映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』香港民主運動を真正面から描くドキュメンタリー映画

映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』香港民主運動を真正面から描くドキュメンタリー映画

2021年7月28日

映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』の作品概要

©Aquarian Works,LLC

文・構成 スズキ トモヤ 協力 堤 健介

香港で、民主運動の嵐が吹き荒れた2014年。一人の女性歌手がそのムーブメントに名乗りを上げた。彼女の名は、デニス・ホー。この民主運動には中国の歴史が複雑に絡み合う背景がある。過去を辿れば、アヘン戦争、辛亥革命、文化大革命、天安門事件、香港返還など、様々な要因が折り重なり、現在香港で展開されるシュプレヒコールへ繋がる。本作『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』は「雨傘運動」と呼ばれた2014年から起きたデモに参加した人気女性歌手デニス・ホーを追ったドキュメンタリー映画だ。

映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』のあらすじ

香港の民主運動に賛同する人気女性歌手デニス・ホーは、香港政府を相手にデモをする政治活動家だ。政治活動をする彼女には、スポンサーとの契約打ち切り、所属事務所からの退所、レコード会社からの信頼失墜が襲いかかる。本作は、彼女が香港市民と共に政府に立ち向かった数年間の記録だ。カメラは、香港民主運動に向けてひた走るデニスの誠実な姿を捉えてゆく。

映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』の感想と評価

©Aquarian Works,LLC

2008年から始まった香港の民主運動の波は、根強く残る中国史の問題が複雑に絡み合っている。複雑化した社会問題が、背後でおぼろげに渦巻いている。その後景には、中国共産党の存在が、多大に影響する。

歴史を辿れば、1966年から10年続いた「文化大革命」以降、89年の天安門事件、97年の香港返還と共に大きな奔流を伴い、現代の民主運動へと働きかけている。これらの歴史が、現代の香港人の心に暗澹とした史実として根付いている。

©Aquarian Works,LLC

本作『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』は、歌手から政治活動家へと転身する香港の女性歌手デニス・ホーの姿を追ったドキュメンタリー映画だ。

彼女は2001年に歌手としてデビュー以降、香港で絶大な人気を誇っていた。しかし2014年、香港の政治は、急激に変貌を遂げた。それは中国共産党が、一国二制度の約束を反故してきたことがきっかけだ。

      ©Aquarian Works,LLC                    

元々、この制度とは、1997年の返還時、香港で共産主義と自由主義が、存在してもよいと言う制定された方針だ。しかし2014年、その考えを真っ向から否定したのが中国だ。

50年間守ると約束した一国二制度の方策を破棄してきたと言う背景がある。そんな中国のやり方に怒った香港人が、デモ活動を行った。

©Aquarian Works,LLC

映画でも、民主運動を題材にした作品が近年、多く公開されている。特に印象深いのが韓国映画の『タクシー運転手 国境は海を越えて(2018)』だ。韓国の光州市で発生した民主運動を題材にしている。

実際にデモが起きている街へと足を運んだドイツ人ジャーナリストの話だ。想像絶する光州市の惨状に胸を動かされ、世界に真実を発信しようと奔走する男たちの姿が描かれる。

©Aquarian Works,LLC

白人から見たアジアとは、どのように見えるのか?登場人物のドイツ人と同様に、本作の映画監督もまた白人だ。この二人のインタビューから嗅ぎ取れるのは、世界に真実を発信しようとする情熱だ。J・ヒンツペーター氏は、記者として貴重な発言をしている。ある記事から彼の言葉を抜粋。

“My only thought was to share with the world the truth I was seeing with my own eyes.
「私の唯一の考えは、自分の目で見た真実を世界と共有することでした。」#1

また、本作の監督スー・ウィリアムズが、インタビューで語ったコメントも抜粋。
「私がやりたかったのは、一般の中国人を理解すること。とにかく中国人に興味を持ったんです。本作はアメリカでの反響は大きいものでした。なぜなら、香港の実情についてあまり知られていないからです」#2

彼らの言葉には、世界に現実を知らせようとするジャーナリストとしての熱い感情が込められている。

©Aquarian Works,LLC

ここで、とても興味深い記事を紹介する。昨年、公表された大紀天 黒龍江省の元副市長が米国に亡命「中国は文革時代に逆戻り」#3と言う報道だ。この記事で問われているのは、covid-19に関連した中国共産党の対応だ。

杜撰で不信感しか抱かないと言う旨の発言をした共産党員が、身柄を拘束されたと言う事件だ。この事実を知った男性が、米国に亡命。彼が言うには「現在の中国共産党は、過去の文化大革命時代に立ち返っている」と。果たして、この発言が現実なら、中国は社会主義国家として動き始めるのか?香港政府もまた、中国と同じように変貌するのか?と疑念が湧いてしまう。

  ©Aquarian Works,LLC

それでも、香港市民は、中国を相手に民主化を進めようとする。その信念の裏には、香港人としての確固たる民族意識が働いている。そんな市民を相手に国は、強行突破を強いる上、軍はデモを制圧するしようとする。

自らの命を犠牲にしてまで、政治を動かそうとするデモ隊の姿が、目に焼き付いて離れない。デニス・ホーはまた、歌手として活躍の場を奪われても、民主運動を辞めない。そこには、真の香港を取り戻そうとする強い信念が、彼女に宿っているからだ。言論の自由と香港人としての尊厳を守るために、彼らは今この時間も闘い続けている。

映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』のまとめ

©Aquarian Works,LLC

本作『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』は、民主運動を行う香港市民の姿を通して、民主主義国家とは何か、と改めて考えてしまう。政治的活動が、歌手としての場所を剥奪されても、デニス・ホーは香港市民として国家権力に立ち向かう。そこには、香港人としての自由と尊厳を守ろうとする、彼女たちの誠実な姿勢が描かれている。

#1 SydneysBuzz The Blog So. Korea’s ‘A Taxi Driver’ Official Oscarレジスタードマーク Entry for Best Foreign Language Film https://blogs.sydneysbuzz.com/official-oscar-entry-from-so-korea-a-taxi-driver-best-foreign-language-category-36c49a174f6a (参照 2021-07-25)

#2 Asahi Shinbun GLOBE+ スターから一転「要注意人物」同性愛を公表、雨傘運動に参加、そして逮捕…女性歌手の生き様 https://globe.asahi.com/article/14364848 (参照 2021-07-25)

#3 大紀天 黒龍江省の元副市長が米国に亡命、「中国は文革時代に逆戻り」 https://www.epochtimes.jp/2020/08/61248.html (参照 2021-07-25)

映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』は、関西では大阪府のシネ・リーブル梅田、京都府の京都シネマにて7月23日 (金) から絶賛上映中。兵庫県では、元町映画館にて、7月31日(土)から上映開始です。全国の劇場で絶賛公開中。