映画『マイ・ハート・パピー』人としての資質

映画『マイ・ハート・パピー』人としての資質

世代を超えて胸に響く、犬と人間の絆を描いた映画『マイ・ハート・パピー』

ⓒ2023. Yworks Entertainment Co.,Ltd. All rights reserved.

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賛否両論あるかもしれないが、家庭で飼っている動物は、家族の一員だ。動物達は、言葉を持たない生き物だが、人間以上に感情を表現してくれ、気遣いの出来る賢さを持っている。たとえば、家族間で些細な出来事から口論に発展しても、その間に立って心配してくれるのは、可愛い動物だ。家族の中では一番最後に家庭にやって来てるので、順番で言えば、弟(妹)みたいな存在だ。私自身も、一人暮らしを解除にし、数年前に実家に帰郷したら、私より先に家庭で育ち、家族の一員となっていた柴犬が家族然という我が物顔で自由気ままに暮らしている。最近は、心の距離感が近くなったのか、自室で一緒に寝る事も増えて来て、仲の良い関係性を紡いでいる。時に、私が仕事で部屋を空けていると、勝手に侵入し、勝手に座椅子で寝ている厚顔無恥な態度を取って来るが、それもまた、可愛いと許してしまう。この許容が結果的に、相手を甘やかして、横柄なワンコを作り上げてしまっているのは、飼い主である私の甘さが原因ではあるが、可愛いものは可愛い。それでいいと思っている。だから、家族の一員であると信じているワンチャンには、自身が持つ動物としての本能や意欲、欲求を上手に大切にして欲しいと願っている。動物は、人間の子どもと同じように、脳が未発達のため言葉を知らない。でも、人間が話す言葉を一生懸命、理解しようと頑張ってくれる。目と目を向かい合わせて、犬が解る範囲の言葉を投げてあげると、首を斜めに傾げて、その言葉が指す意味を自分なりに理解しようと努めてくれる姿や仕草に、可愛さを禁じて止まない。時には、嫌な事もされる時もあるが(お互い様として、私もワンコに対して、過剰なスキンシップをして嫌がられているかもしれない)、愛情を注げるだけ注いであげたら、その無償の愛に必ず仕草で答えてくれる。それが、動物という存在だ。本作『マイ・ハート・パピー』は、韓国発のハートフルな動物系ヒューマン・ドラマ映画だ。どうしようもなく、梲も上がらない2人の中年男が、一匹の犬を巡って、放浪の旅を繰り広げる姿を描く。道中、身寄りのない子犬との出会いや旅の行程を経て、ひと皮もふた皮も成長する大人達を目の当たりにして、スカッとした爽やかな気持ちになるだろう。動物と人間の心の絆を丹念に、丁寧に描く韓国映画としては、2004年に国内公開された映画『子猫をお願い』を思い出される。人と人との縁を結ぶ動物達の存在は、清く美しいものであって欲しい。

人間と動物の関係は、古くは古代文明の時代まで遡ることができ、私達人間と切っても切れない非常に深い縁で結ばれている存在だ。この関係を単なる動物だからという理由で切り離すことはできず、私達にとって、動物(特に、犬や猫といったコンパニオン・アニマル(※1))は非常に大切なパートナーだ。彼らはもう、私達人間のペットではなく、人生を共にする伴侶(すなわち、家族)なのだ。元々は、動物達は人間にとって家畜でしかなかったが、各家庭で飼育されるようになり名前を付けて可愛がる対象となる愛玩動物(ペット)へと価値観が移り、そして近頃では、伴侶動物(コンパニオン・アニマル)という呼び方へと認識に変化をもたらして来た。伴侶動物とは、世界的に動物愛護への意識が広まり始めた1985年前後に、この名称や理解が学者層から一般層に降りて来たが、本格的に定着したのは、海外の諸外国であり、日本国内では、残念ながら伴侶動物という言葉も考え方も、認容される事はなかった。まずは、日本人の価値観の中に、この「伴侶動物(コンパニオン・アニマル)」という価値観を覚える必要があると言える。もう、動物達へのペットや家族という扱い方を改め、より深い心と心の繋がりがある関係性であると見方を変える時代に来ている。彼等動物達にも、人間と同じように「心」(※2)を持っている。単なるぬいぐるみや家族間の可愛さではなく、人間と動物の関係性をより超越した人生における強く深く長い繋がりに対する価値観や考え方を持つ必要がある。彼らは、飼い主たちのぬいぐるみや子どもではなく、私達の人生を共にする大切な存在だ。介助犬、ドッグセラピー、アニマルセラピーなど、多くの場面で必要とされる動物達。近年、人間との距離が近くなりつつ動物の存在は、私達にとってただの家族ではなく、より高明な存在だ。近い将来、私達人間と動物達の関係性をどう構築させて行くのかが、大きな課題だ。その中には、後期高齢者社会へと突入する日本社会において、高齢者に寄り添える動物達の存在が、今後益々必要性を帯びて来る。子犬や成犬関係なく、家族以上の存在としてではなく、共に人生を歩める存在として日々を共有して行く事が大事であると、改めて、本作は再認識させてくれる。

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それでも近年、問題視されているのは、動物への虐待案件だ。それが、一般家庭に留まらず、ブリーダー(※4)や動物愛好家(※5)と言ったプロの世界でも動物達の命が、蔑ろにされている。虐待マニアの中では、YouTube動画の広告で金銭を稼ぐ目的ではなく、単に虐待動画をアップしてそれを楽しむ歪んだ快楽のために動画を流す「動物虐待愛好家」という不届き者までも登場している。最も有名な近年の出来事が、「さいたま猫虐殺事件」(※6)が、事件発生当時、世間で話題になった。同類似事件であるなら2002年に起きた「福岡猫虐待事件(こげんたちゃん事件)」が挙げられるが、この両事件の大きな違いは、動愛法(動物愛護法)の未整備の時代に起きた事件か、整備後に起きた事件であるが、この日本における動物愛好法が、正確に機能しているのか甚だ疑問でしかない。近年の動物愛護法(※9)は、平成11年、平成17年、平成24年、令和元年のここ20数年間の間に議員立法による法改正が行われており、この法律の目的は動物の愛護と動物の適切な管理(危害や迷惑の防止等)に大別しようとしている。主な対象動物は、家庭動物、展示動物、産業動物(畜産動物)、実験動物等の人の飼養に係る動物が対象となっているが、改めて、この法律が今の令和の時代にちゃんと機能しているのか大いに疑問を抱いている。どれだけ法を整備しても、同類の事件は起き、その事件を犯した者への制裁は、あまりにも軽んじゃ甘んじられている。日本の法律は、動物達の命をどう思っているのか?罪を犯した人間が守られて、何の罪もない物言わぬ動物達の生き物としての権利が蹂躙されている現実に対して、私はただ絶望でしかない。また、本日1月9日には、韓国で「犬食禁止法」(※10)が、施行されたばかりだ。昨年末も地方紙の小さなニュースに過ぎないが、同様の事件(※11)が今の世にも起きている。このような報道を目にすると、果たして、同上の法律が抑止力となっているのか、私達は再度考え直す必要がある。この問題は、単なる虐待事案だけでなく、少年犯罪の温床(※12)にも繋がっていると言われている。弱者やマイノリティが食われる社会に、明るい未来があるのだろうか?また、今年の年明け1月2日に起きた「日本航空516便衝突炎上事故」において家庭で飼っている動物達は、荷物扱いか、家族扱いにするか論争が巻き起こったが、荷物か家族かと議論すること自体、ナンセンスではないだろうか?答えはもう一つで、既に決まっている事を論じるのではなく、その風潮になるために社会整備をどうして行くかを話し合う場であって欲しいと願うばかりだ。本作『マイ・ハート・パピー』を制作したキム・ジュファン監督は、韓国で行われたあるインタビューにて、子犬や成犬を育てる事への心意気を真剣に話している。

Kim:“아마 이 영화를 보는 시선은 다양할 거예요. 강아지를 기른다는 건 쉽지 않고, 시간이 갈수록 더 어려워지는 지점도 있어요. ‘나는 죽어도 개를 다른 집에 안 보내’라고 하는 분도 있고, 그런 반면 직접 낳은 자식을 버리는 사람도 있죠. 다만 강아지를 기르며 마주할 수 있는 수많은 상황들을 생각해 보고, 버려지는 강아지를 한 마리라도 줄일 수 있다면 좋겠다는 마음으로 만들었어요.”(※13)

キム監督:「恐らく、この映画を見る視線は多様です。子犬を育てるのは簡単ではなく、時間が経つにつれて難しくなる点もあります。「私は死んでも犬を他の家に送らない」という方もいますが、その反面、自分で産んだ子を捨てる人もいます。ただ、子犬を育てて向き合う事ができる数多くの状況を考えてみて、捨てられる子犬を一匹でも減らせればいいと思いました。」と、生育環境から捨てられてしまう動物達を一匹でも減らしたい、救いたいという熱い想いが、この作品に込められている。それは、日本における動物虐待事案でも言えることだ。一匹でも多く、平安に幸せに動物としての生涯を終えて欲しいと祈りたい。その為に、私達人間が、人間然と今の立場に胡座をかくのではなく、人間も動物も同率の立場で互いを理解し合う事が必要だろう。言葉を話さない物言わぬ生き物が動物であるが、私達人間と同じように、彼らも彼らなりに「心」をしっかり持っている。その事を頭の念頭に置いて、日々動物達と触れ合って欲しい。

最後に、動物の存在は、癒される存在だ。それでも、私の住む地域の近所の成犬が、劣悪な環境で居住を強要されている姿を目にすると、胸が傷んで仕方ない。飼われる家庭の先で、動物達の人生は決まる。それは、私達人間社会でも同じだ。親ガチャと呼ばれる産まれた先の家庭で人生が決まるのと同じだが、彼ら動物と人間の間で決定的に違うのは、自力で自身の環境を変えれないのが動物達だ。どれだけ法改正、法整備されようが、同じような人間は産まれ、動物達が危機的状況に置かれるのはこの先も変わらない。その環境を少しでも変える方法は、ただ一つしかない。今社会で問われているのは、私達人間が人としての資質をどう活かすであるかどうかだ。

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映画『マイ・ハート・パピー』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)ペットとどう違う?コンパニオン・アニマル(伴侶動物)という考え方https://cheriee.jp/column/8217/?amp=1(2024年1月5日)

(※2)人間と動物の関係についてhttps://www.biol.tsukuba.ac.jp/cbs/sotsuken/1999graduation/960871/960871.html(2024年1月5日)

(※3)長寿社会に寄り添う動物たち伴侶動物福祉に見る、高齢者と動物の暮らし方https://chojumikata.com/column/2258(2024年1月8日)

(※4)狭いケージに犬300匹 ブリーダー逮捕まで無策の行政に批判 大阪https://mainichi.jp/articles/20230807/k00/00m/040/093000c(2024年1月9日)

(※5)「猫13匹を焼き殺して”神”扱い」日本から動物虐待動画がなくならない根本原因https://president.jp/articles/-/52307?page=2(2024年1月9日)

(※6)2017年11月 猫に熱湯をかけバーナーで焼くなどして虐待死させた元税理士の初公判https://www.eva.or.jp/oyamakoto(2024年1月9日)

(※9)動物愛護法改正とは?変更点をわかりやすく解説https://animalline.jp/contents/revision_animalprotectionlaw/(2024年1月9日)

(※10)韓国で「犬食禁止法」可決 違反者は最長懲役3年 金建希大統領夫人も「犬の食用禁止は大統領の約束」と発言https://www.fnn.jp/articles/-/640030(2024年1月9日

(※11)「実は亡くなった」飼い主憤慨…預かった犬5匹のうち1匹死ぬ “動物虐待”で逮捕 ペットホテル経営の女 他の犬も劣悪環境で管理かhttps://www.fnn.jp/articles/-/622831(2024年1月9日)

(※12)なぜ猫を虐殺するのか 少年事件との関連は? 専門家3人の見解https://mainichi.jp/articles/20230707/k00/00m/040/065000c(2024年1月9日)

(※13)[IS인터뷰] ‘멍뭉이’ 김주환 감독 “‘청년경찰’ 이전, 감옥같던 삶 위로해줬던 건…”https://isplus.com/article/view/isp202302200280(2024年1月9日)