特集上映『永遠のフィルム・マエストロ エンニオ・モリコーネ特選上映 Morricone SpecialScreening×2』モリコーネの魂が宿り続ける

特集上映『永遠のフィルム・マエストロ エンニオ・モリコーネ特選上映 Morricone SpecialScreening×2』モリコーネの魂が宿り続ける

2024年4月22日

映画の楽しみを何倍にもしてくれる特集上映『永遠のフィルム・マエストロ エンニオ・モリコーネ特選上映 Morricone Special Screening×2』

世界を代表する映画音楽家として大いなる名声と地位と名声と地位と敬畏の念を得て来たイタリア出身のエンニオ・モリコーネ。彼はイタリアのラツィオ州ローマ セルチェッタにて、2020年7月6日、永眠した。享年91歳だった。その前の月に、大腿骨骨折にて入院中でもあった。大往生の末に永眠した稀代の名作曲家エンニオ・モリコーネは、20世紀に活躍したジョン・ウィリアムズ、ジェリー・ゴールドスミス、ニーノ・ロータ、芥川也寸志(時に、変動あり)ら5本の指に入る映画音楽家の一人だ。それぞれ巨匠という名誉を欲しいままに手にした偉人たちである事は間違いなく、彼等はトップクリエイターの映画監督と肩を並べるだけでなく、時にその作品の監督をも凌駕するパワーを持った名音楽家、名作曲家達だ。5本の指に入る映画音楽家となり映画業界の最前線でトップの作曲家として20世紀の映画の世界を牽引して来たエンニオ・モリコーネは、1960年代から1970年代にかけて人気を博した西部劇の名作群「マカロニ・ウエスタン」から始まり、全世界にその名を轟かせたイタリア映画の名作にして名曲「ニューシネマパラダイス 愛のテーマ」は、世界中の人々の心の琴線に触れる事となった。モリコーネの死去後、師弟関係でもあり映画の盟友でもあったジュゼッペ・トルナトーレ監督が、畏敬の念を込めて制作したドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』が大きな反響を呼び、今回、この作品でも取り上げられた隠れた名作『死刑台のメロディ4Kリマスタ一版(71)』と日本初公開となる『ラ・カリファ(70)』の2作品が、選定された。先に「その作品の監督をも凌駕するパワーを持った」と記述したが、まさに、この2作品はそれに当たると言ってもいい程、作品や監督以上にモリコーネのスコアが観る者の心の琴線に何かしらの影響を与えうる後世に残る名曲に仕上がっている。特に、映画『ラ・カリファ』のスコアが、実に美しく素晴らしい。この言葉以外、思い浮かばないほど、作品を超える音楽の質が伺える。

映画『死刑台のメロディ 4Kリマスタ一版』

一言レビュー:本作『死刑台のメロディ』は、1920年代のイギリスで蔓延っていたイタリア移民への差別と偏見の末、無実のイタリア人がありもしない犯罪の罪で裁判をでっち上げられ、冤罪事件にも関わらず、挙句の果てに有罪判決にまで至った実際の話を作品化している。日本でも、これに似た数々の冤罪事件が過去に実際に起こっているが、その中でも一つの嘘から始まり、死刑判決、無期懲役判決を覆した「八海事件」(※1)は、最高裁まで裁判が繰り広げられた世紀の冤罪事件となった。今井正監督や脚本家の松本忍氏が事件に興味を持ち、事の顛末を映画化した名作『真昼の暗黒』で語られている。ラストの「おっかさぁ~ん、まだ最高裁があるんだ!」と獄中に投獄された主人公の心の慟哭は、当時の民衆の心に響き、映画が世論を動かし、最高裁で逆転無罪の裁判が行われた戦後最大の冤罪事件だ。本作『死刑台のメロディ』のような冤罪事件は、時代や国に関係なく、どこでも起きる。なぜ、冤罪が起きてしまうのか、その構造やメカニズムは判別されていないが、その多くの原因は警察組織の腐敗によるものが多い。いつか、冤罪事件がなくなり、正当な事件捜査が行われる事を願わんばかりだ。少し話変わって、本作『死刑台のメロディ』を制作したジュリアーノ・モンタルド監督は、日本での知名度はほとんどない。それでも、国内で紹介されている作品は、映画『フェラーラ物語 「金縁の眼鏡」より『盗みのプロ部隊』『明日よさらば』『エネミー・ウォー』『戦慄の黙示録』『マルコ・ポーロ/シルクロードの冒険』『銃殺!ナチスの長い五日間』などがあるが、メジャーの域には達していないB級監督の一人ではあるが、本作はより堅実に作品が制作されており、劇映画のパートと実録映像のパートがモンタージュとして編集されており、その効果は絶大だ。過去の実際のニュース映像を観客に観させる事によって、物語に信憑性を持たせている点は監督自身の手腕だ。冤罪事件の是非を、見事に映像で訴えかけている。本作は、今でも続く冤罪という社会問題に鋭くメスを入れた社会派ドラマだ。この悲劇とも言うべき冤罪物語に音楽の色を付けたのが、今回の特集上映の中心人物、音楽家のエンニオ・モリコーネだ。あまり知られていないが、モリコーネはスコア担当としてジュリアーノ・モンタルド監督作品の常連でもある。本作で使用されている主題曲「勝利への讃歌」と挿入曲「サッコとヴァンゼッティのバラード」は、作曲にエンニオ・モリコーネ、作詞には当時人気のあったカントリー歌手ジョーン・バエズが担当し、同時に歌唱している。どちらも、映画史に欠かせない名曲だ。

ジョーン・バエズJoan Baez/勝利への讃歌Here’s To You (1970年)

Ballad of Sacco and Vanzetti Ennio Morricone and Joan Baez

映画『ラ・カリファ』

一言レビュー:本作『ラ・カリファ』は、一人の女性が許されざる恋に落ちる姿を描いた大人の為の恋愛映画だ。不倫映画や大人の禁断の恋を描いた作品は数多くあるが、年代の近さで比較すれば、1980年に公開されたメリル・ストリープとロバート・デ・ニーロがダブル主演を果たした禁断の不倫映画『恋におちて』を連想させられる。禁断の大人の恋愛は、不倫というスキャンダラスな話題から、学生同士の駆け落ちや未亡人の女性が恋に溺れる禁断性まで幅広くある。世間ではタブー視されているからこそ、燃え上がる感情が男女の間で炎となって、暴走する。それをスキャンダルとして見るのか、禁断性のある恋愛として見るのかは人それぞれの判断によるものだが、私はどんな状況下であれ、男女が恋焦がれ恋愛感情を抱くのあれば、両者の好きにすればいいと思う。そこに第三者のとやかく言う視点や発言、思想はお門違いだ。にも関わらず、なぜ世間は鬼の首でも取ったように、マスコミを筆頭に過熱報道が盛んに行われ、世間の一般層までもが善し悪しの判断の波に揺れ動くが、私から言わければ、「そっとしといてやれよ」と言ってやりたい。他人の芝生は青いという言葉もあるが、セレブや有名人同士のスキャンダルはどうしても大衆の目に晒され、皆羨ましさの余り羨望の眼差しで批判したくなる集団心理が働く。彼等男女の禁断性のある恋愛は、映画のようにスクリーンを通して、暗闇の中、物陰からコソッと覗いて、応援してあげる方が第三者の視点でもつい燃え上がり、盛り上がってしまうものだ。この感情は、いつの時代も変わらない。時空を超えて、本作『ラ・カリファ』が本邦初公開となったが、これらの感情はきっと、今の世にも通ずるものはあるだろう。本作を制作したアルベルト・ベビラクア監督の知名度は、残念ながら皆無に等しい。本作が監督としてのデビュー作のようだが、それ以前には、日本では、脚本家のクレジットとして(恐らく、すべて共同脚本)、映画『バンパイアの惑星』『ブラック・サバス/恐怖!三つの顔』『怪談生娘吸血魔』と、聞いたことも無い作品タイトルが並ぶ。本作『ラ・カリファ』がこの度、初めて日本に紹介されたのは非常に貴重な良い機会であるが、できるのであれば、これ以降にアルベルト・ベビラクア氏が監督として制作した映画『Questa specie d’amore (1971)』や『Attenti al buffone (1976)』が、いつか日本国内でも劇場上映されてもいいだろう。特に、前者の『Questa specie d’amore (1971)』は、小説家としても活躍していた監督の原作小説の映画化らしく、これは作品としても評価されているようだ。モリコーネは、ジュリアーノ・モンタルド監督作品とアルベルト・ベビラクア監督作品の常連の音楽家という事が、調べて分かった。いつか、モリコーネが携わる他作品の配給が行われる事を願うばかりだ。本作を彩る楽曲は、名曲と言われるほど、名高い音楽だが、正直、私は今まで触れて来なかっただけに、今回初めて耳にして、映画『ラ・カリファ』の主題歌は、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の名曲「愛のテーマ」やピアノ伴奏から始まる「メインテーマ」と匹敵する程の清涼な美しさがあり、長年名曲と言われ続けている事にも納得だ。本作の主題歌「La Califfa – The Lady Caliph / The Queen」と「La Califfa Suite
」は、必聴の楽曲だろう。

Ennio Morricone – The Best of Ennio Morricone – Greatest Hits (HD Audio) La Califfa – The Lady Caliph / The Queen 23:48より

La Califfa – Suite (Ennio Morricone)

最後に、今回は『死刑台のメロディ 4Kリマスタ一版』と『ラ・カリファ』という2作品に特集上映が組まれたが、エンニオ・モリコーネが携わった映画は数多くあり、彼が作曲した映画音楽は600曲以上あると言われており、その全貌を耳にする事はなかなか難しい事だろう。そんな中、今回上映される2作品のテーマソングを、劇中で耳に出来るのは非常に希少価値が高いと言える。その上、過去半世紀以上、名曲と言わしめた楽曲を使用する作品が上映されるのは今だけの贅沢品だ。それでも、モリコーネの楽曲は他にも粒揃いの名曲ばかりで、たとえば西部劇映画『ウエスタン(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ウエスト)』の主題歌は必聴に値するし、セルジオ・レオーネ同監督とエンニオ・モリコーネ同作曲家で再タッグを組み、時代背景を大幅に変更して制作された映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の主題歌もまた、名曲中の名曲の部類に入る傑作だ。それでも、今回紹介した楽曲群を押さえてエンニオ・モリコーネの最高傑作は何がなんでも、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の冒頭のシーンに流れるピアノ伴奏から始まる「メインテーマ」だと、私は信じている。世界中から尊敬の眼差しで巨匠音楽家と言わしめた稀代の作曲家エンニオ・モリコーネ氏の音楽家としての人生は、91歳という年齢で大往生に幕を閉じたが、彼が作曲した音楽達の中には未来永劫、エンニオ・モリコーネの魂が宿り続けるだろう。

Once Upon a Time in the West – Main Theme

映画 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』より「Deborah’s Theme」 original sound track 1984年

Cinema Paradiso (Main Theme)

特集上映『永遠のフィルム・マエストロ エンニオ・モリコーネ特選上映 Morricone Special Screening×2』は現在、4月19日(金)より東京都の新宿武蔵野館や大阪府のテアトル梅田にて、絶賛上映中。また、全国の劇場にて順次、公開予定。