ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』華やかなオリンピックの裏には、看過できない事実もある。青山真也監督に単独インタビュー

ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』華やかなオリンピックの裏には、看過できない事実もある。青山真也監督に単独インタビュー

2021年8月20日

映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』   青山真也監督  インタビュー

(c)Tiroir du Kinema

現在、全国で絶賛上映中のドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』の監督、青山真也さんにインタビューさせて頂きました。

オリンピック開催の裏で終の棲家を追われた名もなき市民の心の声に耳を傾けたい。

(c)Shinya Aoyama

—–本作を制作するにあたって、テーマを定めた一番の決め手は、なんでしょうか?

青山監督:2013年にオリンピックが決まった時に五輪関係の映画を観賞しました。

記憶に残る場面がとても多くあり、市川崑監督の『東京オリンピック』の建物が解体されるシーンから始まる冒頭だったんです。

当時も土地開発の映像があり、オリンピックの公式で差し込まれるところに強い関心を抱きました。

何を記録として残していくか考えた時、今回の国立競技場の建て替えによって、引っ越しされる方を記録に残すべきテーマではないかと思い、アパートへの取材を始めた経緯があります。

(c)Shinya Aoyama

—–監督にとって、初めての作品だったと思いますが、撮影中に苦労されたことは、ございますか?

青山監督:ひとつ挙げるなら、この映画は、アパートの多くの住民を撮影している作品です。

個人にフォーカスするだけでなく、住民たちのコミュニティを描写するために、多くの方に声をかけました。

もっと広い地域社会を写すことが、一番大変でした。

ただ、このアパートの問題を取り上げると見えてきたことがあります。

様々な考えがある中、この移転に対する政府の対応を巡って、声を上げた方たちもおられました。

移転を進めないといけない方たちにも取材しています。

このアパート全体を撮影したことが、大変なことのひとつでもありました。

補足ではありますが、本当は移転したくないと心から思う方たちが、ほとんどでした。

この作品に映っている方たちは、移転はしたくないという考えの方たちだったと思います。

(c)Shinya Aoyama

—–撮影時に気をつけていたことは、ございますか?

青山監督:様々な考えを持っている方々を映す時、自分の関心が赴くままに撮影すると、恐らく一貫した距離では撮れなくなると思いました。

ただ、この作品では、その距離が広がらないようにしていました。

—–取材を続けていく中で、住民の引っ越しに何か感じることはございましたか?

青山監督:長年、アパートに住んでいる方が多かったので、膨大な量の荷物がご自宅に置かれてました。

住民の中には、家族で住んでいましたが、お子さんが巣立ち、パートナーが亡くなり、現在は一人暮らしの方が大半を占めていました。

その膨大な荷物を仕分けして、残すか捨てるかの作業が肉体的にも精神的にもかなり大変だったと思います。

(c)Shinya Aoyama

—–住民の方々の引っ越しが政府の一方的な対策だったと思いますが、東京に限らず、どこの都市でも行われてることだと思いますか?

青山監督:オリンピックは、様々な国や都市を回って、行われていますね。

これまでの五輪を見る限り、今回のような問題が必ず、浮上すると思います。

至る所で行われている事実だと思います。

今後も同じような事が起きる可能性もあると思います。

オリンピックだけに限らず、大きいイベントでは起きるでしょう。

すでに開発業者が入ったジェントリフィケーション#1の問題が最近、SNSで話題になったばかりです。

(c)Shinya Aoyama

—–コロナ禍でオリンピックが強制開催された今、アパート住民の生活や命より五輪が最優先されたことについて、どうお考えでしょうか?(インタビューは、7月下旬に行いました)

青山監督:とにかく、オリンピックを開催しようとする姿勢ですね。

中止するのは簡単だと政府は言っておりますが、開催するという難しいチャレンジをしているわけですね。

アパート住民への強制退去の時から、政府の姿勢は変わっていないなと感じております。

もっと適切な対応を取れているようであれば、今起きている問題を抱えたまま開催しているオリンピックは、また違った方向になっていたと思います。

その都度、適切な声を今ぐらいちゃんと声を上げていれば、アパート住民への状況も良くなったと思います。

(c)Shinya Aoyama

—–引っ越しを余儀なくされた住民の方たちのその後は、どのように過ごされていますでしょうか?

青山監督:恐らく、新たにコミュニティを作りながら、新しい生活をしていることでしょう。

でも実際は、移転作業が過酷だったため、お亡くなりになった方もたくさんおられます。

移転の告知を告げられてから、不安に押し潰されて、お亡くなりになった方も一人や二人ではありません。

移転の進め方をもっと大切にしておけば、このように多くの方がお亡くなりにならなかったのではないかと思います。

—–最後に、本作をご覧になった方々にどのように感じて、考えて頂けたらと思いますか?

青山監督:この作品は、ナレーションを入れておらず、説明がほとんどない映画です。

なので、私からこんな風に読み取って欲しいと考えておりません。

できれば、この映画を観るということは今しかできない観賞体験になると思いますので、ぜひ体感して頂きたく思います。

(c)Shinya Aoyama

#1 地域に住む人々の階層が上がると同時に地域全体の質が向上することを意味する

映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』は、現在、全国の劇場で絶賛公開中。関西では大阪府のシネ・ヌーヴォにて8月28日(土)から公開予定。京都府ではップリンク京都にて、8月13日から公開中。 また、10月15日より兵庫県のシネ・ピピアにて、公開も始まります。