映画『POP!』「主演の小野莉奈さんの魅力を作品全編に引き出しました」小村昌士監督に単独リモート・インタビュー

映画『POP!』「主演の小野莉奈さんの魅力を作品全編に引き出しました」小村昌士監督に単独リモート・インタビュー

2021年12月17日

映画『POP!』小村昌士監督 インタビュー

Ⓒ2G FILM

インタビュー・文・構成 スズキ トモヤ

https://youtube.com/watch?v=sYxWJVAogwA

本作『POP!』は、映画『魅惑とダンス』で印象的な演技を見せた小村昌士さんによる監督長編デビュー作だ。

「19歳」と「20歳」。「本音」と「建て前」の狭間で揺れる一人の女性の悲喜こもごもな人生を、時にユーモラスに、時にシニカルに描いた意欲作だ。

今回、映画『POP!』を製作した小村昌士監督に単独インタビューを行った。

—–本作『POP!』は、コーエン兄弟の映画『シリアスマン』へのリスペクトのようですが、監督自身この作品のどこに魅力を感じましたか?

Ⓒ2G FILM

小村監督:まずコーエン兄弟の監督作品が、とても好きです。

比較的、作品数の多い兄弟監督さんですが、僕自身すべて鑑賞させて頂いております。

映画『シリアスマン』は当時、大学生の頃に大阪で上映していた時に鑑賞しましたが、めちゃくちゃ面白かったんです。

ただ、作品自体は言葉で説明するのが、とても難しい上、再度鑑賞し、改めて理解できた部分もありました。

初めて鑑賞した時から、この作品にはインパクトがあって、劇場で映像体験した記憶としてずっと残っておりました。

今回、本作『POP!』という作品を製作するにあたって、どのように観て頂こうか、感じてもらおうかと考えました。

あの時に観た『シリアスマン』の衝撃が、思い出として残っている記憶を本作でも作れたらいいなと感じました。

この作品は実は、まだディスク化されてなく、最近になってようやく一般的に観れるような環境になってきた作品でした。

鑑賞できることを知って、分解分析した結果、本作をちゃんと観ると、話の筋が出来上がっておりました。

初めて観た時は、このストーリーでここまで魅せれる作品があるのかと感じました。

とてもツボにハマった感じでもありました。あの時感じた感覚を思い出すためにも再度、観直しました。

—–本作『POP!』と映画『シリアスマン』を比較できるところがあるなら、どのような点が似ておりますか?

小村監督:描いている題材も違いますし、キャラクター設定も時代設定も全然違いますので、その映画との接点や共通点はまったくありませんでした。

ただ、映画の中での時間の使い方に関しては、とても勉強にもなりました。

意識したところでもあります。映画『シリアスマン』は三幕構成になっています。改めて観ると、30分経ったところで、物事が動き出すんですよね。

そして、その30分後にも物語が動き始める作りになっているんです。

その構成がとても意外性がありました。「三幕構成」は、基本的な手法でもありますが、これだけ変に見えた作品でも基本に忠実な作り方だったことに驚きました。

この作り方であったり、時間配分は意識したところでもあります。

—–物語の動かし方や進め方を意識されたのですね。

小村監督:そうですね。完成版の映画や脚本の決定稿が、いわゆる最終段階ではないと思います。

ただ、思ってた以上にシーン数が少なくなったりと、その辺のことは割と勉強にもなり、取り入れた部分ですね。

—–主人公「リン」は、小野さんをイメージして生み出されたキャラクターだと思いますが、本作『POP!』は彼女を想像してお書きになられましたか?

Ⓒ2G FILM

小村監督:脚本の物語や要素よりも、あのキャラクターや年齢の設定は、現実と繋げた部分ではあります。

撮影当時、小野さんも実際に19歳でもありましたので、一人の「19歳の女性」という設定を近付けました。

あとは、彼女が持つ魅力をうまく出せるようなキャラクターになればいいなと思い、シナリオを書きました。

そこに付随して、物語の展開や登場人物の背景を作れたらいいなと思って、作らせて頂きました。

本作は、小野さんから始まった作品でもあります。

—–では、小野さんの魅力は、なんでしょうか?

小村監督:出会う前から、周囲からは変わってる子と聞いておりました。実際にお会いしたら、とても変わった子だったんです。

少しズレた感覚を持ってらっしゃる方でした。でも、その感覚は大事にしたいと思いました。

彼女自身の持ち前の性格を出せるように作らせて頂きました。

観ていただけたらお分かりになると思いますが、全編通して受け身のキャラとして構築しています。

そんな性格を持っている人物にした方が、彼女が持つ本来の魅力(表情や話し方)を引き出せるのではないかと感じました。

—–撮影時、記憶に残っていることはございますか?例えば、良かったことや大変だったことなど。

Ⓒ2G FILM

小村監督:すべて大変でした。作中で駐車場のシーンがありますが、スケジュールの前半3日間の撮影でした。

真夏だった8月に撮りましたが、太陽の熱が暑かったですね。

実際にあるお寺の駐車場で行いましたが、本当に広いロケ地だったんです。

アングルを切り返す度に、場所が場所だけに全部動かないといけませんでした。

その辺の物理的な苦労は、ありましたね。撮影場所を巡っては、周りのスタッフにもご迷惑おかけしたと思います。

前半の撮影は大変だった分、後半のスケジュールは劇中のスタジオや楽屋の撮影でした。

落差がありすぎて、こんなにも快適に撮影できるものなのだと、気付かされましたね。

—–初日の3日間は、ハードな撮影だったのですね。

小村監督:だいぶハードでしたね。本当に、心が折れかけました。

—–でも、そのご経験から逆に良かったと思えることもあったのではないでしょうか?

小村監督:真面目な話しになってしまいますが、美術や衣装と言った見えるモノへのイメージが、脚本を読んでくれたスタッフからも助けられました。

本を書いただけでは出来ないものも、あると思います。

特に、衣装に関して言いますと、劇中に登場する服飾は、僕と意見を交換しながら、衣装担当の方と作り上げていきました。

—–衣装も、とても素晴らしかったです。

小村監督:衣装や美術は、なかったものが出来上がっていく、立ち上がっていくことに現場で見ていた分だけ、純粋に感動をもらいました。

色んな人の力で作っていく映画の作られ方を肌で感じました。

お恥ずかしながら、僕は正直、衣装に対して重要視しておりませんでした。

ただ、今回は素材を見てから気付かされた部分もありました。

色の配置が計算されて作られていることを知り、経験値になりました。

—–一般の方にも注目されない部分かと思いますが、意外と衣装やヘアメイクは映画にとって重要だと思います。

小村監督:そうなんですよね。今回の経験から、僕は衣装にも目を行くようになってしまいました。

映画を観てても、つい衣装に目が行ってしまいます。

服飾などは、普段気にならないのが一番いいんですけどね。

—–ナチュラルな感じがいいですよね。

小村監督:自然に出来ていることが、すごいことなんだと思いますね。

その事に改めて、気付かせて頂きました。僕自身、衣食住の「衣」にまったく、興味がなかったんです。

ファッション雑誌を季節ごとに買っている人間ではなかったので、オシャレをする感覚や服に対する意識が、すごく勉強になりました。

—–作品は「19歳」と「20歳」の間で揺れ動く姿を描いていると思いますが、監督にとって、この年齢の感覚はどのように感じておられますか?

Ⓒ2G FILM

小村監督:僕が19歳の女の子を描くとなった時に、企画を作り出す段階でなかなか想像できなかったんです。

色んな19歳の女性の方がおられますが、そこに対しても想像が及ばなかった時期がありました。

僕の周りの女性の方に「19歳」の時は、どんな感情を持っていらっしゃったかを調べました。

リサーチをしていく中で、ある方が「20歳になったら終わり」と思っていたという意見をもらいました。

僕は、とても新鮮な考え方だと思わされました。

まったく真逆で、どちらかと言えば、僕は20歳から「スタート」だと思っておりました。

「色々できるぞ」と思っていた時でもありました。ある種、自由な感覚を持っていたのも事実です。だから、その考えとは真逆の価値観に驚きました。

「終わり」というネガティブな感情を持っているのは、女性特有の価値判断だったのかなと。

20歳を越えると、下っていく感覚だったんだと思います。

それが、すごく記憶として残っていましたので、そこから企画を膨らましていったことが大きかったと思います。

女性の「20歳」に対する意識は、作品に落とし込みました。

—–作風とタイトルの『POP!』には真逆の印象を受けましたが、このタイトルにはどのような意味や想いを含ませておられますか?

Ⓒ2G FILM

小村監督:本編の内容や空気感からで言えば、割と悲しい話かなと僕としては思っております。

どちらかと言えば、暗い話なのかなと。

弾けるような感じの英語のタイトルで、「POP」と聞いた時に「おぉ!」となる人もいると思いますし、その逆もあると思います。

どっちの意味でも、受け取ってもらえるかなと考えております。

—–タイトルを見て、引っかかるようにもしているのですね。

小村監督:でも、企画の段階から、タイトルの「POP!」に対して、消極的なスタッフもおられました。

決定稿の時には、この題名で行こうと決めていましたが、違う意見を言ってくださる方もおられましたね。

撮影前の脚本を書く段階から、タイトルについては常に意見を頂いておりました。

—–本作『POP!』は、本音で話せない人物の話だと思いますが、現実世界でも同じような「生きづらさ」ってあると思います。日常の中での「生きづらさ」を少しでも感じずに過ごすには、どうすればいいと思いますか?

Ⓒ2G FILM

小村監督:それこそ、フィクションという作られた世界に浸ると言いますか。

真実は現実にあると思いますが、フィクションの方が真実を感じる時があるのかなと思います。

僕自身も、架空の世界に逃げ込むことがあります。

ただ多分、本当に「生きづらさ」を感じてらっしゃる方は、映画を観る余裕もなかったりするんじゃないかなと。

—–娯楽を楽しむ余裕もありませんよね。

小村監督:たしかに、楽しむ余裕もないですよね。僕は本当に嫌なことがあったりすれば、友達に相談してしまいますね。

話をして、笑い話にして終わらしてしまう時がありますね。

—–嫌なことは、笑って忘れるのが一番いいですよね。

小村監督:そうですよね。僕は、ハードルを下げるということもしてみますね。

究極、生きているだけで幸せと感じるだけにして。グッとハードルを下げてしまうんです(笑)そんなマインドを持っていますね。

—–それはすごく大切なことですね!ハードルを上げて、自分で自分の首を絞めるようなことをしてしまうと、やりにくくなりますね。

小村監督:よくよく考えてみると、自分が勝手に自分に期待してしまっているだけなんですよね。

ハードルをグッと下げることで、生きづらさも多少は感じなくなると思います。

—–最後に、本作の魅力を教えて頂けますか?

Ⓒ2G FILM

小村監督:主演の小野さんから始まった企画なので、彼女が演じる「柏倉リン」の表情や言動を本編の中で動いている小野さんを観て、楽しんで頂けたらと願っております。彼女の魅力を観て頂けたらなと。

それと、音楽をAru-2さんという方にお願いしました。

この方の音楽は、作品に色を添えておりますし、僕としてもとても助けられました。

凄くいい世界観を作って頂いていると思いますので、ぜひ劇場で音の響き方などを感じて頂き、楽しんで頂ければと思います。

映画『POP!』は本日12月17日(金)より、大阪府のシネ・リーブル梅田で上映開始。また、来年2022年1月から京都府の京都みなみ会館では14日(金)から。兵庫県の元町映画館では15日(土)から上映が始まる。また、12月25日(土)には、 大阪府のシネ・リーブル梅田にて、監督による舞台挨拶が行われる予定。