映画『ディスコーズハイ』「音のピントを合わせに行く」録音部の坂厚人さんインタビュー

映画『ディスコーズハイ』「音のピントを合わせに行く」録音部の坂厚人さんインタビュー

2022年8月7日

録りたい音を拾いに行く。聞かせたい音を録りに行く。映画『ディスコーズハイ』録音部の坂厚人さんインタビュー

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–坂さんは元々、カメラマンだったと思います。現場でもスチールなど、カメラに関わるお仕事をされておられますが、今回はなぜ録音部でご参加されておられるのでしょうか?

坂さん:実は岡本監督の作品には、昔からずっと手伝っています。

現場では、録音をする人が足りないですし、いないんです。

僕は、大阪にあるビジュアルアーツ専門学校の放送映画学科を卒業しておりまして、詳しくはありませんが、プロ用の機材を触ることができます。

岡本さんがお持ちになっている、ミキサー周りは使用できるんです。

ですので、録音部が所有するブームやガンマイクの使い方は、知ってはいます。

機材を触れるからこそ、岡本さんの現場ではずっと、録音部として参加しております。

ただ、ライブやMVの撮影時は、カメラマンとして作品に携わっております。

その時々で、関わる部署は違ってくるんです。

—–昔からのご縁で、長く一緒にご活動されていらっしゃるのですね。

坂さん:本当に、岡本さんと出会ったのはmixiの時代ですよ(笑)

—–mixiって、10年以上、前じゃないですか(笑)?

坂さん:僕が、専門学校を卒業して、一度仕事を辞めたんです。

自主映画に関わりたいと思ってた時期が、あったんです。

とにかく関わりたくて、色々ネットや様々な方法で探しておりました。

その時、mixiでスタッフ募集を見つけて、とりあえず応募しようと思って、連絡を取ったんです。

その相手が、岡本さんであって、今の付き合いに発展しております。それが、10年以上前の出来事です。

—–こういうお話をお聞きして、映画に興味ある方は、ぜひ行動して頂きたいと思います。

坂さん:今回の岡本監督の作品『ディスコーズハイ』は、配給作品となっておりますが、まさかそんな配給される映画を作れると、当時は思っておりませんでした。失礼な話ですが。

でも、本当に想像できなかったことですし、ご本人も今みたいな事になるとは、夢の話だったと思うんです。

10年ほど前から、MVなどでお世話になっており、ここ最近は映画の製作が多く、ずっと関わらせて頂いております。

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–ここから録音部の事について、お話をお伺いしたいと思います。まず、録音とはただボタンを押して、周囲の音を記録するだけじゃないと思うんです。録音をする、しないで、作品の全体の雰囲気も変わってくると思います。録音することで、映画の何が変わると思いますか?

坂さん:うーん。難しいですね。少し話がズレるかもしれませんが、全編アフレコの映画って、あるじゃないですか?

それはそれでいいと思うんですが、録音をする事によって、その場の空気感みたいなモノを録れると思っています。

生の撮影現場で画も音も記録することは、大事なことだと思っています。

息遣いやちょっとした机の音とか、こういう環境音はアフレコでは拾えないです。

ちょっとした風や、何気ない音を拾うことによって、雰囲気は変わってくると思うんです。

音を録る意味は分かりませんが、音を録る意義はあると思います。

—–生の音を録る、録らないで、作品の印象は変わってきますよね。

坂さん:映画を撮る、カメラを回す、何でもいいですが、撮る(録る)行為そのものが、意義があるんじゃないのかなと、感じます。

そのチームで作っている雰囲気も、音として録れるのかもしれないです。

—–撮影現場の雰囲気全体をも、マイクが拾っているのですね。

坂さん:拾えているのか分かりませんが、芝居を受けて、現場のスタッフは動くんです。

セッティングして、人や物を配置して、カメラの位置、照明の角度、ガンマイクの差し込む場所。

現場の空気感は、録音マイクに入ってるのかもしれないです。

それが、「何かこの映画、面白いぞ。」と感じるのは、もしかしたら、現場の雰囲気がスクリーンを通して、伝わって来ているのかもしれないですね。

—–環境音含め、音は映画の雰囲気を変えますね。録音機材は、本当に色んな音を瞬時に拾っていきますよね。

坂さん:そうなんですよね。でも、録音部って、できること少ないと思ってるんです。

もちろん、アフレコに頼らざるを得ない場面もありますが、マイクの真横で車の音が入ってきたら、正直邪魔です。

技術云々関係なく、どうしようもないレベルですよね。

違う現場では、全編アフレコを敢行する所もあると思います。

効率を考えれば、アフレコが一番、やりやすいと思います。

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–現場の臨場感で、作品の善し悪しが決まってしまいそうですね。現場の空気感が、スクリーンから溢れるのが、いいですよね。今回の撮影中、本番で何か苦労した事はございますか?

坂さん:まったく撮影と関係のない車が横切ったりするのは、毎回苦労するところですね。

—–それは、よく聞きますね。ブームの振り方ひとつ取っても、現場の広さ、カメラ位置、照明との影になる角度など、差し込む位置には、細心の注意が必要になりますよね。

坂さん:でも、そういえば、ありましたね。作中において、焼肉の場面があるんですが、ブームの振り方は色々ありますが、上から音を録るか、下から音を録るとか、ただアングル的には基本は上から録音するんです。

天井が低いと、音声部として辛い場面なんです。

その時は天井の高さと、ブームの長さが気になりました。

その場面は、引きの画でしたので、録音しながら、一番音が拾える場所を考えて、動いていました。

—–天井が低くて、引きの画となると、ブームが画面に入ってしまう確率が、高いですよね。

坂さん:そうなんですよね。本当に大変でした。録音部の大変なところは、本番ですべて考えて、動いていく必要があるところかと、思います。

リハーサルもないですし、カメラ位置、照明の角度、そして音声部なので、本番スタートのギリギリになって、ガンマイクの位置を調整しないといけないのが、大変ですね。

今はどのように言われているのか知りませんが、専門学校時代に言われた事は、カメラ、照明、音声の順番だったんで、力関係上、音声(録音)部はどうしても、弱い立場になりがちなんです。

でも、一番役者さんのお芝居を聞けるのは、録音部のポジションかと思います。

音を録ってて、ウルっと来る時があるんです。

監督の方が、あまり聞けてない時があるんじゃないかと思います。

ダイレクトに音を拾えるのは、録音部のマイクなので、一番役者さんの声を拾いやすいんです。

より役者さんに近い立場かなと思います。

—–意外と…(笑)。

坂さん:意外と(笑)

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–でも、そのお話は現場に立つ方の感性と言いますか、価値観だと思います。すごく大切なお考えかと思います。現場に行かないと、分からない事もたくさんありますよね。次の質問ですが、本作の製作において、気を付けていたことはございますか?

坂さん:難しいですね~。まったく思い浮かばないです。

ただ、岡本さんの現場に行ったことがある人は分かると思いますが、その場を回すのが、ペース的に早い方なんです。

本人も言っている事ですが、岡本監督はまずプレビューをしないんです。

モニターもほぼ確認せず、その時々の現場で、モニターがあったり、なかったりするんです。

たまに、僕用に準備してくれる時もあります。岡本さんの撮影ペースに合わせて行こうと、いつも気をつけています。

このような感じが、岡本監督の現場のいい所なんです。

監督は、ご自分で撮影も、演出もされる方なんです。

早撮りな方ですが、人に早くしろとは、言わない優しい方なんです。

比較的、低姿勢に接して頂けるので、人に言わない代わりに、現場では的確に動いて下さる方です。

その姿に付いて行こうと、いつも思っております。

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–本作の制作において、録音が占める大切さやウェイト、立ち位置は何でしょうか?

坂さん:僕のスタンスで、録音とは関係ないかもしれませんが、基本的に監督に寄り添うスタッフであろうと思っております。

なるべく、監督がしんどそうな時は、気遣いも大切だと思います。

チームで一緒に製作していくことが、大事かなと思います。

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–とても大切な心遣いと思います。坂さんにとっての映画における「音」とは、何でしょうか?

坂さん:感動できる「音」かなと、思います。

「音」もそうですし、「音楽」もまた、この作品の肝なんです。

音が流れてる時に、感動しないと、本作は成立しないと思うんです。

僕はライブ・シーンが好きなんですが、その時は、ブームを振らずに、カメラを回していました。

現場では大きい爆音の中、音楽を流しながら、撮影しておりました。

その場の雰囲気に、非常に感動した記憶があります。

「映画とは、半分が「音」で決まる。」よく言われる話じゃないですか?

—–初めて、お聞きしました。そうなんですね。

坂さん:「映画とは、半分が「音」で決まる。」って、たまに耳にするんです。

映画の魅力の半分は映像、半分は音と言われます。

それぐらい、音は大事なんです。と、聞いて来ました。

—–いい意味で、とてもゾッとしますね。

坂さん:今回は、岡本監督がほとんど作曲もしています。BGM、整音含め、すべてしています。

「音」=岡本監督ではないかな、と思います。

ひとつの音の中に岡本監督らしさがあり、この作品の楽曲を聴くと、もしかしたら、ビビっと来るものがあるんじゃないかなと、思います。

—–ありがとうございます。坂さんなりのお答えで構いませんが、録音部の役割は何でしょうか?

坂さん:役者さん達の気持ちを収めるのが、録音部の役割です。

—–「音」に気持ちを収めるという事ですね。

坂さん:そうですね。役者さんの演技って、凄いと思うんです。

出演者の方々を間近に見て、僕は役者は向いてないと思わせてくれるほど、演技が皆さん素晴らしいです。

自動で生産されて行くんじゃなくて、クリエイティブで声を発して、表情を作って、表現されていると思います。

それをなるべく、役者さんの表現を「音」として録る事が大事かなと思います。

何も喋ってなくても、録音機材を回すことは大事かなと思います。

何も音が聞こえない中、役者さんは演じられている時も、音が必要かと思っております。

重複しますが、録音部の役割は役者さんに寄り添うことですね。

ただ、すべてのポジションの方に相当することだと思います。

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

—–現場における録音部の重要性は、何でしょうか?

坂さん:現場における録音部の重要性ですよね…。難しいですね。

—–正直なところ、現場では録音機材がなくても、携帯電話の録音機能で音は録れますよね。でも、録音部が存在していて、現場で音を録っている行為の重要性って、なんでしょうか?

坂さん:僕がカメラマンなのかもしれないですが、カメラはピントを合わせるじゃないですか。

録音部は、音のピントを合わせに行くのが、この部署の重要なところかなと思います。

自分たちが聞きたい音を拾いに行く作業をするのが、録音部なんです。

周りには様々な「音」がある訳なんです。セリフ、足音、扉の開く音がありますが、基本セリフにフォーカスしますが、その時の芝居によって一番重要な音を拾って行くんです。

ガンマイクは、狙いに行くので、録りたい音を拾いに行く。

聞かせたい音を録りに行くのが、録音部の重要性であり、役割なんです。

—–本作『ディスコーズハイ』とは、少し話が反れますが、坂さんも監督として新作を製作されたと、お聞きしましたが。

坂さん:そうですね。その作品を今年の年末か来年の年明けには、上映を積極的に行っていきたいと考えております。

ちなみに本作の岡本監督にも、何日か撮影カメラマンとして参加して頂きました。

—–ちなみに、タイトルは何ですか?あらすじも、気になるところです。

坂さん:作品名は『虹のかけら』です。

あらすじは、認知症の母・佳代子と暮らす芽衣。父は若くしてこの世を去った。恋人も友達もいない。他人になりゆく母と過ごす孤独と疲労の日々。

母から目が離せない芽衣は生計をたてるために、夜の仕事をしていた。

客の田中とドライバーの峯田だけが心を許せる相手だった。

そんな芽衣には昔から抱えている母へのあるわだかまりがあった。

そして、芽衣はこうなるまで向き合えなかった母と真正面から向き合おうとするのだが…。

というお話です。

—–この作品には、どんなメッセージを込められましたか?

坂さん:この作品を制作する上で本当に多くの方々に協力していただきました。

感謝してもしきれません。

今、足踏みしてる人、前に進めない人、自分と向き合えない人達に少しだけでも背中を支える映画になれば幸いです。

—–ありがとうございます。最後に、本作『ディスコーズハイ』が持つ魅力を教えて頂きますか?

坂さん:僕は、映画『ディスコーズハイ』をスタッフとか、関係者とか関係なく、いち映画ファンとして、非常に好きなんです。

それまでも観ているんですが、東京に行った時も、映画館に2、3回、足を運びました。

岡本監督のギャグセンスとドラマ性と混濁感がいいんです。

最初期のMVでは、そのようなコメディタッチの作り方をしておりました。

それにドラマ性が引っかかり、凄いいいバランスで出来上がったのが映画『ディスコーズハイ』なんです。

と、僕は勝手に思っております。

「音」の気持ちよさもありますし、監督独特の笑いのセンス、何やかんやで、ライブシーンで凄く爽快になる映画ですので、観終わった後は、気持ちいい作品です。

さらに、何度も観たくなる映画なんです。

とても気持ちいい映画です。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

©️2021 by映画ディスコーズハイ製作委員会

映画『ディスコーズハイ』は、8月6日(土)より、関西の大阪府にある第七藝術劇場にて、絶賛公開中。また、8月19日(金)より京都府の京都みなみ会館にて、上映開始。第七藝術劇場では、連日舞台挨拶があります。