映画『アキレスは亀』「心身共に健康である事」佃光監督、伏木桜撮影監督ロケ地巡りインタビュー

映画『アキレスは亀』「心身共に健康である事」佃光監督、伏木桜撮影監督ロケ地巡りインタビュー

2023年4月10日

奇想天外な冒険が紡がれた映画『アキレスは亀』佃光監督、伏木桜撮影監督インタビュー

©Tiroir du Kinéma

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—–最初に、本作『アキレスは亀』の製作経緯を教えて頂きますか?

佃監督:前作『うんこマン』の次に、リモート映画祭用に『緊急遠隔ロボ テレコング』を製作しましたが、この2つの作品の間に、『新世界の竜』を監督しました。

なぜ新世界を舞台にしようとしたかと言いますと、毎年開催される『ドラゴン映画祭』がスパワールドで行われた時に声を掛けて頂き、普段、撮れない通天閣を舞台にしようと作品を作りました。

撮影前に、一度リム・カーワイ監督のカメラアシスタントの経験があり、その時の経験が元で、『新世界の竜』を撮りました。

この作品がきっかけとして、「ご当地映画」に目覚めてしまったんです。

この時期に、神戸インディペンデント映画祭に出会い、その中の新企画として昨年2021年から始まった「Kobe short GIGs」に応募させて頂きました。

その時に選出された4つの企画書の中に、今回の作品『アキレスは亀』がありました。

これが、本作の制作経緯となります。

—–伏木さんは、本作『アキレスは亀』には今回、どのような経緯でご参加されましたか?

伏木さん:全然覚えていませんが、映画を撮るから参加して欲しいと監督から誘われた記憶があります。

佃監督:確か、予定を確認せずに、最初から頭数に入れていた気がします。

伏木さん:佃さんが撮影する段階になって、予定が空いてたら行くという話になっていたんです。

結局、撮影に参加出来なかった日は、私のスケジュールが合わなかった時だけでしたよね。

正直、細かい話はまったく覚えていませんが、ただ「いついつ撮るから、参加して欲しい。」と言われたので、参加した記憶があります。

佃監督:ただ、僕たち2人が思っていた以上に、規模が大きくなりました。

伏木さん:そうですね。初めて、プロダクション形式で撮ったと記憶しています。

佃監督:伏木さんは、仕事でカメラマンをしていますが、現場で撮影監督をしてもらったのは、初めてです。

伏木さん:今までは、助監督立ち位置で、なんでも手伝う係のようなスタンスで参加していました。

あとは、カメラアシスタントでの参加でした。

今までは、動ける人間が何でもする現場でしたが、今回は皆さん役割を分担して、撮影しました。

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—–本作『アキレスは亀』のタイトルには、どのような意味や意図が、ございますか?

佃監督:制作経緯の話をゆっくりすることになりますが、まずふた軸あります。ひと軸は、最近のインディーズ映画のアンチテーゼです。

今の自主映画は、狭い場所でのワン・シチュエーション方式の作品や、男女がグダグダ喧嘩する物語、シチュエーション・コメディが散見されています。

作品として、映像としても、広がりがないんですよね。

あと、狭い空間でグズグズするのが嫌なんです。

映画は、移動だと思うんです。

伏木さん:私のイメージでは、一番映画的なものは電車なんです。その「移動」に対する、佃監督の考えには共感できます。

佃監督:亀が盗まれるという主軸の話は、移動がメインとして考えていました。

—–作中の亀のアイデアは、最初はなかったんでしょうか?

佃監督:いや、亀の話は最初期から構想として持っていました。

伏木さん:その時、どんな話していましたか?

佃監督:伏木さんとは、アキレスと亀が追いかける話にしようと、話していました。

話を戻すと、映画は移動という話ですが、移動するのであれば、アキレスと亀という物語の着想が産まれました。

それと同時に、メタ的な話にしたいと考えたんです。

移動とは時間であると同時に、時間とは映画であると思っています。

この「時間」に関するパラドックスは、「アキレスと亀」なんです。

もう一点、ロケ地として必要であった垂水辺りにある小高い古墳で、過去に裸のマッチョが亀と追いかけっこする物語を製作しようとしていました。

ただ、『アキレスと亀』とは時間を無限に切り刻んでいく話なんです。

伏木さん:すごく映画的ですね。

佃監督:映画の中の時間とは、24分の1以上には切り刻めないんです。

だから、「アキレスと亀」の話は、時間が無限に切り刻めるパラドックスがあるんです。

「アキレスは亀」と「飛んでいる矢は止まっている。」は、止まっているパラドックスがセットです。

「飛んでいる矢は止まっている。」とは、矢は飛んでいます。

数秒間で細かくひたすら微分して行けば、どこかで止まる瞬間があるのではないかと、もしくはないですよね?ただ映画の時間とは、24分の1以下に切り刻めません。

作中の人間が、この世界がすべて、映画だと気づく物語を、初稿で考えていました。

移動とメタ的な時間についての何らかの考察が、2つ合わさって、タイトルの『アキレスは亀』が産まれました。

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—–現場では、撮影方法などに、何か拘りはございましたか?もしくは、気を付けていたことはありますか?

伏木さん:どちらかと言えば、気をつけられなかった反省点の方があります。

佃監督:大前提として、今回は(※1)アナモルフィック・レンズで撮影したよね。

伏木さん:そうなんですよね。最初から横に細長い画で撮れてしまうんです。

佃監督:最近、シネスコが流行ってるじゃないですか。16:9ではなくなくて。

伏木さん:もっと長い映像ですね。

佃監督:あれは、帯を先に入れて、撮っているんです。元々撮っているものを切っているので、まったく意味ないんです。シネスコの志に反していますよね。

伏木さん:そのレンズの拘りは、監督の考えなので、その意向を聞き入れる必要がありますよね。機材はすべて、監督が持ち込んだものなんです。

佃監督:なぜかと言うと、伏木さんには作品で最も大切な「亀」を連れてくる役目がありました。

伏木さん:私は、自分が飼っている亀を持っていく係でした。

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—–ロケ地は、どうでしたか?なぜ、須磨浦山上遊園やカーレーターを選んだのでしょうか?

佃監督:『007』や『ワイルド・スピード』の対局として、乗り物をいっぱい出したかったんです。

移動が作品のメインだとするなら、乗り物だったんです。

低予算にも関わらず、移動感を出すためには、丘を少し上がることにしたんです。

すぐチャリンコ乗って、並走する撮影法がありますが、そういうのではないと思うんです。

乗り物がたくさん出てきて、乗り継いで乗り継いで、という物語が、元々僕の知識にもあり、すっと須磨浦山上遊園の存在が、浮かびました。

元々、レトロスポット好きの間では有名な場所でした。

今こそという感じで、あの場所を選びました。

完全に須磨浦山上遊園で撮らないと、脚本が白紙になると思っていました。

上がっていく、乗り物がたくさんある、元々知っていた事が、あのロケ地を選んだ理由です。

sdr©Tiroir du Kinéma

—–伏木さんは、佃監督の今作に参加する前と後で、何か気持ちの変化は、ございますか?

伏木さん:初めて、佃監督がすごくちゃんとした作品を作ったなと。そこへの感動があります。

今まで、物語の8割ぐらい来た所で、そこまでの流れがすべて置いといて、戦闘シーンが始まってしまうんです。

物語のほとんどをバッサリ切り捨てて、ラストに盛り上がる作りだったんです。

それでも十二分に面白かったんですが、今回はちゃんと物語の流れを汲んだ上で、ラストの落ちに到達しているんです。

ちゃんとした、無駄のないひとつの作品に仕上がっていると感じました。

凄くいい作品が、産まれたなと。私自身の気持ちの変化と言うよりも、佃監督の変化を感じることができました。

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—–作中において、ミハエル・エンデの児童小説『モモ』が主題にしている時間について触れられておられますが、時間の逆行など含め、「時」とは何もしなくても、否応なしに1秒1秒過ぎていってしまいます。この「1秒」を大切に過ごすには、今私達には何が必要でしょうか?

佃監督:1秒1秒を生きていくことと、映画を繋げていくんですね。

「時間」というものに対しても、作品が「時」を感じさせる要素にもなったんですよ。

今回、僕のアイドル、飯塚貴士監督の最新作『劇場版オトッペ パパ・ドント・クライ』のディレクターですが、その方から今回、作品にコメントを頂きました。

粛々と、1歩ずつやって来たと。

今回、シアターセブンで上映できるのは、非常に嬉しいことでした。

ではなくて、「1秒1秒生きるには」ですね。

人々に、どんなメッセージを送れるかですね。(※2)カイロス時間とクロノス時間は、ご存知でしょうか?

伏木さん:それは、何ですか?

佃監督:どっちがどっちか、忘れてしまいましたが、それがギリシャか、どこかの神様なんです。

時間を司る神様が二人いて、カイロス時間とクロノス時間には主観的時間と客観的時間があるんです。

仕事中、非常に時間が長く感じる瞬間と、一定の速度で一方向にのみ進んでいく、いわゆる時計的な時間を指します。

この時間には、それぞれに違う神様が存在するんです。

伏木さん:多神教ですね。

佃監督:ギリシャは、日本と同じ多神教ですね。

伏木さん:1秒1秒を大切にするには?

—–1秒1秒を生きるには、何を大切にすれば良いのか。

佃監督:無限に微分にして行けば、いいんです。

伏木さん:私は仕事を辞めてから、色々考えることがありました。

佃監督:どういう事を考えていたんですか?

伏木さん:仏教とキリスト教の年表を勉強していた時期がありまして、同じことを言ってるんです。目の前の事をちゃんと見なさい、と。

だから、頭の中で混乱してしまうのではなく、ちゃんと五感で現実に触れなさいと。

そう言う事を言ってるから、多分それしかないんです。

佃監督:いつも話してる、ご飯の話はいいですよね。

伏木さん:ご飯が美味しそうと思ったら、迷わず食べるんです。

—–何気ない日々の日常が、大切なんですね。

伏木さん:特に意識していた訳ではありませんが、何かあるのかも知れないですね。

でも、キレイなお花を買って来たら、写真に撮ります。

また、ご飯の写真を撮る時に思っている事は、一瞬で撮って、すぐ食べたいんです。

食べる方が、大事なので。でも、1秒1秒を大切にするって、そう言う事だと思うんです。

佃監督:そうなのかな?

伏木さん:でも、おしゃれカフェに行くと、一杯のコーヒーの写真を撮るために、10分かけてる女性の方もおられます。私は、それを見て、心の中で「冷めてるよ!」って、思っちゃうんです。

佃監督:そこまでするなら、脚立持って来て、本格的に撮りましょうという話ですよね。

伏木さん:照明立ててね。そこまで本格的に撮影してたら、私も応援しますし、お手伝いします。ただ、1秒1秒大切にすると言う事は、目の前に食事があれば、その一瞬の食事の時間を味わう事だと思います。

—–一年ぶりに試写で鑑賞させて頂き、最初に観た頃より印象が、非常に変わりました。特に、物語の終盤の演出は、よりSF映画に近くなったのが、良かったです。あのシーンを通して、未来に対する前向きなメッセージを受け取ることができました。

伏木さん:佃監督らしい、ラストでしたよね。わざわざ鬱々とした雰囲気で終わらせてないのが、いいですね。

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—–凄くハッピーになれるラストかと。ワクワクさせてもらいましたね。それでも、世間は辛いことも多々ありますよね。ウクライナ戦争の件も、北朝鮮によるミサイルの件も、コロナ禍の件も含め、ただ明るい未来を創造し迎えるために、私たちは今何をするのが必要でしょうか?

佃監督:僕らは安定した社会の中では、恩恵を受けない側なんです。かと言って、日本の保険制度が崩れてしまいますと、終わってしまいます。

伏木さん:社会保険に関しては正直、会社員の方の方が恩恵を受けますよね。

佃監督:とは言え、会社員とフリーランスの関係は本来、労働者同士の戦いに過ぎないんです。

伏木さん:最近、私自身が意識してきたことがあるんですが、未来とか興味ないんです。

佃監督:今、ここですね。

伏木さん:先のことなんて、分からないですよね。逆に、目標を立てて、頑張れる方って、尊敬してしまうんです。ただ、目の前のことが上手くいくと、非常に嬉しく感じます。一年後、どうなりたいかって聞かれても、その時楽しければ、それでいいと思うんです。

—–今を楽しく生きれば、自然と未来も明るくなるってことですね。

伏木さん:先程と続き、禅僧的なお話になるんですが、その人の心がちゃんと落ち着いて、前を見られていたら、言うほど悲惨な現実ではないんです。

佃監督:のっぴきならない事態は、たくさんありますけどね。

伏木さん:悪い所を探すと、もっと悲惨な気持ちにもなりますが、明るい未来を迎えるには、心身共に健康である事だと思います。

佃監督:確かに、それもありますね。歳を重ねると、健康であることの有り難さに気付かせてもらえますよね。

—–最後に、本作『アキレスは亀』の魅力を教えて頂きますか?

佃監督:一番はやはり、須磨浦山上遊園ですね。企画が立ち上がった一年半前より、今の方が来園者が増えているんです。

明らかに、増えてます。

それは多分、ファンの方々のTwitterやコロナ明けもあると思います。少し異世界な空間に出かけたいと言うなら、須磨浦山上遊園がオススメです。

本作のロケ地にしても、須磨浦山上遊園で撮影しています。

本当にほぼ、あの場所がロケ場所となっています。

あと全編を通して、須磨区が舞台となっています。

須磨区の魅力が、いっぱい詰まっていますね。

9割9分9里の確率で、須磨区が舞台です。

というような、ご当地映画として本作を掲げながら、須磨浦山上遊園の魅力、ロケ地の魅力、登場人物の魅力は最大限、活かされています。

一度でも、須磨浦山上遊園に行ったことがある方なら、本作を観に行かんかったら良かったとは、ならないです。

来なきゃ良かったという感情には、必ずなりません。

観て頂いても、必ず損はしません!

—–伏木さんは、どうでしょうか?

伏木さん:観客的な立場で言えば、キャラクター全員が可愛いです。

私は、出演者の方、皆さんが楽しかっただろうなっていう映画が好きです。

本作『アキレスは亀』は、メインキャラの皆さんが、本当にチャーミングなんです。

作品を観ていて、そこが好きなポイントであり、魅力です。

佃監督:皆さん、メインキャラクターですよね。楽しくないと思っているのは、恐らく妹子さんですよ。

伏木さん:妹子さんは、撮影中も頻繁に逃げようとしていましたね。

—–次は、その彼女を主役に。本日は、お二人、貴重なお話をありがとうございました。

©Tiroir du Kinéma

映画『アキレスは亀』は現在、4月8日(土)より兵庫県の元町映画館にて、1週間限定上映中。

(※1)アナモフィックスレンズとは アナモフィックレンズの基本解説https://www.nacinc.jp/creative/cine-lens/anamorphic-lens/(2022年12月24日)

(※2)クロノス時間とカイロス時間https://scrapbox.io/taizooo/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%8E%E3%82%B9%E6%99%82%E9%96%93%E3%81%A8%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%82%B9%E6%99%82%E9%96%93(2022年12月24日)