3月19日(日)、ABCホールにて行われた第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023) の映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』のトーク・イベントのレポートと作品レビュー

3月19日(日)、ABCホールにて行われた第18回大阪アジアン映画祭(OAFF2023) の映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』のトーク・イベントのレポートと作品レビュー

2023年3月21日

3月19日(日)、大阪府にあるABCホールにて、大阪アジアン映画祭の授賞式とクロージング・セレモニーが、行われた。最終日である3月19日(日)は、伊藤ちひろ監督によるクロージング作品『サイド バイ サイド 隣にいる人』が全世界に先駆け、大阪にて日本初上映された。

この日、映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』では、関係者である監督の伊藤ちひろさんとプロデューサーである行定勲氏が、ご登壇された。

©Tiroir du Kinéma

お二人からのコメントを頂く前に、主演の坂口健太郎さんよりビデオコメントが届いた。

坂口さん:「大阪のみなさま、こんにちは。映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』で主人公の未山を演じました。本日は会場に伺えず残念ですが、世界で初めて大阪アジアン映画祭でみなさんにご覧いただけるということで非常に嬉しく思っています。最後までごゆっくりお楽しみください」と挨拶され、満席の観客から大きな拍手が送られた。

伊藤監督:「本作『サイド バイ サイド 隣にいる人』が、全世界に先駆けて、ここ日本、大阪の観客の皆様に真っ先に観て頂けるのは、嬉しく思います。映画好きの方々がたくさん集まって頂き、光栄に思います。また、私はこの作品を美しい映画にしようと、想いを込めて作りました。自然の美しさ、人との関わりを感じてもらえたら嬉しいです。この映画を観た後に考える時間を持ち、楽しんでもらえたらと思います。」と作品のメッセージを語った。

行定氏:「観客が育っている街の映画祭。今はスクリーンで映画を観る人たちが随分減った気がしますが、劇場の空間で感動や緊張を味わえる。トークセッションではすごく盛り上がったり、笑い声も起きています。そういう映画祭のクロージング作品に選ばれた伊藤監督の作品は、僕が撮れるような映画ではなく、非常に余白があり、観る方によりいろいろな解釈ができる映画です。監督第1作目の『ひとりぼっちじゃない』(3月10日公開)から更に進化し、独創的になっています」と伊藤監督の作家性について、お話されました。

映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』監督:伊藤ちひろ。日本。2023年公開。世界初上映。

©2023『サイド バイ サイド』製作委員会

©2023『サイド バイ サイド』製作委員会

寸評レビュー:この世界に存在する美しいモノとは、何だろうか?

それは、赤ん坊の産声?老夫婦の小さい囁き声?大人が、子どもを愛でる優しい眼差し?

もしくは、一人の女性を愛し抜こうとする男性の強い心?

他にも、モーツァルトが作曲したクラシックの音色の数々。屋外から聞こえる雨音。東の地平線から覗かせる大きな朝日。西の彼方の空に消えゆくように沈んで行く夕日。

世の中には、秀麗さを有する数々のモノの存在がある。

世界には、感嘆と、驚愕と、愛と優しさ、そして美しさを持ち合わせた多くのモノで、溢れている。

それでも、人はそれを見ようともせず、知ろうともせず、触れようともしない。

それは今を生きる私達自身が悪いのではなく、時間と言う概念に雁字搦めにされたこの世界が、人々を慌ただしく、忙しなく駆り立てているのだ。

だから、人はほんの小さな「美しさ」にも、気付けない日々を送らざるを得なくなっている。

では、作品の主題となっている「美しさ」とは、一体何だろうか?

この映画を通して、あなたが思うその「美しさ」について、心を巡らせて欲しい。

まず、この美しさを哲学的に記述すると、「知覚・感覚・情感を刺激して内的快感をひきおこすもの。 『快』が生理的・個人的・偶然的・主観的であるのに対して、『美』は個人的利害関心から一応解放され、より普遍的・必然的・客観的・社会的である。」となる。

改めて、(※1)「美しさ」とは、何か?

様々な視点から、この「美」について、考察することができる。

医学の分野である心理学的見解から世の中にある「美しさ」について、綴られた(※2)書籍「美しさと魅力の心理」も刊行されている。

それでも、人はなぜ、花を見て、その香りを嗅いで、またクラシック音楽を聴いて、人を愛して、子どもを愛でて、雨音に耳を傾けて、世界に存在するあらゆる「美」に関して、敏感に感じて生きれないのだろうか?

「美しさとは、なぁに?」と作中で、子どもの突拍子もない些細な疑問が投げかけられる場面があるが、あなた方大人達は子どもの純粋な疑問に真っ直ぐに、誠実に、誠心誠意を込めて、答えることができるだろうか?

モノが持つその「美しさ」とは、それは誰にも分からない。

だからこそ、目を閉じて、耳を澄まして、五感の全てをフル活用して、その「美しさ」の存在に心を開ける必要がある。

生憎の雨天の時は仕方がなくても、晴天の日には、家の近くにある公園に、その「美しさ」を探しに行きませんか?

必ず、あなたは大きな発見と気付きに襲われる。

私達が探究している「美しさ」とは、自身の心の中にあると…。

第18回大阪アジアン映画祭のグランプリ以下各賞の受賞結果を次のとおりの結果となった。

©Tiroir du Kinéma

グランプリ:『ライク&シェア』|来るべき才能賞:クー・チェンドン(柯震東)『黒の教育』監督|ABCテレビ賞:『四十四にして死屍死す』|薬師真珠賞:ルー・シャオフ…
www.oaff.jp

★グランプリ(最優秀作品賞)『ライク&シェア』(Like & Share)|インドネシア|監督:ギナ・S・ヌール(Gina S. NOER)

<ギナ・S・ヌール監督コメント>

グランプリを受賞し大変驚いています。全ての観客、審査委員、そして関係者の皆さまに感謝いたします。この映画はトラウマや性暴力を扱っているので、話題としても取り扱いがたく、この問題を扱った映画を製作することも非常に難しい中、取り組んできました。結果としてこのような賞をいただき、光栄に思っています。ありがとうございました。

★来るべき才能賞クー・チェンドン(Kai KO/柯震東)|台湾|黒の教育(Bad Education/黒的教育)監督

★ABCテレビ賞『四十四にして死屍死す』(Over My Dead Body/死屍死時四十四)|香港|監督:ホー・チェクティン(HO Cheuk Tin/何爵天)

★薬師真珠賞ルー・シャオフェン(LU Hsiao-fen/陸小芬)|台湾|『本日公休』(Day Off)主演俳優

★JAPAN CUTS Award『朝がくるとむなしくなる』(When Morning Comes, I Feel Empty)|日本|監督:石橋夕帆(ISHIBASHI Yuho)

★芳泉短編賞『燕は南に飛ぶ』(Swallow Flying to the South/燕南飛)|アメリカ、カナダ、中国|監督:リン・モーチ(LIN Mochi/林墨池)

★芳泉短編賞スペシャル・メンション『できちゃった?!』(Daddy-To-Be /有了?!)|台湾|監督:パン・カーイン(PAN Ke-yin/潘客印)

★観客賞『本日公休』(Day Off/本日公休)|台湾|監督:フー・ティエンユー(FU Tien-yu/傅天余)

第18回大阪アジアン映画祭は、3月19日まで大阪府にあるシネ・リーブル梅田ABCホールにて盛大に幕が閉じた。

(※1)「美しいとは何か」 の哲学・心理学一なぜ美しいと感じるのかを解説ーhttps://houjouwomamorenakatta.com/utsukushi-kousatsu/4796/(2023年3月21日)

(※2)美しさと魅力の心理https://www.minervashobo.co.jp/book/b472685.html(2023年3月21日)

最後に、所感的総評となるが、日本含め、アジアの国々の作品の質の高さは、本当に素晴らしかった。アジアには、まだまだ知られるざる名作と逸材が、眠っていることを思い知らされた。こんなにも上品で、上質な作品があるのであれば、一本でも多く、世に一般に知ってもらいたく思いう。そして、何より、年配の方だけでなく、20代、30代の若い世代の映画ファンが、より多く集うことを願うばかりだ。