ある一人のバンドマンの波乱万丈な日々を綴った映画『さよなら、バンドアパート』宮野ケイジ監督、ロックバンドKEYTALKのギタリスト、小野武正さんインタビュー
—–本作の製作の経緯を教えて頂きますか?
宮野監督:本作を製作する経緯となったのは原作を基にしておりまして、原作をプロデューサーと読ませて頂きました。
作者や作品と非常に波長が合いまして、ぜひ映像化する方向で進めていきたいと、映画化の話をプロデューサーにお返しして、製作の話が進みました。
—–監督の過去作も拝見させて頂きまして、作品のジャンルはそれぞれバラバラかと思いますが、個人的に感じたことは被写体達の「青春」を一貫して表現しているようにお見受け致しました。この点に強く惹かれて、作品を製作されておられますか?
宮野監督:過去作で言えば、オリジナル作品は実は一作しかありません。
だいたい原作がありますが、その小説の中でも自分が考える主人公の感情の起伏がありますが、今回も様々な経験を通して、紆余曲折しながら、少年時代から青年期、そして未来の話までを描いております。
どこを切り取るかという部分で、主人公が一番、感情が動いた時期を取り上げている方法を採用しているかもしれないです。
—–過去作では、主人公たちの喧嘩や恋愛が「青春」として捉えることができ、今作ではバンドマン達の葛藤が、「青春」そのものと感じることができますね。
宮野監督:「青春時代」と言ってしまえば、死語かもしれませんが、この「青春時代」には色んな事を吸収し、吐き出して行ける時間だったりすると思います。
今回取り扱っている題材は「青春」ですし、作品そのものも「青春映画」なんです。
主人公の青春の終わりまでの物語を描いています。
この先の彼らにも長い人生があるのだろうけど、きっと青春時代なんて、忘れていくんですよね。
そういう儚いモノを描きたいという想いはありました。
—–そうですね。プロの世界に入ってしまいますと、「青春」ではなくなってしまいますよね。大人の時間、大人の世界になってしまいますね。プロになる前の時間が、学生に変わらず、その人達の「青春」と受け取ることができますね。
宮野監督:今回で言えば、作品で主人公たちを描いている時間以降に、彼らは成功していくのかもしれないですが、その時までの事がだんだん薄らいでいく節目という考え方ですね。
—–ライブシーンがとても圧巻でしたが、実際のライブ・パフォーマンスで気をつけていること、また本作でのライブ・シーンでの撮影で気を付けていたことは、ございますか?
小野さん:気をつけている訳ではございませんが、映像作品に出演させて頂くことは初めての経験でしたので、僕の役柄は15年以上続けて来たバンドマンで、とても身近なモノでした。
バンドとは何かと言いますか、バンドってこんな風だよなって言う空気感を表現できればと思って、撮影に臨みました。
—–本作は青春映画と仰っておられましたが、別の視点で言えば「音楽映画」もしくは「バンド映画」と捉えることができますが、この映画では「ライブ・シーン」がひとつの見せ場かと思いますが、その場面を撮影するに当たって、重点的に気合いを入れて撮影された所はございますか?
宮野監督:主人公の心の内を音楽で表現するのならば、どの楽曲だろうと選曲を行い、基本的に劇中で使う音楽は、事前で決められる範囲で、曲名を台本に落とし込んでおります。
場面によっては、歌詞まで脚本に書いているシーンもあったと思います。
なるべく、劇中の主人公の感情を吐露したり、歌う場面では、プレイバックするのではなく、事前にレコーディングした曲を現場で流すのではなく、基本的な考え方として生歌でやりたいという気持ちはありました。
でもやはり、画作りを考えると、なかなかチャレンジングな事をしていたと思います。
どうしてもプレイバックを基準で考えてしまいますが、ここは生歌で行きたいという場面は、生歌でやり通しました。
—–邦画にもバンドをテーマにした作品が数多く製作されておりますが、他の作品と本作の違いを挙げるなら、それは一体、どの点でしょうか?
宮野監督:この映画を音楽映画として括るなら、考え方や捉え方もあると思いますが、まず音楽映画と考えると、最初に弾き語りで主人公が生み出した音楽が、最終的にバンドサウンドになり、更に精度が上がった楽曲に仕上がっていきます。
その曲に引っ張られて、主人公たちが成功していくサクセス・ストーリーの考え方があるとしたら、そことは全く違いまして、音楽はあくまでも、舞台装置的な捉え方として今回は考えておりました。
最初の考え方である主人公の青春の内容を描くことに対して、ブレずに作り上げました。
それならば、生み出した音楽がヒットしたり、それを聞いた誰かが心打たれて、自身の人生が変わりましたみたいなやり取りが、劇中にある訳ではありません。
あくまでも、主人公の葛藤や心情を画面に残しました。
音楽は、残すための手法であり、製作の初期段階からバンドマンである主人公の音楽を全面に出していく考え方ではありませんでした。
だから、原作をお書きになった平井さんも、バンドマンで、もし意向が違ったらごめんなさいという意味を込めて、「音楽映画にはしたくありませんが、どうでしょうか?」と、お聞きした覚えがあります。
—–本作の主人公は、挫折や栄光を経験しながら、プロへと成長していく姿が印象的な作品ですが、小野さん自身もバンドマンとして、共感できるところはございますか?
小野さん:本作では、バンドマンが皆、通る道をしっかりと描かれております。
今、監督が仰って頂いていたように、サクセス・ストーリーにはしないで、バンドの陰の部分をしっかり見せた上で、人間の成長と、もしくは葛藤に繋がっていく物語ですね。
人間と言うよりも、若者たちの姿がそこにあります。
ある意味、乗り越えきれない部分がリアルなのかなと、思います。
そこを乗り越えて、その結果色んな事があったけど成功した事よりも、踏み越えきれない部分が、テーマとして現実味を帯びておりますし、人間らしさが描かれております。
原作から映像化されて、自分もずっとバンド活動をしている身としては、作品が非常にリアルではないかと思いました。
—–プレスの中のインタビューにおいて、「何者かにならなければいけない。認められる人にならなければいけない。そういうプレッシャーを抱えている人に共感してもらえる。」と仰られておられますが、今無名でも必死で活動している方々、音楽に携わっている人だけでなく、こういう方々を鼓舞する言葉、何かございますか?
宮野監督:今回の映画でも、原作でも、裏テーマみたいな気もするんですが、結局は自分を評価するのは他人じゃないですか。
自分を批評や判断するのは、他人の価値観や力量なんですよね。
その価値観とは、その方の力量である訳ですから、曖昧な物に過ぎないんです。
一人、二人だとしても、何万人という大勢になった途端、その評価はすごく曖昧なモノで、信じられるのは自分自身だけになるんです。
この部分が、本作の裏テーマであると、僕は思っております。
長い原作を読んだ時に「何が言いたかったのか。」と感じる部分には、それがあると思います。
そのメッセージは、バンドマンだけでないですよね。
特に、日本は少し特殊だと思いますので、判断や批判することに、認められる人にならなければいけないと、発言したのかもしれませんが、自分自身を信じることは自分にしかできませんから、自分を信じるしかないんです。
他人の判断や評価は、曖昧なモノだから、信用しない方がいいんです。
その瞬間に、高い評価をされようが、低い評価をされようが、それは全然曖昧な対象なんです。
高い評価を受けている人も、低い評価を受けている人も皆さん、それも曖昧な対象なんですよね、と伝えたいですね。
—–やはり、つい他人の評価には、SNSにしても、気持ちが引っ張られやすくなってしまいますよね。
小野さん:今のSNS時代で、数字が可視化されていますからね。
ある意味、SNSに限らず、囚われやすいコンテンツが多い世の中ですから、それがすべてじゃないですよね。
その部分が比較的、惑わされるポイントなのかなと思います。
音楽活動をしていても。SNSの「いいね」は、たくさんしてもらうより、「いいね」をしてくれた一人を如何に、大切にするかだと思います。
その一人のためだけに、何度もパフォーマンスを行う必要があるんです。
監督が言う自分の感覚を信じて行くことに繋がったりすると思います。
—–最後に、お二人に同じご質問をさせて頂います。本作『さよなら、バンドアパート』の魅力を教えて頂きますか?
宮野監督:前半でもお話しましたが、この映画は青春の終わりに向かって転化していく青春映画です。
音楽関係だけではなく、今、一生懸命に色んな物事を吸収したり、吐き出している日常を送っている人も、過去同じような経験をした人も、誰かを思い出してもらったり、いつかの時代を思い出すヒントがあると思います。
ずっとストーリーを追って行って、主人公の物語の行方を追って行くよりも、どこかの場面で大事なことを思い出すきっかけになってくれたらと、願っております。
そういう観方をして頂ければと、思います。
小野さん:非常に音楽であったり、若者特有の危なさ含めのアンニュイさであったり、夢を追いかけることがすごく素敵な事の裏側には、色んな大変な葛藤がある、この混ざり具合がすごく絶妙です。
観る方々は、それぞれ自分の人生と被らせて、当てはまり、今後の生き方含め、何かしらの業種に関して、皆さんは潜在意識の中にスター性をお持ちになっておられます。
しかし、それが何に当てはまるのかは、色んなきっかけであったり、色んな縁で見つかったりすると思いますが、そういう要素が見え隠れした映画かと思います。
果たして、この主人公の川島は、自分がどういう才能があったのかとか、周りの人間がどう後押しされたのかとか、この物語の行先や終わる時にすべてが分かる訳ではありません。
ですが、川島の人生が何処かしかに進んで行くのだろうと、観終わった人それぞれがまた、本作を観たことによって、何か感じて、また次の物語を歩み出してくれるのではないかなと、思う映画です
—–本日は貴重なお話、ありがとうございます。
映画『さよなら、バンドアパート』は、7月15日(金)よりシネマート心斎橋にて絶賛公開中。8月12日(金)より京都みなみ会館、8月13日(土)より元町映画館にて公開予定。また、全国の劇場で順次上映予定。