『第0回 北海道まある+映画祭』「広く作品を集めようと計画中」 ご担当者 川島 亜希彦さんインタビュー

『第0回 北海道まある+映画祭』「広く作品を集めようと計画中」 ご担当者 川島 亜希彦さんインタビュー

2023年7月20日

北海道で映画館のない市町村を巡回する『第0回 北海道まある+映画祭』 ご担当者川島 亜希彦さんインタビュー

—–映画祭の巡業を思いついたのはいつ、どのタイミングでしょうか?また、本映画祭の目的を教えて頂きますか?

川島さん:僕自身は、2020年からゆうばり国際ファンタスティック映画祭の事務局を担当しています。3年間は、オンラインのみでの開催でした(2022年は、オンラインと現地での上映)。30年以上続くゆうばり映画祭には、熱狂的な映画ファンや若手の登竜門を目指す監督たちの熱心さを感じますが、マニアックな傾向もあるので、ライトな映画好きの方が参加しにくい一面もあるのでは無いかと感じていたんです。もう少し、ライトな映画好きの方に開かれた映画祭が一つできないかと思っていました。あと巡業で言えば、2021年に文化庁から支援を頂き、ゆうばり映画祭の出張上映会を全国のミニシアターで開催しました。2020年はオンラインでしか上映できなかったので、その作品を全国に届けて、監督本人にもその場に登壇して頂く趣旨で試みました。その取り組みが、非常に有意義に感じましたので、巡業を再度復活させたいと思っていたんです。その時は、ミニシアターで上映する事が目的でしたが、北海道にはミニシアターやシネコンどころか、映画館そのものがない地域が、たくさんあります。197市町村のうち、13市町にしか劇場がありません。映画を観るだけで、片道2時間かけて行かなければいけない環境のまちが、多くあるんです。ですので、年に一回でも「巡業」というスタイルで映画を観て頂ける環境が作れたら、喜んで下さる方もおられると思って、本映画祭を立ち上げました。

—–映画祭名である「北海道まある+映画祭」の+(プラス)には、どういう意味合いがございますか?

川島さん:+(プラス)には、ただ映画を上映するだけなら、単に楽しんでもらうだけの作品でいいと思うんですが、たとえば、町おこしに繋がるような発想のヒントや町がもっと良くなる考え方のちょっとした手がかり、また町の情報を外に広げる観光PRを、映画にプラスアルファとして付加価値を付けられたらと、うちの代表が映画祭の名前に+(プラス)を付けようと、考案しました。正直、文字だけで+(プラス)と入れても伝わりにくいかなと思ったんですが、皆様にしっかり伝わればと願っています。

—–地方を知ってもらうのは大切な事だと思っています。また、地方で活動している関係者もたくさんおられて、彼らが活躍できる場を、もっともっと業界が作って行く必要を感じます。

川島さん:先程の+(プラス)のお話にも繋がりますが、全国の映画制作者の方々にも本映画祭の情報を知って頂き、幌加内町や別海町という町の名前を認識してもらえたら、と思っているんです。今回の上映地の一つである森町は、具体的にロケーションマッチという取り組みも始めています。駒ヶ岳という山があって、海に面していて雄大な景色が見える土地です。その場所が気になれば、ロケ地として使って頂いてもいいと思います。撮影が決まると、宿泊費を補助する取り組みも行っています。蕎麦の生産量が日本一の幌加内町では、7月の時期は蕎麦畑が満開の季節なんです。このタイミングを上手に利用して、映画祭を開催すれば、相乗効果が起きて、何か化学反応が起きるのではないかと、少しばかり期待しています。

—–北海道に対して、道民以外の日本人は正直なところ、観光地で有名な地域しか分からないのが現状ですが、今回、幌加内町、森町、別海町という町を選んだ理由は、なんでしょうか?

川島さん:実際、全部で22ヶ所ほど、現地の下見をしました。その中で必要な要素が2つあります。まずご縁をいただき、窓口担当者や会場受付担当者の方々が興味を持ってくれないと、次に進んでいけません。単純に、お金を払って、ホールを貸してくださいという事ではなく、企画を持ち込んで、町で一緒にやらせてもらえないかと、打診していく方法を選びました。この活動に対して協力体制を比較的、早く取り組んで頂けた町というのが、まず一つでした。もう一点は、北海道の全体をバランスよく回りたいと思って、当初は8ヶ所での上映を目安にしていましたが、上映場所が多くなればなるほど、運営費の負担が大きくなってしまいますので、今回は場所を絞って広大な北海道に円を描くようなバランスも考えて3ヶ所に決めました。今年、開催しない町も来年以降、ぜひ開催したいと考えています。まだ下見できていない町もありますので、もしかしたら、一度開催することによって、開催に手を挙げて下さる町もあればいいと、期待しています。

—–東と西、そして真ん中と。バランスの取れたいい場所での開催に対して、個人的には良い印象を持っています。

川島さん:移動は大変ですが、確かにいいバランスだと思います。幌加内町が一番近くて、今いる場所から片道3時間程度です。でも、別海町に行こうと思ったら、ここから現地まで5、6時間はかかってしまいます。

—–普段の映画祭のイメージは、商業は商業、インディーズはインディーズ、と分けて運営しているようにも受け取られますが、本映画祭は両者を垣根なく取り扱っている事に対して、非常に好感が持てます。なぜ、今回のスタイルで運営すると決めましたか?

川島さん:今回は、ゼロからのスタートでもありますので、正直なところ、作品をどう集めるかと考えると、既存の上映会用に素材を準備してくれている企業に頼るしかなかったんです。ただ、その中でも作品のタイトルや集客数を含め、各メーカーさんや配給間の価格がバラバラなのでコストを抑えつつ、集客できそうな作品を選びました。あと、自主制作の映画は映画館のない町の方々にとって、もっと観る機会が少ないと思ったので、積極的に自主映画の作品を紹介したいと考えました。様々な理由が絡み合った結果、必然的に商業とインディーズをミックスするスタイルとなりました。

—–上映する町の施設の音響設備には、何か気を付けている点はございますか?

川島さん:今回、映画祭を開催する会場の下見をして、ある程度イメージはあるんです。幌加内町に関しては、町で年に2回ほど、上映会を過去に開いていました。上映する時のスタイルもお聞きして、映像も再生してみて、普段の方法で問題ないと分かりまして、幌加内町の設備はクリアしました。また、別海町は去年できたばかりの新しい施設がありまして、普通に買うと300万円ぐらいする業務用の大きいプロジェクターがあり、音響に関してもまったく問題ありませんでした。ただ、森町に関しては、普通の公民館が会場ですので、これから色々と精査していく必要があります。プロジェクターや機材の持ち込みは必須で、音響機材を加える必要も出でくる可能性があります。その点は、趣旨に賛同して下さるお世話になっている方から安価でお借りできそうなので、無事クリアできそうです。気を付けているかどうかのお答えは、現段階ではちゃんとできませんが、今お話した事を含めて、一度トライする必要があります。だからこそ、今回は第0回として運営する事に決めました。これらの事を含めて、テスト上映、テスト運営という位置付けです。入場料を頂く以上、できる限りの体制で挑み、いい環境にしたいとは考えています。

—–個人的にも、将来的に巡業映画館は視野に入れておりますが、「巡業映画祭」というアイディアは思い付きませんでした。今のこの時代に、「巡業」は合わないという印象も持っていますが、なぜ巡業で運営されるのでしょうか?

川島さん:ただ、最初から映画祭という発想は、正直ありませんでした。最初の構想は、上映会だったんです。だけど、上映会でも2日間使って、何作品かを用意して、地域性に合った作品を観てもらうスタイルを考えた時、これは映画祭では?と思いました。映画祭として銘打った方が、注目されやすいのではないかという計算もしつつも、あと今年は開催初年度なので、実績も何も無いので助成金の話はありませんが、一度映画祭として成立させてしまえば、2年目以降には周囲からのフォローも受けられる可能性も出てきます。最初は少し悩みましたけど、映画祭と言ってしまうほうが、より趣旨に合うと思いました。それと、我が社の代表が、ゆくゆくは一年中、どこかで映画祭を開催している体制を作りたいと話しています。例えば、年柄年中、映画祭を運営していると、普通に劇場公開作品がどこかのタイミングではまって、上映できるかもしれないと考えています。今の興行のあり方そのものも、将来的に拡大できるのではないかと、多少なりとも可能性を感じています。全国にシネコンが沢山あっても、小さな作品を上映する機会が減っているのが現状ですので、それらの映画の受け皿になれるようにとも思っています。ただ、幌加内町の人口は、1300人です。過疎の町で、人口減少が叫ばれる中、町全体の面積は非常に広いんです。ここには、日本一の人造湖があるぐらいなので、端から端まで移動しようと思ったら、1時間は必要となります。こんな環境ですので、集客を考えると、更にハードルが高くなってしまいます。だから、幌加内町は土日2日間の開催のうち、土曜日の午前中には、幌加内高校という全国でも珍しい蕎麦打ちが必修科目にある学校がありまして、その高校の生徒が蕎麦を振る舞うイベントがありますので、あえて開催日をその日に合わせました。町民の方々が、中心部に出て来た時、そのタイミングで映画を観てもらえたらと、期待しています。加えて、観光の方や近隣の市町村の方々にも来て頂ければ、1300人の町とは思えないぐらいの上映ができるのではないかと、淡い期待を抱いています。

—–映画館ではなく、映画祭が劇場のない町に巡業する意義は、なんでしょうか?

川島さん:地方在住の方にヒアリングすると、幼少期はアニメ『ドラえもん』が毎年、上映会のラインナップとして町にやって来たと懐かしそうに話して下さる方が多くおられました。元々、映画館がない所では巡業として映画が上映されていましたが、そんなサービスも無くなってしまった現状ですよね。だから、この観点で言えば、年に一度でも映画が町にやって来るという環境が、楽しいのではないかなと思いました。

—–映画を上映する事によって、大人にとっては子どもの頃の良い思い出を想起させて、今のお子さんには良い思い出になりますね。

川島さん:あとは、スクリーンで観る経験をしている子どもたちは、年々減っているような気がします。正直、映画を観ようと思えば、スマホで簡単に観られてしまう時代。でも、携帯で観た作品は、消費している感があり、なかなか記憶には残らないと感じています。倍速鑑賞やファスト映画が問題になりつつ昨今、巡業というスタイルを通して、スクリーンでの映画鑑賞の体験をして頂きたいと思っています。会場に向かう道中の期待感、観終わった後の読後感的な余韻を味わうのも含めて、すべて体験して欲しいと願っています。それは、地方にまで持っていかないと、なかなか体験してもらえないと考えています。

—–今後、映画業界が地方の映画館のない地域に目を向ける必要性があると、思いますか?

川島さん:劇場のない町で住んでおられる方は、沢山おられますので、作り手の方々が大きいスクリーンで観てもらいたいと思って作った作品であれば、業界側が大きなシアターで上映する努力や工夫があってもいいと思います。僕らの映画祭も上手に利用してもらえれば、嬉しい限りです。

—–上映する事が、いい機会になると思います。映画文化のない町に、映画を届けるのは、文化を残していく意味合いとして、将来的に良い相乗効果になると信じています。

川島さん:映画祭のホームページを作った時、お問い合わせフォームを作って、自主制作作品を売り込みたい方用の項目を試しに加えてみました。すると、ティロワ・デュ・キネマさんからご紹介して頂いた方含め、問い合わせをして頂く方も結構おられました。来年以降はしっかりと準備をして、応募規約や条件を明示した上で、広く作品を集めようと計画中です。

—–最後となりますが、将来的に、この映画祭をどのような形にしたいというお考えはございますか?

川島さん:先程も触れましたが、毎月どこかで、この映画祭が開催される状態にしたいと思っています。あと、今年は3ヶ所で上映してみて、もし別海町さんがもう少し力を入れて映画祭をやりたいとなったら、オリジナルの映画祭というスタイルで、別個に運営して頂いても問題ないと、考えています。例えば別海町映画祭という名前でもいいし、森町映画祭というのがあってもいいと考えています。それぞれの町が、独立した運営方針として映画祭を運用して頂いてもいいと、願っています。こちら側はお手伝いということで参加もできます。一番は、町の特色を上手に映画祭に利用して、オリジナルの映画祭がどんどん増えていけば、もっともっと楽しい何かが生まれると思っております。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

第0回 北海道まある+映画祭 

今後のスケジュール

  • 7月22日(土)、23日(日) 幌加内町生涯学習センターあえる97
  • 8月19日(土)、20日(日) 森町公民館(森町福祉センター)
  • 9月23日(土)、24日(日) 別海町生涯学習センターみなくる

観賞料 :1回800円、小学生以下無料

上映作品:1日で3~4作品を上映予定

チケットは町内及びオンラインで販売予定(詳細は6月中旬に発表予定)