映画『エスパーX探偵社 ~さよならのさがしもの~』「生活感溢れる浅草を捉えて」木場明義監督インタビュー

映画『エスパーX探偵社 ~さよならのさがしもの~』「生活感溢れる浅草を捉えて」木場明義監督インタビュー

下町を舞台に超能力探偵が疾走する映画『エスパーX探偵社 ~さよならのさがしもの~』木場明義監督インタビュー

©️2023 イナズマ社

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—–映画『エスパーX探偵社 ~さよならのさがしもの~』の制作経緯を教えて頂きますか?

木場監督:制作経緯ですが、ベースになる脚本が、10年前には書いていました。超能力者達が、活躍の場を失い、飲み屋で集まって飲んでいるだけの人達という設定でした。彼らが、自分たちの力をもっと役立てようと考えて、困っている人を助けるという発想から探偵でもしてみようと、立ち上がるストーリーを脚本で書きました。一旦は書いたものの、撮影が一切進まず、シナリオはお蔵入り状態でした。それからしばらく経ち、短編で『サイキッカーZ』というコメディ作品を作って映画祭に出品したら、案外評価してもらい、長編への要望も頂き、2、3年前に長編版の映画『サイキッカーZ』を作りました。その流れとして、世界観のまま超能力ものを作ることに目覚めたんですが、コロナ禍で撮影もできない中、超能力の物語と10年前に書いた脚本を思い出しました。その時には既に『エスパーX』という題名は用意していましたが、それを機に去年の頭あたりに、補助金の募集もあり、チャンスだと感じて、超能力の短編映画を作りたいとずっと思っていましたが、ちょうど去年の頭辺りに探偵モノで脚本を書こうと思ったのが、最初の思い付きでした。

—–10年前から構想されておられたのですね。

木場監督:自分の超能力とは別として、特技があったり、自身の本質や特性がある事実をもっと仕事や生活に活かせないかなと考える事が皆さん、多いと思います。そういう意味合いを踏まえて、自分をどう活かして行くのかみたいな自分自身も悩んでいた時期でした。その私の思いをストーリーにして行ったという感じです。

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—–正直、今のお話をお聞きして感じたのが、10年前はちょうど超能力を題材にした作品が、制作されていた背景がありますよね。『HEROS ヒーローズ』という海外TVドラマや映画『X-メン』シリーズが頻繁に制作されていましたが、今は下火になりつつある今、超能力ものの人気が低空飛行かなと感じますが、この件に関して、何かお考えはございますか?

木場監督:あまり意識はしていませんでしたが、確かにドラマの『HEROS ヒーローズ』はありましたね。観たことはありませんでしたが、ただずっとMARVELと言ったスーパーヒーローの作品がずっと人気がありますね。時代の流行りは考えた事はありませんでしたが、僕の中では自分のタイミングでしか超能力ものを作りたいという思いが駆け巡って来ました。あと、少年のワクワクドキドキしたあの気持ちを考えると、自分がワクワクするものを大切にしたいという思いがあって、超能力と短編は僕らの憧れです。幼い頃に通る道であり、時間が経って、熟成されて作りたいという気持ちが沸き起こりました。

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—–前作『サイキッカーZ』でも同じ超能力を取り扱っていますが、この超能力に対して、監督自身は何かお考えはございますか?なぜ、超能力を作品の題材にするのか?

木場監督:元々の発想の原点は、自身の子どもの頃の超能力ブームです。当時はテレビでユリ・ゲラー(※1)のスプーン曲げが、子どもたちの間で流行った時代です。テレビでは、「あなたもスプーン曲げができます」と言って、ユリ・ゲラーが念じるんです。その時代は、超能力が流行っていて、テレビを観ていると、そのパワーを茶化す大人たちもいました。その時、子どもながらに、スプーンを曲げる超能力は、世の中でどんな役に立つのだろうと考えていました。たとえば、車の凹みを直すとか、そんな超能力として活用することができるのではと、幼いながらにずっと考えていました。そういう事を考えるのが、非常に楽しかった事がベースにあります。映画『サイキッカーZ』でも超能力者達が、どうやって活躍して行こうかと集まって、活動する姿を描いています。今回の作品でも、超能力を持つ探偵が如何にその力を外に出して、如何に活かして事件を解決するのかと、周囲の人間たちが自身の超能力をどう使っているのかと、物語を組み立てられるのかという事を考えるのが、矢張り楽しかったんです。自身の経験談を踏まえて、物語を構築させて行きました。超能力は、特技の一つとして捉えて、面白く物語に昇華して行こうかと。ただ、自分で考えるとワクワクするので、お話として組み込んで行きますが、スーパーヒーローと言った凄い力を持った人物ではなく、ちょっとした能力を物語に活かせればと考えています。

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—–超能力の能力に関してですが、人から殴られて相手の背景が見える(相手とリンクできる)という力の設定は、あまり聞いたことありません。監督は、この能力をどのタイミングで思い付きましたか?

木場監督:物語を考える時は、図書館やスタジオに篭って、ノートを広げて、ずっと考えています。ただ、その時は不意にアイディアが出て来たんです。ただ、探偵ものに対しては暴力的なイメージが、あったんだと思います。ポッと、出て来たんです。殴られたら相手の気持ちが分かる能力が、唐突に思いつきました。これなら物語として成立するかなと感じました。ひとつハードルがある方が、面白いかなと普段から考えています。都合よくなると、面白味が半減するだけでなく、ストーリー性も弱くなってしまうのも嫌ですね。殴られる事によって、痛みやハードルがある方が、お客さん自身も納得できるのかなと思います。

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—–物語の舞台が下町の浅草ですが、超能力と下町が似ても似つかない場所なのかなと思います。超能力のイメージは、近代的な大都市の印象を持たれやすく感じます。この点を下町にする事によって、超能力を表現する効力はございますか?

木場監督:浅草の舞台にした理由のひとつは、好きな町を舞台にしたかったんです。浅草は、僕の中では好きな町のひとつです。たまに行けば、散歩だけして帰ってしまう時もあります。浅草という町そのものが、古い風景と再開発されて新しくなった風景があるんです。どんどんどんどん、生まれ変わりつつある町でもあります。古い映画館は、壊されてしまい無くなってしまいました。新しいビルが立ち並び、現在はちょうど、町全体が新陳代謝をしている時期かなと思います。それでも、古い町並みはそのまま残されていて、風情があって非常にいいんです。古くもあり、新しくもあり、昔ながらの風景もあるという点が、探偵ものとしても面白い一面があるのではと感じます。超能力者が生まれてくると、まるで新しい人類が生まれてくるみたいなメタファーになるのではと、同時に考えています。その古さと新しさのギャップが、新しいものの象徴としていいんです。たとえば、スカイツリーが見えるのがまたいいと思います。妙に昔と今が、混在している感じが、マッチすると思っています。

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—–本作は脱力系としてのジャンルですが、登場人物が非常に平凡な人物に見え、逆に超能力という力を持っていなさそうに捉える事ができる反面、逆に不思議な何か力が突出しているようにも見えて仕方ありません。監督は、このギャップについて、何かお考えはございますか?

木場監督:それは、キャラクターの色合いとして、強くなっているという事でしょうか?

—–平凡な人物に対比して、超能力が突出しているようにも感じます。映画『X-メン』で例えるなら、キャラクター自体に色が付いていると思うんです。パワーを出さなくても、何かを持っている雰囲気を醸し出している。一方で、本作は普通の町の、普通の人が何を持っているのか分からないけど、何か力を持っている点が、逆に超能力そのものに特化しているようにも感じます。

木場監督:その点は、考えていなかったんですが、今お話された特色を自分の色や作風にしていると言えば、少し不思議な世界やSFが好きな僕にとって、日常の中に不思議な世界観を落とし込む事がしたかったと思います。感覚的に言えば、アニメの『ドラえもん』のような感じですね。普通の生活の中に急に、ドラえもんがいるような世界観を描きたがっている自分がいます。普通の人をベースとして考えていますが、映画だけでなく、色々な仕事をして、色んな人と触れてきた中、普通という言い方よりも、もっと一般的な中に物語を作りたかったんです。普通の人という言い方が、あまりピンと来ないですし、いい言葉どうか分かりません。いわゆる、僕らの共通の生活にあるのは、映画のようにドラマチックな部分ではないですよね。僕も含めて、人は地味に一生を終えてしまう生き物だと思うんです。また、様々な事件が起きていますが、実際の生活はもっと何も無いと言いますか、何も無くていいんです。それが、普通でいいんです。そういう所に、不思議な出来事を起こして、物語を持って行きたいんです。だから、多分、極端なキャラクター作りをしていないんです。それがいい事かどうか分かりませんが、ある種、キャラクター作りが極端にならないようにと心掛けています。普通なら、キャラクターには色が付きがちですが、型に嵌める事をしないようにはしています。探偵ものの型みたいなモノがありまして、そこから少しでも一歩先に出して行く必要がありました。改めて、今お話する中、そんな考え方もあって、キャラクターに色が付いてないんだと思います。

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—–超能力×探偵という組み合わせは、思い切った設定のようにも感じますが、この構成にする事によって、作品にどんな作用が働いたと思いますか?

木場監督:振り返って思うのは、意外と、この設定は今までなかったと思います。昔のSF小説には似たような設定があったと思いますが、改めて探偵ものがしたかったんですよね。本作の前後にも、様々な探偵ものの映画が公開されていましたが、僕らの世代が思い付く探偵作品は、映画『探偵物語』です。少し違う色合いを出す時に、僕なりに考えると、超能力を入れることによって、SFのテイストを入れた作品を作る事で、僕らしさが出てくると思うんです。カッコよく言ってしまえば、作家性ですよね。そんな立派な言い方よりも、僕の色合いが超能力×探偵でちょうど良かったと思います。謎解きミステリーを真正面から作ると言うより、探偵もののハードボイルドを真正面から作る訳でもなく、探偵とは別の要素を入れたかったんです。そうする事で、僕の中でワクワクして来ました。本作では、この色で攻めてみようと思いました。案外、ストーリーとして成立したのが、良かったです。

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—–素朴な疑問も湧きましたが、超能力でも物や人を探せて、探偵でも同じように探せると思うんです。どちらか一つでも作品は成り立つと思うんですが、これらを組み合わせる事によって、作品は最終形態として完成した、監督はこれについての何かお考えはお持ちでしょうか?

木場監督:作品が、この組み合わせによって、成功したのかどうか、難しい所もあります。考え方としては、超能力を持っている人達が居る世界を考えた時、犯罪者がまず多いと思うんです。また、超能力を持っていたとして、意外と役に立つのは難しいと考えました。物語を具体的に考える以前から、この組み合わせは難しいイメージがありました。ただ、探偵もので超能力を活かすことが、殴られて相手の感情が分かる人物が探偵業を生業にするというフワッとしたモノで生まれる展開は、今後出てくると思うんです。それでも結局、探偵は自分の足を使って、事件を解決させないといけないんですが、その点におけるジレンマは上手に作中で発揮できたと思っています。

—–Suga-Pimps(※2)さんが歌うエンディング曲『トゥゲザーだぜ!』非常に良い楽曲で、作品とマッチしていました。あれは、書き下ろしでしょうか?

木場監督:Suga-Pimpsさんは、お世話になっているソウル・デュオの方です。いつも、いい曲を作ってくれます。あれは書き下ろしではないんですが、ちょうどSuga-Pimpsさんが出した新曲を聞いたら、探偵もののエンディング曲にピッタリ過ぎて、カッコよすぎたので、あの音楽は彼らからお借りして使用させて頂きました。

—–Suga-Pimpsさんにとっても、久々の新曲でしたよね?

木場監督:たくさん曲を出すタイプの方たちではないですね。ライブでもオリジナルと有名なソウル音楽のカバーのセットリストを歌っている方たちです。凄くクールな方々です。

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—–本作のクラウドファンディングのページを拝見させて頂きましたが、その中の作品概要についてですが、先程もチラッとお話されたように、「様々な町が再開発でどんどん変化して行き…かつての景色がまるでなかったかのように生まれ変わる」とありますが、本作において、この町の変化を表現できたと思いますか?

木場監督:町の変化を表現できたとは、思いません。町の変化を表現するのであれば、町に対して向き合わないといけません。そこまでは表現できていません。特に、今回は浅草で撮影しましたが、中心街や人混みの多い商店街は撮影が困難でした。割と、あの観光名所である浅草の中心地にはカメラのレンズを向けていませんが、ただ浅草の中でもメインとなる部分以外では、少し外れた地域がメインのロケ地でした。生活感の溢れる浅草を捉えていると思いますが、映像としては町の変化までは向いていませんでした。

—–同クラウドファンディングのベージ内にて、監督のコメントにて「この映画が、最高の映画のステップになるように…」とありますが、本作の制作や完成を通して、最高だと感じる瞬間はございましたか?

木場監督:その点に関しては、まだ不明瞭な事が多いですが、それでもまだまだできる事がたくさんあったと思います。今までの作って来た作品からは、一段上がったと言ってもらっています。今まで観て来た方からは、ステップが上がったねと、言われた事があります。客観的に言ってもらえる事は何度かありましたので、そんな時は少しでも頑張れたと、自身を褒めてあげたいです。撮影から編集までが、物凄く大変な作業ばかりでした。振り返ってみれば、大変だったという感想しか持っていませんが、後は皆さんにどうジャッジされるかどうかだと、思います。小さな階段ですが、一段だけでも登れたら、良かったなと感じますね。一段だけでも登れたねと思って頂けたら、成功ですね。次回作で頑張りたいです。

—–本作『エスパーX探偵社 ~さよならのさがしもの~』が、今後どのような道を歩んで欲しいとか。また、作品に対しての展望はございますか?

木場監督:欲を言えば、もっと人気が出ていれば、続編も視野に入れていました。あとは、スピンオフ作品の制作にも取り掛かっています。関西の上映時には、5分から10分ぐらいの短編作品を制作中です。この作品では、脇役だった人物を主役にして、物語を作りました。この作品も併せて、地方上映を盛り上げて行きたいと考えています。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

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映画『エスパーX探偵社 ~さよならのさがしもの~』は現在、関西では7月8日(土)より大阪府のシアターセブンにて、上映中。

(※1)「スプーン曲げはインチキか」ユリ・ゲラーを追ってアメリカへ…若きMr.マリックが挑んだ「超能力の謎」その真相はhttps://bunshun.jp/articles/-/55871(2023年7月6日)

(※2)Suga-Pimpshttps://suga-pimps.com/(2023年7月7日)