オムニバス映画『きょう、映画館に行かない?』「元町映画館生誕10周年を記念して」小田香監督に単独リモート・インタビュー

オムニバス映画『きょう、映画館に行かない?』「元町映画館生誕10周年を記念して」小田香監督に単独リモート・インタビュー

2021年12月17日

オムニバス映画『きょう、映画館に行かない?』 小田香監督 インタビュー

インタビュー・文・構成 スズキ トモヤ

兵庫県の元町にある映画館「元町映画館」が、開館してから10年が経った(実際は、コロナが原因で、企画が一年、ズレております)。

そんな晴れやかな記念年に、この劇場に所縁のある監督たちが集結し、映画館にささやかな贈り物を贈った。

それが、本作のオムニバス映画 『きょう、映画館に行かない?』 だ。

今回は、このオムニバスの中の一篇『Night Train』を製作した小田香監督にインタビューを行った。

—–本作は元町映画館の10周年記念の作品ですが、監督自身、発起人になられた始まりを教えて頂けないでしょうか?

小田監督:長篇第一作『鉱 ARAGANE』という作品を作りました。元町映画館が10周年を迎える、前年にその映画を上映して頂ける機会を頂きました。

上映が一段落して、みんなでご飯を食べに行った時、「来年が10周年なんです。

10年目の節目になにかできたらいいですね。」とお話をしました。

折角、ご縁ができたので、10年間で交流があった作家さん達に「お祝いの映像集のような作品を作りませんか?」とご提案させて頂きました。

元町映画館の支配人である林さんにも賛同して頂き、どなたにお声をかけましょうかと話し合いしながら、この度の顔ぶれとなりました。

—–元町映画館の10周年記念に対する監督自身の「想い」があれば、お聞かせ願いますでしょうか?

小田監督:私は単純に「10年目おめでとうございます。」という気持ちしかありません。

参加された作家さん達もまた各々は、色んなお気持ちがあると思います。

私は実行委員の皆さんと作品を上映する順番とタイトルだけを決めて、ひとつの「オムニバス映画」にさせて頂きました。

映画館があるから、作り手も存在できると思います。

一方的な関係だけでなく、交互に交流があることを感じてもらえる作品になっていたらと思います。

—–作品の順番もしっかり構成されておられるのですね。

小田監督:基本的には長めの作品が、最後の方に挿入された構成になったのかなと思います。

—–本作のタイトル『きょう、映画館に行かない?』は、どんな意味が込められておられますか?

©️衣笠竜屯

小田監督:本作のタイトルについては、元町映画館の林さん、石田さん、シネ・ヌーヴォの山崎さん、松村さん達と話し合って、決めました。

それらしいネーミングを付けようとしたんですが、なかなか「これだ!」と思えるものが浮かびませんでした。

鈴木さんの作品が、本作の最後に構成されるのは、意見が全員一致しました。彼の映画の最後のセリフ「きょう、映画館に行かない?」と女性が言いますが、その言葉に集約されるのではないかと、使わせていただくことになりました。

—–監督が製作された作品『Night Train』の着想は、どのように生まれましたか?

©️小田香

小田監督:本当は自分も、元町か神戸で新しい映像を撮影しようかなと思っておりました。

ただ、コロナになってしまい、一年間この企画が、丸々ズレてしまったんです。

私自身もスケジュール的に身動きがとれなくなってしまいました。

今、たくさん持っている編集していない素材を使って、何か作れないかと考えた結果、サラエヴォで撮影した列車の素材を編集することにしました。

—–元から新しく撮っていた訳ではなく、過去に撮影していた素材をご使用されたのですね。

小田監督:撮影しているけど、編集していない素材が、たくさんあります。

その映像を持ち出しました。

自分は列車の窓や乗り物、人が見る夢など、映画の中に存在するモチーフとして好きなんです。

自分が好きなものをギュッと寄せ集めて、贈り物にできないかなと思って、作りました。

—–いい意味でも、悪い意味でも、小田監督の作品って、テーマから少し外れているように見受けられました。ただ、「映画」や「元町」というワードが出てこない中、テーマに近いようにも感じました。夜行列車が走る姿が、前向きに捉えられ、朝日が映画業界の「希望」にも見えました。また、電車は人やモノを運ぶものですが、この作品の場合は、人々の「夢」や「希望」と言った前向きな感情を運ぶ存在として目に写りました。

小田監督:ありがとうございます。

—–演出面も余計なものをすべて削ぎ落とし、字幕もない、ナレーターもない。観る側に想像を任せる作品として好印象を受けました。9分間の短い作品の中に多くの希望が、詰まっているようにも感じました。また、本作に「感謝」を込めて製作されたと仰っておりますが、他にどんな気持ちをこめましたか?

小田監督:基本的には、感謝の気持ちしかありませんが、私が好きなものをお届けてしています。

10年間、劇場として営業されて来られ、その端っこに自分も関係を持たしてもらいました。

私もちょうど、活動してきて10年が経ちました。

今年は11年目ですが、これから先、ゆっくりと長く、制作活動に取り組もうと考えております。

一緒にこれからも、元町映画館さんと併走、協力していけるよう、私自身頑張って行きたいです。

—–本作のオムニバス映画に監督自身が好きな作品は、ございますか?

小田監督:たくさんあります!元々知っている作家さんもおられます。

草野さんに対しては、正直どんな作品が来るのだろうと思っておりました。

ものすごい、草野さんにしか撮れない、彼女の映像言語そのものの作品が送られてきて、面白いなと感じながら、拝見させて頂きました。

松野泉さんや野原位さんは、お名前はお聞きしておりましたが、作品は拝見させて頂いたことがありませんでした。

初めて作品を拝見できて嬉しかったです。

一番最後の鈴木宏侑さんの作品も好きでした。

—–監督にとって、「ミニシアター」とはどのような存在でしょうか?

小田監督:私は、ちゃんと映画を勉強したり、観始めたのが留学してからなんですね。

それ以前はほぼ映画を観たことありませんでした。覚えている限りでは、まったくミニシアターに行ったことがありません。

シネコンには行ったことがありました。初めて映画を勉強して、帰国した後にミニシアターに出会いました。

自分の作品を上映して頂けることになった時、ご挨拶に伺ったり、劇場で舞台挨拶するようになって、初めて日本のミニシアターやアートハウスの存在を知りました。

一番最初に感じたことはは「かっこいい」です。

劇場それぞれに、独特の「色」があり、そこにある地域性が色濃く劇場から漂っていると思います。

それは、シネコンとはまた全く違った空気感で、こだわりの強さは「かっこよさ」に比例するんだなと、感じております。

それがまず、ひとつ最初にありますね。

—–今後、ミニシアターがどうあるべきですか?

©️2020 Kousuke Suzuki

小田監督:「どうあるべきか」と問言われると、偉そうな答えになってしまいそうですが、一緒にどういうふうに変わっていけるかが課題かと思います。

—–ミニシアターって、現在経営的に厳しいところばかりだと思います。今後、ますます将来的にも厳しくなってくると思います。ただ、お客さん側としても、宣伝する側としても、残して行きたい文化でもあります。そういう事に対して、自分たちは今後、何をできるでしょうか?

小田監督:個人ができる事と全体のシステムとして考えないといけない事が、両軸ないといけないと思います。

お客さんがたくさん来られるような映画だけが面白く、存在すべきなのかと言うと、そうではないと思います。

ヒットでなくとも届けたいと感じる映画を、自信を持って上映されてきたのが、アートハウス/ミニシアターだと思います。

全体として、システムとして、どんな制度モノがあれば、長い息で物事を捉えられるのだろうかと、考えます。

やはり行政からの何かしらの資金や助成が必要だと思います。

それらはコロナ後も続くべきです。色々とルールは必要になるでしょう。

もしくは、莫大な資金を得た映画会社が、毎年数%ミニシアターに還元するシステムを、誰か作ってくれないかなと思います(笑)。

—–とても難しい話ですね(笑)

小田監督:難しいかもしれませんが、そうでもしないとゆくゆくはみなに先細るんじゃないかという気がします。

—–最後に、元町映画館の魅力を教えて頂けないでしょうか?

小田監督:元町さんの魅力は今回、オムニバスの編成をして感じましたが、やはり様々な方々が集える場所かと思います。

映画館は、編成される方の方向性であったり、届けたい作品の好みであったりするものが色として出るのかなという気がするのですが、元町映画館の色はマーブルで独特のハーモニーをもって混じり合っている。

多種多様なひとたちが行き来し集う、ひらかれた場所である、それが元町映画館の「魅力」なんじゃないかなと。

映画『き ょう、映画館に行かない? 』は明日12月18日(土)より、大阪府のシネ・ヌーヴォにて上映開始。また、京都府の京都みなみ会館では、来年2022年1月に公開を予定している。