の中では、個人という私は無力な存在ではあるが、映画を通して、一人でも子どもの命や権利、生活が守られるのであれば、子どもたちの為に教育の一環として映画上映をしたい。私は、この想いのため、また実現に向けて、今は行動に移している。少しでも、子どもたちの未来が明るいものにしてあげられるのであれば、私は大変な苦労も厭わないだろう。

最後に、映画『DOGMAN ドッグマン』は児童虐待の末に、裏社会という悪の道へと迷い込んでしまった一人の男の破滅的な人生をバイオレンスに描いたアクション映画だ。今も、この主人公の少年時代のように、劣悪な生活環境で苦しむ子どもたちは大勢いる。この一分一秒のこの間にも、命を落としていたり、危険にさらされている可能性も大いに有り得る。私達大人は、その子どもを助けるために何ができるだろうか?私は、監督が「愛と芸術が、人を救う事ができる。」と言うのであれば、私は映画文化を通して、子どもたち一人一人が安心して過ごせる街づくりを率先して、作って行かなければならないだろう。

©Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.

映画『DOGMAN ドッグマン』は、全国の劇場にて上映中。

(※1)「少年が犬用ケージに監禁された事件に着想を得た」リュック・ベッソンが語る最新作『DOGMAN ドッグマン』撮影秘話https://www.banger.jp/movie/111599/(2024年4月2日)

(※2)犬と人間のつながりの歴史。どうして人間は犬と暮らすようになったの?https://peco-japan.com/52285(2024年4月2日)

(※3)現代社会で重要性を増す犬の役割https://www.aliceribbon.ch/index.php/ja/4-the-increasingly-important-role-of-dogs-in-modern-society-j(2024年4月2日)

(※4)ペットとどう違う?コンパニオン・アニマル(伴侶動物)という考え方https://cheriee.jp/column/8217/?amp=1(2024年4月2日)

(※5)犬は人間に共感する能力を持っている —飼い主の短時間の情動変化にも呼応することを麻布大グループが心拍解析で解明https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20190910_01/(2024年4月2日)

(※6)Un enfant 6 ans retrouvé nu et enfermé dans une cage à chien, les parents interpelléshttps://www.francelive.fr/article/france-live/un-enfant-6-ans-retrouve-nu-et-enferme-dans-une-cage-a-chien-les-parents-interpelles-7943086/(2024年4月2日)

(※7)Alençon. Il met sa fillette dans la cage du chien : 6 mois fermehttps://www.ouest-france.fr/normandie/alencon-61000/alencon-il-met-sa-fillette-dans-la-cage-du-chien-6-mois-ferme-5081436(2024年4月2日)

(※8)12歳息子を犬用ケージに監禁 殺人未遂容疑で女を捜査 オーストリアhttps://www.afpbb.com/articles/-/3468209(2024年4月2日)

(※9)犬用ケージに入れられた1歳児、600匹超の動物と共に劣悪な環境から救出される(米)<動画あり>https://news.line.me/detail/oa-techinsight/bar8bnpjd4tm(2024年4月2日)

(※10)3歳男児が窒息死 “足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件”の両親は次々と子供をつくっていった 凶悪事件から読み解く貧困問題 石井光太インタビュー #2https://bunshun.jp/articles/-/14260?page=1#goog_rewarded(2024年4月2日)

(※11)Des chiens pour soutenir les enfants victimes désormais déployés dans tous les départementshttps://www.leparisien.fr/animaux/des-chiens-pour-soutenir-les-enfants-victimes-desormais-deployes-dans-tous-les-departements-20-12-2022-GQRQ67GWPNBPDB7LOZRUU4N2AM.php(2024年4月2日)

(※12)Comment des chiens « superhéros » soutiennent les jeunes victimes face à la justicehttps://www.20minutes.fr/societe/4015673-20221220-comment-chiens-superheros-soutiennent-victimes-face-justice(2024年4月2日)

(※13)An Emotional Luc Besson Gets Rapturous Reception At Venice Presser For ‘DogMan’: “The Only Two Things That Can Save You Are Love And Art, Definitely Not Money”https://deadline.com/2023/08/luc-besson-caleb-landry-jones-venice-film-festival-reaction-dogman-press-conference-1235532456/(2024年4月2日)